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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


殺人者を探せっ!!

オープニング

『人殺しがいるぞ』
と毎夜呼びかける声が何処かからするんです。


 いつもどおりゴーストネットOFFの投稿情報をスクロールバーを動かして熱心に読んでいた時、不意に雫はマウスを放した。ビリビリッとした感覚。途端、パソコンの電源は落ち、暫くして再起動したかと思うと、赤い文字で『殺せ殺せ』と画面一杯に広がった。
「何……コレ〜☆」
 雫は、困った顔をしながらも声は嬉しそうだ。
 HPのバックアップは念のため、取ってあるから問題は無い。だが、他のどのパソコンからゴーストネットOFFにアクセスしようとしても同じような事が起こってしまう。
「んーこれは事件ね☆……確か、場所は新潟県A市だと言ってたわよね……。日帰りはギリギリかあ。でも一人で行ってもいいけどぉ、やっぱこういうのは沢山の方がいいよね☆」
 雫は思いつき、ケイタイで顔見知りにメールを入れた。


『今週日曜日、おヒマな人は、新潟県まであたしと一緒に怪奇ツアーに行きませんか? 雫より☆』


 雫はそれを打ち終えて、本当に嬉しそうに笑った。





「悪意のある想念に対応するのは僕の専門分野ですからね。雫さんの頼みですし、お供しましょう。その前にゴーストネットにアクセスして現象を確認させていただきますね」
 雫の連絡に応え集まった1人である御堂・譲が言った。茶色のショートの髪に青い瞳の少年だ。優しげな微笑をいつも浮かべている。
 事件があったネットカフェ。そこに雫たちは集まっていた。
 譲は、ゆっくりと微笑し、パソコンを立ち上げる。長剣を椅子の傍らにおいている。それにスッと譲は視線を動かし、雫に笑んだ。
「この竜胆は神刀で、実体を斬るのではなく悪意や霊等を切り伏せる力を持っているんです。そして悪意や霊等を感知するとその場へと導いてくれる能力を持ちますから、アクセスを行ってそれに触れれば居場所を特定する助けになるかと思います」
「それは興味深いですね」
 黒いショートの髪、黒い瞳の少年が笑った。八重咲・悠。誰が見ても好感が持てる容貌だが、狂気めいた笑いを浮かべ、不吉な雰囲気を漂わせている。また、遠視の為メガネも着用していた。その隣に小柄な男が立った。雪ノ下・正風。緑のショートの髪に黒い瞳。不敵な表情がよく似合う活発そうな青年だ。正風は更に興味深そうに画面に覗き込む。そしてふと、顎の下に手をやり、うなった。
「突如パソコンに浮かび上がる殺人命令の文字・事件の謎を解くために新潟へと向かう作家探偵とその助手達……痛っ」
「痛っじゃないよ☆その助手って誰のことよ〜ッ!」
 ゴツンと背中から正風に雫がアタックした。正風はハハハッと軽く笑う。
「イヤイヤ……しっかし、ありがちな事件だよな最近の和風ホラー映画にそっくりだ」
「ええ〜☆でも、その映画で起こるようなことが現実になってるから面白いんじゃん〜?」
「どうやら…立ち上がったようですよ」
 悠がゆっくりと笑って割って入った。雫は譲の肩に両手を置き、覗き込む。
「うわうわやっぱり『殺せ殺せ』の文字〜☆うきゃ?あ、落ちる?」
 パソコンの画面が突然真っ黒になった。
 譲がフッとため息をつく。雫はその肩にべたっと寄りかかる。
「で、どうどう?譲ちゃん。何か、分かった?」
「あ、はい。大体の居場所は。雫さんの方は依頼者さんとは連絡が取れましたか?」
「ん。おっけ〜☆バッチシよん」
「それでは…出発いたしますか」
 悠は笑った。黙示録をパラパラと捲る。そしてあるページで手を差し入れる。紙面から紫色に燃ゆる七芒星が現れる。悠の髪が逆立つ。
「第九章 動の章」
 悠の体が紫色に光る。足元には紙上と同じ巨大な魔法陣が現れている。悠は笑った。譲、正風、雫を順に見て瞳を閉じた。

