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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


2.インサイダー・アイドル ――彼女は光の夢を見る

■斎・悠也編【オープニング】

「あたしねっ、向こうの世界に行ってみたいんだ★」
「向こうの世界? ――と、言いますと?」
「決まってるじゃない! 光の世界よ」
「ひ、ひかりのせかい……ですか?」
「知らないの? ここは闇の世界なのよ。そしてこの闇の世界の外には、光の世界があるの。その2つは1本の細〜い通路で繋がっていて――」
「いて?」
「最近ね、そっちの世界から来てる人が何人かいるんだって!」
「……それが今いちばん流行っている怪談ですか?」
「違うの。これは怪談じゃなくって、現実よ★」



 そのアナウンサーは、困った顔をしていた。
(当たり前だ)
 と探偵――少年探偵は思う。
 アナウンサーがインタビューをしている相手はSHIZUKU。オカルト系アイドルとして有名な彼女にそんなことをする理由は1つ。その手の話が聞きたいからだ。
(それなのに)
 彼女は”現実”の話をした。アナウンサーが困るはずだ。
「――しかし彼女、一体どこから情報を仕入れているのでしょうね?」
 傍に立って一緒にTV(といっても電波が飛んでいるわけではなく、有線である)を見ていた助手――青年助手が首を傾げる。
”SHIZUKUがどこから情報を仕入れているのか”
 確かにそれは気になる問題だった。何故なら普通ゲルニカに生きている者は、知るはずもないのだから。
(この世界が闇なんて)
 その闇の外に、光があるなんて。
「それを知っている誰かと、繋がりがあると考えた方が良さそうだな」
 探偵が口にしたその時、事務所のチャイムが鳴った。
 助手が返事をする前にドアは開き――
「やっほ〜★」
 やって来たのは――SHIZUKUだった。



■優雅なお茶会【ゲルニカ:”あいつ”の空間】

 それはいつもとは違う、始まりの予感。
(一斉に始まったわけではない)
 桂も今回は、迎えに行っていないようだった。
 ゲルニカの世界中に解き放たれた蝶が、それぞれの思惑を映している。それぞれの世界を、映している。
(楽しいですね)
 こんな余興はぜひ、お茶を飲みながら。のんびりと語らいながら見たいものだ。
 そしてだとしたら、俺の相手は1人しか考えられなかった。



 迷わずに進む。佳月の手には、大きなバスケット。
 ゆるりと優雅に”あいつ”の前まで歩み出ると、典雅に礼を1つ。そして能面の下から発せられる声は、甘やかで酷く澄んでいた。
「ご機嫌ようにございます」
 ”あいつ”は驚いたふうもなく一瞥すると。
『今度は何の用だ』
 いつものように文字の書かれた紙をこちらに見せた。
「お茶などいかがかと思いまして、持参しました」
『……お前と、お茶をしろと?』
「有益な時間が過ごしていただけると思いますよ」
『…………』
 相変わらず律儀に無言を表示すると、”あいつ”はどこからともなくテーブルと椅子を取り出した。真っ白なそれは、佳月に持たせた白磁のティーカップとよく合っている。
 早速佳月は用意してきた苺のタルトを取り出すと、魔法瓶からそのティーカップに紅茶を注いだ。
「眠りの薬など入ってございませんから、安心してお飲み下さいませ?」
 微笑みながらあえてそう告げると、”あいつ”は手の伸ばしカップをとった。
 一口飲む。
『…………』
 文句はないらしい。
「――今回のこと、あなたさまは当然ご存知なのでしょうね?」
 落ち着いたところで言葉を振ってみると、”あいつ”は興味を示し。
『今回の? ……SHIZUKUのことか』
「SHIZUKUさまが”ゲルニカ”という世界そのものをご理解しているご様子。その情報源にございます。桂さまか……もしくはヒミコさま経由で沙耶さまにございましょうか」
『ふむ』
「いずれにせよ、それはあなたがお許しになったということなのでしょうね」
 そこまで続けると、”あいつ”の出方を待つ。
 ”あいつ”は何度もカップを口に運びながら、空いている方の手で紙を示した。
『どちらも違うようだがな』
「え?」
『得意の”目”で、覗いてみたらどうだ?』
「――では少し、失礼致しますね」



