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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


呼声


■オープニング■


 その村は山と山の間にある小さな村で、村というか部落と言った方がしっくり来るようなそんな雰囲気の場所だった。
 冬の終わりが近づき蕗の芽が雪を掻き分けて地表に現れる時期になると、その村のはずれにある小さな洞穴から、
 こぉぉ―――い――――……こぉ―――いぃ――――
という、音が村に響く。
 洞穴を風が吹き抜けた時の音だと言うのはみんな知っていた。
 だか、いつからそう呼ばれているのかは知らないが、村の人々はその音を「呼声」と言っていた。洞穴の中から“何か”が呼ぶ声だと。
 そして、ある日ある時から、その呼声が聞こえると、必ず子供が1人神隠しにあったように姿を消すようになった。
 それがいつからのことなのかは、誰も知らない。
 ただ、呼声が子供を洞穴に呼び込むのだ。
 そうして、一軒、そしてまた一軒と村から出て行った。
 それが、その村が誰一人住んでいないゴーストタウンとなった原因だった。


 瀬名雫が、その書き込みを見たのは去年の春の終わり。
 その話を常連からの書き込みで見た時はよくある話しだとは思ったのだが、一応微妙に気にはかけていた。
 ただ、“呼声”が聞こえる時期は過ぎてしまっていた為、すぐに調べには行かずにいるうちに、時が経ちすっかり忘れていたのだが、先日またその話が雫のHPの中で持ち上がった。
 その村が近い内に、その付近にダムが出来る為に水の底に沈むことになると言うのだ。
 今年が最後のチャンスかもしれないね、と。
 おりしも今はちょうどその“呼声”が聞こえる時期とぴったり重なっている。
「ここはやっぱり行っておかないとね」
 雫はそう言ってHPの更新に最新情報としてその“呼声”の調査募集を追加した。


■■■■■


「すっごーい! ね、慧那ちゃん」
「本当に誰もいないんだね、楓香ちゃん」
「……」
 夕乃瀬慧那(ゆのせ・けいな)とその友人の丈峯楓香(たけみね・ふうか)が村を見下ろせる少し小高い場所に着くなり、大きな声を出している。
 2人とは対照的にその傍らにいる少年尾神七重(おがみ・ななえ)と名乗った―――中学生だというのにひどく小柄な少年は、黙したままその村の残骸を見つめていた。
 そんな3人の様子を見ながら、真名神慶悟(まながみ・けいご)が小さな吐息を漏らしたのをシュライン・エマ(しゅらいん・えま)は見逃さなかった。
「なぁに、女子高生を見てため息つくなんて」
と、シュラインがからかい半分にそう言うと慶悟は少し苦笑して見せた。
 シュラインとて、怪奇探偵の異名をとる某興信所で年がら年中ボランティアだけでは当然生活していけるはずもなく、たまには本業のライターの仕事のネタついでに調査に参加したわけだが、やっていることは興信所での仕事とある意味変わりはない。
 結局は自分もすっかり怪奇探偵に染まっているということかしらね……と、シュラインはその人の顔を思い出して小さく笑みを浮かべた。


