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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


雛奉れ!

------<オープニング>--------------------------------------
○あらすじになってないあらすじ。
葉華が「ひな祭り」を勘違いして連れてきたヒヨコ達が脱走!
頑張って、面白おかしく捕まえろ!!(待てコラ)
…ついでに、葉華にひな祭りを教えてやって下さいな(何)

●危険な温室にて。
「暖かい季節になりましたね♪
 僕、温室って好きなんですよ」
「…そんな爽やかに現実逃避してるんだかしてないんだか微妙なリアクションされても…」
「多分素だと思いますよ、お姉さま」
なんだか妙にのほほんオーラ発してる西ノ浜・菜杖に、来城・圭織が思わず苦笑する。
そんな圭織の腕に幸せそうに抱きついている桜木・愛華がつられて苦笑しながら圭織に声をかける。
モデルでもやってそうな美女に、メイド服の美少女、さらにのほほんオーラを発している少年の三人組は…かなり異様な光景ではある。
「僕、早くボブさんに会ってみたいです…」
なんだかどこかの乙女のように胸の前で手を組んで目をきらめかせながら呟く菜杖に、愛華はきょとんとする。
「え?菜杖さんボブに会いたいの?」
「もちろん!話を聞いてから、ずっとボブさんに触ってみたかったんです!!」
ぐっと拳を握りながら力説する菜杖。どうやら菜杖はボブみたいなキャラに弱いらしい。
「そっかー♪ボブはね、すっごくいいコなんだよーv
 優しくて、面白くて、おっきくて……おいしそうなの(ぼそ)」
「「え゛」」
なんだか今小声で恐ろしい事言ったような…。
「…あ、あはははは…!嫌だなぁ、2人ともなんて顔してるんですか?」
「え?…えーっと…」
「あぁ、うん。別に何でもないわよ?」
やや慌てたような愛華の問いかけに言葉を濁す2人。
まぁ、深く気にしないに限る。
とばかりに、3人は今の会話(の一部)を忘れることにした。
―――と。不意に頭上から声がした。
「随分と物騒な話してるねぇ?ラブっち?」
「「「…え?」」」
驚いて3人が頭上を見上げると、そこには、木の枝の上にヤンキー座りしている崎が。
よく見ると脇にボブが抱えられている。…なんだか随分ボブの扱い悪いような…。
「い、いつからいたの!?」
「まぁ、少なくともそちらサマがやってくる前からはいましたヨー?」
へらりと笑いかけてから木の枝を蹴り、スタッと軽やかに着地した崎と、解放されてふよふよ降りてくるボブ。
「わぁ、貴方がボブさんなんですね!?始めまして、僕菜杖って言いますーvv」
降りてきたボブをがしぃっ!と両手を一杯に広げて抱きしめる(?)菜杖。
やや戸惑い気味のボブの頬に愛華がキスし、事情を説明する。
「菜杖さんはボブに触ってみたかったんだって」
『さ…左様で御座るか…』
「うわぁ、凄いですねぇ、なんかたっぷり中身が詰まってそうな感じで!」
『論点はそこなのでござるか…?』
ぺちぺちとボブの頭を叩きながら楽しそうに笑う菜杖と、何となく微妙な気分を味わうボブ。
…ただしその方法はスイカの中身の詰まり具合を確認する方法だと言う事は、気にしてはいけない。
楽しそうにボブの上によじ登る菜杖を横目で見ながら、圭織と愛華は崎に気になっていることを訪ねることにした。
「そう言えば、どうしてボブを小脇に抱えて木の上に?」
「いやさぁ、これでも一応バイト料のために必死に探しててね。
 なんとか一団を見つけたまではよかったんだけど。…なんと!」
「「なんと?」」
大袈裟に手を広げた崎に2人が不思議そうに聞き返すと、崎は後ろを向き…肩を落とした。
「……ヒヨコの大群に追いかけられまして」
「「(…うわぁ)」」
悲しそうにしくしくしく…と何だか妙に暗い空気を背負って泣く崎に、2人は物凄く微妙な気分に襲われる。
「…ま、まぁ…ドンマイ?」
「そ、そうだよ崎君っ!頑張って!!」
ぐっと拳を握りながら応援する2人に、崎は嬉しそうに立ち上がる。
「そうだよなっ!ヒヨコなんてアイツらだけじゃないもんなっ!!」
いや、なんか違うんですけど。
…とか思いつつも、一々ツッコミいれるのも面倒なので、愛華と圭織は拍手することで適当に流すことにした。
「…一体何があったんですか?」
不思議そうな声に振り向いてみれば、ボブの頭の上でうつ伏せになったすっかり寛ぎモードの菜杖が。
