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<東京怪談・PCゲームノベル>


零とエヴァ3:Psychic Bomb

0.
 錯覚だと信じたかった。
 しかし現実に零とエヴァは戦っている。
 零の話ではかなり危険だ。
 怨霊器の存在。そしてエヴァがソレに感化しての暴走。
 この、危険な廃ビルにある怨霊器を発見封印しなければ…。
 殆どの者が思った。

1.
 「わ、私、怨霊器を探します!」
 と、柚木シリルが先に動いて屋上から4階に向かう。
 「わたくしもお手伝いします!」
 その後に榊船亜真知が続いた。
 霊鬼兵同士の戦いは凄まじいものだ。怨霊の剣は更に周りの霊の質を塗り替え、悪意に満ちた空間で支配される。そして破壊力も一振りで何人もの人間を殺せるだろう。もし此が銃器であるなら、視界範囲の者は撃ち殺される。エヴァの狂った攻撃を、零は同じ性質の霊により威力を受け止める。その衝撃は、この廃ビルを壊しそうになるぐらいだ。
 トールは、零とエヴァの圧倒的な戦いに思考が止まっている。子供として論理的な所もあるためか、この事を理解できたものも、子供としての本能で怖くて動けない。
「エヴァを……早く彼女を止めないと。デルフェスさん、トール君、あなた達は怨霊器を探して下さい。ここは私が何とかします」
 隠岐智恵美が残っている鹿沼デルフェスとトールに告げる。
 しかし、デルフェスは首を横に振り
「わたくしもお手伝いします。貴女がエヴァ様思っているように大事な方です」
 意志強く助力を申し出た。
 今口論している場合ではない。
「…分かりました」
 智恵美は頷く。
 トールは我に返った様にメイドロボ零式に飛び乗って。
「ぼ…ボク探してくる!零式急いで!」
 メイドロボ零をローラーダッシュ形態にし、ビルの中に消えていった。

「始めましょう」
 智恵美の周りに青白いオーラが発散。怨霊がソレに浄化されていった。
「智恵美様?」
 あの、独特のオーラ……見覚えが、とデルフェスは思った。

 4階にたどり着いて直ぐに「異変」に気付いたのはシリルだった。
「“変な匂いが”する!コレかも!」
 彼女は、獣のような身軽さを維持してこの足場の悪く倒壊しそうな場所を掛けていく。亜真知も「異様に霊気が感じないところ」を探している矢先だった。
 屋上で戦いの音。
 そしてその振動がこのビルに伝わっている。
「早くしないと……倒壊してしまいますわ」
 亜真知は、シリルの探知力を信じ、付いていくのだが。
いきなり後ろで何か車のような音と同時に床が突き抜ける轟音を聞いてしまう。
「え?」
「わぁ〜!」
 コンクリートが崩れる音の中に、微かにトールの声がした。
 亜真知は振り向いたとき、床が大きな穴が出来ている。その穴はそのまま下まで続いている。暗くて良く見えないが、おそらくは、この足場の悪く崩れやすい所を高速移動で移動した結果だ。


2.
 シリルは怨霊器の“匂い”で探知が難しい品物をかぎ分けたのだ。もちろん猫捜しも“匂い”で調べていた。霊探知負荷という事でも僅かな“匂い”なら彼女のお手の物である。
「亜真知さん!こっちです」
「わかりました」
 今はトールを救出できる状況ではない。焦っては駄目だ。
 怨霊器は、かつて応接間だったと思われる所にぽつんとある。
 茶色の丸い壷だった。壷でも土器の様にかなり古めかしい。しかも、どう見ても学校の歴史で習った、弥生時代の代物だ。ソレに時代・文明が異なる文字らしき物が刻まれている以外は。
「コレが?」
 2人とも疑心暗鬼だった。しかし、これ以外に異物はない。ここ以上に不思議に霊反応が無いのがおかしい。亜真知は用心して、壷に触ってみる。
「確かに……霊反応がありますね」
 亜真知はシリルに下がって下さいといって、そのまま自分の力“理力”を発動した。
 壷は青白い球体に包まれ宙に浮かんでいる。
「封印終了です♪」
 亜真知はにっこりと微笑んだ。
「あとは、エヴァさんが」
「ですわ」
 2人は頷く。
「あ、ねこちゃん…」
 亜真知が気付く。
「私が、探してきます。亜真知さんはそのままエヴァさん達の元へ」
「はい」
 シリルは又軽々とこのビル内を駆けていく。危険な部分を野生の知覚で避けているのだ。
「さてと……」
 亜真知はもう一度屋上に向かう時、
「怨霊と振動がやんだ?」
 屋上の変化に気が付いた。