■村へ■


 すっかり人の気配のなくなった村―――もともと村と言うよりは集落と言う方が似つかわしかったのだが―――は、半分崩れ落ちそうな屋敷や草が生い茂りとても玄関口まで行くことすら適いそうにないような荒れ果てた様子であった。
 大して大きな集落ではない為、村を一回りするのもものの30分程度で終わってしまう。
 何があるか判らないのでまずは全員で村の周囲を回ることにした。
「一番大きな屋敷を探そう。そんな屋敷ならきっと土蔵があるだろう。もしかしたら土蔵の中になにか『神隠し』に関するような文献が残っているかもしれない」
 慶悟の発案に、
「ここが、この集落があったころに村の纏め役をしていた方の家らしいわよ」
 郷土資料館に勤めていた職員の祖父が偶然この村の出身だと言うことで事前に調査してきたシュラインは、写させてもらった地図の右上の当たりの一軒を指差した。
「この村の『神隠し』は子供だけなのよね……」
 シュラインが調べた限り、いなくなった子供は4人。性別は男女バラバラで年は7〜8歳前後の子供だという。そんな年の子供が自らの意思で失踪したとは考えにくい。
 実際に神隠しがあったにしろなかったにしろ、何かのきっかけがなければ神隠しだと噂になることはなかったはずだ。
 シュラインはその当たりをもう少し、その老人から聞きたかったのだがそれ以上の情報を得ることは出来なかった。
「神隠しって神様が連れて行っちゃったってことなのよね?」
 その屋敷に向かいながら楓香はそう尋ねた。
「うん。でも、本当に神様の仕業かどうかはわからないの―――」
「そうだな、昔から言われているのは山神や年を経た妖しや所謂『鬼』が贄を求めて子供や若い女を攫うという伝承もある……だが、伝承が先だったのか子供の失踪と言う事実が先だったのか、実際それがあやふやなものも多いけどな」
 慧那の答えに慶悟が一般的な『神隠し』と言われるものについて解釈を述べる。
「呼声がするって言うことは、誰かが呼んでるって事だよね。子供がいなくなるって言うことは、お母さんの幽霊が自分の子供を捜してる……とか、でも自分はその場所から動くことは出来ないから声で子供を自分の元に……」
 楓香は自分なりに考えた『呼声』の正体を言いながら自分で怖くなったのか、大きく身震いした。
「でも、それがお母さんの霊ならきっとそんな事はしないんじゃないかな。だって、自分が一番わかっているはずでしょう? 子供と引き離された親の辛さを」
 慧那の意見に、楓香はそうか―――と、納得する。
束の間の沈黙の後、その件の音が5人の耳に届いた。

 こぉぉ―――い――――……こぉ―――ぃぃ――――

 確かにそれは物悲しい人の声のように聞こえる。
「何人子供を呼んで満ち足りないんでしょうか?」
 口数の少ない七重の言葉はやけに胸に重く響く。
 本当にこの声は風の音だけなのだろうか?
 もしかすると子供の失踪とこの『呼声』はよくある偶然の産物から生まれた言い伝えではないのかという考えが心の片隅にあった。
 実際にその『呼声』を聞いた今となっては、その問に対する答えは『否』と言い切れるのかと、各々の胸に疑問が沸く。
「ここね」
 そう言って、シュラインは一軒の屋敷の前で足を止めた。
 人が住まなくなってすっかり荒れ果ててはいたが、確かにその屋敷は他の家とは比べ物にならないような敷地面積のようであった。
 半分壊れた門構えの向こうには人の膝よりも高い雑草が伸び放題に伸びている。
「俺が先に行こう」
 そう言って慶悟は先頭に立った。
 慶悟はまず印を切って十二神将を各方位に放って屋敷全体に大きな結界を張った。その上で、紙の式人形を取り出す。すると、それはあっという間に小さな笠を被った式神に変化した。
 その式を屋根裏に放ってから、慶悟は丈の高い草を掻き分けながら屋敷に踏み込んだ。
 慧那は、それら一連慶悟の業を相変わらず憧れとそしてそれを行っているのが自分の師匠であると言う誇らしげな眼差しで真剣に見つめていた。
「さぁ、行きましょう」
 シュラインに促されて、慧那、楓香、七重そしてシュラインの順に慶悟の後について屋敷の中へ足を踏み入れた。


■土蔵へ■


 家屋の中にはもう何も残されていなかった。
 長い間置かれていた家具の跡が残る畳だけが残り、その上に埃がつもり表面はうっすらと白くなっている。
 がらんとした家屋に、小さく溜息をつくと、
「土蔵へ行ってみましょう」
と、シュラインが促した。
 念の為にと5人は土蔵へ向かった。
 昔ながらの土蔵の重い観音開きの扉だった。
 慶悟が力をこめると、ぎぃぃぃぃ―――という長い間使われていなかった扉は歪んだ音をたてて開いた。
 高い位置にある窓から光がさし込み、家屋同様につもっていた埃が扉を開き久しぶりに入り込んだであろう風で土蔵のずっと上、頑丈そうな梁の柱のあたりまで舞い上がる様が見えた。
 土蔵の中もがらんとしていたが、まだいくつかの箱と書物らしきものが残されていた。
「この中に何か残されているかもしれないな」
 慶悟はずかずかと中に入り込んで禿げた漆塗りの箱を1つ手に取ると、大きく息を吹きかけて箱の上につもった埃を払う。
 それを合図にするかのように、5人はそれぞれ土蔵の中のものを物色し始めた。

