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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


向こう側

1.
「彼女が・・・会ってくれないんです」

男は涙ながらに瀬名雫に訴えた。
「・・あたし、恋愛系に関しては何にもアドバイスできないんだけど・・」
困惑気味の雫に男は「話を聞いてください」と語り始めた。

「僕と彼女<ファントM>は、とある情報系HPで知り合いました。
 話をするうちに僕たちは意気投合し、メール交換もしました。
 そうしているうちに、お互いに会ってみようという話になりました。
 日時を決め、僕はその場所に行きました。だけど・・・」

「女性は来なかった・・・と」
同情気な顔で雫はよくあることだと思っていた。
が、男はさらに続けた。

「教えた携帯の番号に彼女から電話が掛かってきていました。
 『あなたの目の前にいる』と。確かに女性の声で。非通知でした。
 だから僕はすぐに辺りを見回したのですが、公衆電話のところに女性はいませんでした。
 女性どころか、誰もいなかった。
 でも、後日彼女にメールを送ると彼女は僕を見ていたという。
 僕は・・・彼女に会っていないのに・・・」

雫は男から<ファントM>と知り合ったというHPを聞き出した。
雫の勘が、何かを告げていた・・・。


2.
「雫〜! みあおが手伝ってあげるよ〜♪」
海原(うなばら)みあおは雫の後ろの席から2人の会話に割って入った。
実は先ほどから2人の話を後ろで盗み聞き・・もとい、丁度聞いてしまっていたのである。
「みあおちゃん!? ・・・そうだなぁ。あたしだけじゃ手が足りないし、手伝ってもらおっかな。話は大体聞いてたんだよね?」
「聞いてたんじゃなくて、聞こえちゃったんだよ」
ぷぅっと膨れたみあおに雫はアハハと笑い、「ごめん」と謝った。
みあおはにっこりと笑うと雫の隣へと移動した。
「みあお、ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
「あ、あぁ。何か気になることが?」
2人の会話に気圧されていた男が、みあおの問いかけに我に返って聞き返した。
「うん。あのね、公衆電話からの通話って非通知でかかってくるのかどうか。それから、その待ち合わせ場所で携帯電話を使っていた人がいたかどうか。電光掲示板や大型モニターがあったかどうかも知りたいな」
矢継ぎ早に3つの質問をみあおは口にした。
ぱっと見、小さな少女のみあおからその様な質問が出てくるとは思っていなかった男はしばらく目をパチパチと瞬かせていた。
「ねぇ? どうなの??」
なかなか返答をしない男に、みあおは催促した。
「あ・・え、えっと・・・」
男は携帯を取り出した。
ピピッと携帯を操作し、着信履歴の画面を表示させるとみあおに見せた。
表示は確かに『非通知設定』と書かれている。
「・・おっかしいね〜。公衆電話って『非通知設定』じゃなくて『通知不可能』になるはずなのに・・」
「そういえば・・そうだよね」
盲点だったのか、雫がみあおの言葉にハッとした。
「それから?」
みあおは他の質問の返答を促した。
「えぇと。待ち合わせ場所・・・携帯使ってた人はそこそこいたと思いますけど・・・女性はいなかったと思います」
「ふんふん。それから?」
「電光掲示板や大型モニターはありませんでした。地下鉄の駅の改札口付近で待ち合わせをしたんで、これは断言できます」
「・・そっか・・・」
何だか話がややこしくなってきたようだった・・・。


3.
非通知設定であった以上公衆電話からの電話だったとは思えないんだけどなぁ・・・。
でも、携帯使ってた人に女性はいなかった・・・まぁ、うろ覚えだろうけどちょっとややこしくなってきてる??

今聞いた話を総合して、みあおは一旦その思考を打ち切った。
そして、最後の質問を男にしてみることにした。
「最後の質問ね。最終的に〈ファントM〉と会ってどうしたいの?」
みあおのクリクリとした真っ直ぐな瞳に男は一瞬戸惑ったようだった。
頭を横にぶんぶんと振ると小さなみあおに必死に言い訳を始めた。
「いや! 全然下心とかはなくて! あの、ただ会いたいと思っただけで・・! 決して下心は!!」

「・・あったんだぁ? 下心・・」

みあおのニヤニヤとした笑いと突っ込みに男は下を向いて黙ってしまった。
「とーにーかーく! 後はあたしとみあおちゃんで調べてみますから。何か分かり次第連絡しますね」
雫が半ば強制的に男を退席させた。
「よろしくお願いします」
男は素に戻ると、そう言ってお辞儀をして店を出て行った。

「どう思う? みあおちゃん」
雫がみあおと向き合うと真剣な眼差しでそう聞いた。
「もうちょっと〈ファントM〉について調べないとわかんないかな〜・・って思うよ。雫は知ってるんだよね? あの人と〈ファントM〉が知り合ったっていうHP」
「うん。映画ファンのHPみたいだけど・・」
「・・そっか。じゃあ後はそのHPに行って本人探し出せばいいんだよね♪」
みあおはそういうとにっこりと笑った。

単純に考えれば幽霊かな。情報生命体とか自己進化AIとかいう可能性もあるけど・・ね。
それでも・・・。

みあおは雫と一緒にディスプレイに向かうことにした。
果たして、〈ファントM〉は存在するのだろうか・・・?


