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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


雛奉れ!

------<オープニング>--------------------------------------
○あらすじになってないあらすじ。
葉華が「ひな祭り」を勘違いして連れてきたヒヨコ達が脱走!
頑張って、面白おかしく捕まえろ!!(待てコラ)
…ついでに、葉華にひな祭りを教えてやって下さいな(何)

●草間興信所にて。
草間興信所の事務員であるシュライン・エマは、室内を荒らすヒヨコ達を見ながら…ふんわりと微笑んだ。

「…黄色いもこもこって、ふんわりと気持ち良くて可愛いわよね…」

「……現実逃避してる場合じゃないってわかっててやってるんだろうな?エマ」
じっとりと横から睨みつけてくる草間(ボロボロで物凄く息が切れてる上、手の中には暴れまわる大量のヒヨコ)に、エマはふっと遠い目をして返す。
「…大丈夫。ちゃんとわかってるわ。
 ……ほんと、可愛いんだけど…折角整頓した資料達が……」
草間の腕の中にヒヨコが沢山入っている筈なのに、まだまだ数が減らないヒヨコ達が勢いよくあちこちの物を蹴散らしている。
ドアや窓など、出入り口になる場所は全部封鎖したのでこれ以上中に入ったり逃げられたりすることはないが…それでも、無駄に元気なナマモノ達を捕まえるのは相当骨だ。
「きゃあっ!?わ、私の髪はごはんじゃないですぅっ!!」
「零ちゃん!?」
零の叫び声に驚いて振り返ってみれば、零の髪を何匹かのヒヨコがくちばしで挟んで引っ張っている。
零自身、流石にヒヨコに怪我させるのは躊躇われるらしく、痛がり、焦りつつも攻撃しようとはしない。
エマが慌てて持っていたバケツで掬い上げ、驚いたヒヨコがくちばしを離した隙をついてそのままダンボールに放り込み、速攻で蓋をする。
ダンボールは前もって空気穴を空けておいたものや元々小さな穴が空いていたものを使用しているので、ヒヨコ達が呼吸困難になる心配はない。
そう簡単に逃げられないようにダンボールの深さも考えないといけないので、大きめのダンボールが必要になる。
勿論密集度も考えて詰め込んでいるので、大量のダンボールが部屋中に散乱しているのが少々問題だろうが。
「零ちゃん、大丈夫!?」
「あ、はい…ちょっと頭痛いですけど、平気です」
エマはほっとして零の頭を撫でると、横にあった洗面器を零に手渡し、立ち上がる。
「さ、もうひと頑張りしましょ?」
「は、はいっ!」
「武彦さんも頑張ってね?」
「…解ってる」
洗面器やらバケツやらを持った3人の男女が一生懸命ヒヨコを掬って回収しようとしてる図。……シュールだ。
暫くの間黙々と作業を続ける3人だったが…ついに草間の堪忍袋の尾が切れた。
「…えーいっ!やってられるか――――ッ!!!」
ガシャァンッ!と持っていたバケツを床に投げつけ叫ぶ草間に、エマは困ったように笑う。
「確かに…動いてると結構難しいわよね」
「いや、そう言う問題じゃなくてだな…」
草間の力ないツッコミにも動じず、エマは首を傾げてぽつりと呟いた。
「…いっそ、気絶させてしまった方がお互いに安全かな?」
「そんな方法があるなら最初からそうしてくれ…」
その言葉に草間が脱力したのは…言うまでも無い。

エマの言った「気絶させる方法」とは、エマの能力である声帯模写能力を生かしたものだった。
非致死聴覚武器である音波弾丸。
どこでその音を聞いたかは知らないが、その音を模写してヒヨコ達の頭蓋骨に震動を与え、気絶させて回収するつもりらしい。
鳥払いにも応用できるものだが、払ってもどこか別の場所で騒動を起こすに違いないので、回収する為に気絶させることにしたらしい。
「じゃあ、武彦さんと零ちゃんはきちんと耳栓しててね」
「ああ」
「はい」
2人はエマに言われた通り、コルクで出来た耳栓をしっかりと耳にはめる。
それを確認してから、エマはすぅ、と息を吸い込み――――音を発した。