「見て、これこれ」
 楓香がどこかから見つけてきた色あせた写真を見せる。
 色あせた箱の中には、まだこの村が『生きていた』頃の写真が何枚も収められている。
 それを慧那とシュラインが覗き込む。
 四季折々の風景と行事がその写真の中には間違いなく収められていた。
「可愛い、これ」
と、慧那が取り上げた1枚は小学生くらいの子供がお祭りの法被姿で同じような法被を着せられた赤ん坊を抱っこしている写真だ。
「どれ?」
 渡されたその写真を微笑みを浮かべながら見たシュラインは何気なくその写真を裏返して、その裏書に目を止めた。
 7年ほど前の日付と、その写真に映る子供のものであろう名前が記されてあった。
「……この名前」
 シュラインは持ってきていたメモ帳をあわただしい仕草で捲る。
「やっぱり、あったわ」
 失踪した何人かの子供の中にその名前はあった。
「この写真の子、『神隠し』にあった子のなかの1人よ」
「え、本当ですか?」
 慧那がメモ帳を覗き込むと、確かに、その写真に裏書されたのと同じ名前がシュラインのメモ帳にも記されている。
 楓香は箱の中の何枚かの写真を取り出して裏を見た。
 そして気付いた、
「この箱の中の写真……これ、全部神隠しにあった子の写真ばっかりなんだ!」
 思いがけない収穫に楓香は目を丸くする。
「そっちでも何かあったのか?」
 慶悟はそう言うと肩に式神を乗せた姿でこちらに来た。
 式神は両手でその身体よりも大きな書物を抱えている。
「そっちでも、ってことは師匠も何か見つけたんですか?」
 慶悟の式神が持っていた書物を慧那に渡す。
 楓香に言わせるとミミズがのたうっているような文字を慧那は目で追っている。
「これ日記ですね……『神隠し』にあった頃の」
「あぁ」
 どうやら、慶悟と式神は梁の上に隠されていたこの家の主が記した日記を発見したのだった。


■洞穴へ■


 こぉぉ―――ぃ―――――

 呼声と呼ばれる風が洞穴の前に立つ5人の正面から吹きつける。
 入り口に何重にも張られた縄がその風を受けて上下にと大きく揺れていた。
 風の音はまるで、地の奥から響いてくるようなそんな空恐ろしさを感じさせる。
 楓香はしっかりと慧那の腕を自分の両腕で抱え込み、腕を取られている慧那と言えば、
「大丈夫か?」
と、慶悟に心配されるくらいに顔は青ざめていると言うのに、
「へ、平気です。陰陽師を目指しているんですからこれくらい」
と、引きつった笑顔と声でそう返す。
 やせ我慢が見え見えだが、慧那は慶悟の真似をするように自分の式神を肩に乗せている。もっとも、慧那のものは単なる人型の紙なので慶悟の物とは雲泥の差ではあるのだが。
「僕が先に1人で入って良いでしょうか?」
 洞穴の中をじっと凝視していた七重が感情を感じさせない声でそう言った。
 リュックの中からマグライトと軍手を取り出し身につける。
「きっと、僕も子供だから呼声に答えられるかもしれませんし」
「そんな、危ないよ! 七重君!」
 楓香は自分も怖くて、慧那の腕にしがみ付いていたことも忘れたかのように七重の腕を引っ張る。
「果てなく呼びつづけていても求めている『何か』を得られない限りきっとこの悲しい声は止まないんじゃないでしょうか? それに、虎穴にいらずんば虎子を得ずっていうじゃないですか」
 七重には第六感の探査という能力があった。
 探したい者を思い浮かべその近くに対象がいるかどうかを探査できるという。
 蔵で見つけた写真を見た七重はその異能の力によって確信を持った、この洞穴の入り口に立った時、確かに彼らがこの奥にいることを。
「そうだけど、でもダメよ!」
「そうね、七重君、あなただけを何があるか判らない場所へ行かせるわけにはいかないわ」
「でも、真相にたどり着く為には僕が囮になったほうが」
「だから、それはダメだって―――」
「それにしたって、俺たちは『呼声』の範疇外らしいからな……これを持って行け」
 そう言って、慶悟は七重に1枚の護符を渡した。
 それは『正気鎮心』―――心を狂わさず落ち着けるという符であった。
「これを持っていれば声に惑わされることはないだろう。ま、どのみちその声を辿っていかなければならないんだがな」
 それでも声に囚われて奥へ進むのと、自らの意思を固持したまま向かうのではその結果は大きく異なることは確かだ。
 七重はしっかりと頷くとその護符を上に着ているワークジャケットのポケットに忍ばせる。
「あとは、これね」
 そう言うとシュラインは徐に自分のカバンから取り出した色のついた釣り糸を同じく七重のポケットに入れ端を自分が持った。
「行くか」
 先ほど屋敷へ踏み込んだのと同じ順番で5人は洞穴の中へと向かった。