「そう言えばぁ――悠ちゃんのケイタイ番号ってあたし、知らなかったよね?どうしてこのこと、知ったの?」
「それは…知り合いの方にあなたのメールを頂いた方がいまして……」
「それで、悠ちゃんが来てくれたんだ☆」
「ええ。その方は都合が悪いようでしたので」
「おっ着くぜっ」
「ええ」
 正風と譲が言う。
 視界が変わった。

「うわわーホントに新潟県A市だ☆」
 雫が両手を上げて青空を振り仰いだ。東京よりずっと空が青く、雲の白が濃い。コンクリートの大通りに行き交う人々や両脇に立ち並ぶ店は東京とあまり変わりはないが、ひんやりとした空気に雫は一度大きく息をして吐いた。正風がその横で目に庇をかけ、左右を見回している。
「おー東北はやっぱり人が多いな」
「それ、関係ないでしょ☆」
 すかさず雫がビシッと正風の背中に突っ込みを入れる。そこに黒い影が伸びた。
「ねえねえ〜一人〜?」
「え?」
「うわーお。譲ちゃん、早速モテモテだ☆」
 譲の前に立っているのはギャル風の女の子三人組だった。それぞれ髪の色を金に近い茶色にまで染め、目の周りを白く染めている。困ったように首を傾げている譲の前に正風が進み出る。軽くお辞儀をして微笑んだ。
「ではでは、お嬢さん。俺がお相手しますよ」
 しかし、その間でゆっくりと棚引く黒いものがあった。
「何か…最近変わったこと等ありませんでしたか?」
「ひ……」
 悠だった。見下ろすような視線で微妙に首を傾げている。少女の一人が怯えたように一歩下がった。その肩を正風が後ろから抱く。
「あ、大丈夫ですよ、お嬢さん。悠はちょっと見た目怖いけど、常識人だから。というか、何かあったら俺が守ってあげますから」
「う、うん……」
「で、さっきの質問の答えは?」
 譲がにっこりと笑う。少女たちの背筋が伸びた。
「あ、はいっ!!ええーと、最近起こった変わったこと……ですよね?特には……ねえ?」
 正風に肩をつかまれている少女が隣の子に聞く。
「う、うん……。ここ田舎だしさ、何かあったらすぐにウワサになるんだけど……最近は特にナイ……かな?」
「あっでもっ!!」
 あとの一人が手を打つ。
「何かさーまあ、最近でもないんだけどさ、“白い家”ヤバイって聞かない?あの例の」
「ああ……アレねー」
「白い家?」
 譲が首を傾げる。少女たちは意気込み、身を乗り出した。
「あっはいっ!!ここら辺では有名な心霊スポットなんだけど……最近……というかここ二、三年?夜中に悲鳴が聞こえてくるってウワサされているんです。フツーに人が住んでいる家なんで、気味悪いけど、そのままにしておくしかなくて。ケイサツにも連絡とかあったみたいだけど、元々その家の人っていうのがケイサツ関係者らしくて、取り合ってもらえないってもっぱら言われてるんですよ」
「悲鳴……ですか」
 悠が笑う。
「ますますアニメっぽい展開だな」
「そこから離れなさいって☆ビシ」
 雫が正風に突っ込む。
「あっところで雫さん。依頼人の方には一応連絡を入れておいた方がいいんじゃないんでしょうか?会っていただけるかもしれないですし」
「あっそうね☆さすが、譲ちゃん。頭良いわ☆」
「イヤ、それくらいフツー頭回んだろ」
「ムキー」
 正風の胸を雫がボコボコと叩いた。その肩先に赤いものが翳される。
「はい…雫さん。携帯です」
 悠がいつの間に抜いたのか、雫のドコモを目の前に差し出していた。
「う……いつの間に」
「面白そうな事件ではないですか」
 悠は笑う。
「そ、そうよね☆さっささーと連絡しよーっと☆」
 雫はピポパと鳴らし、依頼人を呼び出す。
 その間、譲は少女たちに正風の携帯番号を教えていた。