「――――――――!!!!」

恐らくかなりの高音を発しているのだろうが、それは既に人の耳で聞き取れる領域を越えた、超音波の域に達しており。
ある程度手加減はしているようだったが、やはりその威力は絶大だった。
ヒヨコたちはその音が耳の穴に入った瞬間、すぐに目を回してぱたぱたと倒れて行ったのだ。
「……ふぅ」
全匹が倒れたことを確認してから、エマは声を出すのを止め、安堵したように息を吐いた。
「武彦さん、零ちゃん、もう耳栓は外しても平気よ」
耳栓をしっかり押さえたまま、倒れたヒヨコ達をまじまじと凝視している2人に思わず笑いながら、エマは自分の耳を指差して話し掛ける。
その動作を見てはっとした2人は、慌てて耳栓を外し、ヒヨコを踏みつけないように注意しながらエマの方へ小走りに駆け寄った。
「すっ…凄いです、エマさん!」
「俺も驚いた。まさか此処まで威力があるとは…」
「私も予想以上の出来でちょっと驚いたけど、まぁ、これでヒヨコ達は回収するだけね」
そうだな、と頷く草間に微笑みかけてから、ただ…、とエマは困ったように辺りを見回し、溜息を吐く。
「……このぐちゃぐちゃになった室内の掃除もしなきゃ、ね…」
「「……あ」」
ヒヨコ達により引っ掻き回され、とんでもない惨状になった室内を見やり、草間と零は顔を青くするのだった。

――――その後。
    エマ達がヒヨコの回収と室内の掃除を終わらせ、車でプラントショップへ行ったところ、桜木・愛華の家でやるというひな祭りパーティーに(半ば強制的に)誘われ、一緒に参加することになるのは…これから、一時間半後のこと。


●戦い(?)終わって日が暮れて。
「さ、みなさん。いーっぱい、楽しんでってくださいねー♪」
『おーっ!!』
飲み物の入ったコップ片手に音頭(?)を取る愛華に合わせて、愛華の家に来た面々(まきえ・聡・ボブは店の後片付けがある為欠席)が一斉にコップを掲げた。
「それにしても…私たちも参加しちゃっていいのかしら?」
「いいんじゃないか?ヒヨコ騒動の打ち上げみたいなものだって言われたし」
困ったように笑うエマの言葉に甘酒を御銚子から直で飲みながらさらっと返す草間。
「お兄さん、行儀が悪いですよ」
「…チッ」
少し怒ったように言いながら銚子を取り上げる零に舌打ちする草間だったが、零に睨まれて仕方なく諦めて少しずつ飲むことにしたらしい。
それを見て小さく笑ったエマがふと横を見ると、愛華が葉華に話し掛けてる所だった。
「ひなあられに甘酒、ちらし寿司もばっちり用意してあるから、葉華もバンバン食べよーねっ♪」
散らし寿司を盛った皿を渡しながら笑う愛華に、葉華は感心したように頷いた。
「おう!…けど、やっぱり圭織の言った事ってホントだったんだな。
 『食べ物食べまくってお菓子貰いまくる日』ってヤツ」
「え゛…」
「でっしょー?
 ひな祭りってのはこうじゃなくっちゃねー♪」
やや離れた所からご機嫌そうに甘酒を入れた御猪口を傾けながら笑いかける来城・圭織。
「うーんと…合ってるような、合ってないような…」
なんとも言えない、と困ったように笑う愛華達に、エマは近寄って微笑んだ。
「ひな祭りって言うのはね、昔は厄除けと健康祈願の意味を持つものだったのよ?
 言うなれば、おひな様は代わりに災厄を受けてくれる守り神のようなものだったの」
「…へぇ…」
話を聞いた葉華が興味深そうに目を輝かせるのを見て、エマは楽しそうに話を続ける。
「桃の節句は、元は『上巳(じょうし)の節句』って言って、高貴な女の子のお祝いのためにやってたのが庶民に広まったんですって」
「ふぅん…他には?」
「上巳の節句自体も、昔の日本にあった五つの節句…例えば端午の節句ね。とかの1つで、当時は貴族の間ではそれぞれ季節の節目の身のけがれを祓う大切な行事だったの。
 人々は野山に言って取ってきた薬草で身体を清めて健康と厄除けを祈ったんですって。
 それが、後に宮中の紙人形遊びの『ひいな遊び』と融合して、自分の災厄を代わりに引き受けさせた紙人形を川に流す『流し雛』に発展したの
 実際に豪華な雛人形を飾るようになったり、3月3日に行うように定着したのは室町時代以降なんですって。
 それが武家社会へと広がり、さらに裕福な商家や名主の家庭へと広がり、今の雛祭りの原型となっていったのよ」
「へぇ…初めて知った…。
 ひな祭りってそんな理由があったんだ…」
「まぁ、今の桃の節句は厄除けよりも祭りとして騒ぐ方がメインみたいだけどね」
そうして肩を竦めるエマに、葉華はふんふんと頷いた。
「流し雛かぁ…やってみたいなぁ」
「だったら。流し雛の紙人形の代わりに卵の殻で作ったお雛様、川に流さない?」
そう言ってひょこりと顔を出したのは、楽しそうに笑う田中・稔。
「へぇ、面白そうだな!」
「あ、愛華も一緒にやってもいい?」
「もちろん。みんなで一緒に作りましょ?
 私も保育園の時に作った事あるんだけど、それが結構楽しくって。
 折角だからヨーくんに教えようと思ってたんだよね♪」
「あ、卵の殻だったらまだ流しの所に捨てたばっかりだから、洗えば使えるよ♪」
「おっし!早速行こうぜ!!」
葉華は素早く立ち上がると、既に作る気満々の面々のいる離れた場所へ向かって走っていく。
稔と愛華もそれに続き、その場に残っているのは、エマ・草間・希望の3人だけ。
希望は銚子を開けながら(※希望は未成年です)わいわいと卵の殻の雛人形を作っている面々を楽しそうに眺めている。

