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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


かって刈って狩りまくれ!!

ある日のことである。
「『雑草がり』?」
「そ。雑草がり」
鬼の子供である葉山壱華は、山に登ろうと歩き出した所でお互い公認(?)のライバルである天川海悠に呼び止められた。
何をするのかと聞かれたから、素直にそう答えたのだが…どうも海悠にはそれは満足いかない答えだったらしい。
「なんであんたがこの山の雑草刈りしなきゃいけないんだ?
 って言うか、そもそもこの山の雑草なんて刈ってたら1日かけても終わんねーだろうが」

まぁ、確かに壱華の世話になっている久遠家の所有する私有地の中にある山はかなり広い上、未知の空間並に謎な部分が多い。
ジャングル顔負け、富士の樹海も真っ青。
そんなキャッチコピーが似合うといえば、この山の恐ろしさがわかってもらえるだろう。
一般人がそれと知らずに迷い込み、布を裂くような悲鳴が聞こえることもあるとかないとか言うまことしやかな噂が流れたこともあるくらいだ。

そんなに凄い山の雑草の処理など、1日かかっても終わるわけがない。
そう海悠は考えたわけだ。
だが、壱華はその言葉にきょとんとするだけで、納得する様子は全く無い。
「海悠ちゃんってば、さっきから何わけのわからないこと言ってるの?」
「は?」
あっけらかんとした壱華の物言いに、今度は海悠がきょとんとする番だった。
「なんであたしがこの山全部の雑草刈らなきゃいけないの?
 海悠ちゃん、なんか勘違いしてない?」
首を傾げながら言う壱華の言い方に、海悠は段々混乱してきた。
「いや、だって、あんたが雑草刈りに行くって…」
「うん。だから、さっきからそう言ってるじゃない」
「は?え?…えーっと…」
益々ワケがわからん。
海悠の頭から煙が噴き出しそうになりかけるのを見た壱華は、溜息を吐くとさっさと踵を返した。
「なんだかよく分からないけど、あたしは雑草がりの仕事があるから、もう行くね?」
「え?」
海悠が驚いて顔を上げると、既に壱華は歩き出していて。
「あっ、ちょ、待てよっ!
 …俺も一緒に行く!!」
慌てて追いついた海悠に、壱華はきょとんとして立ち止まる。
「…海悠ちゃんも一緒にくるの?」
「あぁ。気になるし、仕方ないから俺も手伝ってやるよ」
「えっらそーに」
「うっせー」
「…ま、仕方ないから連れてってあげるよ。
 ……ただし、足手まといだけにはならないでね?」
「(コイツ…いっぺん殴ったろか)」
にっこり笑って毒を吐く壱華に、思わず出しそうになる拳を理性で必死に押し留める海悠だった。
…とは言っても、単に一発殴ったらその十倍…いや、百倍以上になって帰ってくるため、自分の命が危ないと思ったから、と言うのが真実だったりするのだが。

***

…まだ一時間ぐらいしか経ってない筈なのに…海悠は疲れ果てていた。
「……なぁ。ここ、本当に日本か?」
山の中にある森を壱華の先導によって歩きながら、海悠はぽつりと呟いた。
「え?そうに決まってるじゃない?」
きょとんと返す壱華の後ろを、キー、と言う甲高い鳴き声とともにニホンザルが木を伝って通り過ぎていく。
…明らかに野性な予感が。
「…なんだか、さっきから普通じゃない植物がわさわさいるんだけど…」

―――そう。なんだか知らないが、今まで見たことのないような植物がこれでもか、と言うほどに生息しているのだ。
…例えば、蕾の形がドクロマークな紫色の植物。なんて不吉な…と見た瞬間に逃げそうになった。
他にも何だか間抜けな鳥の顔みたいなものに花びらがついてるような植物もあって、しかも鳴き声は『アホタレー』なんてふざけたモノで。
何か無性にムカついて思わず力一杯どついてしまったが…その後、壱華に『他の植物を苛めちゃダメでしょ!』と怒られ、逆に自分がどつかれた。…痛かった。
しかもさっきから蛇行しまくりで…多分、1回はぐれたらお終いな予感が物凄くする。
壱華は慣れているからすいすい進んでいる。自分も慣れたらあれぐらいできるんだろうか?…いや、あまりなりたくないかもしれない。