…恐るべし、ほのぼのオーラ。
「んーと…き、気にしないで下さい」
あはは、と渇いた笑いを浮かべる愛華にそうですか?と首を傾げつつも、菜杖はとりあえず納得することにした。
「とりあえず、改めて自己紹介しない?
 彼らと愛華は知り合いみたいだけど…私達は一応初対面だし」
「あ、そうですね」
圭織の言葉に感心したように頷く菜杖。2人と1人と1体は、改めて自己紹介を行うことにした。
「俺は日本の裏からやってきたスーパーマン!プリティーキューティー…」
「彼は秘獏・崎君。一応中学生なんですって」
何だか長くなりそうな予感がしたので、愛華は早々に遮って、代わりに紹介をした。
「…ひ、ひど…っ!なんで俺のミラクルスウィートな自己紹介を遮るんだよラブっち!?」
「長くなりそうだったから、やむを得ずv」
そう言ってにっこり笑う愛華に、崎、撃沈。隅っこでのの字を書いて拗ねはじめるが、何気なく全員無視。
『拙者はボブと申す。まきえ殿…ここの店主の実験で出来た南瓜で御座る』
「あ、僕は西ノ浜菜杖っていいます。一応高校生です」
一応、って辺りに何だか引っ掛かりを感じるが、そこは敢えて流すべきだろう。
「私は来城圭織。美人弁護士をやってるわ」
さらっと自分で美人、をつける辺り中々いい性格をしている。流石と言うか何と言うか…。
「ふむふむ…」
何時の間にか復活していた崎が2人をまじまじと見る。
「そうだな…キミ」
「え?」
ビシッと菜杖を指差した(人を指差すのはマナー違反です)崎は、続けてこう言った。
「キミのアダ名は…『食いしん坊』で」
『「「「何故!?」」」』
愛華・圭織・菜杖・ボブの4人が同時にツッコミを入れた。
「何の脈絡も関連性もないですよ!」
「なにを言うか!関連性ならバッチリある!!
 菜杖の『杖』は音読みで『ジョー』!
 イコール『食いしん坊●歳』四代目レポーター『宍戸錠』!!
 よって彼は『食いしん坊』!!」
「関連性って言っても蜘蛛の糸並に細いじゃないのよ!!」
ビシィッ!と圭織からの裏手ツッコミが入り、崎はふははっ、と悪人っぽく笑う。
「ふふん、あるには変わりないさっ!」
「…いや、あの…できればもう少しマシなのを…」
流石に『食いしん坊』は嫌だろう。脱力気味に言った菜杖に、崎は「えー」と不服そうにしつつも、仕方なさそうに溜息を吐いた。
「…んー…『なっつん』じゃ普通過ぎて面白くないし…よし!
 じゃあ、『宍戸』で」
「いい加減『食いしん坊万●』から離れようよっ!!」
「…もう、それでいいです…」
はぁ、と暗い影を背負った菜杖が深々と溜息を吐いたのは…まぁ、仕方のないことだろう。
「…で、次はそちらさん」
「あら、私?」
圭織は先ほどの菜杖のアダ名を聞いていながら、期待に満ちまくった目で崎を見る。
「どんなアダ名をつけてくれるの?
 『絶世の美女』?それとも『麗しの弁護士』かしら?」
ふふっ、と笑いながらふぁさっと髪を掻きあげ、楽しそうに自分が考えたアダ名を告げる。
…自分を其処まで褒め称えられるとは…ある意味かなりも大物だ、この人。
「お姉さま…流石ですね…」
そのあまりの自身満々さに、愛華も関心するしかない。
しかし崎はにっこり微笑み返し、指差しながら(人を指差すのは(以下略))一言。
「じゃあ、『安田』で」
―――――間。
「な…なんですってぇ!?」
暫し硬直していた圭織は、すぐに憤慨して崎の胸倉を掴む。
「私の名前と一ッミリも関係ないじゃないのよ!?」
「何を言う!来城圭織の『圭』は元モー●ング娘。の『安●圭』と同じ字ではないかっ!!」
「なんでそっちへ行くのよ!?
 しかもよりによって『●ー娘。』卒業した人じゃない!!」
「いいじゃないか別に!似合ってるぞ!!卒業してる辺り!」
「喧嘩売ってるの!?」
段々圭織が本気で怒ってきた。一歩間違えば抹殺しかねない勢いだ。
「ま、まぁまぁ落ちついて!」
「お、お姉さま!人殺しはダメですよっ!!」
『崎殿もいい加減にするで御座るよっ!』
他の2人と1体は慌てて2人を止めに入る。
2人(というか圭織)は仕方なく手を離す。
「とにかく、俺は『安田』って呼ぶからv」
「…もう、好きにしなさいよ…」
さっき殺されかねん状況までいったというのに全く気にせずにっこり笑ってそうのたまう崎に、圭織は思わず脱力して許可してしまうのだった。
「さ、ラブっち、宍戸、安田、切り裂き!
 とっととヒヨコ捕まえて給料貰うぞ!!」
『「「「…おー…」」」』
無駄にやる気満々な崎に、他の3人と1体はやる気なく答えるのだった。