「あっこっちこっちー☆」
 雫の呼びかけに少女が駆け寄ってきた。逆ナン少女たちを、譲が携帯番号とともに追い払った後のことである。少女は肩で息をし、乱れた髪の毛を直した。
「あのっわざわざこちらにまで来てくださってありがとうございますっ!!あの、HPに投稿しました、ハンドルネームめぐです」
「御堂・譲です」
「八重咲…悠です」
「雪ノ下・正風だっ」
「そしてあたしが何でも解決屋☆瀬名・雫よんっ」
「イヤ、あのHPの解決率、一割以下だと聞いたが?」
 雫が正風の背中をゴチンと叩く。
「はーい。細かいこと気にしなーい」
「いってーっつうかあんたの容姿も一種の武器だよな」
「ムー」
「あ……あの」
 めぐは正風と雫の顔を交互に見やり、両手を前に出す。悠がそれにゆっくりと笑んだ。
「あなたのお宅は、どちらでしょうか?」
「え?」
「声が聞こえたのは、一人の時限定ですか?それとも何か特別な状況下のみでしたか?」
「えーとあの……」
「あ、ごめんね。悠さんは早く君の状況を何とかしたいみたいなんだ。出来るだけの状況と現場を僕たちに教えてくれるかな?」
「あっはい……」
 譲の言葉にめぐはパッと赤くなり、俯いた。正風が笑う。
「まさに女性吸引機……」
 しずくはまたバコッと正風の頭をはたいた。
 「痛」とうずくまる正風。それにめぐは少しだけ笑んだ。続ける。
「えーとあの、声が聞こえてきたのは、家にいる時でした。回数は日に何回もある時もあれば少ない時も。ばらばらです。あと、一人の時とか、皆でいる時とか、そういうのはあまり関係ありませんでした。場所も最近は何処でも聞こえるようになってしまいました」
「それは……」
 雫が言いかけ、それを途中で悠が遮った。譲に聞く。
「“竜胆”は反応しましたか?」
「いいえ。全く。めぐさんの周りにそういうものはないようです」
「先ほど、感知された“悪意”の居場所はここから近いようですか?動いてますか?」
「ええ。とても近いようです。そして、不思議なことに全く動きがないようです。……生きているものに近いと思っていたのだけど、僕の勘違いだったのかな」
「あのーもーしもーし?」
「あ、何でしょうか、雫さん」
 譲がゆっくりと微笑んだ。
「あたしたち置いていかれて二人だけで話をされるととっても寂しいよーな気がするんだけどー」
「右に同じく」
「あっすみません、雫さん。それであの……めぐさん。一番最初に“声”が聞こえたという現場に僕たちを連れて行ってもらえないかな?」
「あっはい」
 譲にじっと見つめられ、赤くなりながらめぐは家に行った。

