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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


困った大人の協奏曲(コンチェルト)


 その日、アトラス編集部はいつものように騒がしい。
 例に漏れず締め切りがどうとか、誰それが居なくなっただの三下の原稿が却下されたりして賑わっていた。
「大変そうね」
 声をかけた後で、辞めればよかったと後悔する。
「リリィちゃん、ちょうど良い!」
「お願いがあるの!」
 三日月リリィは夜倉木有悟と碇麗香に肩を叩かれ後ずさるが、逃げる事も出来ない。
「な、なにがあったの?」
 まあ、予想はしていた通りの事では有った。
「りょうが居なくなったんだ」
「この忙しい時にっ!」
 最近仕事が立て込んでいるらしく、ここ三日ばかりろくに寝ていないらしい。
 だからこそ、りょうが逃げた事で苛立ちに拍車をかけて居るのだろう。
「なにか逃げ込み先知らない? 最近巧妙になってきて……夜倉木君でも解らないらしいの」
「りょうとナハトが一緒で解らない訳無ですから、結界でも張ってるのかも知れませんが……そう言う事が出来そうな人には全員引き渡せと連絡していますし」
「そういえば、最近よくケーキとか買って出かけてるけど」
 その一言で麗香と夜倉木の動きが止める。
「……解った」
「ええ、彼しか居ないわね。何で気付かなかったのかしら」
 ここ、アトラス編集部にいるのだ。
 ひょっこりと顔を出しては、編集部にてお茶や甘い香りのケーキを楽しんでいる人物。
 ユリウス・アレッサンドロ。
 若くしてにまで上り詰めた経歴の持ち主であるが……何時も飄々した表情でそこにいる。
 アトラスの備品の紅茶やクッキーを美味しそうに食べながら。
 その姿は、今はない。
 ユリウスとりょう。
 接点など有りそうで無そうだ。
 例えば同じ年だとか、大人とは思えないような性格とか、周りに迷惑をかけている所とか……。
 けれど実際の所は聖職者のユリウスと、あまり行動のよくない男である盛岬りょう。
 年齢程度しか接点はなさそうだが実は他にもある。
 二人とも甘い物がとても好きだという点だ。
 解ってしまえば簡単な事である。
 ユリウスならりょうとナハトを匿う様な結界を張るぐらい容易い事だろう。
「きっとそこです」
「捕まえましょう、二人まとめて」
 かくして、秒読みは始まった訳である。