「…お前は行かなくていいのか?18歳」
「俺、厄は自分で吹き飛ばせ派だから遠慮」
「なんだか雛人形全否定なセリフね、それ」
草間が呆れ気味に言うと、希望は飄々とした顔でそう答え、思わずエマは苦笑してしまった。
「いーの。それに、俺が作らなくても葉華が余計に作るだろうし?
 教わりながら作った分と、自分一人で作った分の2つを、な」
それを貰えばいいし?と解りきったように笑う希望にエマは小さく噴出す。
「…無駄に察しがいいのも考えものだな」
「そう言う草間こそ、つくりにいかなくていいのか?
 普段厄ばっかりだから少しでも吸い取ってもらえばいいのに」
「……その厄の原因は誰だ、原因は」
じっとりと睨みつける草間を爽やかな笑顔で流す希望を見て、エマは思い出したようにぽん、と手を打つ。
「…希望さん」
「んあ?」
ひなあられを頬張りながら振り返った希望に、エマは一枚の紙を突きつけた。
「…紙?」
不思議そうにその紙を見る希望に、エマはにっこり微笑んで告げる。
「なんかまきえさん達から話を聞いたら、全ての元凶は貴方だって言うじゃない?
 だからこれ、請求書ね」
「…さよですか」
面倒くさそうな顔ながらも仕方なさそうに請求書を受け取った希望は、その代金を見て口元を引き攣らせた。
「…結構かかってマスネ」
「当然よ。書類は破られるわ、機材は壊されるわ、冷蔵庫に入ってた野菜は喰い散らかされるわで大変だったんだもの」
確かに正論だ。
希望が余計な知識を吹き込みさえしなければ、こんな事態にはならなかったわけだし。
その言葉に希望は苦笑してから、請求書の明細の一番下を指差してエマに見せた。
「…まぁ、仕方ないからちゃんと払うけどね。それくらいは俺も弁えてるし。
 ……この『迷惑料』ってのは?」
「え?」
エマが明細に入れた覚えのない単語で、エマ自身も驚いてそれを覗き込む。
明細の一番下に、エマの字ではないクセのある乱雑な字で、確かにそれは書き込まれていた。
しかも、何気にそれが一番高い料金が書かれている。
「あぁ、それは俺が書いたんだ」
「武彦さんが?」
甘酒を飲んでいた草間が手を上げると、エマが驚いたように目を見開いた。
その視線を受け、草間が話を続ける。
「今回は精神的にも色々と迷惑かけられたから、これくらい請求したって文句はいわせん」
「だからって、この金額は…」
流石に多すぎないかしら、と続けようとしたエマの言葉を手で遮り、希望は笑いかける。
「ま、払うって言ったからにはきちんと払わせてもらうよ。
 …迷惑料込みで、ネ」
にやりと笑う希望に、エマも思わずつられてくすりと微笑んだ。
草間はそれに一瞬面白くなさそうに眉を顰めたものの、すぐに顔を背けて甘酒を飲むことで気をそらす。