■情報源は……?【ゲルニカ:草間興信所】

 ”あいつ”と会話しながらも、それとなく世界を眺めてはいたのだ。けれど意識を集中するのとしないのでは、やはりわけが違う。
 俺は今SHIZUKUがいる草間興信所を見た。そこでは何故か麻雀大会が行われていて――参加しているのは、探偵&助手ペア、SHIZUKU&巽・千霞(たつみ・ちか)ペア、セレスティ・カーニンガム&鹿沼・デルフェス(かぬま・−)ペア、アイン・ダーウン&ヨハネ・ミケーレペアであった。
 どうやらSHIZUKUのペアを最下位にしようと頑張っていたらしく。
「――しかしこれで、SHIZUKU嬢の口からは情報を聞けなくなりなりましたね……」
 セレスティがそんなことを口にしていた。
 すると当のSHIZUKUはその約束を忘れていたようで。
「ああ、そう言えばそんな約束してたね★ 別に教えてもいいんだよ、あたしは。邪魔が入らなかったらね♪」
「?!」
 その言葉で、何人かはきっと思っただろう。
(でも、情報源は”あいつ”ではありませんよ?)
「直接、聞いたのかね?」
 探偵の低い問いに、SHIZUKUはいつもの調子で答える。
「んーん。あたしはあいちゃんとは会ったことないもん。あいちゃんの話はヒミコちゃんから聞くの。で、ヒミコちゃんは沙耶さんから聞いてるのね。なんか伝言ゲームみたい★」
「…………」
 その内容よりも、彼女が”あいつ”のことを”あいちゃん”と呼んでいる事実が皆気になったようだけれど、誰もそんな勇気のある人はいないようだった。
「――ってことはぁ〜、ゲルニカの外に本当の世界があることってことを、”あいつ”から聞いた沙耶さんから聞いたヒミコちゃんから、SHIZUKUちゃんは聞いたってこと?」
 その言葉は、千霞の手元にある子犬のぬいぐるみから発せられたものだった。
「ホント、インタビュアーさんって腹話術うまいよね★ でも違うんだ。その思想を展開してるのは、ヒミコちゃん自身なの。で、あたしもそれに共感しちゃって、だったら外の世界に行きたいなぁって」
 SHIZUKUは既にそれに慣れているようで、当たり前のように受け答えしている。皆もそれが腹話術だとわかると、安心して会話を再開した。
「それならどうして、口止めなんてされていたんですか?」
 問い掛けたヨハネに、SHIZUKUは首を振る。
「口止めされてたんじゃなくて、あたしが勝手にしてたんだよ。だってそんなこと言ったら、探偵ちゃんの興味があたしからヒミコちゃんに移っちゃうでしょ? でもあたしはヒミコちゃんに迷惑をかけたいんじゃなくて、そっちの世界に行きたいだけなんだもんっ」
(――なるほど)
 ”あいつ”が『どちらも違う』と言った理由がわかった。元になっているのはヒミコだけなのだ。
「ああ、全部話せちゃった★ ねぇもういいでしょ? 光の世界への行き方を教えてよ〜」
 甘えるような声を出すSHIZUKUを、探偵は厳しい眼差しで見返していた。
「……探偵?」
 その不可思議な様子に気づいた助手が、呼ぶ。
「――おかしいな。外へ出たいという希望を植えつけたのも、出すまいとしているのも、”あいつ”だというのか? ならば何のために……」
 探偵のその言葉に、セレスティが何かを思い出したように問い掛けた。
「探偵くん、もし仮にSHIZUKU嬢が向こうの世界へ行けたとすると、ゲルニカにはSHIZUKUという存在がいなくなるわけですよね。そうなると、新しいSHIZUKU嬢が生まれたりするんでしょうか?」
 すると探偵は首を振って。
「それはないな。君たちだって、向こうに帰った時もう1人の自分に会ったなんてことはないだろう? そういうことなのだ」
「待って下さい。そもそも俺たちがそのままの状態でゲルニカへ来ていること自体、おかしくないですか? 最初の探偵さんの話だと、ないものは似たものに変換されるって話でしたけど……」
 首を傾げながら問うアイン。それには助手が答えた。
「それは、皆さんがこの世界に既に存在しているからですよ」
「え?!」
「すべてが今の皆さんとは違うかもしれませんが、存在としては同じ方がいるはずです」
「……つまりね、先程のサインの話を例に出して言うと、SHIZUKU自身が自分のサインを持って向こう側に行くならば、そのサインはSHIZUKUのものであり続けるのだ。それともう1つ、”行く”という条件と”戻る”という条件は違う。”戻る”条件は”行く”行動を起こしているだけでいい」
「少しこんがらがってきましたけど……つまり戻るには、特別な条件はいらないということですのね?」
 デルフェスの短いまとめに、探偵は頷く。
「帰りたいとさえ思えば、ね」



