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<東京怪談・PCゲームノベル>


§買い物付き合いも楽じゃない

 長谷神社の居間。
 そこで綾和泉汐耶はフグのように顔を膨らませて座っていた。
「どうかしたんですか?」
 自己鍛錬を終えて、居間にやってくる織田義昭が尋ねる。
「聞いてくれるかしら……織田君?」
「え、ええ」
 この返事で、義昭は非常に後悔したが、時既に遅し。
「また叔母さんが勝手に見合いセッティングしてね、さらにその相手が最悪だったのよ!」
 神社全体に響く汐耶の声。純真の零木も驚いて(其れを喜劇と楽しんで?)揺れていた。
 勝手に見合い話を勧める叔母にも怒り心頭だが、その相手の方に怒りを向けている。其れは病院の跡取りで医師の腕も凄いらしいが、傲慢で最悪だという。天才肌で人を見下す態度で接し、噂では女ったらしだということだ。
「ああ、それでイライラしていたんですか……」
「ああ、びっくりした〜何事?」
 耳鳴りを我慢する義昭と、大声を聞きつけて駆けつけてきた長谷茜。
「ねぇ、2人といっしょに私の買い物手伝ってくれない?」
 義昭はその理由は分からないが、茜は分かった。女同士の心情は分かりやすいと思われる。すなわち、ストレス発散だ。
「OK。いいですよ、汐耶さん♪」
「ありがとう」
 義昭より先に茜が二つ返事で承諾。義昭は、
「俺何も……何でもないです」
 反論しようとしたが、茜と汐耶の睨みで何も言えなかった。
「じゃ、決まりね。来週の日曜にハチ公前で」
 さくさくと汐耶が日時と場所を決めたのだった。
 
