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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


カップルの別れる神社の依頼
○オープニング
 ある満月の夜。
 月光降り注ぐ境内を歩く1人の少女はふと、傍らの大きく幹を太らせた神木を見上げた。
 いや、視線は木を微妙に逸れている。
「なにか未練があるのでごじゃるか?」
 少女は尋ね、宙を見つめて頷くと、鷹揚のない調子で言った。
「では、自分が力を貸すでごじゃる。思う存分したいことをすればいいでごじゃるよ」
 少女の手のひらから青白い光が漏れ出す。その光はほのかに夜闇を照らしながら浮かんでいき、そして…。

○草間興信所にて
 最近、3ヵ月ほど前から、東京八王子の郊外に位置する御手洗神社という小さな神社は、ある噂でいくらか名が知れるようになってきている。
 曰く、この神社の御神木にカップルで参拝するとその2人は必ず破局する。
 いわゆる縁切りの神社である。
 どうやらここに参拝したカップルには小さな災難が続くようになり、いざこざが増え、最終的には破局してしまうことらしい。別れると、不思議なことに災難は止むようになるということだ。
「本来そこは縁結びの神社らしい」
 草間興信所の所長である草間武彦はくわえた煙草に火を点けながら言った。
「噂が人を呼んで、実質、参拝客は増えたくらいなんだそうだが、それは神主さんの本意じゃない」
 草間武彦は手紙の文面を軽く確認すると、ファイルの上に軽く放る。
「どうやら、噂によると、縁結びの願掛けが外れちまった者の恨みみたいなものが染み付いてしまっているんじゃないか、ということだ。まぁ、あれだな、タチの悪いお歯黒ベッタリみたいなものなのかもな」
 不本意な仕事をしていくうちに覚えてしまったトリビアに関連付けて、草間武彦は説明の終わりにとりかかる。
「とにかく、この現象の原因をしっかりつきとめて、解決して欲しいとの依頼だ。なるべく神社側に物質的被害が及ばないように注意しながら、な」

○続・草間興信所にて
「…って、気付いたらいねえし」
 説明を終え、今回の依頼担当者達の顔に視線を上げた武彦は、そこにいるはずの人間が1人欠けている事を知り、答えを求めるように視線をさまよわせる。
「月見里様なら『どこの誰だか知らないけれど、そんなの絶対にゆるせなーいっ!』と叫ばれてとっくにお出かけになられましたけど」
 と、零。「せっかちな不良学生め…」と呟く武彦。
 その場にいた、もう1人の依頼担当者である海原みなもは「でも、あたし千里さんの気持ちわかります」と弁護する。
「最初から縁切りなら需要もあるからいいでしょうけど、縁結びに来た恋人さん達を破局させるなんて、神様が許しても、あたしが許しませんっ!」
 意気込むみなもを見て、武彦は苦笑いしつつ煙草をくわえた。
 武彦にとってみれば恋愛事の危機など、女の子達ほどには深刻な事態ではないらしい。何故こんなに熱くなれるのかと、呆れと若干の羨望を交えた視線で、少女を見つめた。

○恋人達、神社へ
 都内某所の道路脇。
 ここは近隣にある、とある中学校の通学路になっていて、今、歩行者天国の真ん中を、腕を組んで歩く2人の男女がいる。
 女の方は月見里・千里。茶に染まった髪を肩にかかるくらいに伸ばして、細身の身体を包むは都内でも有名なお嬢様学校の制服。溌剌さを内包した、服装負けという言葉など知らぬかのような可憐な外見の女子高校生である。
 対して男の方はといえば、彼もまた容貌に非など問えない。彼の名前は結城・二三矢。神聖都学園中等部に在籍する、外からも内面の良さが窺えるような、面立ちやわらかな美少年だ。さらさらと、髪が揺れている。
 2人は甘い甘い関係、恋人同士である。
 先刻、依頼内容を確認した千里は早速学生寮にいた二三矢を呼び出し、神社に向かう道すがら説明をしていた。
「御手洗神社って、あの噂の!? ちー、もしかして、俺の事嫌いになったのっ!?」
 二三矢は千里の事を「ちー」と呼ぶ。
(ちーは、実はもう別れたがっているからそんな縁切りで有名な所に行こうって言うんじゃないだろうか)
 と思って、焦った声を上げる二三矢に対し、千里は明るい笑顔を見せる。
「そんなわけないじゃない。あたしは二三矢ちゃんの事、すーっごい、愛してるよ♪」
 続けて、依頼についての説明を聞いて、二三矢はあからさまにほっとした表情を浮かべた。
(いつものデートの延長みたいに考えればいいか)
 縁切りの首謀者に対し闘志を燃やす千里に、二三矢は優しい視線を送りながらそう思った。
 2人は件の神社に向かい、やがて、さして長くもない階段を登り切ったところで、御手洗神社は2人の前にその姿を現した。
 境内の中ほどにある、大きな御神木が、異様なほど存在感を有していた。

