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<東京怪談・PCゲームノベル>


真冬の水泳大会
 寒風吹き荒ぶ中で、水着の上にそれぞれタオルや上着を羽織ったものたちが、足踏みしたり準備体操をしたりと、好き勝手に身体をあたためていた。
 そう、今日は商店街主催の寒中水泳大会――商店街の商品券1万円分をかけて、腕に覚えのあるものたちが技を競い合う真冬の祭典なのだ!
「えー、それではみなさん、こちらを向いてくださーい!」
 イマイチやる気のない町内会長の肉声が、あたりに響きわたる。
 参加者たちはそれを聞き、わらわらと町内会長の方へと向き直った。
「それでは、寒中水泳大会をはじめたいと思います。ルールは『他人の邪魔をしないで向こう岸まで泳ぎ着くこと』です。それ以外はなにをやってもかまいません。途中で溺れた方はこちらで責任を持って救助しますのでご安心ください。それではみなさん、がんばりましょう」

「ふ、ふふ……中学時代、『陽中の飢えたトビウオ』と呼ばれた俺が、優勝賞品を華麗にかっさらってやるぜ!」
 相澤蓮はプールサイドで燃えていた。
 はじめはこの寒い中、水泳大会だなんてご苦労なことだ――と思っていた蓮だったが、商品券1万円分にはさすがに目の色が変わった。
 なにしろ、現在の所持金、880円。
 1万円あればあれやらこれやら色々買える! とすっかり瞳に炎を燃やす蓮なのだった。
 そのおかげか、冬空の下で黒いぴっちりとしたビキニパンツ1枚だというのに、まったく寒さを感じていない。
「商品券1万円商品券1万円……」
 だが、すぐ隣からぶつぶつとつぶやく声が聞こえたときにはさすがに寒気がして、蓮はぶるりと身を震わせた。
 だが隣を見てすぐに、そんな寒気は吹っ飛んでしまう。
 なにしろ、隣にいたのはかなりの美女だった。
 すらりとスレンダーな体型ではあるが、胸はある。……見たところ、Cカップくらいはあるだろうか。
 地味な白の水着に身を包んでいるが、そのせいもあってか、むっちりとした太ももがまぶしい。
「ああ、あなたも出場するんですか?」
 蓮の視線に気がついたのか、女性が顔を上げて微笑む。蓮もしまりのない笑みを返した。
「見たところ、出場するのは私たちだけみたいですね。小野塚伊織です。よろしくお願いしますね」
 言って、伊織は手を差し出してくる。
「相澤蓮です、よろしく」
 蓮はにへらと笑いながら、なんの警戒もせずに伊織の手を握った。
 ――その瞬間。
 手に激痛がはしって、蓮は声にならない叫びを上げた。
「ふふ、油断は禁物、ですよ」
 伊織がひらひらと手を振ってくる。その手の中には、どこから取り出したのか、しっかりと画鋲が仕込まれていた。
「じょ、女性だと思って優しくしてれば……!」
「いつ、どこで、どんなふうに優しくされたんですか? 全然、気づきませんでした。私のこと、じーっと見てたのには気づいてましたけど」
「……う」
 じっと見つめていたのは事実なので、蓮は口ごもる。
「まあ、いいんですけど」
 肩をすくめると、伊織は別の方を向いてしまう。
 そうして、審査員の方へ向けて胸元を強調するようなポーズを取ったりしている。
 前かがみになる関係上、蓮の方へ尻が突き出されるようなかっこうになっている。
 手の痛みも忘れ、蓮はその形のいい臀部に見とれた。
「やっぱり、見てる」
 そのポーズのまま、伊織が振り返る。
「……って、あれ?」
 そしてすぐに前を向こうとした伊織だったが、そのままのポーズでかたまってしまった。
 ああ、またやってしまったらしい、と蓮は内心舌を出した。
 蓮は感情が昂ぶると、目の色が銀から紫へと変化する。そして、目のあった相手を金縛りにすることができてしまうのだ。
「まあ、いいか」
 だが、これはこれでなかなかにいい。眼福だ。
「さて、それではそろそろ競技開始です!」
 そんなとき、アナウンスが鳴り響いた。
 蓮は身体をほぐしながら、プールへ飛び込む体勢になる。
「あ、そんな、まだ……! 待って!」
「それでは……スタート!」
 伊織が悲鳴を上げたが、それが聞き入れられることはなかった。
 蓮は勢いよく水中へ飛び込む。
 水の中は思っていたよりは温かかったが、それでも、身を切るような冷たさだ。
 早くそこから逃れたいという思いも手伝って、蓮はものすごい勢いでクロールで泳ぐ。
「ズルいぞ! こら、待て!」
 後ろで騒いでいた伊織だったが、途中でその声も聞こえなくなる。どうやら、金縛りの効果が切れたらしい。
 だが、男女の差もあり、なおかつ、かつては「陽中の飢えたトビウオ」などと呼ばれていた蓮だ。簡単には負けはしない。
 ――結果、蓮は伊織よりもかなり早く、50mを泳ぎきった。
 蓮は泳ぎきったあとでプールから上がると、ぶんぶんと頭を振る。それだけで、髪の水気がずいぶんと取れた。
「お疲れさまでした〜」
 言いながら、運営委員がタオルをもってやってくる。蓮はそれを受け取ると、すぐにぐるぐるとくるまった。
「くぅぅぅぅ、悔しい……!」
 その少しあとになんとか泳ぎきったらしく、水をたっぷりと吸った髪を貞子のように前へ垂らしながら、伊織がもそもそと蓮へ近づいてくる。
 なまじ顔立ちが整っているだけに、そういった行動を取られるとかなり怖い。
「まあまあ、小野塚さん。2位にも賞品はありますから」
「え!? そうなんですか!?」
 運営委員が口にした瞬間、伊織は顔を上げて満面の笑みを浮かべた。
「ええ。コメ2kgです」
「こ、コメ! 白米! 久しぶりに白いごはんが食べられる……!」
 伊織は運営委員の手を取ると、ぎゅうううう、と握って感涙にむせぶ。
 その様子を見て蓮は、なんだか悪いことをしたような気分になった。
 だが、背に腹は変えられない。いくら相手が女性とはいえ、商品券1万円分は渡せないのだ。
「それでは、あっちの方で表彰式をやりますので」
 伊織にもタオルを渡しながら、運営委員が委員会テントの方を指す。
 すっかり凍えきった蓮は、商品券1万円分、という言葉をエネルギーにして、もそもそとそちらの方へ向かったのだった。

 その後、表彰式はつつがなく進行し、蓮は商品券1万円分、伊織はコメ2kgを手に入れた。
 ふたりはそれぞれに感動にひたったが、やはり真冬に水泳などをしたのが悪かったのか、しっかりと風邪を引いてしまった。
 そのためか、水泳大会はやはり夏にしよう、と商店街の寄り合いで決まったらしい。
 だが、風邪で熱が39度あったとしても、商品券1万円分を見るだけで、なんだか元気が出てくるような気のする蓮なのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2295 / 相澤・蓮 / 男 / 29 / しがないサラリーマン】
【2855 / 小野塚・伊織 / 女 / 24 / マジシャン・霊能力者】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、2度目の発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹です。
 とりあえずプロポーションのよくなる水着着用ということで、もうおひとりの方に見とれていただきましたが……いかがでしたでしょうか。お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。