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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


失踪ROCK

【オープニング】
 静かだった。
 辺りは柔らかなクリーム色で、風もなく、温度は適度。
 それを叩き潰す轟音が突如耳に響いて、草間は書類の中に埋めていた顔を勢いよく上げた。
 「なっ…?!」
 驚いたものの、それは落ち着いて聴けば音楽だとわかる。
 ダミ声の男が激しいギターに乗って叫んでいた。ちなみに歌詞は英語である。
 草間はそこまで分析して、やっと耳の違和感に気付いた。両手を耳へ持って行くと固い質感。
 「誰だ?!」
 耳に入れられていた黒いイヤホンを外しながら振り向くとそこには黒いスーツの男。
 「おはようございます、草間さん☆」
 スーツに不似合いな茶髪に黒縁メガネの青年は、ヘラヘラ笑いながら言った。
 彼、浅野龍平を草間は知っていた。しかし、快適な眠りを妨げられても笑顔で挨拶を返せる程、彼はお人好しではなかった。
 「またお前か…宇宙人。どうやってるのか知らないが勝手に入ってくるな!」
 龍平は自称宇宙人だ。いつもロクな話を持って来ない彼に、草間も辟易させられている。
 「えー…今日はちゃんとした依頼なんですけどー」
 若者特有の間伸びした口調が草間をいらつかせたが、依頼となれば話を聞かない訳にはいかない。
 草間が椅子に座り直したのを見て、龍平は彼の正面に移動した。
 「さっきの曲、かっこよかったでしょう?あの音源、日本ではまず手に入らないんですよ」
 「へぇ。まぁ俺の趣味じゃないけどな」
 草間は、少し得意げな龍平に適当な相づちを打って先を促した。
 「そういうのを裏ルートで買い付けて売ってくれる人がいてですね。…普通のCDショップの店員なんですけど。彼が急にいなくなってしまったんです。そこの他の店員に聞いても連絡取れないって言うし。僕にも何でいなくなったのか検討がつかないんです。だから彼を捜して下さい!」
 意外な程心配した表情の龍平を見て、草間は思わず頷いていた。
 「人捜しだな。手伝ってくれそうな奴に声掛けておいてやるよ。俺は情報収集をする。彼の特徴を教えてくれ」
 その言葉を聞いて龍平は嬉しそうに笑う。
 「あぁ助かります!もうすぐ好きなバンドの新曲が出るんで!!」
 「そっちかよ!」とつっこみそうになるのを堪えて、草間はメモ帳とペンを取り出した。

***
 龍平が指定したのは都内の大型CD店だった。
 草間の紹介でその場に集まったのは龍平を含めて4人。
 「どんなマニアックな店に連れてきてくれるかと期待しとったのに大手やないか」
 拍子抜けしたように呟くのは金髪で少々派手めの青年だった。ギタリストの彼、井上麻樹はインディーズレーベルの主宰者でもある。
 「ここならあたしも良く来るわよ。ライヴの時協賛してたりするし」
 肩から下げたギターケースを担ぎ直しながら言うのは九重京香。彼女はメジャーデビューも果たしているバンドの、やはりギタリストである。
 「浅野くんもこんな普通のお店に出入りしてたのねぇ」
 「失礼ですね」
 ちょっと驚きながら店内を見回している青い目の女性はシュライン・エマ。この中で唯一龍平と面識のある彼女はナチュラルに会話を進める。
 「いなくなった人…斉藤さんでしたっけ。彼はここに勤めてたんでしょう?」
 シュラインの言葉に龍平は頷いた。
 「ええ。1か月くらい前から連絡が取れなくなったんです。ただ…」
 「なんや?」
 発言を途絶えさせた龍平に麻樹が先を促す。
 「他の店員も口を揃えていたので確かだと思うんですが、斉藤さんってよく音信不通になるんです」
 「じゃぁ今回も今まで通りなんじゃないの?」
 京香がCDを物色しながら訊くが、龍平は首を振った。
 「いえ。今までは長くても1週間とか10日とかだったんですよ。今回は極端に長いので心配になって」
 京香は「へぇ」と相づちを打って、それから首を傾げる。
 「もしかしてあんた、意外とマトモな人?」
 「僕はマトモです」
 龍平は気分を害した風もなく即答した。シュラインが苦笑している横で麻樹が胡乱げな顔をする。
 「浅野さん、自称宇宙人って聞いたけど本当なん?」
 「本当ですよ?でも僕は日本生まれです。両親が宇宙人で…」
 スラスラと話初めた龍平に麻樹と京香は呆れたように視線を外した。
 「…はぁ?」 
 「どこがマトモなのよ」
 「と…とりあえずここの店長さんにもう一度話を聞いてみましょう」
 シュラインの一言に京香は目を輝かせる。
 「ここの店長なら知り合いよ。あたしが話を付けてあげる」
 言うなり、彼女はレジへ向かう。店員と話をして戻ってくると、少しして店長らしき男がやってきた。細身の、派手なYシャツを着て髭を生やした人だ。
 「お京さん久しぶり!あれ、そちらの人はもしかして『ハイブロウ』の…?」
 店長はにこやかに京香に挨拶すると麻樹の方に目を向けた。面識こそないが、彼のレーベル名と顔は知っていたようだ。
 「ども。井上です」
  麻樹は軽く会釈をする。
 「あぁやっぱり井上さんでしたか!では、とりあえず奥の部屋に行きましょう。斉藤くんの事は私も気にしてたんですよ。知っていることなら何でもお話します」