「智恵美様……」
 デルフェスは換石の術を行使してもエヴァの抵抗力ではじき返されたが、智恵美の神々しさに驚いていた。智恵美は、エヴァに駆け寄り、強力な怨霊シールドを中和し、強く抱きしめる。
 エヴァは離せと言わんばかりに、怨霊を増殖し、智恵美にぶつけていくが、全てオーラに中和された。
「怖がらないでね?」
 シスターは慈愛に満ちた声でエヴァに話しかける。しかし、暴走しているエヴァには届いていない。
「エヴァ……」
 霊は、怨霊武具を解除し、その場に近寄る。
 憎しみに満ちていた屋上に暖かみや平穏が充ち満ちていた。
「智恵美さん」
 零はエヴァに近づく。デルフェスも換石の術を行使せず、エヴァに近づいた。
 暴れるエヴァの力は全て中和されていく。零とデルフェスも智恵美と共に抱きしめた。
「もう怖い物はありませんよ……落ち着いて」
「エヴァ……」
 3人はエヴァに優しく話しかける。
「………!」
 一瞬小さく霊的爆発がエヴァの中に起こった。それは、電子機器のショート似ていた。
「姉さん?チエミ、デルフェス?……わ、わたしはいったい……?」
 エヴァは何も分からずそのまま気を失った。
「良かったです……」
 同時に、安堵のためか智恵美はそのまま気を失う。滅多に解放しない神のオーラを長時間発していたからだろう。年齢的に神格を使うのに無理がある。
 零とデルフェスは倒れかかる2人を急いで抱き留めた。
「何とかなりました……」


3.
「う…」
 トールは目を覚ました。
「ここは?」
 しかし状況を少しは把握。
 この廃ビルで振動が大きい行動した大ミスで4階から一気に1階まで床が抜け落下したのだ。
「しまった、ボクとしたことが」
 と、気が付けば自分には気が一つ無い。
「え?あ……零式」
 彼は自分の作ったロボに母親のように抱きしめられ、全ての衝撃と瓦礫を受けていたのだ。
 幾ら強度が高いとはいえ、かなりの高さからの落下は、零式にかなりのダメージを与えている。
「ご……ゴメンよ……零式」
 トールは涙を流しながら謝る。
「し……しゅじんヲまもルことハ……」
 どうも言語回路がやられたらしい。
「動かないで!今、直し……」
 動こうとしても零式が強く抱いているので動けない。眼鏡にセットしている零式のステータスをみると、自分が受けるはずの全ての怪我も“彼女”が受けて動けないようだ。鋭利な瓦礫や鉄骨が“彼女”の体中に刺さっている。
「ますたー……ぶじデヨカッタデス……」
 零式はピクリとも動かない。そして力が抜ける。
 トールは零式のステータスを眼鏡から「視る」……絶望的なものだ。
「零式!動け!動いて!」
 彼は彼女を起こすように揺する。しかし反応しない。
「零式……死んじゃ嫌だ!お願い!ボ、ボクを1人にしないで!」
 彼は叫び泣いた。
 シリルは、そのトールの姿を見て、沈黙するしかなかった。
 周りに何事かと猫たちが集まってきていた。
 心配そうに猫が近寄ってくる。
「大丈夫だった?」
「にゃー」
 その猫はどこか誰かに似ていた。と、シリルは思っている。
「よしよし」
「大きな泣き声が……しましたが?」
 亜真知は屋上に向かおうとしたが、トールの泣き声を聞きつけ降りてきた。
「………」
 沈黙しかない。
 全てを把握したから。
 零式の肉体は完全に壊れて死んでいる。独りぼっちであるトールにとって大切な“家族”が。
「……まって、“完全”にではないです…」
 亜真知はスキャンする。メイン脳がまだ生きているのだ。
「理力で全てを直せませんが、バックアップを今すぐ取ることは可能です!トール様!」
「え……ホント?……あ、うん!」
 いつも持っている携帯工具で、零式のメインチップを取り出した。零式の全てのデータが入っている小さなフラッシュメモリぐらい。取り出すと同時に零式の身体から煙をだして完全に停止した。ショートしたらしい危うくチップが焼き切れる所だっただろう。
「あとで、しっかり元に戻すから……」
 トールの声は弱々しかった。
 