愛華が植物たちにヒヨコ達の行方を訪ねながらあちこち歩き回っていると、ようやくヒヨコ達が固まっている場所を発見。
「うわ…ホントに凄い沢山いますねぇ…」
大量のヒヨコを見て、帽子に入りきるかなぁ、などと自分の被っている帽子を眺めながら呟く菜杖。
いや、そんな帽子じゃ絶対入りきらないだろう。と他の面々の心のツッコミが入ったが、とりあえず捕獲作業を行うことにした。
「とにかく、さっさと捕まえちゃいましょっ!」
圭織の言葉に全員は頷くと、頷きあって一斉に散らばった。

「あいたたたっ!
 つ、突付かないで下さい〜っ!!」
丁度捕まえたヒヨコが攻撃的なタイプだったらしく、手を突付かれながらも頑張って帽子にヒヨコを入れる菜杖。
足を突付かれまくって逃げ回りながらなので中々集まらないが、直に段々手で持つだけでは足りなくなってくる。
「あ、そう言えば捕まえたコ達ってどうするの?」
手の中に比較的大人しいヒヨコ達を大量に納めながら問いかける愛華に、菜杖が帽子を掲げて答える。
「あ、僕の帽子まだまだ入りますよー?」
「え?」
きょとんとした愛華達が菜杖の帽子を見ると、ヒヨコの鳴き声がいっぱい聞こえる上もぞもぞ動きまくっているのに横からでは全くヒヨコの姿が見えない。
「…えーっと…ヒヨコ達…は…?」
「え?ちゃんとこの中に入ってますよ?」
ほら、と菜杖が帽子の中を見せると、確かにもぞもぞ動き回る大量のヒヨコが。
「…あれ?」
横から見る。
…もぞもぞ動いてるけど極々普通のキャスケット。
「……?」
上から見る。
大量のヒヨコが入っている底が深そうな布袋。
「……あれ?あれれれ…??」
「ダメよ愛華!気にしてたらヒヨコに逃げられるわ!!」
段々混乱していく愛華に叫びかける圭織。
愛華が見た圭織の目には、
―――気にしたら負けなのよ!!
…とありありと浮かんでいた。
「…えーっと、じゃあ、お願いしていいですか?」
「あ、はい。どうぞ♪」
そう言って差し出された帽子にヒヨコを詰めていく愛華。
…全て入れ終えても、やっぱり下は全く出っ張る気配がない。
―――……一体何なんだ、この帽子―――
そんな疑問が、一同の中に駆け抜けたのだった。
その中で、唯一崎だけが、
――――あの帽子、欲しい。
とか思ってたらしい。

