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謎物体を捕獲せよ!〜駅前マンションの怪〜
OP・伍宮 春華
伍宮 春華の保護者であり同居人である伍宮 神雅斗は退魔師であり、府を使う術を使う男である。
攻撃手段であり、防御手段でもあり、退魔師としての能力のその殆どと言ってもいい符術を使うためには何が必要か。
…言わずもがな、符である。
でもこれがただ呪文を書けば言いと言うものではないらしく、何かと難しい制約があるようで、いっつもとんでもなく時間をかけて書いているし、隣で騒ぐと怒るしで結局符を書いている時は触るな近づくな話し掛けるなとか言われている。
何故今春華がそんなことを思い出しているかと言えば、その大事な符とやらが床に散らばった惨状を見てしまっているからである。
床に散らばる和紙、筆、そして墨。
片付け大変そうだな、と思って、でも片付けるのはどうせ俺じゃないからまあいいやと言うことにして、春華は首を傾げた。
まず大事なものらしい符を置き去りにして当人の本人はどこに行ったのか…大事なものをほっぽって一休みで茶でも入れに行ったか、それとも急な用事でもできたか。
そしてもう一つは誰がそれをやったかである。
一応仕事道具で大切だから邪魔をしてはいけないと言うのはわかっている、同居人もそうだ。
それをどこまで気にするかは置いておいて、少なくとも流石に悪戯でこう言うことはしない。
だがしかし室内には家主+居候天狗二匹しかいないわけで。
あ、てことは誰か勝手に入ってきたってことか。
…流石にそれはまずいよなー、俺の大事な酒飲まれたり鮭茶漬け食われたり着物汚されたりしたらヤだし。
そんなことを考えつつ犯人を探して首を巡らせた春華の視界の隅を何かが過ぎった。
一瞬のことで姿はよくわからなかったのだが黄色っぽいような茶色っぽいような小さな生き物だった。
「あ。」
何だかみたことのない生き物だった。
不思議に思って後を追うと、符を書くのに使われていた墨が足についていたのか、2cm程度の小さな足跡がてんてんと続いている。
なんだか面白そう、かも知れない。
今日はすることなくて退屈してたし。
そう考えて、春華はそれを追って走り出した。
謎物体を追って走り出した伍宮 春華は廊下を曲がった拍子に部屋を飛び出してきらしい女性とぶつかった。
黒のパンツに白のシャツと言ういたってシンプルな部屋着姿の細身長身美人…残念ながら春華の少々問題ある美的感覚では判別つかなかったのだが…は銃身が細く長めの銃を持っていて…銃?
ここは普通の人間であれば銃刀法違反!?とか突っ込むところではないかと思うのだが、如何せん春華は春華であった。
知識は平安並み、一般常識はからっきしの彼は銃だろうが刀だろうがそんなものには構いもしない。
慌てて銃を隠す女性へ極々普通に声をかけた。
「な、あんたヘンな生き物見なかった?」
「…え、ぁ、あなたも何かされたんですか?」
『のか?』
肩の上の人形が喋るのにもまったく頓着せず、春華は首を振る。
「んにゃ、されたのは俺の保護者。あんたもなんかされたの?」
「ええ、まあ…ちょっと。」
部屋を汚されたはともかくケーキの恨みと言うのは少々大人気ないので黙っておくことにして、如月 縁樹は笑みで持って言葉を濁した。
「あ、僕如月 縁樹です、この間越してきたばかりなんです、よろしくお願いしますね。」
「俺は春華。」
『ボクはノイ。一応よろしくってことで。』
にこにこにこ…。
「あ、こんなことしてる場合じゃないや、探さないと。」
「あぁ、そうでした、ぼやぼやしてると逃げられてしまうかも。」
同じ目的を持った二人は自然互いに頷きあい、謎物体を捉えるべく走り出した。
「…あれ、ここ…」
一方同じ頃、謎物体を追って駆け出した夜刀は見覚えのあるマンションに辿り着いていた。
目的があってのことか、はたまた偶然か。
どちらにせよなんだか奇妙な体験をさせられるマンションである。
「失礼しまーす。」
一応小さく声をかけてマンションのコミュティスペースを抜け、謎物体を探して彷徨うこと数十分。
小さいせいもあってか見つからず、どうしたものかと思っていたところでマンションの住人らしき人間とぶつかることになった。