***
 通された店の奥の部屋は店員の休憩室にもなっているようで、テーブルや椅子、そして数人分の荷物が置いてあった。
 「斉藤さん、失踪前におかしな言動してませんでしたか?」
 それぞれ適当な椅子に腰掛けたのを確認してシュラインが口火を切る。
 「うーん…彼、変わった人だったからなぁ。正直、あの人にこんな『普通』の友達がいるとは思わなかったよ」
 龍平を見て言う店長の周りで3人が色々な意味で激しく首を振った。
 「そもそも、何でそんなしょっちゅう連絡取れんようになる奴を雇ってたん?」
 「斉藤くんは顔が広いからねぇ。店員としてというよりは独占販売とかを取り付けてくれたりする方が多かったんじゃないかな。別に正社員じゃないからこっちに損害も出ないし」
 麻樹の質問に店長はドライに答える。店員と店長以上の関係があったとは思えない発言だ。
 「そんなに顔広いなら知ってても良さそうなモンだけどね」
 京香は麻樹の方をちらりと見て呟いた。
 「斉藤さんの住所、わかります?もしかしたら家に引き蘢ってるだけかもしれませんよ」
 シュラインが訊くと店長は苦い顔をする。
 「それが、確かに履歴書を受け取ってパソコンにデータも入れたはずなんだが…何故か紛失してしまって…」
 「もう、しっかりしなさいよ店長!」
 京香が店長の背中を叩きながら言った。シュラインは「浅野くんは知らないの?」と訊ねたが、龍平は首を振るだけだった。
 「あ!」
 龍平は突然何かを思いだしたように声を上げた。一同が注目すると彼は一言。
 「斉藤さん、僕が宇宙人だって言ったら『俺は地底人だ』って言ってました」
 一瞬淀んだ空気が流れ、ひとつ溜め息を吐いて麻樹は言った。
 「いらんわ、そんな小ネタ」

***
 店長にあらかた話を聴き終え、得に収穫がなかった4人は別々に調査を進めることにした。何か手掛かりが見つかったら別ルートで調査をしている草間に連絡を取り、そこから何かわかったら招集がかかるという訳だ。
 麻樹は手始めに、自分の知り合いの中で一番顔の広い業界人に携帯電話で連絡を取った。
 「もしもし?井上やけど」
 『おう、どうした。厄介事か?』
 電話の向こうからは酒と煙草で荒れた声が、心無しか嬉しそうに流れる。
 「ほんまに厄介事好きやねぇ。今回は期待に添えるかも知れへんで」
 『それは楽しみだな。協力してやるよ』
 余計に嬉しそうな声に苦笑しながら麻樹は話を進めた。
 「おおきに。CD屋に勤めとって、そっち系の裏と繋がりのある斉藤って男を捜しとるんやけど、知らへん?」
 『斉藤か…。多い名字だしなぁ。ソイツがどうかしたのか?』
 心あたりがないのか、あるいはありすぎるのか、電話越しの男はそう訊ねてきた。
 「1か月前から失踪しとるんやと。俺は知らんが顔は広いらしいで。あんたが知らんなら、関わってそうな奴に連絡とって欲しいのや」
 『…わかった。今から1か月前後に斉藤と関わった奴を見つけたら、そっちに連絡する』
 「助かります〜」
 やはり彼自身は斉藤と面識がなかったようで、通話はそこで途切れた。
 「あの人と関わってないんか…斉藤って奴、モグリとちゃうか」
 そいつが見つかったらすごい音源手に入れてもらおうと思ったのに、と麻樹は呟いて歩き出す。
 
