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調査コードネーム:三下三昧
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :草間興信所
募集予定人数 :1人〜4人
------<オープニング>--------------------------------------
「なんじゃあ! こりゃあ!!」
絶叫が、興信所に響き渡った。
朝っぱらから。
近所迷惑もはなはだしい。
「‥‥どうしたんですか? 義兄さん‥‥」
パジャマ姿のまま、草間武彦の私室に入った義妹の零が硬直する。
あまりにも部屋が汚かったから、ではない。
そんなものは、見慣れるというより見飽きている。
「三下‥‥さん?」
驚きの精霊が零の喉元を蹴飛ばし、絞り出す声がヨーデルになりかけた。
どうして義兄の部屋に三下忠雄がいるのだろう?
疑問符の一個連隊が頭上を跳ね回る。
「れ、零っ! 俺はいったいどうなってしまったんだっ!?」
目前の三下が口を開いた。
「‥‥いきなり呼び捨てですか‥‥三下さん」
「三下っ!? やっぱり三下なのか! 俺はっ!!」
「義兄さん‥‥?」
悲劇のヒーローのようにがっくりと膝を突く男。
どうやら、三下であるという事実がものすごくショックのようだ。
「いやっ違うっ! 俺は草間武彦だっ!」
「はぁ」
零の目が点になっている。
何がなんだか、さっぱりだ。
どうやらこの三下は草間らしいのだが‥‥。
「俺は昨日‥‥呑みに行ったときに三下に会ったんだ‥‥それからどうしたんだっけ‥‥?」
「私に訊かれても困ります」
「神社の石段から落ちて、三下と頭をぶつけたとか?」
「そういうのは尾道でやってください」
「うう‥‥どうしよう‥‥」
「良いじゃないですか。八歳も若返ったんですから」
「三下の身体じゃ嬉しくない‥‥」
「わがままな人ですねぇ」
軽く見捨てつつも、零の頭脳は高速回転を始めていた。
草間が三下になったということは、三下が草間になったということだろう。
となれば、怪奇探偵そっくりのチキン記者が東京の街を徘徊しているのだろうか。
まだあやかし荘にいるなら問題ないが‥‥。
「アトラスに出勤してたら、ちょっとまずいですねぇ」
腕を組んで考えてる。
午前六時。
ぎりぎり間に合うだろうか。
いずれにしても、三下のメンタルは弱い。
とくに弱いという評価を与えても問題ないほど弱い。
こんな事態になって平静でいるはずがない。
「とりあえず三下さんを回収して。問題が大きくならないうちに二人を元に戻しましょう。そうしましょう」
「簡単に言うけどね‥‥お前」
「とりあえず義兄さんはっ!」
なにか言おうとする草間に、びしっと指を突きつける。
「はいぃぃ!」
びくっと直立不動になる草間三下。
どうやら身体が勝手に反応するらしい。
「義兄さんは、三下さんとして出勤してくださいね。麗香さんの目を誤魔化すためにも」
「‥‥俺が行くのか?」
「他に誰が行くんですか?」
にっこりと笑う零。
なんだかとっても怖かった。
※三下三部作、最後の一本はコメディーでいきましょうー
人格の入れ替わった二人を、元通りにしてください。
なるべく荒唐無稽な方法で☆
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
受付開始は午後8時からです。
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三下三昧
翻訳というのは、じつはけっこう大変大変な仕事だ。
まあ、世の中に大変でない仕事などないのだが、クリエイティブな才能と外国語の知識の双方が必要なのである。
たとえば小説などを翻訳するとき、訳者のセンスというものがかなり問われる。直訳というわけには、むろんいかない。
原文で読むのと同じくらいの面白さを提供しなくてはならない。しかも、原作の雰囲気を損なってはいけないのだ。