■動揺【ゲルニカ:”あいつ”の空間】

「――よくわかりました。しかし、ヒミコさまがそのような思想を持っていらっしゃるのも、あなたさまのお力なのではありませんか?」
 だとしたらやはり、元は”あいつ”のせいということになるのだ。
 しかし”あいつ”は、それには何も答えなかった。無言さえ、返さない。
 佳月は次の問いを、選んだ。
「……折角素敵な世界ですのに、それはとてもつまらないことのように思うのです」
 唐突な言葉に、”あいつ”も戸惑ったようで。
『何の話だ?』
「”虚無の境界”」
『!』
「何故関わっていらっしゃるのでしょうか?」
『――SHIZUKUを追わなくていいのか』
「え?」
 それは明らかに、はぐらかされた答え。いや、うまくはぐらかすこともできないほど、動揺しているのだろう。
(……あまり追いつめるのも、得策ではありませんね)
 俺はおとなしく、”あいつ”の助言に従うことにした。



■失われている【ゲルニカ:怪奇探険クラブ部室】

 SHIZUKUは千霞やデルフェスとともに、学校の部室へと戻っていた。怪奇探険クラブの、である。当然ヒミコもいる。
(どうやら)
 探偵に”あいつ”の意思なしにはあちらの世界へ行くことはできないと言われて、落ち込んでいるらしい。
 そんなSHIZUKUを慰めようと、2人はここまでついてきたのだろう。
「――ただいま〜」
「あら、おかえりなさい、SHIZUKUちゃん、インタビュアーさん。あと……」
「初めまして、鹿沼・デルフェスと申します」
 デルフェスが挨拶を挟むと、ヒミコはにこりと微笑んで。
「アンティークショップの店員さんですね」
 と続けた。この世界では名前で呼ばれないことなど珍しくはない。
「ごめんねーヒミコちゃん。皆にヒミコちゃんの思想のこと教えちゃったの」
「あら、そんなこと構いませんよ。信じてくれる人が増えるなら嬉しいし……でも皆さんがこうしていらっしゃったということは、やっぱり当たっていたんですね」
 SHIZUKUの謝罪にそんなふうに返すと、ヒミコは2人に椅子を勧めた。
「ヒミコ様は、そのことを高峰様からお聞きになったわけではないそうですね?」
 確認するようにデルフェスが問うと、ヒミコは頷いて。
「ええ、違います。私、沙耶さんに保護される前の記憶がないんですけど、この思想だけは忘れてなかったみたいで。ずっと覚えていたんです」
(!)
 それは思いがけない言葉だった。
(俺にとっても)
 それは初めから与えられていた情報だったが、そこまで考えていなかった。
 だがそれ以上はヒミコも何もわからないようで、今度は千霞がSHIZUKUに問いを投げた。
「ねね、SHIZUKUちゃんはなんで、光の世界に行きたいの?」
 するとSHIZUKUは大真面目な顔で。
「だって、外に光の世界があるってことは、ここって闇の世界ってことなんだよね? 闇の世界のオカルトアイドルなんて、なんか嫌じゃな〜い? どうせなら光の世界のアイドルになって輝きたいもん!」
「………………」
 実にSHIZUKUらしい答えだった。
「それより早くオカルトの話しよーよ! 向こうの世界のこと教えてくれるんでしょ?!」
 瞳を輝かせたSHIZUKUに倣って、隣のヒミコも瞳を輝かせる。
 それからは4人で、楽しそうにあちらの世界について話をしていた――。