 
4.
 ――後数分……いえ、数秒遅れていたらとんでも無いことになっていましたわ。
 そう、デルフェスが意識を取り戻したエヴァに伝える。
「まさか、猫に餌をあげるために来ただけなのに……皆、ゴメン」
「いいの、怨霊器が発動してこの辺りが大災害にならなかったんだから」
 姉の零はエヴァを咎めなかった。
 エヴァはここに怨霊器が仕掛けられていたことなど全然知らなかったらしい。よく猫が集まるので可愛くて、仕事(虚無の境界のテロ活動なのだが)を終えたあとお小遣いで猫缶を買って遊びたかっただけなのだ。怨霊器の質がエヴァと同一だったために悪影響を及ぼしたのかもしれないし、もしかすると、製作した人物は其れを見越した上での用意周到な計画だったかもしれない。しかし、怨霊器にはそれらしき意図の思念は無かった。怨霊器は封印することは出来るとはいえ、解体し構造を調べることは時に無理がある。霊的爆破現象で広範囲の大地震を起こす代物だったのは確かだ。
 トールは、大切なメイドロボが今ではチップだけになったコトで蹲って泣いている。
「トール?」
 エヴァは、この子も自分なりの考えで助けてくれたと思った。失敗したが大事な家族を失ったのだ。其れもエヴァ自身の所為だと思った。
「トール、ゴメン……私の所為で…」
 と、トールに謝った。
「うわぁぁん、エヴァの……」
 トールはエヴァに抱きついて泣いた。もう何を言っているかはわからないほど。

 暫くして智恵美が起きた。
「怨霊器の処理は私に任せて下さい。後に関係者が確実に取りに参ります」
 と、皆に伝える。既に彼女は誰かに連絡を入れたそうだ。
 誰も反対する者は居なかった。
「無茶は行けませんわ、智恵美様」
「必死だったもので……」
 デルフェスと智恵美が会話して。
 シリルは、誰かによく似た猫を抱いていた。下にもう一匹別の誰かに似ている猫が居るのに気付く。
「あ、シリルさんの下に依頼人の飼い猫さんが……」
 零がニコリと笑って抱き寄せた。
「シリル様の抱いている猫誰かににてないですかぁ?」
 亜真知が言う。
「確かに」
 と、皆はエヴァとシリルの猫を見比べた。
「わたし、この子気に入ってるの」
「にゃー」
 呑気に鳴くエヴァ似の猫。
 成る程ねと納得する皆さん。
 次に、仕事で探していた猫を見て……。
「写真で確認したときは……まさかとともったけど……」
 探していた猫を見て、笑ってしまう。
「草間さんに似ている」
 そう、何となく雰囲気がずぼらでダメダメな草間に似ていたのだ。寝癖の付き方や目元などが特に似ている。
「ホント兄さんに似ていてビックリしました」
 零は笑った。
 
「さて、お片づけも終わりましたので、ここでは何ですから、どこかでお茶をしましょう」
 亜真知が言う。
 トールは泣き疲れて、眠っている。エヴァが彼をおんぶしていた。エヴァ猫は彼女の肩に乗って懐いてくれている。
 少し開けて夕日が綺麗な場所で、亜真知がお茶会の準備をしている。
「もうすぐ出来ますから待って下さいね〜」
 鼻歌を歌いながらセットしている。
「デルフェス……今日はありがとう」
 エヴァはデルフェスに近寄って呟くように言った。
「え?」
 聞き取れなかったのかデルフェスは目を丸くする。
 エヴァはぷいっと向きを変えて智恵美に向かっていった。
「ユーはゆっくりしているの。私のために大きな力使ったんだから!」
 どうやら、智恵美はなにか(他人に良からぬ事)をしようとしていたらしい〜たとえばお菓子作りなど〜其れを止めるエヴァだった。


 そして楽しいお茶会が始まった。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】
【2390 隠岐・智恵美 46 女 教会のシスター】
【2409 柚木・シリル 15歳 高校生】
【2625 トール・ウッド 10 男 科学者】

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■         ライター通信          ■
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 滝照直樹です。
『零とエヴァ3:Psychic Bomb』に参加して下さりありがとうございます。
 何とか、4〜5分で怨霊器を発見、封印でき大惨事になりませんでした。様お疲れ様です。
 トールさんは危険な足場で零式のあの移動法は不味かったと思います。結果的に零式のボディが大破してしまいました。
 智恵美さん神格発動お疲れ様です。歳なのですから無茶は禁物でございますよ。
 デルフェスさんシリルさんと亜真知サマ、本当にあなた方らしいプレイングに感謝です。

 では、又機会が有ればお会いしましょう。

滝照直樹拝