「おーい!今から川に卵の殻雛を流しに行くんだけど、お前等も一緒に行こうぜ!!」
唐突にばたばたと大きな音を立てながら、葉華と零がやってきて、3人の腕を掴む。
「お兄さんもエマさんも、一緒に行きましょう?お2人の分もちゃんと作りましたから」
「希望の分は仕方ないからおいらが作ってやったぞ!」
「…な?言ったとおりだっただろ?」
小声でそう言ってにやりと笑ってからすぐに立ち上がり、「サンキューな」と葉華の頭をぐしゃぐしゃと撫でる希望。
そうとも知らず照れたように希望の手を払う葉華が妙に微笑ましくて思わず吹き出したエマだったが、すぐに立ち上がって一緒に草間の腕を掴む。
「さ、武彦さんも一緒に行きましょう?1人で残るなんてつまらないわよ」
そう言って微笑むと、草間は盛大に溜息を吐いてからゆっくりと立ち上がる。
「…仕方ない。一緒に行ってやる」
草間の無駄に偉そうな言い方がなんだか面白くて、草間に見えないところで小さく笑うエマだった。

全員はプラントショップへ行く道の途中にある川に卵の殻で作った雛を流すことにした。
頼りなくゆらゆらと左右に揺れながらもきちんと流れていく卵の殻雛を見送りながら、思い思いにそれを見送っていく。
そんな中。
「(…少しでもいいから、希望さんのトラブル起こしたがりが治りますように)」
なんて思ってしまうエマは…やっぱり、苦労性だった。

その後、再度愛華の家で宴会並みの大騒ぎが繰り広げられたのは…言うまでも無い。


―――ちなみに。
   希望によって、請求書よりも多い金額が振り込まれている事にエマと零が驚くのは、もう少し先のこと。
   そのせいで、希望は一体どんな仕事でこれだけの大金を稼いでいるのだろうかと言う疑問が浮上したのは、ここだけの話だ。
   草間は何か知っているようだったが、多分…聞いても教えてくれないだろう。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2155/桜木・愛華/女/17歳/高校生・ウェイトレス】
【2313/来城・圭織/女/27歳/弁護士】
【2603/田中・稔/女/28歳/フリーター・巫女・農業】
【NPC/葉華】
【NPC/緋睡・希望】
【NPC/草間・武彦】
【NPC/草間・零】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)異界第七弾、「雛奉れ!」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
どうぞ、これからも愉快なNPC達のことをよろしくお願いします(ぺこり)

エマ様:ご参加、どうも有難う御座いました。ご希望通り草間さん達とのヒヨコ回収作業をしていただきましたが…いかがでしたか?
    勿論、その後のひな祭りパーティーにも参加していただきました。楽しんで頂ければ幸いです。
    とはいえ、他の方に比べると短めな上、他の参加者様との絡みも少ないのでやや物足りないかもしれませんが…。
    希望の秘密がいっこ増えてしまいましたが、まぁ、それはそれで(笑)

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
他の方のエピソードも見てみると面白いかもしれません。
それでは、またお会いできることを願って。