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<東京怪談・PCゲームノベル>


美味しいものにはご用心



オープニング 

 冷たい空気の漂う、どことも知れない地下室。
 そこには四個の西洋型棺が置いてあった。
 部屋から見て手前に一つ、後はその後ろに三個の棺。
 明り取りとなる高い場所に位置する窓から、月光がうすくその棺を照らしていた。
 月の光は魔物を目覚めさせる不思議な力が宿っている。
 キイっと手前の棺のふたが開いた。その隙間から覗く、不気味なほどに青白い手は見るものをぞっとさせるだろう。
 棺から出て来たのは袴をきた壮年の男性だった。
 その男が棺から出たのが合図となって、他の三個の棺からも亡者のように人がでてくる。赤い着物の女の子と、袴姿の少年。それときらびやかなドレスをきた女性だった。
 少年は棺から出ると開口一番大声をだした。
「腹減ったーーーー!!!」
 その言葉と同時に四人の腹の虫がぐう、となる。
「そうね、月矢。私もおなかがすいたわ」
 ドレスの女性が頷く。
「私も……。お母様」
 赤い着物の少女が頷く。
「さらもですか。わたくしもです」
「まあ、しょうがないだろう。何百年も眠っていたんだ。我ら魔物と呼ばれるものを追うやからも、もうこの世にはいないだろう」
「そうね、アナタ」
 四人は頷きあいながらしばしの安心感を堪能した。
「まずは朝飯だな。適当に関係のないやつらを「招待」しようじゃないか」
 そういって壮年の男は電話帳を探し出した。
「この館へ、招待しようじゃないか」

 本文

 その電話は、実に狡猾に、かつずるく相手を納得させた。
「ええ、貴方のおじい様の親戚なんです。それで今度、我が家で親戚を集めた花見をしようという計画がありましてね。皆さんを呼んで楽しく過ごせたら、と思いまして。大勢参加しますよ。ですから是非、拙宅へいらしてください」

 「親戚」、「おじいさま」、縁が遠すぎるが、でもありえる設定だ。
 この電話を魔物お父様は電話帳でかたぱしから掛けまくった。大勢人間がきてくれるなら、それは燻製にでもして今後の食料になる。
 
 その電話を榊船亜真知はとった。彼女はいわば人間に神と呼ばれる存在であり、年齢もすでに一千をこえるだろう、超常的存在だ。
 そんな彼女におじいさんなどいるばずもなく。この電話は彼女のおもてむきの従姉あてだと思った。が、従姉は今はいないし、旅行で当分帰ってこない。親戚づきあいも大事だ、と思った榊船亜真知はこの電話を受けてそれにいくことにした。

 一方、この電話を受けた人物で行くことを決めている人物がもう一人いた。渡辺綱である。彼の家系は代々から続くあやかし退治の家である。由緒正しい故にそれを承諾してしまったのだ。ちょっと調べればそれが嘘の電話だと言うことはわかるはずだった。が、渡辺綱はなんせ、忙しい。さらに彼は渡辺一族の当主だった。親戚づきあいは大事だと思った彼は、それを承諾してしまったのだ。

 後日郵送されてきた地図を見て渡辺綱は森を歩いていた。春を迎える今、森の緑は濃さを増し、命の息吹が息づいているのが聞こえそうだ。
 一本道だったため、てくてくと歩いていたのだが、自分の前に一人の少女が歩いているのが見えた。
 渡辺綱は彼女も自分の遠縁にあたる親戚だと思い、声をかける。
「こんにちは」
 少女がふりむくと、なんともかわいい美少女。渡辺綱はそれで、もう心はうきうきしてしまった。
「俺、渡辺綱」
 少女は少しびっくりした表情を見せたが、気を取り直して自己紹介をした。
「私は榊船亜真知と申します。お花見だそうですね」
 にっこり笑う亜真知はとんでもなく、可愛い。それにさらに渡辺綱は機嫌を良くして話を続けた。
「俺、花見って事で弁当作ってきだんだぜ。から揚げとか、しゃけの入ったおにぎりとか、チキンとか。やっぱ花見って言ったら弁当だよな!」
 それを聞いて亜真知は微笑んだ。
「わたくしもクッキーを数種類と、それに合う紅茶を持ってきました。楽しい宴になるといいですね」