【シュライン・エマ】


 軽い足取り。
 理由はとても簡単。最近とても美味しいと評判になっている、有名店のチョコレートケーキを買いに向かう途中だからだ。
 少し余裕が出来た財布から、幾つぐらい買えるかを考えながらであるのがシュライン・エマたる所以だろう。
 自分と零の分。草間に一切れ分とよく遊びに来たりしている顔ぶれも甘い物が好きな人が多い。
 あの人の分もと考えていると、どうしてもホールの数が多くなってしまう。
 そんな時だった。
 進行方向でなにやら騒がしいと思い顔を上げてみれば、なにやら知った顔。
 一人は神父の服のおっとりした男性。
 もう一人はなにやらガラが悪い動作の男で因縁をつけている。
 その絡まれている少年もまた、知り合いだった。
 解説するなら、最初から順にユリウス、りょう、ヨハネ・ミケーレの三人。
 すぐに解ったのは、また何かあったのだと言うことだ。
 少なくともりょうとユリウスという世にも珍しい組み合わせ。一人でも困った人が二人も揃っていて何か起こらない訳がない。
 様子を見ようかと思ったが、なにやらりょうが騒ぎ出したと同時にヨハネの胸ぐらつかんで揺さぶり始めた時点で慌てて止めに入る。
 あれはどう見てもかつあげか何かだ。
「今すぐ責任取って時間を止めろ!!」
「なに言ってるんですかぁ!?」
 どうやらかなり追い詰められているようだという事は解った。
「まあまあ、この場に留まっていたらすぐに見つかってしまいますから移動しましょう」
「そ、そうだな!」
 パッと手を離した物の、ここまで目立っていたら手遅れだといえるだろう。
「何してるのかしら?」
 かけられた声に、ギョっとした表情でりょうが振り返る。
 シュラインに気付き口ごもって視線を泳がせるりょうに変わり、ユリウスがニコニコと微笑む。
「あ、えっと……」
「こんにちは、良いお天気ですね。お買い物ですか?」
「そうよ、美味しいって評判のチョコレートケーキを買いに行く所なの」
「それは奇遇ですねぇ、私達も何ですよ」
 この時点でもう十分に怪しい。
 何よりも必死にシュラインへと無言で助けを求めているヨハネの視線が、裏があると何よりもその事実を雄弁に語っていた。
「……ヨハネ君困ってるみたいだけど?」
「じ、実は―――っ!?」
 助けを求めた途端足を踏まれ呻く辺り、もう決定的だろう。
「りょうさんは何をそんなに慌ててるのかしら?」
「俺!?」
「今締め切りが近いみたいで……」
「ヨハネッ!!」
 慌てて黙らせるが十分だ。
「そう言う事ね」
 締め切りに間に合わなかったりして逃走を図ったり、どうにもならないと開き直ったりする人間がそこそこ多いのはライターもそうだが、他の仕事でもきっといえる事である。
「何日だったの?」
「………3日前」
「どれぐらい出来たの?」
「………………7文字ぐらい」
 目が危うげだったりしているが、周りとしてはコメントしがたい。
「今からでも書いたほうがいいのでは?」
「しょーがねえだろ! 事件は起きても最近書けないネタばっかりだし! 夜倉木なんて永久に休載にしてやるって銃とか持ち出して殺す気だし、最近だってもの凄い恐ろしい脅しをされてんだ!! そんな状況で書ける訳あるか? いや、無理だ!!!」
「わ、ちょっ、わわっ!!」
 またもやヨハネを揺さぶり出して、目からチカチカと星が出たあたりでシュラインに止められた。
「まあ、そんな訳で助けを求めてこられた訳ですよ。今必要なのは落ち着いた空間でしょうから」
 納得できるような答えではあるが……それだけじゃないだろう。
「そう言えばケーキを買いに行くと中って言ってたけど?」
「はい、えっと……」
 知ってそうなヨハネに尋ねてみるが……どうやら板挟みという状態になってしまったらしい。
 ユリウスとりょうをしきりに気にしている様子なのを見かね、シュラインは笑顔のまま質問する相手をユリウスへと戻す。
「何か聞かれたら困るのかしら?」
「いいえ、そんな事はありませんよ」
「そうかしら、さっきからユリウスさんとりょうさんの行動が気になって」
「気のせいではないでしょうか」
 ユリウスはヨハネにもりょうにも喋らせない事が得策だと踏んでの事だろうが、それぐらいはお見通しである。
「落ち着いた所でって、仕事は進んでるの?」
「……まだ、これから」
「疲れているようですからね、お茶をしてから落ち着いてからでいいと思いまして。休憩には甘い物が一番でしょう、ちょうどお勧めの店もありますし」
「そうなんです、りょうさんが奢るって一言で……」
「ヨハネ君」
「なんでもありません……」
 決死の発言のおかげでおおむね状況は理解できた。
 ユリウスもりょうも揃って甘い物が好きなのだ。ユリウスが場所を提供、りょうが買収と言った所だろう。
「そう言う事ね、よく解ったわ」
 一斉に非難がましい視線を浴びるヨハネを見かね、シュラインの側に来るように言うとホット胸をなで下ろした。
「ありがとうございます」
 助かったと思ったのだろう。
 だが終わった訳ではなかった。
「私ね新作のケーキ欲しいの、おしそうよね、とっても」
「……へ?」
「ちょうど食べたかったのよ」
 取りだして見せた携帯に、すぐに事情を察した様でりょうが顔を引きつらせる。
「脅されてるっ!」
「さあ、どうかしらね?」
 因果応報という言葉がまさにピッタリだ。
「あのケーキ結構高いのに……」
 これでまた幾らか浮いた財布の中身は、別の事に回す事にしよう。
 結構な数のホールを買い込む事合計六コ。
「凄いですね……」
「興信所のみんなの分も含めるとちょうど良いぐらいじゃないかしら」
「あの……これ私達も食べていいんですよね」
 最もユリウスが食べるつもり満々なのは誰の目にも明らかだったが。
「所で何処へ向かってるの?」
「来るのかよ!?」
「このまま帰ったらヨハネ君怒るつもりでしょ」
「助かります」
「ここまで来てしまいましたから、一緒にお連れしたほうがいいのではないでしょうか?」
「……そーだな」
 覚悟を決めたように向かった先は……。