「ここがウチです」
 そこは高台にある巨大な一軒家だった。日本家屋風のものなら、多少大きくても違和感がないが、西洋風のもので、しかも割と新しいデザインのものなので、目を惹いた。窓は横に下は二十個、上は十個並び、家を取り囲む塀は家の背より高く、門から玄関まで五分程度を要した。だが広大な中庭は雑草が生い茂り、蔦が本来白い壁を緑に変えてしまっている。高木も思い思いに伸び、枝が窓に突き刺さっているものもあった。雫はそれを口を大きくして仰いでいる。譲はにっこりと微笑みながら佇み、正風はしきりにシャッターを押している。悠はその白い壁にゆっくりと笑み、呟いた。
「“白い家”ですね」
「え?」
 ギクッとめぐの肩が揺れる。それを横目で見て悠は続ける。
「ここに来る前に噂で聞いたのです。白い家から時折…悲鳴が聞こえてくると」
「あわわ……悠ちゃんっ!!」
 雫が慌てる。めぐは数瞬俯き、そして顔を上げた。ゆっくりと笑む。
「単なる、ウワサですよ」
「そうですか」
「ふうー」
 雫の肩が下がる。めぐが前へと小走りに走る。少し遠い玄関を向こう側から開ける。ギィーッという音。それに紛れて
「……否定、しなかったな」
「ええ、そうですね」
 正風と譲は囁き合った。

「ここが声の聞こえてきた場所です」
「うっわー広いっつーか、やっぱおっかねもちだねえーえ」
 雫は感心しつつ、壁や天井を触りまくる。壁も天井も真っ白く塗装されていて傷一つない。そのため天井から垂れ下がっているシャンデリアのその金の輝きをより一層強く散らしていた。床には紅い起毛の絨毯が敷かれてある。廊下の両隣にある扉は整然と縦に十個ずつ並び、奥にはエレベーターもあるようだった。一つ一つのドアノブも動物がそれぞれ象ってあり、ドアの意匠もかなりアンティークなものだった。悠はそのドアを一つ一つ見ながら、言った。
「空き部屋も随分多いようですね。どなたか先に住んでいらっしゃったのを買取をなさったのですか?」
「え、ええ……」
 めぐはどこか怯えて応える。
「どんな人が住んでいたのかな?」
 譲が聞く。めぐの背がまたパッと伸びた。
「はっはいっ!!えーと……華族の方が使用なさっていたとか……。私も父からちょっと話を聞いただけなんで詳しくは分からないんだけど……」
「華族っ!!それは、没落してこの家を去る時、さぞかし無念だったろうな。しかし、まあそれだったらこの家の調度がちょっとアンティーク調なのも納得いくな」
「……」
 めぐは鳥の小物をじっと見た。悠がそれに気付き、笑う。悠はその小物をゆっくりと笑いながら手に取った。
「ところで、突然押しかけてとっても迷惑だと思うんだけど、もし良ければ、空き部屋に泊まらせてもらえないかな?僕たちあまり準備とかしないで来たからホテル、予約してないんだ。あ、もちろん無理だったらいいから。気にしないでね」
「あっ!!いえ、もちろん、宿、お貸しいたしますよっ!!ご覧のとおり、部屋は余ってますし、父と母も今、出張中でいないんです。ただ、やっぱり突然ですので、あまりお構いは出来ないと思いますけど……」
「いっえ〜い☆ホントホント?泊めてくれるの☆ラッキーもうぜーんぜーん大丈夫だよっワーイ楽っしみ」
「……楽しみ?何が……ですか?」
「それは、コッチの話だぜっ」
 ビシッと正風は親指を立てた。そして一行はこの家に泊り込むことになった。