「そりゃあ久遠家の私有地だもん。
 普通じゃ面白くないじゃない」
ま、私にとっては全然普通だけどー、なんて笑顔でさらっとそんなことを言う壱華がとても怖い。
「それに、此処って不思議植物もいっぱいいるけど、珍しい薬草もいっぱいあるんだから」
今更だけど、ついてくるって言ったことをとてつもなく後悔した。

――もしも時間を遡ることができるのなら、今すぐ壱華に着いていこうとしている自分の元へ行って止めるだろう。
  それはもう力一杯、心の底から必死に。
…なんて、今更そう思っても所詮後の祭り。
今はとにかく、壱華の後について『雑草刈り』を終わらせて無事に此処から出ることが先決だ。
…ただし、それすらも無事にできるかどうかが問題だが。

「―――あ、ここだよ海悠ちゃん♪」
軽い足取りで歩いていた壱華は、嬉々として足を止めた。
どうやら森のかなり奥に来たらしく、光はあまりささなく薄暗い。木の密集度も始めの頃に比べるとかなり違う。
「ここって…なに…」
不思議そうに壱華の頭の上から向こう側をみた海悠の口から、『なにが』と言う言葉は完全に出てこなかった。
「ホラ、この雑草をかるんだよv」
そう言ってにっこり笑う壱華の指の先には――――やっぱり、奇怪な植物の姿。

『なんだァ?また客かぁ?』
まぁ、百八歩ほど譲って、喋ることとか、壱華の三倍くらいの体長があるのはまだ許そう。
…だが、問題は外見だ。
2人の頭を六つ足してもまだ足りないくらい巨大な丸いボールみたいなツルツルな蕾(?)に、タラコ唇のような縁がくっついている。
しかも蕾(?)は実に身体に悪そうな毒々しい赤の水玉模様。唇のような縁をにたりと笑うように歪めると、内側に綺麗に並んだ歯があった。…しかも、物凄く尖っている。
茎だけでも多分両腕をあわせて丁度ぐらいの横幅があるぐらい太い。
その妙に太い茎の横から、一枚が頭1つ分ぐらいの半楕円型の葉が根元に一対生えている。
しかもその巨大雑草を囲むように、それの半分くらいサイズと手の平サイズが周囲にわらわらと生えているのが、また怖い。
――なんだか、某赤い帽子に丸い鼻、もじゃヒゲにオーバーオールを着た緑色のトカゲを従える親父の出てくるゲームの土管から出てくるアレに似てるような…。
なんて海悠が現実逃避気味にやけに長く説明的なことを考えてしまうのも、仕方ないだろう。

「……雑草?」
「うん、雑草v」
別に何とでもないように爽やかに笑う壱華が、手から炎を発生させる。
『なんだァ?テメェ等俺達と戦いに来たのか?』
やる気満々にガチガチと歯を鳴らしながら言う『雑草』に、周りの雑草も同調してガチガチと歯を鳴らす。恐らくこの植物の威嚇行動なのだろう。
うっかり腕を挟まれでもしたら見事に真っ二つになりそうな気がする。
顔を青くする海悠に対し、壱華はそうそう、と手を打つと、にっこりと海悠に笑いかける。
「…此れ、燃やすか根元をバッサリ切るかしないと倒せないからv」
「ちょっと待てっ!」
にこやかに言う壱華に、海悠は思わず壱華の肩を掴む。
「何がどうしてただの雑草刈りも筈がこんな命がけのバトルみたいな内容なんだよ!?」
しかも相手はどっかのゲームに出てそうなヤツだし!!
と必死に訴えるが、壱華は何処吹く風。
きょとんとした顔で『雑草』を指差し、一言。