「さーて、このコで最後ね」
圭織がピヨピヨ暴れる最後の一匹を片手で持ちながら、ヒヨコを菜杖の帽子に詰め込む。
「ですねー。この温室の中にはもういないんでしょう?」
「多分。植物さん達もこれで全部だって言ってるし」
菜杖の微笑みに愛華も頷く。
それにふーっと大きく溜息を吐いた圭織は、休憩ーと言いながらその場に座り込む。
「あーもう疲れたー!お腹空いたー!!」
「お姉さま…そんな子供みたいな…」
「俺も腹減ったー!!」
『崎殿も便乗しないで欲しいで御座る!』
腹が減ったと駄々を捏ねる圭織と崎に愛華とボブが困っていると、菜杖が持っているヒヨコが詰まった(外見的には一切変わりなし)帽子に手を突っ込んでごそごそと動かす。
一体何をしているのだろうと皆が見守る中…菜杖はすぽっと帽子から手を出した。
「…はい。お菓子ならありますよ?」
そう言いながらにっこりと笑って差し出された手の中には…ビスケットとポテトチップス。
「……ヒヨコ、入ってたよね?」
「ええ、入ってましたよ?」
「どうやって取り出したの?…っていうか…何処に入ってたの?」
「え?普通に取り出しましたけど?それに元からこの帽子の中に入ってましたし」
『「「「「……」」」」』
「さ、早く食べちゃって、店舗にこのヒヨコ達を届けに行きましょう?」
いるならまだありますからねー、などと言ってにっこり笑う菜杖に誤魔化され(たことにして)、全員はこれ以上言及することを諦め、さっさとお菓子を食べ始めたのだった。

―――やっぱり謎だらけだ、この帽子。

●普通の温室にて。
お菓子を食べて軽く腹ごしらえた一行は、店舗にヒヨコを届けに行き、ダンボールに詰め替える作業を手伝った後。
丁度その場で一緒に手伝っていた田中・稔を引き連れ、普通の温室にいる葉華達の手伝いに赴く事にした。
ボブと崎は店舗の手伝いに残ると言う事で、店舗で別れることになったが。