 夕食後。それぞれに割り当てられた部屋から廊下の一番端の雫の部屋に譲、悠、正風は集まっていた。十六畳くらいだろうか。床にはやはり紅いじゅうたんが敷かれ、ベッドには陽の香りのする布団が敷かれている。
「鍔鳴り…止まらないようですね」
 悠が言う。興味深そうに目を細めた。譲は軽く肩を竦める。
「ええ……特にここに入ってから」
 そう言って床を軽く小突いた。
「ということは…ここが最初に感知していた場所ですと?」
「ええ……恐らくは」
「……」
 悠は、その答えを聞き、手の中の鳥の置物を持ち替えた。角度を変え、幾度も見る。それからタンスの上に置かれた鳥の剥製やトナカイの角、部屋の角に置かれた鎧騎士に目を向けた。
「……何か?」
 譲が首を傾げる。
「いえ…どうして人は嘘を付くのだろうと…思いまして。ここまで大掛かりに嘘を付くのは、一種の“狂気”に近いなと思いまして」
「?」
 雫が首を傾げる。譲が笑う。
「ああ……調度のことですね?元華族という「嘘」を取り繕うために、ここまで買い揃える……それは確かに狂気に近いかもしれませんね」
「ええ〜?ここの家具って昔からあるものじゃないの〜?だってスッゴク古そうじゃん?」
「その家具の保存状態が可笑しいんだよ。あまりに傷が無さすぎる……。博物館ではあるまいし、個人所有でこのレベルの保存を何十年も出来ると思えない」
 雫の不満そうな声に今度は正風が応える。正風は続ける。
「そんで、このイヨーに厚い壁」
 ゴンゴンと壁を叩く。音が鈍い。
「あと、部屋の右上を見て下さい。あそこだけ、埃が少なく、壁が汚れていないでしょう?変に四角く。あんな場所に取り付けるのは一つしか考えられません」
「監視カメラ……」
「そう、ご名答っ」
 正風が譲の問いに答えた雫にパンパンと手を叩く。
「要するにこの建物はろくなもんじゃなかったってことだっ。そんなもんを取り壊さず、そのまま買い取るなんてのはこの家もそーとーワケありだなっ」
「二階の窓には鉄格子まで嵌めてありましたからね……」
 悠は鳥の置物を手の中で転がしながら言う。
「そっそれじゃもしかして隠し部屋なんかもあったりして☆」
「あ、ありますよ。雫さん。ここの床、この一部分だけ薄いです。下に何かありますね」
 譲が微笑み、しゃがみながら絨毯を引っ張り上げ床を叩いた。
「ええー☆じゃ、んー?でもカギとか仕掛けとか?」
「ぶっ壊してもいいならやりようはあるけどな……地道に探すか……っと、悠。何か、見つけたのか?」
 正風が悠の背後から覗き込んだ。
「ええ」
 悠が壁を強く押す。三センチ平方くらいの正方形が壁に沈む。地下への入り口が開いた。
「わ〜☆さっすが悠ちゃん♪んじゃゴーゴゴー☆」
「雫さんはいつでも元気ですね」
 譲はゆっくりと笑った。すぐに入りそうになる雫をやんわりと止めて先頭に立って入っていった。

「なんかさあ、こういうところって幽霊っていうより、人の念が溜まってるって感じしないか?っつかさ、スゲエ勢いで俺ら睨まれてんだけど」
 地下への階段は、真っ暗闇だった。空間も狭く、一人が背を曲げてようやく入れる程度だ。譲、正風、悠、雫は各々予め用意してきていた懐中電灯で足元を照らしながら慎重に歩き進めていた。正風の呟きに譲が振り返る。
「ああ……正風さんは霊感が強いのでしたね。やはり、たくさんいらっしゃるのでしょうか?」
「そりゃあ……っつか、スゲエ。この家入った時から何か嫌な予感がしてたんだが、見えなかったから気のせいだと思ってたんだけどよ、地下にこんな全部溜まってたなんてな……こりゃ、この家に結界張ったヤツは相当なもんだ」
「何か、言ってますか?」
「苦しいってさ。病院服を着ているヤツがいるから病院でもあったようだ。服装とかが結構最近のもんだから、多分、感染病棟か……もしくは精神病棟だな。あとは、昔のヤツも結構いる。農民っぽいのとか。こっちは大抵首がないから、刑場だったのかもしれないな」
「それは…興味深いですね」
 悠が目を細める。雫も笑う。
「うんうん☆そうよねえー階段下りるだけでそーんなに沢山いるなら、この下りた先には何があるのかしら☆もうドッキドッキー」
「俺は……あまり気が進まないけどな」
 正風は首の後ろあたりをポリポリと掻く。雫は目を丸くする。
「え?」
「俺の女が、隣で泣いてやがんだよ。イヤだってさ」
「守護霊の方ですか?」
 譲が振り返る。
「ああ」
「でも、ここまで来たら前進あるのみでしょー☆ゴーゴゴー」
「ホントに雫さんは元気ですね」
 譲は苦笑し、前方の扉を開けた。