「ここ?」
 りょうとは関係のなさそうな純和風の日本家屋。
 遠目から見ても広さがありそうな家に来た事に首を傾げるが、話を聞いて理解した。
「ここ夜倉木の実家なんだ」
「それで……」
「え、でも!?」
 納得しかけたシュラインとは対照的にヨハネが疑問符を浮かべる。
「流石の夜倉木さんでもここは盲点だったんでしょうね」
 まさか捜している相手が自分の実家にいるとは思わないに違いない、灯台もと暗しという奴だろう。
「そ、おじさん等とは意外に話があってな。頼んだら意外に簡単にオッケーがでたんで匿って貰う事にしたんだ」
「勝手に入って構わないの?」
「許可は貰ってるからな。それに俺いつもかってに家に入られてるし……」
 靴を脱ぎ、長い廊下を進み向かった先はちょっとした道場のような作りになっていて、その端に居るフカフカのもこもこ。
「ナハト、帰ったぜ」
 ムクリと立ち上がった毛玉が、りょうの方にたしたしと足音を立てて近寄ってくる。
「ココにいたのね?」
「いつ見てもおっきいですよね」
「流石にナハトは連れて歩けないからな」
 もう既に十分目立っているのに、ナハトまで一緒にいたら、さぞかし目立つ事だろう。
「もう十分に目立ってたじゃない」
「僕もそう思いました」
「いや、そうじゃなくて……気配とかがだな……」
「いいじゃないですか、早くお茶にしましょう」
「師匠……」
 もうユリウスは待ちきれないと言わんばかりである。ヨハネにとっては怒られなくてよいのだが、これはこれで問題だと思ってしまう。
 もちろん、口に出す事なんてできなかったが。
「ま、適当に座っててくれ」
「私は紅茶をお願いします」
「わーったよ」
 勝手に台所に向かうりょうに、当たり前のように声をかけるユリウスの視線はケーキに釘付けだ。
 だから、気付かなかったのだろう。
 こっそりとシュラインが携帯でメールを送っている事に。
「………」
 気付いているのはヨハネとナハト。
 二人にこっそりと笑いかけてから人差し指を口元へと当て小さく囁く。
「大人数で食べた方が美味しいでしょ」
 二人……もとい、一人と一匹は顔を見合わせてからうなずいた。
「イイ子ね」
 思い出したように戻ってきたりょうにサッと携帯を隠す。
「お前等も紅茶でいいよな、文句ゆうなよ」
「あ、私は砂糖沢山入れるので、シュガーポットもお願いします」
「師匠あんまりご迷惑は……」
「はい?」
「……何でもありません」
 普段通りの会話なのだろう。
 その横では、シュラインがナハトを撫でながらニコリと微笑む。
「良い毛並みね」
「………?」
 何かを感じ取ったのか、ナハトの耳がピクリと動く。
 その様子に気付いたヨハネが振り返り首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「なんでもないのよ」
 ニコリと微笑んだが、明確な答えは返ってこなかった。
 結局答えは聞けぬままおおむね予想通りで、少しだけ違う展開になったのはそれから少したってからの話。