 
 当日のハチ公前。
 義昭は黒の革ジャン、デニムパンツで其れにあう靴、茜はカジュアル系の服だ。
「そろそろ、だよね」
「ああ――そうだな」
 と、元気いっぱいの茜に、気分の乗らない義昭の会話。
「おまたせ〜」
 汐耶がやってきた。時間には遅れないのでイライラすることはない。
 ただ、義昭は彼女の姿で驚いた。
 彼女の姿はいつものパンツルックではなくかなり長く入ったスリット付きのロングスカートに落ち着いた感じのハーフコート、ハイヒール。しかし、其れでバランスが悪くなく彼女の魅力を引き出している。
「こ、こんにちは。汐耶さん」
「はい、こんにちは」
「は、はい、コンニチハ……」
「よしちゃん! よしちゃん!」
 挨拶を済ました後、義昭は彼女の歩く姿に赤面し機能停止、茜は感心していたが義昭の状態がおかしくなっているので、彼を揺り動かす。どうも、義昭は女性の美しさを見てしまうと固まる弱点があるようだ。
「あ、茜?」
「だ、大丈夫?」
「どうしたの?織田君?」
「あ、何でもないです」
 赤面が続く義昭。今日はある意味地獄かもしれない……と思う青春真っ盛りの少年だった。また別の意味合いの戦いが始まるだろうと感じていた……。
 女性の買い物という物は、長いし男にとって退屈である。それは結構耳にする真実であり、汐耶とて例外でなかった。興味のないところに連れ回されては、入り口かその場で待っていなければならない。茜は順応が早く、汐耶といっしょにブティックや宝石店や化粧品店を回って、彼女のストレス発散に楽しく付き合っている。多分、彼女も色々思うところがあるのだろう。たとえばまだ決断してない幼なじみのことや、大きな「弟」の妙な趣味などだ(徐々に染まっているのだが)。結局男手は荷物持ちとなる。こんなところで時空箱魔術を使うわけにはいかないだろう。退屈しのぎでその荷物を使い、ジャグリングする義昭を、茜はハリセンで叩く。そのまま頭に乗せたり、空中で回して移動したりすれば目立つに決まっているし、なにより邪魔だ。流石に大きな物は家に送る形にして貰った。
 昼になってから、落ち着いた雰囲気のレストランでランチを頼んだ。汐耶の愚痴を聞いている義昭と茜。ランチはナスとベーコンのトマトソーススパゲティセットとデザートにケーキだ。この店はケーキがとても美味しいと言われて、暗黙の了解でかの有名な似非枢機卿に伝えられていない。食事に入るとき、有る程度落ち着いたのか、義昭と茜と楽しい会話になっていった。
 その後でも、汐耶と茜のショッピングは続く。後ろを追う形で荷物を持ちながら義昭は2人を見ている。
「憂さ晴らしは午前に終わって、今は楽しんでるな。何はともあれ良かった、良かった」
 彼はそう思って、少しずつ退屈さも無くなっていった。
 汐耶はいつもの姿でなかったので、あの時は驚いた。女性とはやはり色々と化けるんだね……と、この天然剣客は思っていたりする。茜も、汐耶の憂さ晴らしショッピングに順応しているので問題なし。彼の心の中では、
 ――汐耶さん美しいよな。
 単純に、彼は思った。いつもの格好じゃ勿体ないと思うとか、珍しくそういう事を考えていた。
 一方、汐耶は前の見合い相手の撃退方法では多分無理であろうと考えていた。あの時は只の馬鹿だったが、今回の相手は実力者、あの手が通じることはない。
 ――本の整理なんて、貴女がする仕事ではない。下々の事がする雑用ですよ。
 見合い中にこの言葉を聞いた時が彼女を激怒させたのだ。
 彼女は本が好きである。色々な本の中にまだ見ぬ知識、著者の思いをしり、行間の中の何かをしって楽しむ。家に沢山の九十九神が付いている本たちも、封印図書も彼女にとって大事な宝物、つまり友達だ。それをあの男は貶したのだ。これ以上の侮辱があってたまるものか。
 やはり、彼女はまだあの言葉と相手に怒りを覚えている。心を読めるわけではないが隣にいる茜もなんとなく気が付いているのである。茜の場合はかなり気苦労が絶えない青春をしているわけで少し敏感になったようだ。自然と彼女のペースに合って一緒にこのショッピングを楽しんでいる。
「ね、茜さん。これ似合うと思うわ♪」
「え?良いのですか?……試着してきます」
 ――数分後。
「うんうん、可愛いわ♪」
「わ〜い、ねね!よしちゃん、どう?」
「……馬子にも衣装だな」
 ――ハリセンの音。しかも2回。汐耶も持っていたのか?いや、茜が「こんなこともあろう」かと用意していたのだろう。
 すっきりした汐耶、色々買って貰ってうきうきしている茜と、たんこぶを付くって青ざめている義昭。彼女らのショッピングはまだまだ続く。
 