有名な作品の中にも、びっくりするような訳がある。
「ふ‥ん‥‥」
シュライン・エマが、大きくのびをした。
背もたれが酷使に抗議するようにぎしぎしと鳴った。
頭の奥が重い。
ここ数日の睡眠時間は二〇時間を切っている。
久しぶりに大きな仕事だったのだ。
仕事場として借りっぱなしになっている独身時代のマンションに籠もり、フランス文学の翻訳に精を出してた。
ほとんどの友人が忘れ去っているだろうが、シュラインの職業は草間興信所の事務員でも怪奇探偵の細君でもない。
いや、それももちろん含まれているが、本業は、
「翻訳家なのっ」
悲痛な叫びが早朝の空気に溶けてゆく。
気持ちは判らなくもないが、いまさらの話である。
電話が鳴った。
「‥‥もしもし?」
四コール目で出る。携帯電話なのにどうしてそんなに時間がかかったのかというと、気持ちを落ち着けていたのだ。
『義姉さん。私です。朝からすみません』
相手は草間零だった。
シュラインの夫の義妹であり、彼女にとっても妹ということになる。
なかなか複雑な関係の相手だが、用件はもっと複雑であった。
「なにがなんだか‥‥」
頭を抱える蒼眸の美女。
もちろん逃避しても現実が逃げてくれるわけではない。
「と、とにかく、スタッフを集めておいて。私は三下くんに連絡を取るから」
『判りました』
義妹の声を聞きながら時計を見る。
午前六時四分。
大丈夫だ。充分に間に合う。
電話を切ったシュラインは、すぐに三下忠雄の携帯の番号を打ち込んだ。
世の中はどんなことだって起こる。
だから、慌てたり動揺したりする必要ない。
そう評したのはのは誰だったろう。
巫灰慈は、ぼんやりと目の前の物体を見つめていた。
否、彼だけではない。
那神化楽も、守崎北斗も、伍宮春華も、露樹八重も。
一様に、ぼーっとその三下を見つめる。
一七年から九一〇年に及ぶ彼らの人生の中で、ここまでシャキっとした三下を見るのは初めてだった。
中身が変われば印象も変わる、といったところだろうか。
「三下のオッサンって意外と高かったんだな。身長」
ごくストレートに北斗が感想を漏らす。
まあ、いつも縮こまって生きているから小さく見えても仕方ないだろうが、草間武彦と大差ないくらいの身長なのだ。
「でも、座り心地が良くないでぇす」
三下の姿をした草間の頭の上に座りつつ、八重が苦情を言う。
だったら座らなければいいようなものだが、そういう安直な解決法を、この生意気妖精は好まないのだ。
「勝手にモノローグをつけちゃダメでぇす」
ぷすぷす。
三下草間の頭に刺さる爪楊枝。
「はぅぁっ!?」
いつもより痛いような気がするのは気のせいだろうか。
「気のせいじゃねーよ」
冷蔵庫から適当に食料を強奪してきた北斗が言った。
「防御力がぜんぜん違うからなぁ、もとの身体とは」
分け前をもらいつつ論評する伍宮。
漁り放題だ。
シュラインがいないのを良いことに。
到着し次第、きつく叱ってもらおう。
「あの‥‥ちょっと良いですか?」
困ったような顔で、美髭の絵本作家が口を開いた。
「なんだ?」
「さっきから、考えていることが全部口に出てますよ」
「なにぃっ!?」
「やっぱり気づいてなかったのか‥‥」
溜息をつく巫。
むしろこれは身体が持っている癖だろう。
となれば、
「出勤させるの危険じゃねー?」
「麗香のアホ。ボケ。犬にでもヤられちまえ。なんてのをぼそぼそ言ってたら‥‥」
自分で例を出しておいて、ぞくっと身を震わせる伍宮。
「‥‥よくそんな怖ろしいことがいえますね」
髭まで青くしながら、那神がたしなめた。
それはともかく、
「このままじゃ呼びづらいでぇす。とりあえずコードネームをつけるでぇす」
八重が提案する。
「おお。そうだな」
「何にする?」
「チキン南蛮とチキン竜田とか」
「食べ物ですか?」
男どもが額を寄せ合って相談を始める。
どうしてこんなどうでも良いことから決めようとするのだろう。
もしかしたら、自分はナイガシロにされているのだろうか?