愛華の能力を頼りに葉華と希望の足取りを追い、ようやく追いついたときには…2人とも、酷く疲れていた。
「…2人とも、大丈夫?」
「とりあえず」
「それなりには」
「…微妙な返答ね」
愛華の問いかけに地面に仰向けになりながら遠い目で答える2人に、圭織は思わず苦笑を浮かべる。
「一体どうしてそんなこのになったの?ヨーくんにノッちゃん」
「…ヨーくん…」
「…ノッちゃん…」
2人とも稔に告げられたアダ名に微妙な顔をしつつも、仕方なく起き上がる。
「一体どうしたんですか?」
不思議そうにしゃがみ込みながら問いかけた菜杖に、葉華と希望は顔を見合わせ、頭を掻きながらへらりと笑う。
「いや、それが、さ…」
「何とか大半のヒヨコを捕まえたのはよかったんだけど…」
「え?でも2人とも一匹も持ってないじゃない?」
2人の言葉に不思議そうに声を上げた圭織に、希望はチッチッチ、と指を振る。
「俺は空間を自由に使えるから、捕まえたのは片っ端から店舗に投げてんだよ」
―――それってすごい迷惑なんじゃあ…。
どうりで店舗でまきえと聡が走り回ってた訳だ。
「…で、どうしたの?」
「……それがさぁ…残ったのがまた随分厄介で……」
「「「「厄介?」」」」
不思議そうに首を傾げる4人に、希望と葉華が渋い顔をする。
「…物凄くすばしっこくて…」
「凶暴性抜群」
「だからって下手に攻撃したら可哀相だし…」
「武器使うわけにもいかねーし、って手加減してたんだけど…」
「そしたら…反撃に合って逃げられた」
とほほ、と2人揃ってつつかれたらしく赤くなっている手を振る2人に、全員は思わず額に汗が伝う。
…この2人がかなりてこずるようなヒヨコって…結構ヤバイ。
「ま、まぁ、たかがヒヨコじゃない!どうってことないわよ!!」
一番早く気を取り直し、拳を握るのは圭織。まぁ、やはり女性は強い、と言う事で。
「あう…そうだといいんですけど…」
「ぼ、僕、戦うのは苦手なんで、皆さん頑張って下さいね!」
嫌な予感がする、と顔を青くする愛華に、早々に戦線離脱する菜杖。
「んー…残ったヨコヨコちゃんって、そんなに手強いんだ?」
そして、なんとなく興味津々な様子の稔。
まさに三者…いや、四者四様である。
「まぁ…とにかく、応援も来た事だし、捜索再開すっか」
よいしょ、とジジくさく腰をあげる希望と葉華に思わず笑いながら、一行はヒヨコ探しを再会するのだった。

愛華と葉華のナビによって暫く歩いていた一行。
「そういえば、葉華は結局ホントのひな祭りってどんなのかわかったの?」
「ううん、全然。
 希望も楽しむだけで教えてくれねぇし」
「だって俺が教えたら面白くねーじゃん」
愛華の答えに首を振りながら希望を睨みつける葉華と、その視線をさらっとかわして笑う希望。
「ふーん…」
「じゃあ、私が教えてあげるわv」
「え!?ホントか!?」
にっこりと笑いながら、圭織が葉華に声をかける。
ぱぁっと顔を輝かせた葉華に、圭織がもちろん、と頷いて話し出した。
「あのね、ひな祭りって言うのは」
「言うのは?」
じっくり溜めてから、圭織はぐっと拳を握り、叫んだ。
「…食べ物食べまくってお菓子もらいまくる日よ!!」
「へぇ、そうなのか!」
…それ、ハロウィンとかとちょっち混ざってるような気が…。
それを聞いて、菜杖が面白そうだと話に混ざる。
「そうですよー。
 ひな祭りって言うのは本当はお菓子をいっぱい貰うための行事で、雛人形の中に隠してあるお菓子を取り出して食べるんです」
うわぁ、またもや嘘満載。
「へぇ…そんな面白い行事だったのか!」
葉華はすっかり騙され、圭織と菜杖が言う「ひな祭り」にすっかり心奪われている。
「あ…よ、葉華…それは嘘なんだけど…!
 …あ、あうぅ…希望さぁん…」
困ったようにおろおろと葉華達を見ていた愛華が横を歩いていた希望を見ると。
「…っくくく…!」
…希望が一行から顔を逸らし、口元と腹を押さえながらそれはもう楽しそうに声を抑えて笑っていた。
「……」
「…諦めた方がいいわよ?」
真っ白になった愛華の肩にぽむ、と手を置きながら稔が告げた言葉に、愛華はがっくりと肩を落とすのだった。
その後、愛華が葉華に正しいひな祭りの内容を教えようと頑張ったのは…言うまでもない。

「あ、いた!あそこですよ!!」
暫く歩いていると、菜杖が先を指差して嬉しそうに叫んだ。
全員がつられて見てみると、確かにヒヨコらしき黄色い毛玉が固まって転がっている。
「ふふ…見つけたわよぉっ!」
「とりあえず残りはあの四匹で間違いないから、なんとかして1人か2人で一匹捕まえてくれよ?」
慌てて走り寄りながら、全員が希望の言葉に頷く。
そうして散った5人は、それぞれ捕まえに走った。