 シュラインが送ったメールを見て集まり始めたのは天薙撫子と綾和泉匡乃、海原みあおと斎悠也の式神の悠と也。
「うーわーー!! 何で!?」
「困りましたね……」
 向こうには誰が呼んだのか麗花もいる。
 最もいまだ結界は有効のようで、道場の中へ入る事は出来ないようだが。
「予想以上に強力な結界の様ですわね」
「まあ、これならぶち壊せない事もないですけど……」
「おいおいっ、過激だなあんた!?」
「僕もただじゃすまないのでやりたくないですね」
 慌てたようだが、匡乃の言葉にすぐにホッとしたようだった。
「りょうさん……」
「……無理矢理だったらこっちだって反動が来るんだ」
「だったら早く諦めればいいのに」
 何て無駄な抵抗をするのだろうとシュラインとヨハネがため息をこぼす。
「閉じこもっちゃいましたよー☆」
「大人げないですねぇ〜♪」
「大人げないって言うなっ!」
 むしろそうでない部分を捜す方が難しいほどなのに、よくも言えたものである。
「噂に聞いた通りの人ですね」
「どんな噂だよっ!」
 いちいち切り返すのは、ある意味律儀かもしれない。
「でも、このままと言うのもいかがなものでしょうか?」
 ユリウスの作り出した結界に、りょうが力を貸しているのだろう。これを破るのはそれなりに労力がいると思われた。
 枢機卿にその能力を増幅させる能力者が揃ってやる事としては、あまりにもお粗末な事件だが。
 バカらしい、非常にバカらしい。
 何とも情けない事件だ。
 それは向こうも同じだろう、苦笑するようなそんな雰囲気。
「諦めて出てきたらどうですか?」
「猊下っ! いい加減に出てこないと怒りますよ!!」
 何かを言われるその度にジワジワと入口から離れた方へと下がっていくユリウス。
「もう怒ってるじゃないですか」
「もっと怒りますよ!」
 結界越しに怒る麗花を匡乃が宥める。
「まあまあ、どうせ逃げ場はないですから。お茶でもして出てくるのを待ちませんか」
「えっ?」
 そのの意見にユリウスとりょうが眉をよせた。
「そうだね、どうせ逃げ場はないしね」
「わーい、お茶〜☆」
「ケーキですー♪」
 庭にシートやらを引き始め、ほとんど行楽気分だ。
 そんな頃になって声がかかる。
「大変そうね」
 様子見て、おおむねどうなっているかの事情を察したらしい、光月羽澄もまた二人を捜して居たうちの一人だ。
 もちろんと言った雰囲気でリリィと夜倉木も一緒だった事に今度はりょうが後ずさる。
「はい、なかなか出てきてくれないものですから……ここでお茶でもしようと言うことになったんです」
 それだけで、大体伝ってしまうのは非常に簡単で良いのだが……いかがなものだろう。
「結局どうするの?」
「そうよね……」
「みあおテーブルとイス借りてくるねー」
 着々と長期戦の準備を始めているが、もちろんそんなつもりは無い。どうせすぐに業を煮やして出てくるだろう。
 このままで居る訳にも行かないのだ。
「………もう疲れた、後で殺す」
 深々とため息を付いて廊下で寝込む夜倉木に悠と也が駆け寄り一緒に座り込む。
「お昼寝ですねー☆」
「ねむねむでーす♪」
 限界だったのだろう、物騒な言葉は気になったがここはそっとしておく事にして……。
「貸してくれるって」
 許可を貰って戻ってきたみあおに、匡乃一緒にテーブルとイスを取りに行く。
「一人じゃ無理でしょうから僕も運ぶの手伝います」
「そうね」
「わたくしもお手伝い致します」
 羽澄と撫子も手伝い、人数分のイスとテーブルが庭に設置された。
「さて、お茶にしますか」
 匡乃の一言でちょっとした駆け引きが始まった訳である。
「いいんでしょうか……」
 支度をしながら撫子が道場の方へと視線を移す。
「何で迷惑ばっかりかけるのっ」
「閣下っ!」
 麗花とリリィに怒られている横で、入れたばかりの温かいお茶を一口。
「シュラインさんとヨハネ君は解放したら?」
「ん、ああ。出るのは自由だからな」
「……そうなんですかっ!?」
「あら、本当」
 ヨハネもシュラインも出れるとは思っていなかっただけに驚きだ。さっそくと試してみたシュラインは、あっさりと外へと出る事が出来た。
「って、あーーーー!!!」
「油断大敵ね」
 ケーキの箱を手にシュラインがニコリと微笑む。出る時にちゃっかりとケーキの箱を持って出ていたのである。
「……あ、じゃあ僕も……」
 一緒になって出ようとしたヨハネを麗花が止めた。
「もう少しそこにいて貰えます? 二人を放って置いたら何するか解りませんから」
「……はい」
 可哀相にとは思うが、二人と一匹だけだったら何するか解らない。
「おや、ヨハネ君はどっちの味方ですか?」
「脅さないでくださいよ師匠っ!」
 そんなやりとりは置いといて。
「ちょうど良かったわ、シュラインさんどうぞ」
「ありがとう」
 一緒に席について、シュラインもティーカップを手に取った。
「出てらしたらどうですか?」
「うっ……」
 撫子の言葉にたじろぐりょうとユリウス。
「……今の内に出たほうがいいかも知れませんね」
「裏切るのかよっ!」
「ケーキを食べたいだけ何では……」
「ヨハネ君」
 ニコニコと言う視線に肩を落とし視線をそらす。
「板挟みって辛い………」
 もはや内部分裂も秒読み段階と思われる道場内部をよそ目に、ケーキを切り分けて並べていく。
「美味しそうなケーキですね」
「いただきまーす」
「リリィちゃんと麗花ちゃんもこっちに来て一緒に食べましょう」
「そうね」
「ではいただきます」
 席に着いたリリィに続き、麗花もその方が良いと考えたのだろう。一緒に席についてケーキを一口。
「美味しい」
 色鮮やかなケーキの数々。
 イチゴとラズベリータルト。
 イチゴのシャルロット。
 チョコレートケーキ。
 カステラ。
 その他にも色々とケーキがテーブルの上に置かれている光景は、ケーキ好きでなかったとしても目を奪われる光景だ。
「沢山手に入ったから、遠慮せずに食べてね」
「お、俺が買ったのに……」
 シュラインの言葉に思いっきりうなだれるりょう。
「ちょうど良い甘さですわね」
「本当、こっちも美味しい」
「これを食べれないなんて……もったいないわね」
 それは幸せそうにケーキを食べながら、視線を送る。
 五分経過。なかなかよく持つものだ。
「無理よ、出てこないって」
「残念だねー」
 非常に華やかな会話だが、想像以上にケーキの減っていくペースが早い。
「無くなってしまいますよ」
 止めとばかりの匡乃の言葉にユリウスが飛び出しかける。
「待て、早まるな!!」
「離してください、ケーキが呼んでるんです」
「聖職者がそう言う事していいと思ってんのか!!!」
「それとこれとは話が別です!」
「ヨハネ君、助けてください!」
「師弟揃って裏切るのか!!」
「えっ、あの、その……」
 ヨハネは助けを求めるような視線を外に送るが、どうしようも出来ない。
「ふと思ったんですけが、盛岬さんは締め切りがどうしようもないから立てこもっている訳ですよね」
「こんな事してる間に終わらせたらいいのに」
 ズバリなみあおの言葉に羽澄。
「それができないからこんな事してるんでしょ」
「……出来れば苦労しねーよ」
 ぼそりと呟くりょうに、匡乃がヒラリと紙の束を見せる。
「ここにまだ碇女史に提出していない心霊レポートがあるんですけど」
「………えっ!?」
「いい条件じゃないですか、出ましょうよ」
 ネタさえあれば、立てこもる理由もないだろう。
「でもここで出たらろくな事にならないと第六感が……」
「出ていかなかったらもっと酷い事になると思いますけど」
「私もそう思います、ですから早く外でケーキを……」
「うう……どうしよう、どうすればいいんだ……」
 ナハトの方を見たが、現在のナハトは犬である。
 どうしろと言うのか。
 本格的に悩み始めた所で、羽澄が麗花に耳打ちする。
 早く終わらせてしまおうという提案だ。
 二人はうなずいてから声をかける。
「ナハト!」
「ヨハネ君!」
 二人、もとい一人と一匹が反応する。
「外に出しちゃって」
 出てこないのなら、中から出して貰えばいいのだ。
「……出ましょうか」
「はい」
 元からでるきがあったヨハネとユリウスはともかく。
「おい、ちょっ、まっ!!!」
「大丈夫よ、ナハト。悪いのはりょうだから」
「………ワン」
 僅かに迷った物の、結局……。
 ドンッ。
「お、お前って奴は……」
 こうして立てこもり事件は解決した訳だが……やる事はまだ残っているのだ。