「「「小さくて茶色くて素早い妙な物体見なかった(ませんでした)か!?」」」
…三つの声が重なり合った。
キレイにハモった声に全員が目を瞬かせその…直後、壮年の男性の声が割って入ってきた。
「…黒くて妙な物体なら。」
見ればそこには春華に取っては良く知った人物である伍宮 神雅斗が立っていた。
床に立っていたノイを摘み上げ、神雅斗はしげしげとそれを見つめる。
『って何しやがんだ放せコラ、誰が妙な物体だっ!』
「いや、だってなぁ…どうみても人形なんだが喋るし動くし生きているようだし…その上背中にチャック…」
「…ホントだ。」
「開けたら中から別な生き物が…」
「マジ!?」
『ぎゃー、勝手に触るなー!』
「あの、すいません、返してもらっていいですか…?」
「あ、この人形ねーちゃんの?どうなってんの?何入いってんの?」
なんだかやけに盛り上がってしまって、ノイを挟んでなにやら熱く論議を始める三人。
しばらく黙ってそれを見ていた春華が呟いた。
「…なーなー、さっきのヘンなの追わなくていいのか?」
「はっ、そうだっ、あのチビ!!」
「どっちにいった!?」
「あ、あれ!」
言葉に振り返ったものは縁樹が指差した先で茶色い物体が角を曲がっていくのが見えた。
「追うぞ!」
二人から三人(+α)、三人(+α)から四人(+α)と着実に人数を増やしつつある謎物体捕獲部隊は再度移動を開始する。
走りながら、春華はふと疑問を覚えた。
マンションで見たことのない男、と言うことは他から追いかけてきたというわけで…と言うことはそれなりの恨みと言うヤツがあったのだろう。
「そう言えばあんたは何されたんだ?」
思いつくままに尋ねれば男は拳を震わせて憤りを露わにした。
「何を!?何をってあーた、聞いてくれよ、通販で今日届いたばかりの…」
言いかけて、すぐ下から見上げてくるスレンダー美人さん…グラマラスでないのが非常に残念な…の視線に気付いて夜刀は言葉を切った。
男とガキだけならまだしもさすがに妙齢の女性の前で口に出すのはどうかと思ったのだ。
「……ビンテージのジーンズを破かれちまってよ、他の奴にも迷惑かけてるかもしれないしこれは絶対とっちめねばならないと思ってな!」
爽やかに笑いつつ答える夜刀に何か違和感を感じて首を傾げつつ春華は謎物体に向き直った。
足は長さの関係かこちらが早いらしく、距離が縮まりつつある。
ここはなんでもありの駅前マンション。
だからちょっとくらい派手に騒いでも問題ないだろうと考えて、春華は指先をくるくると回した。
「くっらえーい♪」
風を操る天狗の指から生まれた小さな竜巻が『それ』の足元を掬い、浮き上がってぐるぐると回り始めた。
『!?』
なんだか非常に慌てているらしい様子のそれが神雅斗の結界によって縫いとめられ、ふらりへろりとその場に崩れ落ちた。
「おし、姿拝んでや……」
駆け寄った夜刀は我が目を疑った。
実は謎物体はは忍者で、空蝉の術とかで入れ替わったのだろうかと思わず疑ってしまったのは捕らえられたそれがどこからどうみても『エビフライ』だったからである。
「……エビフライですね。」
「……エビフライだな。」
「おおぉー。」
ぐったりと目を回して倒れこんでいるエビフライの体からは針金の先に黒豆をつけたような形の手足が伸びていて、まず間違いなくそれで歩き、走っていたものと思われる。
「…どうしましょうか?」
「…1.燃やす。2.捨てる。3.誰かが食べる。」
「食うのか、これを?」
『ボクは絶対ヤだからな。食いたきゃ自分で食えよ。』
「俺はヤダ。」
『じゃあ言うな!』
「まぁまぁ落ち着けって。」
『………。』
騒ぎ声が煩かったのか、目を回し倒れこんでいたそいつがふるふると首を(?)振って身体を起した。
「あ。」
『!!』
覗きこんでくる影に気付き、逃走を試みるのを縁樹がノイの背中から取り出した虫取り網で持って捕獲する。
「うわー、すげー、なんか出た!」
「…てかちょっとそれ反則でしょ、明らかに人形より長いですって!てか中身何!?何!?」
動いてるからなんか別な生き物が入ってるとか思ってたんですけど、なんか中異次元!?ねえ異次元!?