「お、お姉さま、気をつけてくださいねっ!?」
「ふふん、ヒヨコぐらい、どうってことないわよ!」
一つ目のグループは圭織と愛華だ。
一匹の如何にも性格悪そうな、かつ目付きも悪そうなヒヨコが「あぁん?」とでもいいそうな感じでこちらを睨みつけてる。
「何言ってるのよ愛華、たかがヒヨコじゃない。
 技を披露するまでもないわ!」
圭織は余裕綽綽に笑いながら、ヒヨコをわしっと素手で掴んだ。
「ホラ、簡単で…」
「…ピヨ…」
「「!!」」
圭織がヒヨコを鷲掴みにした瞬間、急にヒヨコが目を潤ませてきたのだ。
物凄くうるうるしている瞳に見つめられた2人のバックミュージックは某仔犬が出てる会社のCMで。
「お、お姉さま…何だか可哀相です…」
「うぅ…」
愛華は当然その姿に怯んで圭織の腕を掴む。
圭織も実は小さくて可愛いものが滅茶苦茶ツボなタイプなので、その姿に思わず掴む手を緩ませてしまった。
―――瞬間。
キラーン、とヒヨコの目が光った。
ぴょーん。…ガスッ!!
「…あ…」
愛華が、その光景を見て顔を真っ青にした。
緩んだ隙を見逃さず、ヒヨコは圭織の手から飛び出して…事もあろうに、圭織の額をくちばしでド突いたのだ。
「……」
無言の圭織の額からつー、と血が流れる。
「だ…だいじょうぶですか…?」
愛華が心配そうに声をかけると、不意に圭織の肩が揺れ出した。
「…ふ、ふふふ…ふふふふふ……!!」
「……お、お姉さま…!?」
ついに壊れた…!と顔を真っ青にして怯える愛華とは違い、ヒヨコは地面から小馬鹿にしたような目で此方を見ている。
――――と。
ビュッ!わしっ。
「ピヨッ!?」
「え!?」
急に圭織の手が高速で動き、ヒヨコを再度捕獲したのだ。
しかも今度は絶対に緩まないほど、がっしりと。
「…お姉さま…」
「ふふ…あはははははは…!!」
笑いながら顔を上げた圭織の目は―――完全に座っていた。しかも、本来青い筈の瞳は真っ赤に染まっている。
「…………狩る!!!」
くわっ!と口を開けた圭織の口の端には、鋭い牙が一本ずつ。
…キレたことによって吸血鬼である己の力を発揮してしまったらしい。
「お、お姉さま!ヒヨコを食べちゃうなんて…!!」
愛華が慌てて止めに入るが、圭織は全くその言葉を聞き入れず。
――――――がぶり。
あっさりと噛み付いた。
「…きゃあぁぁああっ!?!?
 お、お姉さまが、ヒヨコを、た、食べ…っ!?」
その光景を目の前で見た愛華が目を回さん勢いで混乱している。
ヒヨコがぐったりしてる辺りが現実味を帯びており、圭織の口の端にほんのり付着した血液がまた更に生々しい。
「……ちょっと愛華。何勘違いしてるのよ?」
「…え?…ぷぎゅっ」
頭の上から聞こえた怪訝そうな声に顔を上げると、よく見なさい、と愛華の顔にヒヨコが押し付けられた。
死んでるのに…と思いながらもそっと手にとって、そのヒヨコをよく見る。
「…あれ?死んで…ない…?」
そのヒヨコから手に伝わるのは、暖かな温もりと規則正しい鼓動。
「当たり前よ。だってこのコ、目を回してるだけだもの」
圭織の牙には、噛み付いた相手の思考を混乱させる効果がある。
まぁ、それよりも恐らく『喰われる!?』というショックで気絶した可能性の方が高いわけではあるのだが。
「…な、なんだぁ…ビックリしたぁ…」
「私、流石にこんな可愛いコを問答無用で殺したりしないわよ」
ふっと笑いながら髪を掻きあげる圭織。…ただし、額から伝っている血はまだ止まってないが。
愛華はその様子に苦笑い(ほんのり顔色悪し)し、圭織の手を掴んで引っ張るのだった。
「…お姉さま。まずは、額の怪我…治療しましょうね」
「あら、そう言えばそうだったわね」
忘れれたのか。そんなにだくだく血が流れてるのに。
―――なにはともあれ。
   ヒヨコ、回収完了。

