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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


一掃(後編)



■ オープニング

「……眠れないわ」
 響・カスミはベッドからむくりと体を起こした。眠れないのは先日、学内で爆発事件が起きたからである。
 エジソンもビックリの大爆発を目の当たりにしたカスミは、その爆風に吹き飛ばされ数時間ほど気を失ってしまった。心霊現象であれば、もはや記憶など薄れているはずだが、現実的な事件では少し違うらしい。
「もっと……調査が必要だわ」
 ベッドから降りて、今まで調査してきた内容を確認し、新たに疑いのある部をピックアップしていく。
「園芸部……確かおかしな植物を育てているという噂があったわね……。チェックと……。軽音部は不良の集まり……か。ここも問題ありそうね」
 学生たちからの協力もあり、調査は順調であった。だが、彼女は安心できない。怪奇現象であるならば、自ら調査を行うなんてことは出来なかったであろうが、今回の彼女はとても積極的だった。
「……天文部は真面目だから逆に怪しい、と。物理学研究部? あ、あ、怪しすぎるわ。いえ、100%の確率でおかしな研究を行っているに違いないわ!」
 およそ客観的な推測ではない。カスミは私情が絡むと冷静な判断力を失ってしまう。
「ふふふ……見てらっしゃい。あははははっ!」
 暗い寝室でネグリジェ姿のカスミが高らかに笑い声を上げた。 



■ 園芸部

 調査員四人とカスミは、花壇とビニルハウスのある場所へと向っていた。園芸部はグラウンドの隅で活動をしているのだ。
「……無闇に遠いですね」
 硝月・倉菜(しょうつき・くらな)が誰に言うでもなく呟いた。
「僻地にあるからこそ怪しいのよ。きっと、おかしな植物を育てているに違いないわ!」
「カスミ先生……強引過ぎるよ」
 呆れ顔で、だが調査に協力する飛鳥・雷華(あすかの・らいか)。
「調べなければ、確かなことは分かりませんよ」
 聖霊・Altria(セイレイ・アルトリア)が雷華に告げる。彼女は雷華をマスターとする武具に宿る御霊である。今は具現化した状態だ。
「爆発物なんて本当にあるのか?」
 不城・鋼(ふじょう・はがね)がぼやく。しかし、またもやカスミは聞いていない。
「……必ず……探し出して……ぶっ……コロ……」
 物騒な言葉をとぎれとぎれに発した。が、誰もが聞こえていないフリをした。このままではカスミ自身が爆発してしまいそうだ(それほど熱が入っている)。魂が抜け、悪魔が乗り移ったのではないかと思わせるほどキャラが変質してしまっていた。
「抜き打ち検査だって?」
 園芸部の部長は大柄な体系をしていた。顔に似合わず植物が好きなのだろうか。
「とりあえず、怪しい植物については全部説明してもらおう」
 鋼が前に出て部長に話す。すると、部長は渋い顔をしながら承諾した。
「私は物質の構造が分かるから説明との矛盾があればすぐに分かるわ」
 倉菜が部長に告げる。彼女は物の構造を把握する能力を有するのだ。
「うわー、すごい奇麗な花だねー」
 調査が始まって数分、雷華が騒ぎ出した。あまり真面目に調査をする気はないようだ。
「ライカ、静かに」
 そんな落ち着きの無い雷華を注意するAltriaはまるで母親のようであった。
「これで終わりだよ。もう、いいかい?」
 あらかた部長の説明が終わる。特におかしな物は発見されなかった。
「……何か隠しているんじゃないの? 聞いた話では危険な植物を育てているとか……」
「確かに昔、そういうものを育てていましたけど。全部、顧問の先生がやっていたことです。ここだけの話ですけど、それが一度、理事長にばれてしまったらしくて、注意されたらしいんですよ。結局、危険性のある植物を、この園内では育てない、という結論で解決したという話です。もちろん、僕らは直接関係のない話です。響先生、もう、いいですよね?」
「――チッ」
 カスミは、どこぞのヤクザ風に舌打ちをした。
「……さあ、問題はないようですし、次へ行きましょう」
 何事もなかったかのように倉菜が話を進める。
 そして、四人+カスミは次の軽音部へと向った。



■ 軽音部

 軽音部に入ろうとして雷華がどこからか太刀を取り出した(これはつまり、御霊であるAltria自身である)。
『何をする気なのですか……ライカ?』
 実体化していないため、Altriaの声は雷華にのみ届く。
『念のため……用心のためだよ』
『……そ、そうですか』
「どうかしたのか? 雷華?」
 不審に思った鋼が訊くと「なんでもないよ」と雷華は笑いながら返した。
「では、入りましょうか?」
 倉菜が全員に訊く。各々が頷く前にカスミがドアを開いた(暴走中)。
「抜き打ち検査よ!」
 カスミが叫ぶと室内にいたイカツイ男子生徒たちがカスミに向ってガンを飛ばしてきた。
「……さあ、皆、行くのよ」
 後退りしながらカスミが小声で言う。教師の威厳はどこにもない。
「……お前は不城じゃねえか」
 不良の一人が鋼の存在に気づく。鋼は以前、この学園の総番を張っていたことがある。目の前の男はその時、対立していたグループの男だった。よく、室内を見渡せば見知った男が他にもいた。
「今日は調査できたんだ。それに、俺はもうお前らとは関係ない。調べさせてもらうぜ」
 教師(カスミ)もいるので男たちは仕方なく承諾する。
「木刀が七本に、スタンガンが二個……全部没収だな」
「……軽音部という名は、まったくもって相応しくないわね」
 倉菜が表情を変えずに言う。部内には音楽に関係のある機材は一切、置いてなかった。単なる不良の溜まり場と化しているようだ。男臭いし、タバコの臭いもする。
「うう……いっつもボクのことを男、男ってばかにしてくれて……」
「ん? 何だよ、お前もいたのかよ?」
 どうやら、雷華の同級生が軽音部にいたようだ。あまり、仲はよくないようだが……。
「―――むう!」
 男子生徒が動いた瞬間、雷華は太刀を抜いた。生徒たちがどよめきの声を上げる。
「一般人相手になにをしていますかぁ!!」
 突如、自ら具現化し姿を現したAltriaが雷華を怒鳴りつけたと同時に顎にアッパーカットを決めた。床に沈む雷華。室内にいた全員が硬直してしまう。
「……自分の力とそれを使うべき場所を―――」
 その後、Altriaのお説教は数時間にも及んだ……。