■珍客きたる【ゲルニカ:”あいつ”の空間】

 ――はずだったのだが。
「! ……一体どういう状況なんだこれは」
 しばらく”あいつ”とお茶会を楽しんでいると、2人は現れた。1人は志賀・哲生(しが・てつお)。そしてもう1人は――SHIZUKUだ。
「こんにちは、志賀さま。わたくしは、佳月と申します」
 にこやかに挨拶をする。
『今度の土産はSHIZUKUか』
 ”あいつ”はそんなふうに歓迎(?)すると、椅子を2つ増やした。
 SHIZUKUはと言えば、怖がっているのか言葉を発する気配はない。
「ご一緒にお茶などいかがですか?」
 勧めると2人はおとなしく席につき。そして志賀は待ちきれないように口を開いた。
「――おい、お嬢ちゃんを向こうの世界に行かせないのは何故だ? 最初は行かせる気があったんだろう?」
「!」
 その言葉にびくりと反応したのはSHIZUKUだ。
 ”あいつ”はティーカップを手にしたまま。
『……何故、そう思う?』
 別の手に持った紙で会話を続ける。
「ヒミコに思想だけが残されていたからさ」
『残念だが』
 ”あいつ”は早口(?)に。
『ヒミコが記憶喪失であることも、それを覚えていたことも――俺の声がないことも』
「まさか……おまえの意思ではないと、言うつもりか?」
『ご名答』
 それは俺にも、意外であった。
「冗談だろう? ここはお前の世界のはずだ。そのお前が干渉できないことなど、あるはずが……」
「わたくしも同じことを訊いたのですよ」
 思わず言葉を挟む。
『あれが同じことか?』
 ”あいつ”が笑っているのがわかる。
「同じでしょう? 何故”虚無の境界”に関わっていらっしゃるのか」
「?!」
 志賀はその名前が出てきたことに息を呑み。
「もしや、おまえより”上”なのか? 虚無の境界――いや、そのトップである巫神・霧絵は」
『…………』
 今度は無言を、記した。
「わたくしも先程気づきましたけれど、情報をよく整理しておいたなら、最初からわかっていたことかもしれませぬ」
(――そう)
 俺は虚無の境界との繋がりを悟ってはいたのだが、そこまで深いとは考えもしなかったのだ。
 整理された情報から浮かび上がる事実は――
(巫神・霧絵は”あいつ”を作り出した張本人と噂されているということ)
 志賀もそこまでたどり着いたのだろう。納得の表情で続ける。
「一体どういうことだ……作り出しただと? まさかおまえ、ホムンクルスだとか言うんじゃないだろうな」
 すると”あいつ”は豪快に身体を揺らしてから。
『俺とてもうそろそろ、ひとりにして欲しいがな』
 そんな意味深なことを記す。
 やがて俺たちの会話を黙って聞いていたSHIZUKUが、声を発した。
「ね、ねぇ……じゃああたしが向こうの世界に行けないのは、霧絵さんって人のせいなの?」
『俺は邪魔だから追い出したいがな』
「うー」
 ”あいつ”の答えは間接的ではあったが、それだけで十分だった。
「俺たちだってこうしてこっちに来てるんだ、別にお嬢ちゃんが向こう行ったってなんの問題もないんじゃないのか?」
『さぁな』
 その辺は、”あいつ”にもわからないようだった。
「……おや、またお客さまがいらっしゃったようですね」
 それを感じて、佳月が口にした。
「え?」
『物好きな奴らだ』
 そうして不意にこの空間に現れたのは、またしても2人。
「〜〜〜ちょっと待て! 何優雅にお茶会なんかしてるんだ!」
「SHIZUKUさん大丈夫ですか?」
 ディテクターと柚木・羽乃(ゆずき・はの)だ。
「俺はSHIZUKUが誘拐されたっていうから、捜しに来たんだぞ?」
 俺は志賀がSHIZUKUの元を訪れる所を”場面”として見ていたので、大体想像がつく。
(ヒミコがディテクターに助けを求めましたか)
「おい。ヒミコは何故か俺たちがおまえに会いに行くことを阻止しようとしたんだが?」
 志賀はディテクターを無視して”あいつ”に振った。
「俺たちを無視するなよ!」
「まあまあ、どうぞ、お座りになって下さいませ」
 ディテクターはずいぶんと気が立っているようで、佳月がティーカップを差し出すと一気飲みし、熱さにむせた。
「ディテクター……」
 そんなディテクターを少し呆れたような目で見ている羽乃は、ずっとディテクターと行動を共にしている。
 ”あいつ”はディテクターが落ち着くのを待ってから。
『それは暗に、俺が本当はお前たちに会いたくなかったのではということを言っているのか?』
 先程の志賀の問いに答えた。
「率直に言えば、そうなるが」
 それに口を挟んだのは、佳月だ。
「志賀さま、それは無理という話でございます。いくらこの方であっても、人の気持ちまでもはそう簡単に動かせるものではありませぬ」
「……もし動かせるのなら、探偵くんの感情も変えてしまえばいいですからね」
 羽乃が言った。
「だがそれじゃあ、探偵自身は苦しくないだろう? だからやらないんじゃないのか?」
「そうかな? 本当は100%憎みたいのに強制的に憎めなくされたら、実際とても辛いと思うんですけど……」
「ふむ……」
 それは難しく、そして酷くデリケートな問題であった。
「で? 実際にはどうなんだ」
 ディテクターが”あいつ”に向かって問う。
 ”あいつ”はしばらく無言でティーカップを傾けていたが。
『どちらとも、言えんな』
「え?」
 曖昧な言葉を返した。
「どういう意味だ?」
『俺とて自分の心というものを、100%理解できているわけではない、ということさ』
「!」
 ある意味それは、”あいつ”の真理なのかもしれない。
(異常な存在)
 他者を超越する力。
 俺たちはまだ、”あいつ”の輪郭しか掴んではいないのだ。
(だから忘れていた)
 底にあるものは、きっと俺たちと同じなのだということを。
「――戻ってヒミコに訊いてみるか」
 告げたのはディテクター。
「でもディテクター、ヒミコさんも人間だから、何故自分がそんな行動をとったのかわからないかもしれない」
「! そうだな……」
「わかるとしたらやはり、霧絵さま……でしょうか?」
『否定はしない』
「じゃあその霧絵に会うにはどうしたらいいんだ?」
 志賀がまた直球で勝負すると、”あいつ”は首を傾げて。
『例はある。お前の世界の俺を殺せばいい』
 わけのわからないこと言った。
「おいっ」
『…………』
 それ以上言うつもりはないようだ。
「チっ」
 舌打ちをして、志賀は”あいつ”から視線を外した。と、SHIZUKUが目に入ったようで。
「そうか……SHIZUKUを無理やり連れ出そうとすればいいのか!」
「待て、それではSHIZUKUが危険すぎる」
「何故だ? 俺たちはこうしてこちらの世界へ自由に来ることができるんだぜ? 逆が無理だなんてそんなおかしな話はないだろう?」
「しかし……」
 言葉を続けようとしたディテクターを、佳月が遮る。
「探偵さまも仰っておりましたよ。原理的には同じであるのだから、十分に可能であると」
 俺はその場面を見ていたから。
「よし、じゃあ俺は実験してくるぜ。来な、お嬢ちゃん。願いを叶えてやるよ」
「行くなSHIZUKU!」
 立ち上がる志賀。止めるディテクター。
 SHIZUKUはそんな2人を交互に見たあと――自分の行く道を、選んだ。
「あたし……行ってみたい」
 そして志賀の手を、とった。

