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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


一掃(前編)



■ オープニング

 響カスミはいつになく不機嫌だった。明らかに怒気を含んだ声色――それが室内に反響する。
「一斉捜査です!」
「……そんなに躍起になられて、一体、どうなさったのですか?」
 神聖都学園の理事長は穏やかでない彼女の態度に若干押され気味であった。
「私は常々思っていました……。この学園には不要な部が多すぎます!」
「それは、確かにそうですが、我が校は自由を重んじる―――」
 カスミが理事長の言葉を遮ってこう言った。
「自由を重んじた結果、あの爆発ですよ? 爆発が自由だとでも?」
 先日、部室棟で爆破事故が起きたばかりなのだ。カスミは偶々通りかかって、その爆風に巻き込まれて気絶したのである(つまり個人的な私怨による逆恨みである)。
 事情通の生徒に話を聞いたところ、怪しい儀式を行っている部や、危険な実験を繰り返している奇怪な部があるとのことだ。とても迷惑な話である(というか目障り)。
「こちらで、抜き打ちの調査を行わせていただきます。もし、何らかの問題を発見しましたら、その部は同好会に格下げ、もしくは廃部、ということにいたします。もちろん、こちらの独断で」
「仕方ありませんね。確かに危険な部は現存するようですから」
(……この学園……大丈夫なのかしら?)
 やけにマイペースな理事長に力が抜けるカスミであった。



■ 調査前

 神聖都学園の一室に四人は集まった。カスミの指示の元(あまり理論的ではなかったが)最終確認を行う。
「俺は科学部と料理部の調査に回りたいんだが」
 そう言ったのは、調査の参加者、唯一の男性である不城・鋼(ふじょう・はがね)だ。とは言え、体格は女性並、容姿は女性に近い。性格の方はそれに反して男らしく、昔は総番の座に立っていたほどであるが、今は普通の高校生だ。
「じゃあ、ボクは師匠についていきます!」
 師匠とは、鋼のことだ。飛鳥・雷華(あすかの・らいか)は男勝りな女子高生で、性格は少年のようである。
「じゃあ、二人にそちらを任せて……魔術研究部と美術部の方は、残った二人に任せてもいいかしら?」
 カスミが二人に告げる。
「ええ、構いませんよ」
 硝月・倉菜(しょうつき・くらな)はそう答えた。先ほどから無駄なことを一切喋らない彼女は見た目どおりのクールな振る舞いだ。しかし、彼女は料理研究部(料理部ではない)に属しているため、料理部の実態がやや気になっていた(顔には出さないが)。
「美術部と魔術研究部ですわね。よろしいですわ」
 最後の参加者、鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)が同じように承諾した。
「私も極力、両方の調査に顔を出すから、しっかり調査お願いね。いえ、これは調査ではなく、掃除よ!」
 カスミが天に向って拳を掲げる。宗教にでも洗脳されてしまったかのような、そんな、よく分からない方向性の熱意が参加者たちに伝達される。
「……見てなさい……あの………ブツブツ……」
「カスミ先生、大丈夫?」
 雷華がカスミの顔の前で手を振る。しかし、意識はどこかに飛んでしまっているようで、もはやカスミは現実世界が見えていない。
 まずは、カスミの調査が必要かもしれない、と誰もが心の中で思った。