■ 数時間後の調査

「元気出せ、雷華」
「うん……」
 未だに暗い表情の雷華を慰める鋼。
「残りは天文部ですね」
 倉菜が窓の外に視線を投じる。すっかり暗くなってしまった校舎を四人は歩いていた(Altriaは具現化していない)。Altriaのお説教により時間を浪費してしまったため、物理学研究部の調査はほとんど行なえなかった。しかし、普通に活動をしていたし、特に問題はなさそうだった(そもそも、カスミの過剰な憶測なのだ)。
 最後は天文部。今日は夜に部活動を行なっているらしい。
 屋上の硬い扉を開くと冷ややかな風が吹いてきた。すでに機材の準備も終え、観測の段階に入っているようだった。
「響先生、どうかしたんですか?」
 女子生徒が駆け寄って来た。どうやら、彼女が部長らしい。
「今、抜き打ち調査を行なっているのよ。最後は、ここ天文部というわけ」
「噂どおりですね……」
「……どういうことかしら?」
 倉菜が訊く。
「先日、魔術研究部が廃部になったこと聞きました。けっこう、噂になっているようですよ。ですから、もう抜き打ち調査の意味を成さないと思います。もちろん、うちの部も例外ではありませんよ」
 部長はにこやかに笑った。
「カスミ先生、もう無理なんじゃないのー?」
 雷華が言った。
「……一応、最後まで調べましょう」
 カスミは力なく呟いた。
「電気を使う機具を中心に見せてもらえませんか?」
「ええ、いいですよ」
 倉菜の提案に部長が快く承諾する。
 冬ということで暖房器具がいくつか設置されていたが、当然ながら防寒が目的であるわけで、問題など見つかるはずも無かった。
「……結局、無駄骨だったみたいだな」
 鋼が屋上のフェンスに寄りかかる。その隣で雷華が部員に混じって天体観測を始めていた。Altriaも具現化している。二人はどうやら興味津々のようだ。
「……はぁ、やっぱり、この巨大な学園では……」
「全ての部を調査するのも無理があるしな」
「そうね……あら?」
 倉菜が声を上げる。
「どうしたの、硝月さ……ん……え? な、な、な―――」
 カスミは『ソレ』を見て卒倒した。
「ど、どうしたの?」
 雷華とAltriaが慌てて駆け寄る。
「今、空中に人影が……」
 倉菜が説明する。
「……ああ、たまに出るんですよ、この屋上は」
 部長が向こうから笑いながら歩いてきた。
 カスミはその後、二日間、眼を覚まさなかったらしい。



■ 数日後

 体調も戻り、久しぶりの学校。カスミは昼休み、職員室でくつろいでいた。ちょうどそこへ、四人がカスミのもとへやって来る。
「あら、皆、どうかしたの?」
「カスミ先生、生きてたんだねー」
 雷華がぶしつけにとんでもないことを言う。
「お体は大丈夫なのですか?」
 Altriaがさりげなく雷華の言葉をフォローする。
「ええ、何とも無いわ。元気そのものよ。ところで、数日前のことだけど……」
「調査は特に問題なく終わりましたよ」
 鋼が言うと、
「調査? 一体、何の話?」
 首を傾けカスミは考え込んでしまった。どうやら、記憶が吹っ飛んでしまったらしい。やはり、怪奇現象を目の当たりにすると記憶が都合よく消去される仕組みのようだ。便利なような難儀なような……とにかく複雑な頭脳だ。
「初めからこうすればよかったのかもしれないわね……」
 特に悪意も無く倉菜が淡々と言ってのけると他の三人が笑った。カスミは首を傾げたまま唸っていた。
 抜き打ち調査はそれなりの効果があったようで、しばらく学園は平穏が続いた。しかし、再び活気(?)を取り戻すまでに時間は掛からなかった。今日も神聖都学園は生徒たちの喧騒で賑わっている。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2194/硝月・倉菜/女/17歳/女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)】
【2450/飛鳥・雷華/女/16歳/龍戦士 兼 女子高生】
【2732/聖霊・Altria/女/999歳/聖霊】
【2239/不城・鋼/男/17歳/元総番(現在普通の高校生)】

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■         ライター通信          ■
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調査依頼「一掃」(後半)というわけで、引き続き、ご参加くださった方々ありがとうございます。
結局、カスミの目的は達成されない内容になってしまいましたが、とりあえずこんなオチでしめてみました。
カスミ先生がやや暴走しすぎでしたかね……(ちょっぴり反省)。
機会があれば、またお会い致しましょう。それでは、失礼させていただきます。

 担当ライター 周防ツカサ