「うわっ☆何このニオイ。すご……」
 真っ暗闇の中に、糞便の匂いが漂っている。ベチャッと踏んだものに雫は飛び跳ねた。
「これは……幽閉部屋ですね」
 譲が呟いた。雫が大きく首を振る。
「酷い……」
 悠は興味深そうに笑んでいる。正風が目を細めた。
「……来るぞ」
 ペチャペチャッという音が近づいてくる。ものすごい異臭。雫は思わず鼻をつまんだ。
「めぐ……めぐみちゃん。やっと……来てくれたの。オ……オレず……待って……」
 譲が懐中電灯でその男の顔を照らした。顔の輪郭すら分からないほどの髪が流れていた。下は何も着ていない。裸だった。雫は目を背ける。悠は笑んでいる。譲はややその目を険しくした。正風は痛そうに顔を歪める。
「オ……オレずっ……あやまり……うわあああっ!!」
 男の体が二重にブレた。咆哮とともに髪が伸び、譲たちへと突き立てる。譲は間一髪で避けた。
「どういうことだか、分かりますかっ?正風さん?」
 譲は竜胆を抜き出しながら聞く。
「霊が入ってる。しかも相当な数だ。元々霊媒体質のようなのもマズイ。意識が今まで持っていた方が不思議なくらいだ」
「きゃあっ!!」
 雫が液体にこけた拍子に髪に絡まれた。譲が走る。竜胆を滑らせ、男の背を斜めに切った。グオーッと男は身をよじらせながら、転がる。そのスキに正風は髪から落ちる雫をキャッチする。悠がパラパラと黙示録を聞き、紫の炎を顕現させる。笑んだまま、男の手足に纏わりつかせた。男は苦悶の叫びを上げ、動きを止める。正風がその腹にこぶしを叩き込む。男は、両目を開け、失神した。正風が身を退く。譲がその剣を振り翳した瞬間。
「やめてっ!!」
 めぐみの声が響いた。男の目がカッと見開く。その炎を振り解こうと一瞬身じろぎした。悠は目を細め、笑む。炎は更に大きくなり、男は声も上げずに全身を張り上げ床に落ちた。口端からは白い泡が出ている。悠はゆっくりと笑った。炎が消える。
「やめて……」
 譲が懐中電灯を動かすと、その白い円の中でめぐみは膝をつき、顔を覆い泣いていた。
「お兄ちゃんなの。この人、私のお兄ちゃんなのよ……っ!!」
「!!」
 雫は、起き上がり、めぐみを見た。めぐみは悠の持っている鳥の置物を見た。
「……鳥の置物。やっぱり、譲さんたちが持っていたのね」
「これが、何か?」
 悠が笑う。
「それは……優しかったお兄ちゃんとの……最後の思い出なの。私が昔それを森に落としてしまった時……一人でコッソリ拾いに行って……心配したおにいちゃんが探しに来てくれた……。でもそれからお兄ちゃん可笑しくなっちゃって……」
「ああ、森はヤバイもんが多いからな。霊感体質ならなおさらだろう。何かくっつけてきたんだな」
「私の、首まで絞めようとして……」
「だから、地下に幽閉したんですか?家の名誉のために?めぐみさんの家、警察関係だと聞きました」
 めぐみはその刺すような譲の瞳をじっと見た。涙で潤んではいるが、決してはずさない。ゆっくりと頷いた。
「それでは…夜悲鳴が聞こえるというのも…彼のものですか?何か…折檻のようなものでもしていたのでしょうか?」
 悠のそれにはめぐみは首を振った。
「いいえ。そんなことはしてません。だけど……夜な夜な私の名を呼ぶ声が地下から聞こえてきて……」
 めぐみは肩を抱き、体を震わせた。正風は笑う。
「罪の意識から来る幻聴か。そしてネット荒らしたのも多分、あんたのその強い想いだな」
「……」
 めぐみの手から何かが光った。それをめぐみは自分の顎の下に突き刺すように翻す。紅いものが部屋中に飛び散った。
「ゆ、ゆい兄っ!!」
 毛むくじゃらの男の両手がナイフとめぐみの首の間に挟まっていた。紅い雫が次々と落ちる。
「……どうして……っ!?」
「めぐみ。ごめん。オレのせいでめぐみを苦しめた。ゴメン」
「……違う……っ!!私が、私のせいでお兄ちゃんが……っ!!」
「……ゴメン」
「あーハイハイ。どいてどいてなー。この人ホントに手当てしないと死ぬかんなあ。――ってゆーか、俺、あんま白魔術得意じゃねえのよ。攻撃専門、突撃隊長だから」
 そう言いつつ、正風は掌に九字を切り、白く光らせると、ゆいの傷に翳した。みるみる傷口が埋まっていく。そして正風は悠を振り返った。
「おう、悠。悪いけど、こいつに守護魔術かけてくれないか。確か「黙示録」の中にはそういうものがあったよな」
「了解いたしました。ゆいさん、少し目を閉じていてください」
 パラパラと黙示録を開く。七芒星を軽く彼の額で描くと、その中心を押した。ゆいの体が光り輝く。そしてそれは一瞬で消えた。
「これでもう…低級霊にたやすく侵されることはないでしょう」
 悠はゆったりと笑った。
「そ、そうか。ありがとう」
 ゆいはにっこりと笑った。
 めぐみはゆいに抱きついた。