     ★

 その後の出来事は、”あいつ”の予想の範疇すら、はるかに超えていた。
 ディテクターが追いかけられないようにはしたけれど、もう1人の妨害者など――ありえないはずだった。
(霧絵、以外には――)
『ゲルニカは動き始めた』
 ”あいつ”は独り言のように、記してゆく。
『俺の手すら、離れたのかもしれない』



 志賀に重傷を負わせたのはヒミコ。
 そしてそのヒミコは――再び記憶を失っていた。

■終【2.インサイダー・アイドル】



■登場人物【この物語に登場した人物の一覧:先着順】

番号|P C 名
◆◆|性別|年齢|職業
2266|柚木・羽乃(ゆずき・はの)
◆◆|男性|17|高校生
0164|斎・悠也(いつき・ゆうや)
◆◆|男性|21|大学生・バイトでホスト(主夫?)
1883|セレスティ・カーニンガム
◆◆|男性| 725|財閥統帥・占い師・水霊使い
2151|志賀・哲生(しが・てつお)
◆◆|男性|30|私立探偵(元・刑事)
2086|巽・千霞(たつみ・ちか)
◆◆|女性|21|大学生
2525|アイン・ダーウン
◆◆|男性|18|フリーター
1286|ヨハネ・ミケーレ
◆◆|男性|19|教皇庁公認エクソシスト(神父)
2181|鹿沼・デルフェス
◆◆|女性| 463|アンティークショップ・レンの店員



■ライター通信【伊塚和水より】

 この度は≪闇の異界・ゲルニカ 2.インサイダー・アイドル≫へのご参加ありがとうございました。そして大変遅くなってしまって申し訳ありませんでした_(_^_)_ その割にはあんまり長くないんですが……分岐が激しく多いのでよろしければ他の方のノベルもご覧になって下さいませ〜。
 毎回継ぎ接ぎでわかりにくくなってしまってすみません。もうちょっと流れのいいようにできるよう頑張ります(>_<)。
 ゲルニカ、大人しく隔月に変えようかなと思っております。色々と変更点が多くご迷惑をおかけしておりますが、今後ともよろしくお願い致します_(_^_)_
 それではこの辺で。またこの世界で会えることを、楽しみにしています。

 伊塚和水 拝