○みなも、神主に会う
 社務所に繋がる仏間。
 そこに座る、白髪の目立ち、皮膚の節々が重ねてきた年かさを感じさせる神主。
 その神主にお茶を差し出されるは、孫ほどに歳の離れた、清楚なデザインのセーラー服に身を包む少女だった。
 海原・みなも。
 古風な公立学校に通う中学生で、その長い髪の色は、星の輝きを照らし返す神秘的な海を思わせるが、これは決して染めたわけではない。南洋系の人魚の末裔である彼女にしてみれば産まれついてから慣れ親しんだ色であり、瞳も同じ青を灯していた。
 千里達が神社に到着する頃には、既にみなもは神主と会い、より詳しく話を聞いていた。
 事の始まった時期は、噂の流布始めとだいたい一致した。実際には発覚する予備期間があったろうが。
 ともかく、原因があるはずだと、みなもは思っていた。
 ネットの掲示板には話を面白がりこそすれ、深刻そうな書き込みなどはなかった。実際に体験をしたという書き込みも噂が出回り始めてからがほとんどで、デマと判別がつかず、噂の出所は分からずじまいだった。
「願掛けの絵馬には何か変わったことはありませんでしたか?」
 尋ねると、神主は案内してくれた。
 玉砂利のまばらな庭隅に沿う壁に、絵馬は飾られていた。
 一見何の変哲もないように思える。普通の絵馬だ。そう思って見ていくと、唐突にみなもの足が止まった。
 絵馬は落書きされ、違う意味に書き換えられていた。
 ≪キョウちゃんに想いが通じますように≫が。
 ≪今日、ちゃんと便が通じますように≫と。
「毎夜少しずつ、恋愛事に関するものだけ、せっせと書き換えているようなのです」
 あまりに稚拙な悪戯に、みなもは言葉を失くし、目を丸くした。

○恋人達、願掛けする
 みなもとはすれ違い、願掛けを行うカップル。
 千里と二三矢は御神木に向かい手を合わせた。
(二三矢と永遠に一緒にいられますように)
(ちーといつまでも一緒にいられますように)
 シンクロした願掛けを行い、千里が先に目を明ける。
「ねぇ、二三矢ちゃん。何てお願いしたの?」
「ちーは何てお願いしたの?」
「えー、あたし? あたしはねぇ…ふふ、教えてあげないよーだ」
「もぅ、教えてよ、ちー」
「うふふ…やーだよぉ」
 と、2人がいちゃつき始めると、御神木を中心に怨念が集い始めた。カップルの愛情に比例して、向けられる憎悪もまた濃くなる。カップルを憎む黒い邪念は急速に実体化した。
「諸君、愛は死んだ! 全ての恋人達よ、孤独になるがいい!」

○戦闘
「出たわね! あたし達の愛の障害!」
 千里は叫ぶと精神を集中させた。すると、たちまち千里の手の中に消防用ポンプが現れる。これが瞬時に望む物を作り出すという彼女の能力である。
 ポンプから噴出したのは、聖水だ。消化剤の代わりに詰まった聖水は、嫉妬の怨念に吹き付けられ、怨念の一部を浄化させた。
 怒り狂った怨念は瘴気の槍を降らした。実体は瘴気を纏った鉛筆やシャープペンシルの集合であるその槍は、まっすぐに千里を貫いた。
 しかし、槍が届く寸前で二三矢が千里を押し倒し、攻撃をしのいだ。
「大丈夫、ちー?」「…うん、平気。二三矢ちゃんが助けてくれたから…」と、境内のまんなかでラブラブし始める2人に、駆け寄ってきたのはみなもだった。
「手伝います!」
 みなもが聖水に手をつけると、聖水がにわかに生き物のように動き始めた。接触している水を操るのは、人魚であるみなもの能力の一つだ。
 次々と襲いくる槍を、聖水の壁がことごとく防ぐ。清められた水の膜は瘴気を通さず力を奪った。
「これ以上人を傷つけるなんて、いけません!」
 いちゃつくカップルを止められず歯噛みする様子の怨念の集合体。
 十分に高まりあった2人は抱き合い、みなものフォローの中、愛のシンクロ率を更なる高みに押し上げた。
「あなた達は本当の愛を知らない」
「これが本当の愛の力よっ!」
 握り合う手と手。最高潮に燃え上がる2人のオーラが溶け合い、ショッキングピンクの色合いを見せる。放出された圧倒的なパワーが、方向性を持って怨念を蹴散らした。

○消えゆく怨念
 力を失くし消え去ろうとする怨念達に近寄り、みなもは優しく語りかけた。
「世の中にはどんなに頑張ってもどうにもならない事はあります。それで、八つ当たりしてしまう気持ちもわかります。けれど『他の人も』なんて考えないで下さい。それは、あなた達にとっても辛い事なんですから…」
 伝わる言の葉。
 怨念達は泣いているように思えた。
(…あなた達のように愛を表現したり、人を思いやったりする事が出来ていれば…私達も…)
 最後まで言う事もなく。
 怨念達は空気に溶けていった。

○去りゆく少女
「ありがとうございました」
 神主は深々と頭を下げた。みなもは謙虚に言う。千里と二三矢は既に去り、境内にはみなもと神主の影が落ちるのみ。
「いえ、あたしは、自分が正しいと思うことをしたまでですから…」
「でも、あの霊達はみんな、満ち足りた顔をしておりました。私は、彼らの分もお礼を言っているのですよ」
「あたしが何かのお役に立てたのなら、それだけで幸いです」
 みなもの微笑みに夕日が差し込む。
 神主は、最早ここが縁切り神社などではないことを、強く実感した。
 また、みなものような少女がいる限り、縁切り神社は絶対に必要となる事はないということも。
                             終


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0165 / 月見里・千里(やまなし・ちさと) / 女 / 16歳 / 女子高校生】
【1247 / 結城・二三矢(ゆうき・ふみや) / 男 / 15歳 / 神聖都学園中等部学生】
【1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも) / 女 / 13歳 / 中学生】


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■         ライター通信          ■
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 どうもこんにちは。池田コントです。
 今回はご注文頂きありがとうございました。
 OMCでのお仕事はこれが初めてで、皆さんは私のお客様第1号という事になります。
 まだまだ未熟者ですので、満足の行かぬ点、私の至らぬ点、多々あるかと思いますが、ご指摘・ご感想など頂けましたら嬉しいです。
 では、再び会える事を祈りまして。
 失礼しました。