■ 調査1

 科学部は第二科学室で活動を行っている。もう一つの、第一科学室の方は授業で使用しているようだ。
「な、なんだい君たちは?」
 鋼と雷華の二人が室内に足を踏み入れるや否や、分厚い眼鏡を掛けた男子学生が近寄ってきた。やや、挙動不審である。
「抜き打ち検査だ。今から、部内を調べさせてもらう」
「そんな話、聞いてないぞ!」
「そうだ、そうだ!」
 非難の嵐である。
「だ・か・ら、抜き打ちだって言ってるじゃない?」
 雷華が生徒を押しのけ室内を見回す。薬品の臭いが嫌でもした。
「とりあえず、薬品関係を全て、このテーブルに」
 鋼の指示にしぶしぶ従う生徒たち。
「穏便に頼みますよ?」
 眼鏡の生徒。どうやら、彼が科学部の部長を務めているらしい。外見からして怪しいが見た目で判断するのはよくない。鋼はそう思い、薬品を一つ一つ調べ上げることにした。
「これは何だ?」
 最初に目に付いたのは真紅の液体だった。鋼の問いに部長が説明を始める。
「それは……つまり……特殊な薬品ですよ」
「だから、何だ?」
 あくまで、強気な態度で臨む鋼。というよりも、こういう性格なのだ。
「…それは、ほら……眉薬ですよ」
「まゆぐすり? それって……合法?」
 雷華の問いに鋼も返答に困る。
「ふふふ、科学部の諸君、いかがお過ごしかな?」
 突然、科学室にカスミが入ってきた。テンションが高く、キャラが壊れているようだが、きっと、先日の爆発の件で気が触れてしまったに違いない。
「カスミ先生、眉薬なんてものが出てきましたけど?」
「危険ですね。それは、私が没収しましょう」
 カスミが赤い液体の入った試験管を用意してきた容器に移した。
「さてと、次は……」
 鋼が次々に指示を出し、部長が時に戸惑いながら説明していく。雷華は飽きてしまったようで、他の部員たちと薬品を調合し始めた。
「響先生……私たちは爆発物なんて扱ってませんよ? 疑っているんですか?」
 部長がカスミに向って言う。
「先日の爆発で、一番、怪しいのは科学部だと思ったまでです」
「先生、調査が終わりました。特に危険な薬品はないようです」
 今まで椅子に座って薬品を調べていた鋼が腰を上げた。
「ほら、だから、言ったじゃないですか?」
 部長が不敵に笑う。
「……そのようね」
 カスミは不満気だったが、しょうがなく三人は科学部を後にした。
 次に向うのは料理研究部だ。部の内容から女子生徒がほぼ百パーセントを占めている。しかしながら、この部は何かと問題児が多い。
 先日のバレンタインデーでは男子生徒に無料でチョコを配るというサービス精神溢れる行為に及んだのだが、それを食べた生徒たちが一斉に食中毒を起こすという事件が起きた。それが、意図して行われたものなのかどうかについては判断が難しく、断定は出来なかったようだが、もし、これが意図的な犯行だとしたら非常に性質が悪い。
 カスミの想像では食中毒は二次的なものであり、彼女たちは何かの実験を行っていたのではないだろうかと踏んでいた。
「じゃあ、調味料を全て、ここへ用意してくれ」
 ここでも、鋼が仕切った。料理部だけあって、調味料の種類は多種多様であった。しかし、鋼は料理に関しては相当な知識を蓄えていた。よって、知らないものはなかった。説明も不要。
「これで終わりか」
 しばらく調べたが特に問題のある調味料は発見されなかった。
 次にレシピと冷蔵庫の中を調べた。レシピでは基本的な和洋中の作り方が書かれたものが多数見つかった。季節に合わせたものを作ることが多いようだ。材料に関しても一般的な食材ばかりであった。
「ん? この冷蔵庫は?」
 鋼が指差す。死角にあったため、危うく見逃すところであった。
「あ、これは……ちょっと……」
 生徒が口ごもる。他の部員たちはあからさまに目を逸らした。
「怪しいですね」
 カスミが目を光らせる。
「よし、あとは……」
 その、傍らで雷華が一人暢気に料理を作っていた。
「……う……この異臭は?」
 鋼はすぐに冷蔵庫を閉めた。鼻が歪みそうである。
「あ、あなたち、これは一体何の!?」
 カスミがいきり立つ。
「じ、じつは……」
 生徒の話ではこの冷蔵庫には料理部部長の秘蔵のコレクションが保存されているらしい。部長は辛党らしく、海外から劇薬に近い種類の調味料を集めているとか。
「で、肝心の部長は?」
 鋼が問いかける。
「風邪で休んでいるんです」
「なるほどね……。これは、あとで事情を聞く必要がありそうね」
 カスミが一人頷く。
「とりあえず、これで一段落だな……ん?」
 鋼の目の先に雷華の姿があった。どうやら、料理が完成したらしい。
「師匠! ダメだよ!! 台所は女の職場なんだから!!」
 鋼が近づくと雷華がそれを制止した。
「……どういう理屈だよ」
 完成した厚焼き卵とパスタを皆で試食したが、一番、食べていたのは間違いなくカスミであった―――。