 その洞穴は思いのほか天井が高く、ひんやりとした空気があたりを包んでいた。
 とろこどころ見える岩肌以外は苔けにびっしりと覆われていたが思っていたよりも明るかった。
「師匠、気付きましたか?」
「あぁ、いつのまにか『呼声』どころか風1つ吹いてないな……」
 あれだけ強く吹きぬけていた風がこの洞穴に足を踏み入れたとたんにぴたりと止んでしまっているのだ。
 慶悟は、楓香を腕にぶら下げたままの慧那の後方をちらりと見た。
―――きっと子供の気配に気づいたんだな。
 やはり、これは何らかの霊の仕業なのかもしれないと、慶悟と慧那は思い始めていた。
 それが悪しきものであるのかどうかそこまでは断定できなかったが。
 10分ほど進んだ頃だろうか、再び『呼声』が洞穴中に響いた。


 こぉぉ―――ぃ―――――こぉぉぃぃ―――――こぉぉ―――ぃ―――――


 その瞬間、先頭の慶悟がシュラインに借りて持っていた懐中電灯が突然消えた。
 そして、突然の疾風が5人の間を吹きぬける。
 先頭に立つ慶悟はもちろんのこと、それぞれが足を折ってその場に伏せる。
「きゃっ―――!!」
「っつ――――」

 こぉぉ―――ぃ―――――こぉぉぃぃ―――――
 こぉぉ―――ぃ―――――
 こぉぉ―――ぃ―――――こぉぉぃぃ―――――こぉぃ―――――

 実際はそんなに長い時間ではなかったのだろうが、やけに長く感じられた『呼声』がようやく止んだ後、恐る恐る目を開けた楓香がいち早く気付いて声をあげた。
「シュラインさん! 七重君は!?」
 七重の姿が消えており、手元に残されたのはぷつりと着れた釣り糸だけであった。


■最奥へ■


 七重が消えたのに気付いた4人は洞穴の奥へ奥へと壁伝いに足を進めた。
 懐中電灯の代わりとなったのは、慶悟のライターとそして、慧那の持ってきていたライターの2つだった。
 足が止まったのは洞穴の最奥と思われる壁に行き当たったからだった。
「行き止まり?」
 だが、七重の姿はどこにも見当たらなかった。
「どういうこと? もう、わかんない!」
 楓香が大きな声を出した。
「楓香ちゃん、静かに」
 シュラインはそう言って行き止まりになっている岩肌に耳をつけた。
 彼女の耳が捕らえたのは―――
「この壁の向こう側から風の吹き込んでいる音がするわ」
 それは彼女の驚異的な聴力であるからこそ聞き取ることが出来る微かな音であった。
「どこかに入り口があるはずよ」
「だが、こう暗くちゃな……」
 慶悟が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「師匠、ライターを貸して下さい」
 そう言って、慧那は慶悟が持っていたライターを持ち少し3人から離れる。
 慶悟は慶安が何をしようとしているのかを察して、
「2人とも早く屈め」
と、腰を低くさせた。
「えい!!」
 慧那が強く念じると小さなライターの火が予定通り暴発した。
「今です探して下さい」
 そう言われて3人は慌てて壁を探る。
―――もう、もたない〜!
 慧那が悲鳴をあげたかけたとき、
「あ!! あったー!!」
と楓香があるものを見つけた。
 それはシュラインが七重にもたせた色のついた釣り糸の端だった。
 その糸の当たりを強く押すと、大きな穴が開いた。
 4人が壁の向こうに見つけたのは―――

