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二人三脚でGO!
真夜中――無人のはずの人形博物館に明かりが灯る。
ゴーストネット掲示板OFFの書きこみを見て、もしくは雫に誘われて。ここ人形博物館にやって来た八人は、屋敷の前で顔を合わせた。
軽く言葉を交わしつつ、八人は開かれた扉の奥へと入って行く。
「ようこそいらっしゃいました」
閉館時間だというのに晧々と蛍光灯のついた玄関ホールに落ちついた女性の声が響いた。入ってすぐの正面、二階ヘ上がる階段の前に、お人形が九人、立っていた。
「初めまして――」
言いかけた亜真知を遮って、
「わーいっ、小鳥さーんっ!」
金髪ストレートに青いリボンのお人形――キャロラインが、パタパタと賑やかに慶悟の方へと駆け出した。
「久しぶりだな」
慶悟本人よりも赤い小鳥の式神の方が印象に残っているらしい。苦笑しつつも、慶悟はキャロラインのために式神を一体召喚して見せた。
ますます興奮して騒ぐキャロラインをまったく気にせず、長い黒髪に碧の瞳の人形が、人間たちへ向けて鮮やかな笑みを浮かべる。
「来てくださってありがとう。嬉しいわ」
優雅に礼をするグラディスの横で、別のお人形が楽しげな声をあげる。
「今日はね、みんなでレースをやるの」
「レース、ですか?」
にこにこと笑う金髪ポニーテールの人形に、みなもがきょとんと聞き返した。
人形たちの話によると、彼女らは退屈凌ぎのゲームとして、人間とペアを組んでのレースをやろうと思い立ったらしい。何故か。
「んー……たまの息抜きと思って覗きに来ただけなんだけど、なんかややこしいことに巻き込まれちゃったなぁ…。まぁいいか、人形のレースなんて滅多に見れるもんじゃないし、こんなに綺麗な女性に頼まれたら、断るわけにも行かないしね」
苦笑しつつも面白そうに、零樹が告げた。
その後しばらくの話し合いののち、八つのペアができあがった。
蓮巳零樹とグラディス。御影涼とミュリエル。榊船亜真知とローズマリー。シュライン・エマとエリス。セフィア・アウルゲートとエレノーラ。真名神慶悟とキャロライン。海原みなもとジェシカ。瀬名雫とエリザベス。
それぞれの相手が決まった所で、シュラインが残った一人の人形に声をかけた。
「貴方はいいの? それに……ここにはいないけど、もう一人いるのよね?」
問われて、エメラルドの瞳を持つ人形は、にっこりと穏やかな笑みを浮かべた。
「ええ。わたくしは最初から参加するつもりはありませんでしたし、あの子もそうだと思いますわ」
「そうですか…。残念……」
可愛いもの大好きのセフィアとしては是非に全員見たいところだったが、本人がノリ気でないのなら仕方がない。
「まあ、今回は無理でも、会う機会はまたありますよ」
涼のフォローにセフィアはほんわりと笑みを浮かべた。
「ねーねー、はやくいこーよぉ。じかん、なくなっちゃう〜」
拗ねたようなエリスの言葉に皆は薬と笑って顔を見合わせた。
「それでは…。皆様、頑張ってくださいな」
にっこりと笑うエメラルドの瞳に見送られて、十六人は夜の町へと歩き出した。
涼の肩に乗ったミュリエルは、歩き出した途端に口を開いた。
「お兄さん、また逢えて嬉しいわ。あ、そーだっ。この前はキャンディとブーケをどうもありがとう。あのね、キャンディは他の子たちとも一緒に食べたの。みんな美味しいって言ってたのよ。でね、ブーケは私の部屋に飾ってあるの。ある日突然お花が増えてて、管理人さん、ちょっとびっくりしたみたい。…悪いことしちゃったかなあ。でもせっかくもらったんだもん、綺麗に飾りたいわよねえ」
……相変わらず、見事なまでのノンブレス発言である。
さすがに三度目ともなれば涼の方も多少は慣れてきているから、にっこりと笑顔で返せたが。
「喜んでもらえたみたいで嬉しいよ」
「それでねっ――」
と。
興奮しているのか段々と声が大きくなるミュリエルに気付いて、涼はしーっと人差し指を立てた。
「真夜中だし、住宅街だから……」
「あっ、ごめんなさーいっ」
最後まで言う前に涼の意図に気付いたミュリエルは、ぺろりとしたを出して素直にごめんなさいを口にする。
ミュリエルは涼の肩の上に立ちあがって、そっと耳元で話しかけてきた。
「それでね、そのお花、お客さんもカワイイって褒めてくれたのよ。すっごく嬉しかったー」
別にそこまで小声で話すこともないのだが、内緒話というのもまた楽しいらしい。弾んだ声で告げるミュリエルに倣って、涼も小声で言葉を返した。
「実は、今日もキャンディを持ってるんだ」
「えっ、ホント!?」
ぱっとミュリエルが瞳を輝かせる。
「ただし、今日のは妨害用」
「妨害用?」
「やるからには勝ちたいと思わないか?」
にっこり笑って言うと、ミュリエルはぱっと涼に抱きついて、
「思うーっ」
元気にそう宣言をした。
が。
すぐに離れて、上目使いに涼を見上げた。
「このキャンディ、キレイだし美味しいし、きっと皆足を止めると思うの。でも私もちょっと食べたいなあ。あ、でもあんまり食べると太っちゃうかな?」
人形である彼女が太るとは思えないが……。女の子らしい発想に思わず笑みを零して答えた。
「それじゃあ、少しとっておいて、ゴールしたあとに食べようか」
じーっと。ミュリエルが涼を見つめた。今食べるのとあとで食べるのとでどう変わるのかよくわかっていないらしい。
「運動したあとならきっとたくさん食べても太らないよ」
言われてぱっと表情を明るくしたミュリエルは、ぽんっと胸の前で両手を合わせた。
「うん、そうね。楽しみはあとにとっておいた方がいいものね。それにあとに食べた方が太らないっていうならその方がよさそうだし。よーし、頑張っていっぱいお腹減らしてゴールに着こう〜」
ミュリエルは片手を上げて、元気いっぱいに宣言する。
結局歩いているのは涼だから、ミュリエルの運動にはなってない……という真実はとりあえず口に出さずにおいて、涼は少し早足に歩き出した。
――ちなみに。実は真面目に優勝を目指していたのはミュリエルのみ。……といってもそれでもかなりのんびりしていたのだが、他はもっとのんびりしていたらしい。二人は見事に優勝を獲得したのであった。
……優勝したからといって賞品があるわけではないが。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
1252|海原みなも|女|13|中学生
1593|榊船亜真知|女| 999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
0389|真名神慶悟|女|20|陰陽師
2577|蓮巳零樹 |男|19|人形店オーナー
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1831|御影涼 |男|19|大学生兼探偵助手?
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、日向 葵です。
毎度お世話になっております、今回はお人形さんのゲームにお付き合いいただきありがとうございました。
お久しぶりです。
前回に引き続き、キャンディをどうもありがとうございました。
今回他に妨害しようとする方がいらっしゃらなかったので、こちらのキャンディが唯一の妨害工作となったのですが…。楽しかったです(笑)
こちらでばら撒いたキャンディがどうなったかは、他の方のお話に書いておりますので、時間があったら読んでみてくださいませ。
それでは、この辺で失礼いたします。
またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。
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