「―――だから、『雑草狩り』」
――――――間。
「……なんっじゃ、そりゃあ――――ッ!!!!」
『雑草刈り』だと思ってことが実は『雑草狩り』だなんて、誰が思うだろうか。
というか、それ以前にそんなサバイバルな仕事なら、ついていくのは物凄く迷っただろう。
「もー!騒ぐのは別にいいけど、ついてきたんなら手伝ってよね!」
呆然としている海悠に壱華はぷぅ、と頬を膨らませて怒りながらも、素早く動き出した。
ダンッ!と強く地面を蹴り、一気に雑草達との距離を縮める。
『なんだとっ!?』
「―――それっ!!」
雑草たちの目の前に着地した壱華は、一気に炎を纏わせた腕を横に振りぬく。
ゴオッ!と勢い欲横切る火。
…ズズ、ン…!
壱華を中心に扇形に、半径数メートル範囲にいた根元の部分を焼き払われた雑草(中サイズ)が一斉に倒れた。
『…な、な…っ!』
「……(ふっ)」
呆然とする雑草(巨大)に壱華は視線を向けると…にやりと笑ってみせた。
『…こっ、このガキ―――ッ!!!』
「っだぁっ!怒らせるなよお前っ!!」
「だって張り合いないのって嫌なんだもん」
怒って口(らしき部分)を大きく開けてギャ―ギャ―叫ぶ雑草を見て、海悠が壱華を怒鳴る。
が、壱華は全く聞く耳持たないらしく、それどころか「うるさい」と一蹴。
『…もー許さん!貴様等本気で倒してやるー!!』
雑草がそう叫んだ瞬間、ゴゴゴ…と唐突に地面が揺れ始める。
「きゃっ!?」
「な、なんだぁっ!?」
2人は慌ててバランスを取り、雑草の方を見る。
海悠はそれを見て―――硬直した。
ズズズ…と地面から出てくる。…何がって…『葉っぱ』が。
雑草の下にあるのは根っ子じゃなくて、葉っぱ。しかも雑草の頭並の広さがある。見た目からして足の役割を果たしているようだ。
…よく見ると根っ子らしきものがまだ土に入ってるが、雑草達の様子を見る限りだと何だか伸びそうだ、それ。
しかもよく見てみると、ミニサイズも中サイズも足代わりの葉っぱを土から出している。
「ちょ、何がどうなって…!?」
「―――ついに本気になったってことね…」
困惑しまくる海悠に対し、壱華はふふふ、と楽しそうに笑う。
「…って笑ってんだ――ッ!?」
「何言ってるのよ。これぐらいないと面白くないじゃない!」
『行くぞ、野郎共!』
『おー!!』
燃えてきたわー!と嬉しそうに拳を突き上げる壱華と完全に本気モードで自分達を取り囲む雑草達に今すぐ帰りたい気分になりつつも、海悠は泣く泣く水の刃を作って構えるのだった。

「…壱華」
ザクッ。…ズゥ、ン…!
「なにー?」
ボッ!…ぼてっ。
「…いつ終わるんだ?これ」
「さぁ?」
ザクッ。ボッ!…ぼとっ。
会話しながらさくさく雑草を狩っていく2人。
意外と器用なことをするオコサマ2人組だが…数が無駄に多いため、疲労の色は濃い。
『NOーっ!俺の大事な兄弟とか息子娘達を!!』
「だったら大事な家族に戦わせてるんじゃネェよっ!
 ってか無駄に兄弟多い上似てねぇなオイッ!!
 しかも『NO』とか似合わねぇ言葉遣いしてんじゃねぇよアンタ!!!!」
「…一々ツッコむなんて海悠ちゃんも元気だねー」
「元気とか言う問題じゃねぇ!」
ショック!と言わんばかりに叫びを上げる雑草を無視し、ざくざく切りながらどんどん数を減らしていく2人。
『父ちゃんの仇ーっ!』
「…は?」
ててて…と可愛らしい擬音ではなくシャカシャカと聞いたものが怖くなるような動きでやってきた雑草(ミニサイズ)は、ワケのわからない叫びを上げながら海悠の足元にやってきた。
ぽかぽかと力が全く感じられない葉っぱ攻撃。
「……」
―――ぐしゃっ。
『あぁぁぁあっ!?!?』
海悠はそれを無言で見ていたが、暫くしてから遠慮なく踏み潰す。
無残に潰れたそれの根元を更に無遠慮に水の刃でさくっと切ると、栄養の供給源がなくなった雑草(ミニ)はあっさりと枯れてしまった。
『ひ、人でなしーっ!!』
「人ですらねぇアンタ等にだけは言われたくねぇよっ!!」
かぁっ!と叫んだ海悠の肩を、ぽんぽんと叩く手が1つ。
「…んだよ?」
「あのさー…」
勿論、この場にいる人(のような姿の持ち主)は壱華だけだ。
壱華は海悠とボス雑草を見比べると、自分の後ろを指差した。
「…1人と一匹が言い争ってる間に、全部片し終わっちゃったんだけど?」
「―――え?」
『へ?』
壱華の言葉にボス雑草と海悠が周囲を見渡すと―――確かに、そこに他の雑草の姿は全く見あたらなかった。
その場にごろごろ転がってる巨大な種があるが―――それは既に戦力とは言えない。