はらはらと落涙する三下の皮をかぶった草間。
‥‥たしかに呼びづらい。
「そうなのでぇす」
明後日の方向に向かって解説する八重だった。
結局、三下状態の草間は「ミノタケ」と呼ばれ、草間状態の三下は単に「チキン」と呼ばれることになった。
下方へと続く石段。
草間興信所からほど近い小さな稲荷神社。
石段の最上部に立つ、九人の男女。
春先の風が髪をなぶっている。
シュラインとチキンが合流したのだ。
「それは良いとして、なんでこんなところにきたんだ?」
ミノタケが言った。
「そりゃまあ、人格交代と石段は切っても切り離せない関係にありますから」
きっぱりと応える那神。
「時間旅行とラベンダーが切り離せないのと同じだな」
伍宮が追い打ちをかける。
どうやら、そういう路線で決定してしまったらしい。
「んじゃ、頑張って」
何の前触れもなく、
「え?」
「は?」
突き飛ばされるミノタケとチキン。
驚く暇もあればこそ、ごろごろと石段を転がり落ちてゆく。
ちなみに突き飛ばしたのはシュラインだ。
ベージュ色のコートと紅のマフラーが、毒々しいコントラストを醸し出している。
秀麗な白い顔に浮かぶ微笑が、とっても禍々しい。
「シュラ姐〜」
「いくらなんでもやりすぎじゃ‥‥」
弱々しく抗議しようとする北斗と巫。
「あぁ?」
ぎろりと。
蒼い眸が向けられる。
「いや、うん。このくらい当然だよな。うんうん」
「まかせます。いっさいまかせます」
「でぇす‥‥」
メデューサに睨まれた村人Aと村人B。
その頭の上に、巻き添えをくった妖精Aが落ちてきた。
「あー完全にのびてるな」
「そうですねぇ」
なるべくシュラインたちの方を見ないようにして、伍宮と那神が会話を交わす。
意気地なしというなかれ。
誰だって死ぬのは怖いのだ。
「生きるということは、自分以外の人間が死んでゆくのを見続けるということさ」
意味不明なことを内心で呟く少年と、
徹夜明けの奥さんに逆らってはいけません。
心のノートにそっとメモする絵本作家だった。
「Q〜〜〜〜」
「めけ〜〜〜」
崖下ならぬ石段の下。
目を回した二人の男が無様にもつれ合っていた。
「ま、たいして期待してなかったけどね。じゃあ次の作戦は」
どこまでもさらっというシュライン。
ええ。怖いです奥さん。
たったいま薄笑いを浮かべながら石段から人を突き落としたくせに、次は何をさせる気ですか?
「聞こえてるわよ?」
「あぁぁ! すみませんすみませんすみませんっ!」
がばっと土下座して、必死に、かつ卑屈に謝り倒すミノタケ。
なんだか人生の縮図を見たような気がして、男たちは顔を見合わせた。巫や北斗などは自分の未来を重ね合わせてしまったのかもしれない。
ミノタケの肩に手を置き、無言のままゆっくりと首を振る。
万感の思いを込めて。
「なにやってるでぇすか」
ぷすぷすぷす。
三人の頭に爪楊枝が刺さった。
「なにやってんだか‥‥」
呆れる那神。
とはいえ、とらんすふぁーすちゅーでんとプロジェクトが失敗に終わったいま、なにか良い手が残されているだろうか。
「なにそのプロジェクト名?」
訊ねる伍宮。
むろん、一顧だにされなかった。
聞いてはいけないことも、世の中にはあるのだ。
「こうなったら、ラベンダーの匂いを嗅がせるしかっ!」
爪楊枝のダメージから回復した北斗が決然と告げた。
「‥‥北斗」
「すみませんすみませんすみませんっ」
そして殺人的な眼光と正面衝突し、ひたすら謝る。
「私は今、くだらないジョークに付き合う気分じゃないの。ユーシー?」
「イ、イェスアイドゥ‥‥」
ぶるぶると震えながら応える北斗。
「愚かな‥‥雉も鳴かずば撃たれまいに‥‥」
深く深く。
同情するふりを、那神がした。
「まあ、ちょいと真面目に話をすると、だ」
煙草をくわえた巫が語り始める。
「あ、俺にも一本」
いきなり話の腰を折るミノタケ。一瞬いやな顔をした浄化屋だったが、ケントマイルドをめぐんでやる。
「僕の身体で不健康な事をしないでくださいよぅ‥‥」
「るせーちきん」
「しくしくしく‥‥」