妖怪から見てもなんとも不思議な現象である。
『うるさいぞ、お前』
「ンだコラ人形の分際で人様をお前呼ばわりか!?」
「すみません、ノイ口が悪くて…」
縁樹が頭を下げれば夜刀は相手が女性である故ににっこり笑顔に変わる。
「あ、イヤおねーさんが謝ることはないですよ、悪いのはこの人形なんでー。」
『けッ、鼻の下伸ばしてんじゃねーぞ』
「なだとこのチビ!」
「あーも、お前らいい加減にしろ!」
今にも掴み合いを始めそうな大小に神雅斗は頭を抱える。
「エビフライ!」
と、聞き覚えのない声が振ってきた。
なんだか内容の割りにやけに切迫したような叫びだった。
つられてそちらを見ると…。
「あ。猫。」
『…猫だ。』
「…猫だな。」
「……。」
巨大ではあったがそれは見まごう事なき猫であった。
2m近い巨体の直陸歩行でコック服の猫はどっすどっすと思い足音で走りこんできて、がっしと網に囚われたエビフライを抱き締めた。
「エビフライー!心配したにゃー!」
『!!』
ぎゅうと抱きしめあうそれに、何が起こったのかわからず男達は沈黙し、唯一彼に面識のあった縁樹は首を傾げた。
「…猫シェフさん?」
「…オ知リ合イデスカ?」
ぎぎっと音のしそうな音で振り向いて、尋ねれば縁樹はにっこり微笑んだ。
…2mの猫は結構怖いと思うのは俺だけだろうか。
「えぇ、前にバレンタインのお菓子作り教室で会ったんですけどコックさんなんです。そう言えば彼の作った食べ物は動くって話が…猫さんですよね?」
「はっ、その節はどうもですのにゃ。」
確認するように言えば、猫ははっとしたように顔を上げ、縁樹に向かって深々と頭を下げた。
「…あ、それ、ひょっとして猫さんの…?」
「…にゃ、おハズカシにゃがら…とんでもない悪戯モノで…」
いや、悪戯とかそう言う段階じゃないし。
『なんでエビフライが走り回ってるんだよ!』
「…エビフライだってお前に言われたくないと思うが。」
『んだと!?』
「だからいい加減にしろお前らっ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ連中を余所に、縁樹は猫の前に膝をついた。
「と、言うことは猫さんが保護者なんですよね?」
「はいにゃ、普段はおいにゃの店にいるんにゃが悪戯を叱ったら家出してしまって…おいにゃは心配して…おいにゃは保護者として失格にゃー!!」
…床に突っ伏して号泣を始める猫に、周囲は沈黙するよりなかった。
「…僕は美味しいナポレオンパイでいいですよ。」
しばらくの後、くすと笑って縁樹が言った。
なんのことかわからず目を瞬かせる他面子に、縁樹はにっこり綺麗に微笑んで言った。
「迷惑料♪」
『ボクは縁樹がいいならいいけどね。』
「…まぁ、エビフライだしな…もうしないっつーんなら許してやってもいいか。俺は酒の肴がいいな。」
夜刀は汚されたものが汚されたものだけに渋々、しかし相手は男の気持ちなどわからないだろうと仕方なく溜息と共に言った。
「…次からはこういうことはないようにちゃんと管理してくださいね。」
「はいはーい、俺鮭茶漬け希望ー。」
なんとも複雑な表情で神雅斗は肩を落とし、春華は退屈を紛らわせたこともあって上機嫌で右手を上げた。
「お前は迷惑かけられてないだろが!」
なにはともあれ一件落着。
エビフライは飼い主(?)と共に駅前マンションを去った。
帰り際、その肩で踊っていたところから見て。
…彼が反省していたかどうかははなはだ不明である。
−END−
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1892/伍宮・春華/男性/75歳/中学生
2609/伍宮・神雅斗/男性/32歳/退魔師
1431/如月・縁樹/女性/19歳/旅人
2348/鈴森・夜刀/男性/518歳/鎌鼬弐番手
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございました、相変わらずのどたばたでしたが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
プレイングが面白くて書いてる本人非常に楽しかったです(笑。
また出てきちゃいましたエビフライ…(笑。この戯けた生き物がが何者か興味がおありの方は結城のPCゲームノベル「作れ、究極エビフライ!」をご参照ください(笑。
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