 10数分歩いて路地に入ると小さくなレコードショップの前に出た。麻樹は慣れた様子で木枠のついたガラス戸を開け、中に入って行く。
 埃っぽい店内に所狭しと並んだ棚の間を通ってレジまで行くと、椅子に座った気難しそうな眼鏡の女が麻樹を見上げた。胸にショッキングピンクで『ROCK!』と書かれた黒いTシャツを着て背筋も伸びている彼女の年齢は、とうに50を越えている。
 「相変わらず元気そうやね」
 麻樹がレジカウンターに片手をついて言うと、女は眼鏡を光らせた。
 「何の用だ?」
 麻樹は手近な棚から今はもう手に入らないはずのレコードを取り出し、人好きのする顔で笑った。
 「これだけのモンが揃えられるんや、そうとう裏ルート知っとんのやろ?」
 「知ってるが、教えられないよ。企業秘密だからね」
 女が突き放すように言うと、麻樹は片手をひらひらと振った。
 「そういう事やない。俺が訊きたいのは斉藤って男のことや。知ってはる?」
 「あぁ、アイツか。腕利きだが趣味が片寄り過ぎるのが良くないな。だからバイトなんてする羽目になるんだよ」
 女は少し軽蔑したように言ったが、麻樹は喜んだ。
 「そいつ、今どこにいるか知らん?」
 「さぁ…知らんなぁ」
 女は斉藤に殆ど興味がないようで麻樹は肩を落としかけたが、彼の携帯電話が不意に着信を知らせる。
 「電話なら外でしな!」
 麻樹は怒鳴られて慌てながらも「また来るでー」と笑いながら店を出た。
 「もしもし?」
 『あ、井上さんですか?』
 電話に出ると、緊張気味の若い男からだということがわかった。
 「そうやけど」
 『あの、僕ちょうど1か月くらい前に斉藤さんに会いましたよ』
 「ほんまか?!何処で」
 麻樹が勢い込んで訊くと、彼は話を続けた。
 『都内です。予約してた輸入板のCDを売ってもらったんです』
 「なんか変な事言うてなかった?」
 『ちょっと厄介な事になってて、しばらく<潜る>、とか何とか言ってましたけど…』
 「潜る…?」
 麻樹は礼を言って電話を切り、わかった事を草間にメールで伝えた。
 返信として都内のある場所の住所が送られてきたのはそれから数分後の事だった。

***
 指定された住所にあったのは、普通の平屋だった。
 だいたい同じような時間に麻樹、京香、シュライン、がそこに集合する。
 「2人とも断片的な情報しか持っていないのよね?武彦さんから聞いているから、私が説明するわ」
 シュラインはそう言って、話し始めた。
 「まず、ここは斉藤さんの家なの。これは私が突き止めたわ。でも今は別の人間が出入りしているのよね?」
 京香に訊くと彼女は頷いた。
 「えぇ、そうらしいわ。目撃情報も多いしね。でも、色んな裏ルートを探ってきたけど、どうも斉藤さんが追われていたとは思えないの。家にいるのはきっと一般人よ」
 「一般人…?じゃぁ肝心の斉藤さんはどこにおるん?」
 麻樹がそう訊いた途端、背後から奇声と共に何かが走ってきた。
 「ちーてーいーじーん!!」
 3人が一斉に振り向くと、そこには金属のスコップを担いだ龍平の姿。至って真面目な表情で目の前の家に突入しようとしている彼を、京香は後ろから襟を掴んで引き留めた。
 「勝手なことするなっ!」
 「放して下さい!地底人はすぐそこにっ!!」
 「浅野くん落ち着いて!」
 もがいている龍平をシュラインは声を荒げる。しかし、その横で麻樹は考え込んでいた。
 「地底人…潜る…?」
 「あ、ちょっと!」
 龍平は京香を振り切って走り、玄関の戸を勢いよく開けた。中から、悲鳴があがる。 
 3人が後を追って家に駆け込むと、その中には怯え切った表情の壮年の男がいた。龍平はその男にスコップを突き付けている。そして案外、静かに言った。
 「訳を話して下さい」