丁度全員ほぼ同時に終わったらしく、走って戻る途中、反対側から爽やかな笑顔の希望と、植物の蔓でがんじがらめにしたヒヨコを片手に盛った葉華が一緒に戻ってきた。
お互いの中心点には、何時の間にかそびえ立っている土の塔を目の前に立っている稔と、座り込んでいる菜杖がいた。
「よし、これで終わりだな」
「うん。他にはいないみたいだし」
「じゃ、一旦店舗に戻りましょ?」
ヒヨコ達は葉華の蔓で一纏めにし、希望に持たせて歩き出す面々の背中に、愛華は慌てて声をかける。
「あっ、あのっ!」
「「「「「「ん?」」」」」」
同時に振り返った面々に、愛華はにっこり笑って声をかける。

「…愛華のおうちでひな祭りパーティー、しませんか?」

その誘いに、その場にいた面々の答えが全員YESだったのは…言うまでも無い。

――――その後。
    シュライン・エマ達がヒヨコの回収と室内の掃除を終わらせ、車でプラントショップへやってきたので、ひな祭りパーティーに(半ば強制的に)誘い、参加させることになるのだった。

●戦い(?)終わって日が暮れて。
「さ、みなさん。いーっぱい、楽しんでってくださいねー♪」
『おーっ!!』
飲み物の入ったコップ片手に音頭(?)を取る愛華に合わせて、愛華の家に来た面々(まきえ・聡・ボブは店の後片付けがある為欠席)が一斉にコップを掲げた。
「それにしても…私たちも参加しちゃっていいのかしら?」
「いいんじゃないか?ヒヨコ騒動の打ち上げみたいなものだって言われたし」
困ったように笑うエマの言葉に甘酒を御銚子から直で飲みながらさらっと返す草間。
「お兄さん、行儀が悪いですよ」
「…チッ」
少し怒ったように言いながら銚子を取り上げる零に舌打ちする草間だったが、零に睨まれて仕方なく諦めて少しずつ飲むことにしたらしい。
それを見て小さく笑ったエマがふと横を見ると、愛華が葉華に話し掛けてる所だった。
「ひなあられに甘酒、ちらし寿司もばっちり用意してあるから、葉華もバンバン食べよーねっ♪」
散らし寿司を盛った皿を渡しながら笑う愛華に、葉華は感心したように頷いた。
「おう!…けど、やっぱり圭織の言った事ってホントだったんだな。
 『食べ物食べまくってお菓子貰いまくる日』ってヤツ」
「え゛…」
「でっしょー?
 ひな祭りってのはこうじゃなくっちゃねー♪」
やや離れた所からご機嫌そうに甘酒を入れた御猪口を傾けながら笑いかける圭織。
「うーんと…合ってるような、合ってないような…」
なんとも言えない、と困ったように笑う愛華達に、エマは近寄って微笑んだ。
「ひな祭りって言うのはね、昔は厄除けと健康祈願の意味を持つものだったのよ?
 言うなれば、おひな様は代わりに災厄を受けてくれる守り神のようなものだったの」
「…へぇ…」
話を聞いた葉華が興味深そうに目を輝かせるのを見て、エマは楽しそうに話を続ける。
「桃の節句は、元は『上巳(じょうし)の節句』って言って、高貴な女の子のお祝いのためにやってたのが庶民に広まったんですって」
「ふぅん…他には?」
「上巳の節句自体も、昔の日本にあった五つの節句…例えば端午の節句ね。とかの1つで、当時は貴族の間ではそれぞれ季節の節目の身のけがれを祓う大切な行事だったの。
 人々は野山に言って取ってきた薬草で身体を清めて健康と厄除けを祈ったんですって。
 それが、後に宮中の紙人形遊びの『ひいな遊び』と融合して、自分の災厄を代わりに引き受けさせた紙人形を川に流す『流し雛』に発展したの
 実際に豪華な雛人形を飾るようになったり、3月3日に行うように定着したのは室町時代以降なんですって。
 それが武家社会へと広がり、さらに裕福な商家や名主の家庭へと広がり、今の雛祭りの原型となっていったのよ」
「へぇ…初めて知った…。
 ひな祭りってそんな理由があったんだ…」
「まぁ、今の桃の節句は厄除けよりも祭りとして騒ぐ方がメインみたいだけどね」
そうして肩を竦めるエマに、葉華と愛華はふんふんと頷く。
「流し雛かぁ…やってみたいなぁ」
「だったら。流し雛の紙人形の代わりに卵の殻で作ったお雛様、川に流さない?」
そう言ってひょこりと顔を出したのは、楽しそうに笑う稔。
「へぇ、面白そうだな!」
「あ、愛華も一緒にやってもいい?」
「もちろん。みんなで一緒に作りましょ?
 私も保育園の時に作った事あるんだけど、それが結構楽しくって。
 折角だからヨーくんに教えようと思ってたんだよね♪」
「あ、卵の殻だったらまだ流しの所に捨てたばっかりだから、洗えば使えるよ♪」
「おっし!早速行こうぜ!!」
葉華は素早く立ち上がると、既に作る気満々の面々のいる離れた場所へ向かって走っていく。
稔と愛華もそれに続き、その場にエマ・草間・希望の3人だけを残す。
そして、みんなでわいわいと楽しく卵の殻の雛人形を作ったのだった。