「‥‥話を続けていいかね?」
咳払いした巫が、ふたたび口を開いた。
「当たり前の話なんだが、人格がチェンジするってのは医学的にはありえねぇんだ」
ありえるとすれば、それは当事者が共謀しているとか、そういう場合だけだ。
精神というやつはそう都合良く出し入れできるものではない。
もちろん、頭をぶつけたくらいで人格交代が起きるわけもない。
「てことは、この二人が嘘こいてる?」
じーっとミノタケとチキンを見つめる北斗。
「いいえ。そういうことではありません」
那神が説明の後を継いだ。
狂言だとすれば必然性がなさすぎる。
科学的医学的な要因で起こったのではない、と考えた方が、より説得力にとむだろう。
つまり霊的な原因である。
「那神のおじちゃがいうと、すっごい説得力あるでぇす」
手を叩いて喜ぶ八重。
那神本人は気づいていないが、美髭の絵本作家もまた人格が交替することがある。そしてそれは、奇しくも彼が語ったように霊的な要因なのだ。
説得力は抜群である。
「じゃあ、二人の霊体を身体から引っ張り出して入れ替えるとか?」
なかなか大胆な提案をする伍宮。
「そーいう簡単な話でもねぇんだよな‥‥」
ぽりぽりと、巫が頬を掻く。
心霊の専門家といえば、やはりこの紅瞳の青年だ。
伊達や酔狂で浄化屋などをやっているわけではない。
「巫のおじちゃが、珍しく真面目そうでぇす。これはきっと何かが起こるのでぇす」
八重が褒め称えてくれる。
もちろん、嬉しくもなんともなかった。
幽体離脱という現象がある。
これは多くの場合、偶発的に起きる。
「ぶっちゃけ、自分が死んだと誤解して起きるのがほとんどだ」
「ふむふむでぇす」
「すぅすぅ」
頷く八重の横で、シュラインが船を漕いでいる。
徹夜続きだったのが原因だろう。
肩をすくめた巫が、
「事務所に移動すっか」
と、言った。
シュラインはともかくとして、ミノタケとチキンをいつまでも石段下に放置しておくわけにもいかないのだ。
エスプレッソの香りが満ちる。
寝不足シュラインに代わって、零が淹れてくれたものだ。
「ごめん零ちゃん」
「少し休んだらどうですか? 義姉さん」
「そーゆーわけにもいかないでしょ‥‥」
欠伸をかみ殺しながら、夫とその体を使っている大バカを見る。
たいていの場合、原因を作っているのは草間なのだが、そこはそれ、惚れた弱みとかそういうのがある。
蒼眸の視線は、つねに怪奇探偵に優しい。
甘いといってもいいくらいで、なんだかんだいっても心配で仕方ないのである。
くすりと微笑する零。
むろん、思ったことを口に出したりはしなかった。
ただ、
「無理はしないでくださいね。もう若くないんですから」
と、言ったのみである。
「うわ‥‥しっつれー」
苦笑を、美しい義姉が浮かべる。
そうこうしている間にも、解決に向けての話し合いが続いていた。
「つまりなんらかの原因で、このふたりは自分が死んだと勘違いして、魂が抜けてしまったわけです。でもすぐに間違いだと気が付いて」
「慌ててもどったってわけか」
「でも戻る場所を間違えてしまった」
那神、北斗、伍宮の順で事態を要約してゆく。
「三下のおじちゃらしいのでぇす」
ドジを踏んだのは三下だ、と、決めてかかる八重。
「ううう‥‥」
チキンが嘆く。
「まあ、どっちが悪かったかはこの際どうでもいいけどな」
巫が言う。
いま大事なのは、どうやって元に戻すかということだが‥‥。
ぽんと手をうつ北斗。
「よし。俺に考えがあるぞっ」
「却下」
「‥‥まだ何も言ってないんですけど‥‥シュラ姐‥‥」
「アンタいま炸裂弾つかおーとか思ったでしょ?」
「う」
「それは本当に死ぬから却下」
三下はともかくとして草間に死なれては非常に困るのだ。
「ともかくですか‥‥ぼくは‥‥」
ふたたび嘆くチキン。
見向きもされなかった。外側がかわっても中身が三下だから、まあ当然の帰結である。
「死ぬほど驚くことがあればいいんでぇすね?」
ふにゅふにゅと八重が考え込む。
そして男どもの間を飛び回って、なにやら耳打ち。
良からぬことを企んでいる感じだ。