***
 その男は斉藤も勤めている、あのCDショップの元店員だった。
 2か月前にクビが決まった彼は、自分より遥かに勤務態度の悪い斉藤がクビにならないのを逆恨みして嫌がらせをしようと、1か月前に履歴書を盗んだのだそうだ。嫌がらせの手紙を色々送ったのに何の反応も無いのを不思議に思ってその住所に行ってみると既にもぬけの殻。引っ越した訳でもないし、玄関の鍵が開いていたので待っていれば戻って来ると思い、数時間前から潜んでいたという。
 「結局、斉藤って人はどこに居るわけ?」
 話を聞き終わった京香が誰にともなく訊くと麻樹が話し出した。
 「音信不通になる直前に斉藤さんと会った人に聞いたんやけど…『潜る』って言っとったらしい。厄介な事になったから潜る、と。それに浅野さんが地底人って騒いどるやろ?俺は斉藤さんが地下に居ると思うねん」
 「履歴書を盗まれて、身の危険を感じたってことね」
 シュラインが頷くと今度は龍平が言った。
 「この家、3年くらい前に地下部屋を増設してるんです。斉藤さんの失踪が多くなったのも3年前から、と言う事が僕の聞き込みと草間さんの調査でわかっています。地下に続く扉を探して下さい。斉藤さんがいるはずです」
 それを聞いた3人は頷くが、京香は不思議そうな顔をしている。
 「ねぇ、あの人ブチキレたりマトモな事言ったり、頭の回路どうなってんのかしら」
 「どうなってるのかしらねぇ…」
 シュラインは苦笑して呟くが、そのとき部屋の奥から物音がした。
 「そこか!」
 麻樹が言うよりも早く、元店員の男はそちらに向かって駆け出していた。そして再び叫び声。
 「助けてー!」
 襲い掛かったはずの男は、床を開けて現れた髭の伸び放題の男に取り押さえられていた。
 「地底じ…いや斉藤さん!」
 どこまで本気かわからない龍平の声に髭男はこちらを向く。
 「おーやっぱり龍平か。話聞いてたら履歴書盗んだの組織の奴じゃないし、龍平の声が聴こえたから出てきたんだよ。こんな事なら潜るんじゃなかった」
 呆然としている麻樹と京香とシュラインに斉藤は笑顔を向ける。
 「ここを突き止めてくれてありがとう。解決するまで出るつもりなかったからなぁ。あやうくミイラになるところだ!お前達には金になるとびきりレアなレコードか俺のオススメ音源をやるからな!!」
 そう言ってから彼は掴んでいた男の手を放し、少しすまなそうな顔をした。
 「お前には俺のツテで仕事紹介してやるから。もうこういう事はすんなよ」
 「は…はい…」
 半分の恐怖と半分の感激でくしゃくしゃになった顔で男は頷いた。
 こうして事件は、3人のとびきりの苦笑とともに、幕を閉じたのだった。
 

オワリ
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)    ■
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2772/井上・麻樹/男性/22歳/ギタリスト
0864/九重・京香/女性/24歳/ミュージシャン
0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

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■         ライター通信            ■
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 どうもこんにちは。佐々木洋燈です。
 今回はテーマに添って音楽の得意な方々に参加していただいて、とても書きやすかったです。
 その割にこの納品の遅さは何だ、とか言わないで下さい…(謝。
 個人的にとてもとても音楽が好きなので、楽しませていただきました。麻樹さんは神戸弁とのことでしたが、関西弁すらよくわからない私が不自然じゃなく書けたか不安です。一応調べたのですが…。
 言い訳がましくてごめんなさい。そして初参加ありがとうございました!
 では、機会があればまたお会いしましょう☆