 
 義昭が最初に感じた「嫌な予感」は的中した。
 汐耶が厳しい顔つきになる。
 場所は、ショッピングビルから少し離れた所、人通りも少ない裏側。混雑している道よりこうした道を使うのも知恵と言うもの。しかし今回は仇となったようだ。
 目の前には、ブランドモノで身を包んだ男と、何か武道を「囓っている」取り巻き5人が男の3歩後ろで立っている。
「汐耶さん此は偶然?いや運命でしょうか?こんにちは」
「あなたに名前で呼ばれたくはないわ!」
「嫌だなぁ。貴女ほどの美しい方……この俺が幸せにするのに」
 話を聞いている義昭と茜は、こう思った。
 ――ああ、あれが見合い相手か。確かに嫌な「気」を持っているな。
「私の幸せって何か知っているのかしら?」
「俺の家でゆっくりして生きる事が幸せだよ。紙臭い本に埋もれるより」
「あなた…間違っている。医学も論文と医学書で知識を得て、技術を身につけている。論文や医学書を何と思っているの?」
 汐耶が問う。
「論文?それは只の道具だよ。今は実力さえ伴えば、富も地位もそして……」
「……あなたの、くだらない馬鹿話を聞く暇ないの……さよなら」
 汐耶は踵を返してその場を去ろうとする。しかし男は彼女の手を掴む。
「離して!」
「生憎、俺は気の強い女が好み何でね。そうそう諦められない。もし抵抗するなら…其処の坊主や嬢ちゃんがどんな目に遭うかわかる?」
 人を見下す意志をはっきり感じる言葉。そして義昭を半殺しに茜を辱める気で居るようだ。既に取り巻きが3人を囲む。この事はこの男が「今まで得た権力」と「親」を使ってもみ消すのだろう。
「本と戯れるのは…おろか極まりない……。俺と一緒になることが幸せになるか一緒になれば分かるよ」
 その言葉で汐耶はキレた。
「いい加減にしなさい!この馬鹿医師ぃ!」
 彼女の、ハイヒールが彼の靴に思いっきりめり込んだ。女性の靴の中で最強の凶器・ハイヒール。男は、足を押さえて苦痛を我慢する。
「くそ!お前ら!」
 義昭と茜を押さえる合図。5人は襲いかかる。
 しかし、男は信じられない光景を目にした。
 流れるような円の動きで攻撃を受け流し、同時に当て身で5人を始末する少年と少女。
「「出来る」域ではないね……馬鹿揃いだ」
「な!なにを!ば、馬鹿だと!」
「そうさ、馬鹿さ。あんたは医師として、人間としても失格だ」
 義昭の声は、死闘を経験している者に自然に得られる気迫が篭もっていた。
「が、ガキが偉そうに〜!」
 しかし、プライドの塊の男は向かってくるが、義昭の前にたどり着く前に、ハリセンの音で阻まれた。茜が得意の攻撃で男の顔面をぶっ叩いたのだ。しかし、男はかなり執念を持っているようで怯まなかった。
 しかし、其れも一瞬でおわる。
 ――本の敵!
 汐耶がこの思いを込めてそのままハイキックで彼を蹴り倒したのだ。スリットロングスカートで出かけたことが幸いしたらしい。男はそのまま気を失った。
 彼の鼻はハイヒールで完全につぶれている。
「あ、鼻が…折れている。ま自業自得ね」
 茜が言った。
 義昭は黙々と荷物を綺麗にまとめて言っている。
「後処理どうするの?」
 茜は聞いたが、
「何とかなるでしょ」
 汐耶はあっさり答える。
 そして、愚かな男共を放っておき、帰路につく3人だった。


 さて、見合い話のことは、理由不明で破談になったらしい。多分、子供や女に喧嘩負けしたことが彼の今までのプライドを崩壊させるきっかけとなったのだろう。流石にあの男は其れを言えなかったようだ。怪我の事も、妙な理由でうやむやにしたようだ。
 長谷神社の居間。
「ほんと、何とかなったみたいですね」
 義昭が言う。少し悪戯っぽい口調。
「何ニヤニヤしているの、義昭君?」
「ま、見合い騒動は続くでしょうね。いい人見付かれば良いですよね?」
「ませたこと言わないの」
「しっかり見る人が見付かれば、見合いも良いじゃないでしょうか?」
「……」
 沈黙する汐耶。確かにそろそろロマンスとは行かなくても考えないとなぁとか思っている矢先、
「其れに、汐耶さん格好良かったし綺麗でしたし♪」
「こら!義昭君!」
 恥ずかしさと怒りで赤面する汐耶に、無邪気に笑って逃げる義昭だった。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1449 綾和泉・汐耶 23 女 都立図書館司書】


【NPC 織田・義昭 18 神聖都学園高校生・天空剣士師範代】
【NPC 長谷・茜 18 神聖都学園高校生・巫女】


※ライター通信ならぬ、NPC座談会
茜「よしちゃん、みて〜」(服を着てくるくる回る少女)
義昭「早速来ているな。汐耶さんからの服」
茜「馬子にも衣装は酷いんじゃない?」
義昭「間髪入れず、ハリセンで叩かれた」
茜「其れはそっちが悪い!しかも何よ、汐耶さんの姿みて見惚れちゃって」
義昭「そう言う年頃だから良いだろう(拗+赤面)」
茜「お姉さんに弱いからなぁ…よしちゃん…(ため息)」
義昭「……勝手に言ってろ(更拗)」
(お茶を飲んで一息)
2人「今回どうでした?とても悪党が絡んできたけど、めげずに見合い頑張って下さいね。其れが嫌なら、早くいい人見つけましょう☆」
茜「長谷神社は、縁結び、交通安全、受験合格なんでもあります♪」
義昭「そこで営業かよ!」