 そんな風に話しながら、森の中の館につく二人。森の一本道には二人以外、誰もいなかった。そもそもあの電話自体、あやしかったので、警戒心の強い現代人はスルーしたらしい。
 ついたそこは、なんともボロい館だった。
 大きい館だが、壁には蔦が覆いしげり、見た目鬱蒼としている。
 亜真知がドアノックを打つと中からドレスを着た女性が現れた。
「あら……」
「あら……」
 一瞬、二人が言葉を失う。
「久しぶりですこと」
 亜真知はにっこり笑ってそう魔物お母様に言う。それを受けて渡辺綱も挨拶した。一応、親戚ということで招待されているので、知っている人間がいるのは当たり前と言ったら当たり前だった。
「あ、知り合いなんだ。俺は渡辺綱です。招待、ありがとうございます」
 屈託ない笑顔で渡辺綱は挨拶する。
 そこへ部屋の奥から一人の少年が現れた。
「あ、夏矢くん」
 榊船亜真知はこの魔物一家のことを知っていたので、一家の少年、夏矢のことも知っていた。
 この魔物一家は人間を食べるゆえに人間から追われ、亜真知の秘術によって数百年の眠りについていたのだ。
 夏矢はテトテトと二人の前にくる。渡辺綱は親愛をもって夏矢に手を差し伸べた。握手を求めているのだ。
「よろしく、夏矢くん」

がぶっつっつ

 夏矢はその手にいきなり噛み付いた。
 おなかが減っているのである。食べたいのである。幸い、彼はなんともおいしそうな少年だった。夏矢の理性も飛んだのだ。
「い、痛い……んだけど……」
 その言葉が言い終わらないうちに、魔物お母様の鉄拳が夏矢を襲った。今、警戒を持たれて帰られてしまったら食事はパーだ。
「こ…子供のすることですから……大目に見てやってください」
 言い訳する魔物お母様に榊原亜真知はため息をついた。
「貴方たちはまだ、人間が食べたいのですか?」
 それに驚いたのが渡辺綱だ。
「に、人間を食べる?」
「ええ。この一家は哀れな一家なのです。人間しか食べられない身で人間から追われ、ずっと眠りについていた。今、起きたところで人間を食べればまた同じだというのに」
「ちょっと待て。花見とかおじいさまの親戚とか、そういう設定だったよな?」
 魔物お母様はすべてがばれてしまった今、開き直って渡辺綱に泣きながらすべてを白状した。
「人間しか食べられない身で人間から追われ、こんな森の奥でしか、暮らせないんです。生きていればお腹がすく。私は息子や娘にひもじい思いをさせたくないんです……。それでこんな事を……」
 渡辺綱はため息をついた。
「人間よりもおいしいものって、あるんじゃねえ?」
 それに榊船亜真知もにっこりと笑う。
「そうそう。たとえば手作りクッキーとか。紅茶とか」
「から揚げとかさ、しゃけの入ったおにぎりとかさあ」
 二人は持ってきた手提げ袋を二人の前に差し出した。
 それらはとてもいいにおいがする。
 その香りにつられて奥から魔物お父様と娘のさらもやってきた。
「美味しそうな匂いがする……」
 空腹でふらふらのさらは渡辺綱と榊船亜真知のもっている袋を見てごくんと喉を鳴らした。
 榊原亜真知は袋からクッキーを出すとそれを一家四人に一枚づつ渡す。
 すると……。
「うまい!」
「こんな美味しいものがあったなんて……」
「美味しい、もっとないの?」
「もっと、もっとちょうだい!」
 四人は二人にもっと、と催促した。
 それを見た渡辺綱は苦笑する。
「なんだ、人間以外もたべられるんじゃん。花見だろ? あっちに桜があるから、その下で皆でこれ、食べようぜ。いっぱいあるんだ」

 それから魔物一家と二人は桜の木の下でクッキーとから揚げとおにぎりを仲良く食べた。
 魔物でも、異端でも、広い世界の片隅に四人くらい、生きていく場所があってもいいじゃないか。
 あやかしを刈る立場である渡辺綱は、この一家を見てそう思い、一家がなんとか現代社会でも生活できそうだと思った榊船亜真知は時々助けてあげながらこの一家を見守ってやろうと思った。

 命が謳歌する季節の先触れ、桜がはらはらと一家と二人にふりそそぐ。
              ☆END☆
 
 この作品に出てきた登場人物

整理番号/名前     /かな      /性別/ 年齢 / 職業
1761  渡辺 綱   /わたなべ つな  /男/16歳  /あやかし退治の家系の当主
1593  榊船 亜真知 /さかきぶね あまち/女/999歳 /人からは神と呼ばれる、次元間航行艦

 ライター通信

 今回、依頼してくださり、ありがとうございます。
 二人とも個性豊かなキャラクターなので、楽しくかけました。
 美少女に弱い綱くんと、冷静なあまちさんの、この二人の掛け合いが、書いていて結構面白かったです。
 ハッピーEDになり書き手側としても良かったな、と思いました。