葉華は希望の分も、零はエマと草間の分も作り、結局全員で一緒に流しに行く事なった。
全員はプラントショップへ行く道の途中にある川に卵の殻で作った雛を流した。
頼りなくゆらゆらと左右に揺れながらもきちんと流れていく卵の殻雛を見送りながら、思い思いにそれを見送っていく。
そんな中。
なにかを祈っている様子のエマ・圭織・菜杖の3人を見。
流し雛は流れ星とは違うんだけどなぁ…なんて、密かに思ってみたり。

その後、再度愛華の家で宴会並みの大騒ぎが繰り広げられたのは…言うまでも無い。


―――ちなみに。
   後日。葉華が来訪し、ひな祭りパーティーで色々世話になったから、とバイト料も合わせて7万も貰った。
   その使い道に愛華が困った末、結局恋人とのデート代に消えてしまったのは…愛華と恋人だけの、秘密である。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2155/桜木・愛華/女/17歳/高校生・ウェイトレス】
【2284/西ノ浜・菜杖/男/18歳/高校生・旅人】
【2313/来城・圭織/女/27歳/弁護士】
【2603/田中・稔/女/28歳/フリーター・巫女・農業】
【NPC/葉華】
【NPC/ボブ】
【NPC/緋睡・希望】
【NPC/秘獏・崎】
【NPC/草間・武彦】
【NPC/草間・零】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)異界第七弾、「雛奉れ!」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
どうぞ、これからも愉快なNPC達のことをよろしくお願いします(ぺこり)

愛華様:ご参加、どうも有難う御座いました。今回は出番が平均的になってしまい、申しわけ御座いません。
    その後のひな祭りパーティーに他の方々も参加していただきましたが…よろしかったでしょうか?
    圭織さんとお知り合いの御様子なので、NPCより掛け合い大目です(笑)

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
他の方のエピソードも見てみると面白いかもしれません。
それでは、またお会いできることを願って。