そして雑草は…ぎぎぎ、とぎこちなく蕾の部分を動かし、壱華と海悠の2人を見た。
そこには、無言で水の刃を構えている海悠と、にっこり笑顔の壱華の姿。
『…』
無言。
「……」
無言。
「…………v」
笑顔。
『………………』
…くるり、とボス雑草が踵を返す。

『……戦略的撤退!!』
「させるか―――っ!!!」
「逃がさないよーっ♪」

そして、しゃかしゃかと足(葉)を動かして逃げ出そうとしたボス雑草は、哀れ本気(と書いてマジと読む)顔の海悠の刃によって切り裂かれ、壱華の炎によって断末魔の叫びを上げる暇すらなく燃え尽きたのだった。
――――――哀れ、ボス雑草。
      その姿に生まれたのが、きっとアンタの運の尽きだ。

後に残ったのは…壱華の頭と同じくらいの大きさの種が1個と、手の平ぐらいのデカイ種が数十個。
それを満足そうに見渡した壱華は、どこからともなく巨大な布袋2袋取り出して笑顔で海悠に手渡した。
「さ、海悠ちゃん♪今度はこれの回収だよーv」
「…え゛?」
「今回の目的は雑草狩って種を回収することなんだもん。
 そろそろこの種を使って作る薬が切れるからって頼まれたんだ♪」
―――そう言う事は早く言え!
そう叫びたくなるのを堪え、海悠は渋々種に手を伸ばして広い始める。
「ホラホラ海悠ちゃん、早く拾って!
 そんなんじゃ日が暮れちゃうよ!!」
「うっせぇ!それくらい解ってるっての!!」
急かす壱華に怒鳴りつけながらも、海悠は地道に種を拾うのだった。

なんとか全部の種を拾い終わった頃には、既に日は落ち始めていて。
2人は慌てて種が詰まった布袋を担いで山を駆け下りたのだった。
途中、壱華が早すぎて危うく海悠が置き去りにされかけたりもしたが…まぁ、無事に山を脱出できたのでヨシとしよう。

――――――こうして、2人の賑やかな雑草狩りは幕を閉じたのだった。



――ちなみに。
  完成した薬が薬屋「千種」の店頭に並べられるのを見て、海悠が嫌な事を思い出したと深々と溜息を吐く姿と。
  「千種」の店主兼壱華と海悠の保護者である男性に「ありがとう」と礼を言われて喜んでいる壱華の姿が、後日見かけられたそうだ。


…そして、「これから先できるだけ山には近づかないようにしよう」と、海悠が心に誓ったとか誓ってないとか。



終。


●ライターより●
始めまして。暁久遠で御座います。ご発注いただき、まことに有難う御座いました。
久遠家所有の山に生息する生き物や不思議植物、『雑草』の口調や性質(?)など、結構設定遊んでしまいましたが…どうでしょうか?
文章が無駄に長くて申しわけ御座いません。こんな文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、また機会がありましたらお会いしてやって下さいませ。