■ 調査2

「美術部は部員数20名。主に水彩画を中心とした活動を行っているようですね。風景画よりも人物画が大半のようで、学外でも高い評価を集めているようです」
「なるほど……」
 倉菜の説明を聞いてデルフェスが何度も頷いていた。
「何か気になったことでも?」
「……前々から怪しいと思っていましたの。美術部と魔術研究部は水面下で繋がっている、と」
「それは飛躍しすぎでは?」
「実は両方の部を掛け持ちしている生徒がいるようなんです。これは、わたくしの、推測ですが……そうですね、例えばデッサン用に実際の人間を一時的に石化させて意図的に石膏像を作るとか……」
「ありえない話ではないわね」
 ちょうど、そこへカスミがやってきた。
「カスミ様? やけにお口が膨らんでおられるようですけど?」
「……き、気のせいです」
 カスミは慌てて二人に背を向けた。
 ―――数分後。
「さあ、行くわよ」
 何事もなかったかのようにカスミが先陣を切って歩き出した。
 美術室へ到着。と、カスミが扉に手をかけようとするので倉菜がそれを止めた。
「少々、時間をいただけますか」
 そう言って倉菜はドア越しに室内を凝視した。物質の構造を見抜く能力を持つ彼女は、室内に危険があるかどうかを事前に察知することが可能なのだ。
「危険、ということに関しては問題なさそうですけど、何か異質なものが紛れ込んでいるように感じられました。そうですね……特にこれといって準備する物はありませんが、十分注意してください」
 淡々と一定の口調で事務的に伝える倉菜。
「わかりましたわ」
 デルフェスが笑顔で応える。
「じゃあ、中に入るわね」
 カスミが今度こそ扉を開く。すぐに三人へ視線が集まった。
「……関係者以外、立ち入り禁止、と表に書いてありませんでしたか?」
 釣りあがった眼を光らせ男子生徒が水彩画用の筆をこちらに突き出した。
「抜き打ち調査です。部内を調べさせてもらいます」
 カスミが忠告を無視して中に入る。
「……そうですか。どうぞ、お勝手に」
 男子生徒は余裕ありげだった。
「あら、これは……」
 デルフェスがすぐにその奇妙な力の存在に気づく。
「人間じゃないかしら、これ?」
 倉菜は口に出す。
「……な、何を根拠に!?」
 先ほどの生徒が急にうろたえだした。彼女たちの特殊能力など彼の計算にはなかったのだろう。
「どういうこと?」
 カスミが二人の下へ歩み寄る。
「石膏像だと思っていたのですが……中身は人間と同じ構造をしています」
 これも倉菜の物質の構造を見抜く能力の恩恵である。
「正解ですわ。この石膏像には表層に特殊な魔力がかけられていますわ」
 錬金術を操るデルフェスはその力の正体まで見抜いていた。彼女は『換石の術』という石化の効果がある錬金術を使うことが出来る。類似した力であるため、すぐに解答へ辿り着いたのだ。
「どうやら、予想通りですね」
 倉菜は腕を組み壁に背中を預けた。もう、特に興味はないらしい。
「カスミ様、すぐにこの石膏像に似た生徒がいないかを調べてくださいな。それから、魔術研究部の方にもすぐに立ち入り調査をお願い致しますわ」
「何が何だか分からないけど、悪は滅ぶというわけね」
 カスミは邪悪な笑みを浮かべながら教室を飛び出していった。
 その後の調べで、魔術研究部が美術部に手を貸していたことが明らかになった。更に、魔術研究部は法外な金額を要求し、様々な部に魔術を提供していたらしい。
「美術部は一ヶ月の活動停止。それから、魔術研究部は廃部ね」
 カスミの決断に異議を唱えるものはいなかった。さすがに金銭が絡むとなると見過ごすわけにもいかない。自由を重んじる校風とはいえ、些か奔放すぎるであろう。



■ 調査後

 最初の場所に戻ってきた四人とカスミ。とりあえず、調査は一段落した。
「料理部の方はどうだったの?」
 倉菜が雷華に訊く。
「えっとですね、特に問題はなさそうでした。ちょっと、特殊な趣味の人がいたくらいかな? それが、どうかしたの?」
「……別に」
 倉菜は、料理部が失脚してくれたら、自分の属する料理研究会が昇格できるのではないだろうか、と内心で期待していたのだ。
「カスミ様。これで、調査は終わりですの?」
「……ふっふっふっ、まだよ! 悪事は学園内に蔓延している可能性が高い! 部費を乱用する無意味な部、犯罪的な活動を平気で行う部、そういった部は他にも存在するはずよ」
「先生にしては、もっともらしいことを言うな」
 鋼が呟く。
「……不城君、何か言った?」
「気のせいだろ」
「カスミ先生、じゃあ、また調査やるんですか?」
「とは言え、もうすぐ下校時間だから今日は無理ね。日を改めて、また調査を行うわ」
 こうして、調査は終了。慌しい、一日も終幕を迎えた。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2194/硝月・倉菜/女/17歳/女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)】
【2239/不城・鋼/男/17歳/元総番(現在普通の高校生)】
【2450/飛鳥・雷華/女/16歳/龍戦士 兼 女子高生】
【2181/鹿沼・デルフェス/女/463歳/アンティークショップ・レンの店員】

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■         ライター通信          ■
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調査依頼「一掃」(前編)にご参加いただき有難うございます。
カスミ先生が……微妙なキャラになっておりますが、きっと大丈夫です(根拠なし)。
さて、今回は前編ということなんですが、結局、爆発物は出てきませんでした(恐らく、カスミの目的はそれです^^;)。
それでは、また機会がございましたらお会い致しましょう。ちなみに、後編の方は金曜日の夜には窓を開く予定です。

 担当ライター 周防ツカサ