●後日談

「本当にありがとうございました」
 翌日、こざっぱりと髪を切り、フロにも入ったゆいとめぐみが譲、悠、正風、雫に頭を下げた。雫は軽く手を振る。「頑張ってね」と言った。二人は、すぐに見えなくなる。来た時と同様、悠による魔術で帰っていくのだ。雫は笑う。
「ゆい兄さん、譲ちゃんに似ていたね。めぐみちゃんが赤くなってたのはそういうことだったんだ」
「ええ」
 譲も笑う。それに雫は再び微笑みかけて腕に巻きつく。
「これからだね……多分あの二人が大変なのは」
「ああ……一度“狂った”と烙印を押された人間が社会復帰するのは相当しんどいからな。父親と母親もまず反対するだろうし」
 正風も遠い目で言った。悠は霊の鳥の置物をずっと見つけ続けている。二人から、ずっと持っていていいと言われた品だ。
「……どうして、これでなくてはいけなかったのでしょうか?わざわざ危険な森に拾いに行かなくても新しいものを買えばすむことだったのでしょうに」
「それはね☆悠ちゃん」
 雫が笑う。
「ホントは代わりのものなんてないからだよ」
 その小さい鳥の置物には「めぐみちゃんへゆい兄より」と小さく書かれていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0588/御堂・譲/男性/17歳/高校生】
【2703/八重咲・悠/男性/37歳/侍】
【0391/雪ノ下・正風/男性/22歳/オカルト作家】

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■         ライター通信          ■
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御堂・譲さま
はじめてのご発注、ありがとうございます(^^)
お届けが遅れてしまい申し訳ありませんでしたm(__)m
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたでしょうか。
私個人としては大変楽しんで書かせていただきました!
御堂君には是非幸せになっていただきたい!と思って
このノベルが出来上がったのですが
イメージと違ってしまっていたら、申し訳ありませんm(__)m

ご感想等、ありましたら寄せていただけると嬉しいです。
もしよろしければ、またのご発注もお待ちしております