 すぐ側でりょうが原稿を書くように言われていたり、ユリウスが怒られているのを見ながら黙ってぼーっとしてた訳ではない。
「あら、悠也君」
「終わったみたいですね」
「ちょうど良いタイミングだと思うわ」
 シュラインと悠也が視線を移したのはナハトの方だ。
「………!?」
 何かを感じ取ったのだろう、ジリジリと後ずさるが遅い。
 二人の間に挟まれ、どうしていいのか頭を交互に動かす。
 柔らかい毛並みに触れ悠也はシャンプーを取り出す。
「洗ってみたかったんですよね」
「終わったらナハトの歯磨きもしたいの」
「ええ、ぜひやりましょう」
「…………!!!」
 必死に首を振るナハト。
「大丈夫ですよ、怖くないですから」
「一応許可取ったほうがいいんじゃないかしら」
「そうですね。りょうさん、ナハト洗ってしまって良いですか?」
 作業中だったから、一言。
「……俺が許す」
「ワ、ワン!!」
「さあ、始めましょうか」
 微妙に抵抗していたが、それも洗い始めてしまえば大人しい物だった。
 ザバザバ、
 ワシャワシャ、ワシャワシャ、
 ザーザー……―――。
 流石に悠也は器用なだけあって実に手際が良い。
「大人しくしてくれたから、思ったよりは楽でしたね」
 丁寧にドライヤーとブラッシングされながら、シュラインが口を開かせ丁寧に歯を磨いていく。
 まさに至れり尽くせりである。
「はい、おしまい」
「………」
 悠也とシュラインのおかげでピカピカにはなったのだが、どうにも疲れているようではあった。
「もう終わったの?」
「こっちも終わったから、後はりょうを編集部に運んで貰いましょうか」
「何でだよ!」
「当たり前でしょ、迷惑かけたんだから。ナハト、お願いね」
 フワリと撫でてから、洗い立ての毛並みが気持ちよくて抱き締める。
「良かったわね、ナハト」
「………ワン」
 立ち上がったナハトに、みあおが待ったをかける。
「記念写真取ろうよ!」
 取りだしたカメラに準備が良いものだと思いながら、集まり始める。
「夜倉木様は?」
 悠と也の三人で、現在熟睡中だ。
「そいつ写真嫌いだから、そのまま撮ろうぜ」
 相変わらずだと思いながら、全員居並んだ姿を写真に納める。
 14人と1匹の大所帯。
 これもきっと良い思い出になる筈だ。