「七重君!!」

 壁の向こうは真っ白い空間だった。
 ただでさえ涼しい洞窟だったが、その一部だけがまるで真冬のようであった。
 倒れている七重の姿だった。
 慌てて駆寄ろうとするシュラインを慶悟が制する。
 楓香と慧那は足がすくんでしまっているようだった。
 倒れた七重の向こう側にぼうっと浮かぶ姿―――それの姿は白く透き通るような肌の少女だった。
 そして、七重の周りには同様に眠っている4人の子供の姿が見える。
 神隠しに遭った子供たちは当時の姿のままで氷のような透明な棺で眠っているようだった。
「あなたたち、誰?」
と、少女は4人をじっと凝視している。
 その顔から少女の表情は読み取れない。
「子供たちを呼んでいたのはあなたなの?」
 シュラインは自分を制していた慶悟の腕をずらした。
 そして、彼女と視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「あたしたちね、ここにいる子を探していたのよ。ねぇ、彼を連れて帰っても良い?」
 シュラインの問いかけに少女は首を横に振る。
「あなたは誰を呼んでいたの?」
「……春を……春を呼んでるの」
「春?」
 こくりと、少女は頷く。
 彼女はこの冬の洞穴に春を呼んでいたのだと言うのだ。
「ここにずっといたら春は来ないよ? ね、あなたも外に出ないと」
 少女の姿を見て少し落ち着いたのか楓香も少女の前に進み出てそう言って手を差し伸べた。
 だが、彼女はその手を拒む。
「でも、その子たちももうお家に返してあげないと……。それに村はもう水の底に沈んでしまうんだよ」
 それでもなお彼女は首を横に振った。
「この子はここを動けない……そうだろう?」
 慶悟と慧那には判った彼女はこの洞穴から出ることは出来ないのだ。
 たとえ、村が沈みゆくと知っても。
「寂しかったのね……。でも、この子達はお家に返してあげないと。あなたが春を待っているようにこの子達を待っている人たちがいるのよ」
 シュラインの説得に少女はようやく頷いた。
 そして、少女は4人の前から姿を消した。
「……僕」
「七重君! 良かったぁ」
 目を覚ました七重に楓香が駆寄り手を取った。


 神隠しに遭った子供たちはといえば、いつのまにか4人の子供たちを囲んでいた棺がなくなり、幼いままだった姿が一気に時の流れ通りの姿に変化―――そして、目を覚ました。


■■■■■


「きっと、この洞穴の霊だったんだろうな」
 いつからそこにいたのかきっとそれはあの少女の霊自身にもきっと判らないのだろう。
「悪意はなかったんだよね。子供は感受性が高いって言うから……ただ、寂しくて風に乗せて呼びかけた声に呼ばれてそっちに行っちゃったんだよね」
 長い長い冬をたった一人で過ごしていた霊の成仏を促すことは出来たが、慶悟はそうはしなかった。
 神隠しに遭っていた子供たちも連れ出した後に、その洞穴に鎮魂の業を行い封じるにとどめた。
「あの人形で少しは慰められると良いんだけどね」
 シュラインは洞穴の奥から出てくる時に置いてきた人形を思い出した。
 来年のこの時期にはもう、この当たり一体は水の底に沈んでしまう。
 きっと、彼女はこの村と一緒に沈みゆくのだろう。
 春を迎えることもなく――――

 自然と、5人は村を後にする時に目礼をした。
 1つの村の歴史の幕引きに対しての礼節であった。


Fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20歳 / 陰陽師】

【2521 / 夕乃瀬・慧那 / 女 / 15歳 / 女子高生・へっぽこ陰陽師】

【2557 / 尾神・七重 / 男 / 14歳 / 中学生】

【2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15歳 / 高校生】

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■         ライター通信          ■
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 今日は、遠野藍子です。
 この度はご参加ありがとうございました。
 久しぶりにシリアス風味な雰囲気の物語となりましたがいかがでしたでしょうか。
 普段は……というか、まぁ、最近どうもラブコメディちっくなものばかりでしたので、心機一転という感じで。
 一応、書けるのねこんな雰囲気も―――と思っていただければ泣きながら(>あまりの進まなさ具合に書けなくて)書いた甲斐もあったというものでしょうか。
 えぇと、私事なのですが、OMCライターとして登録させていただいてから1年経ちました。
 これからもマイペースなお仕事となりますが宜しくお願いいたします。