4.
黒地に白い文字でタイトルが書かれたテキスト系のHPはシンプルにまとめられており、初めてみても分かりやすい構造となっていた。
「ここの掲示板だって」
雫がマウスを動かして、掲示板へと入っていく。
掲示板へ入ると最新の発言が目に入った。
「〈ファントM〉・・」
確かにその掲示板には〈ファントM〉が存在していた。
発言も昨夜の日付。古い物ではない。
「・・よくわかんないな。なんで〈ファントM〉はあの人をじらすんだろう?」
雫が溜息をついて、背伸びをした。
「『おとなのじじょう』があるんだよ、きっと♪」
みあおは興味深げに画面を隅々まで見つめていた。
「・・みあおちゃんの方が年下だと思うんだけど・・」
雫がうむむと考えた後「喉乾いちゃったね」と席を立った。
「ジュース頼んでくるけど、みあおちゃんは何がいい?」
「みあおねぇ、苺の生ジュースがいいな♪」
「了解!」
雫はタタッとカウンターへと駆けていった。
みあおはディスプレイへと向き合った。
さっきから気になっていることがあった。
それを試してみようと思ったのだ。

メール欄にフリーのアドレスが書いてある。
もしかしたらこれってメッセンジャーが使えるかも知んないなぁ。

みあおはメッセンジャーを立ち上げて、メールアドレスにメッセージを送ってみることにした。

〔あなたは誰?〕

いつ戻ってくるかも分からないメッセージだったが、その言葉がみあおには最適な気がした。
だが、予想に反しメッセージはすぐに戻ってきた。
〔あなたは・・?〕


5.
みあおは必死でキーボードの上の文字を探しつつ、文章を作っていく。

〔ある人からあなたのことを聞いたんだよ。あなたと待ち合わせをした人なんだけど・・〕
〔・・彼ですか。私と会えなかったことを聞いたのですね?〕
〔うん。だから、あなたが誰なのかな・・って思ったんだ〕

作られていく会話の中、みあおは直に思っていたことを聞いてみることにした。

〔あなたは、幽霊? 情報生命体とか自己進化AIとか?〕

相手のメッセージが、突然切れた。
と、みあおの見ていたディスプレイの画面が突然切り替わり、小さな女性の部屋が映し出された。
部屋の真ん中にはちょこんと女が座っていた。

「・・えーっと・・」
いつの間にかジュースを手に持った雫が画面を見つめていた。
「なんか、いつかはやったホラー映画みたい・・」
「雫、ちょっと待って。この人がなんか言いたいみたい」
みあおが人差し指を口にあて、雫をたしなめた。

〔あなたたち、普通の人じゃないみたい。あなたたちなら私の事わかってくれるかしら?〕

いつの間にか女からのメッセージは複数形になっている。
みあおは「うん。多分分かってあげれると思うよ?」と小さく呟いた。

〔私・・ここから出られないの。私の体は随分昔に死んでしまったから・・〕

「ネットワークに住む幽霊・・・?」
雫が呟いた。

〔そう・・ですね。それが一番近い表現かもしれません〕

どうやらみあおや雫の言葉が女には聞こえているようだ。
「じゃあ、待ち合わせにした場所には・・?」
みあおがそう聞くと女は俯いた。

〔あの場所にいた見知らぬ人の携帯の中にいました〕


6.
〔私は・・もう彼とは話さないほうがいいのでしょうか?〕

少したって、女は顔を上げるとみあおにそう聞いた。
その眼差しは真剣で、切羽詰っていた。
「それで幸せと感じるなら、別にいいんじゃないかな」
みあおはそういうとにっこりと笑った。

「結婚考えてるならアレだけど・・別に"人"同士じゃなきゃいけないってもんじゃないし、楽しくて幸せならいいじゃない?」

女はディスプレイの中からみあおを見つめると、小さく笑った。

〔ありがとう・・・〕

「ううん。みあお何にもしてないもん。ねぇ。1つだけ訊いてもいいかな?」
みあおは女に最後にひとつだけ訊いてみることにした。
「〈ファントM〉って、どういう意味?」

画面がフッと変わった。
女性の部屋は跡形もなくなり、替わりにメッセンジャーの新たなメッセージが届いていた。

『PHANTOM』

「・・雫、これなんて読むの?」
突然の英語に、みあおは雫にヘルプを求めた。
「『ファントム』・・『まぼろし』って意味だね」

『PHANTOM』

『PHANTO M』

『ファント M』

みあおは、女性が最初からどこにもいないのだと自分で知らせていたことを知った・・・。


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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1415 / 海原みあお / 女 / 13 / 小学生


■□     ライター通信      □■
海原みあお様

お久しぶりです。
この度は『向こう側』へのご依頼ありがとうございました。
今回は諸事情により、単独でのシナリオとさせていただきました。
また、元気なみあお様らしくないシリアスなシナリオとなってしまいました。申し訳ありません。
どんな環境においても自分の幸せを追求すること・・なかなか難しいですけど、前向きな考え方ですね。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。