     【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0164/斎・悠也/男性/21歳/大学生・バイトでホスト】
【0328/天薙・撫子/女性/18歳/大学生(巫女)】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1286/ヨハネ・ミケーレ/男性/19歳/教皇庁公認エクソシスト・神父/音楽指導者】
【1415/海原・みあお/女性/13歳/小学生】
【1537/綾和泉・匡乃/27歳/男性/予備校講師 】

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■         ライター通信          ■
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参加していただいた皆様、大人げない大人と困った大人二人に構ってくださってありがとうございました。
書いてて思ったのは本当にこの二人は大人なのかと(酷)

今回は大きく分けると、
■シュラインさんとヨハネ君。
■みあおちゃんと撫子さんと匡乃さんと悠也君。
■羽澄ちゃん
と言った具合です。

後は……おまけとかを付けてみたり。


 その後。
 ナハトに引きずられてアトラスへと戻ったりょうとユリウスは麗香を初めとした編集部の面々を手伝う羽目になった。
「何処の世界に作家に編集させる編集部があるんだよ!」
「いえ、それよりも枢機卿何ですけどね、私は」
「関係ないわ、ここにいる人間は動くのなら使うのよ」
 その表情は危機感を感じ、背筋が寒くなるほどだ。
「……仕事増えた、眠い」
「夜倉木君の変わりに働いてね」
「うう……」
 初めにあった仕事は終わったが、夜倉木の変わりをさせられているのである。
「アンティークの鑑定と言われましても……」
「暇なんでしょ」
 ちょうどいいと手渡されたのは以下にもないいわく付きの品々。
「ほら、きりきり働く!」
 隅々まで目を光らせる麗香に、ため息を付くようにユリウスが一言。
「他にもお手伝い呼びましょうか」
「………いいな、それ」
 反対意見はでよう筈が無く。
「許可します」
「よしっ!」
「ではさっそく」
 喜々とした表情で携帯を取りだしたりょうとユリウスによって、同居人やら弟子やらが集められたのは……もう少し後の事。


 今度こそ終わり、お粗末様でした。