「いいじゃん。それ」と、伍宮。
「あまり気は進みませんが‥‥」と、那神。
巫と北斗は無言だったが、にまにまと笑っている。
だいたいの反応で善良さが判るというものだ。
がしっと両側から掴まれるミノタケとチキン。
「なにをっ!?」
「やめてくださいよぅ」
抵抗するが、それは微細だった。
草間は格闘術も心得ているし、実戦経験も豊富だ。北斗と那神に押さえ込まれても振りほどくくらいの事はできただろう。だがしかし、使っているボディが三下なのである。パワーもスピードも反射神経も、致命的なまでに不足していた。
逆に三下は草間のボディを使っており、ハードウェアだけならけっこう優秀だ。とはいえソフトウェアが三下では、いかんともしがたい。たとえていうなら、連坊軍の白いやつに丸いマスコットを乗せるようなものだ。
那神と北斗に押さえられたミノタケ。
巫と伍宮に押さえられたチキン。
そして、
「やってしまうのでぇす」
爪楊枝を振り上げる八重。
それは、けっして見てはいけない光景。
禁断の領域。
開けてはいけない扉。
「いやぁぁぁぁ!!!」
シュラインの悲鳴が事務所に響いた。
彼女の夫が、最愛の人が、彼女以外と口づけを交わしている。
相手がシュラインを凌ぐほどの美女であるなら、それはあるいは納得できたかもしれない。
しかし、怪奇探偵が接吻しているのは、美女ではなかった。
それどころか、生物学上の女ですらなかった。
「嫌すぎる〜〜〜〜〜〜!!」
そう。
両肩をがっちりと四人の男衆に掴まれたミノタケとチキンはキスをしている。
むろん、強制的に。
議論の余地なく。
それはそれはディープな。
表現することすら憚られるような、スペシャルなキス。
やがて、
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
かくり、と、被害者二人の身体が崩れ落ちる。
糸の切れたパペットのように。
「‥‥死んだか?」
伍宮が小首かしげた。
冷淡といえば冷淡である。
なりゆきを見守っていた零が、
「お茶を煎れましょうか」
と、言った。
まるで現実から逃亡するように。
エピローグ
がばっと。
二人の男が同時に飛び起きる。
一方はトイレに駆け込み、もう一方は床の上でさめざめと泣いていた。
「元に戻って良かったな」
「良かった良かった」
満面の笑みを浮かべる巫と北斗。
無言のまま、那神が床で泣いている三下の肩に手を置いた。
万感の思いを込めて。
ちなみに、この後怪奇探偵が「口直し〜」などと細君にせがんで半殺しの目に遭う。
壁の時計が困ったような顔で時を刻んでいた。
にっこりと八重が笑う。
「めでたしめでたしでぇす」
言葉が、春の空気に溶けていった。
おわり
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/ シュライン・エマ /女 / 26 / 翻訳家 興信所事務員
(しゅらいん・えま)
1009/ 露樹・八重 /女 /910 / 時計屋主人兼マスコット
(つゆき・やえ)
0143/ 巫・灰慈 /男 / 26 / フリーライター 浄化屋
(かんなぎ・はいじ)
1892/ 伍宮・春華 /男 / 75 / 中学生
(いつみや・はるか)
0568/ 守崎・北斗 /男 / 17 / 高校生
(もりさき・ほくと)
0374/ 那神・化楽 /男 / 34 / 絵本作家
(ながみ・けらく)
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
「三下三昧」お届けいたします。
三下三部作、いかがだったでしょう。
他の場所のNPCを使うことは、ほとんど初めての試みでした。
そのうち、あやかし荘の面々や雫嬢も使ってみましょうか。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って。
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