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調査コードネーム:叛逆の星 〜星の女神〜
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :草間興信所
募集予定人数 :1人〜4人
------<オープニング>--------------------------------------
「結局、捜査員はどうして死んだんだ?」
草間武彦が訊ねる。
半壊した施設。
救護班だろうか。白衣を着た男女が忙しく動き回っている。
宗教団体ブルーアース。
ここに潜入していた警視庁の潜入捜査員が死亡し、その調査のために怪奇探偵たちも潜入した。
むしろ刑事事件のはずだったのに。
「なんだかSFみたいな展開になってきたな」
戯けてみせる。
目の前の少女に向かって。
「噂の通り、冗談がお好きなんですね」
「べつに冗談ではないさ」
「はい」
くすりと笑い、少女が頷いた。
愛くるしい顔立ち。大きな黒い瞳とウェーブのかかった栗色の長い髪。
そのままアイドルデビューできそうな容姿だが、この神官のような服装では視聴者は引くだろう。
「刑事の方々は、禁域に触れ、自らの命を絶ってしまいました」
少女の声は重い。
「なんだそりゃ?」
訊ねかえす草間。
むろん、少女は説明するつもりだった。
古来から、この星を守護してきたものがいる。
それは星の巫女と呼ばれ、太陽系の惑星の名を冠してきた。
水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星。
九人の巫女。
それぞれが神通力のようなものが使える。
少女は金星の巫女だった。そして彼女が護っているものを捜査員たちは見てしまった。
「自殺するほどのものなのか?」
「‥‥宇宙飛行士の方々のその後はご存じですか?」
寂しげな顔で反問する少女。
「なるほど」
怪奇探偵が頷いた。
帰還した宇宙飛行士が普通の生活を営めるようになったのは、ごく最近の話である。
たとえばアポロ計画のアームストロング船長は、精神に異常をきたした。
他にも、自らの命を絶ったものもすくなくない。
宇宙の深淵は、人類にとってまだ広すぎる。
畏れと向かい合わなくてはならないのだ。
「さっきの襲撃はなんなんだ?」
ふいに話題を転じる草間。
ふたたび笑う少女。
「もちろん。わたしを殺すためのものです」
「そうか」
タバコの先に火を灯した。
言わずもがなの解答であるが、その中に含まれる意味は軽くない。
「襲ってきたのはなにものだ?」
「魔王星」
「魔王星?」
鸚鵡のように問い返す。
聞いたことのない星の名だ。太陽系にそんな惑星があっただろうか。
「俺にでも判るように説明してくれ。あ、ついでに君の名前も教えてくれると嬉しいかな」
不器用なウィンク。
やや頬を染めた少女が口を開きかけたとき、
「ナンパしてる場合じゃないわよ。武彦」
律動的な歩調で、女が近づいてきた。
怪奇探偵と同年の女性で、新山綾という。
「第二陣が接近しつつあるわ。今度は陸上部隊。ざっと五、六〇人ってところね」
「なかなかマメな魔王だな」
シニカルに口元を歪める草間。
冗談としては出来が悪かったのだろう。だれも笑わなかった。
※星の女神シリーズです。
バトルシナリオです。
ものすごく大きな話になりそうなので、パラレルと設定します。
ですから、このシリーズで起こったことは、わたしの描く通常の草間興信所ストーリーには反映しません。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
受付開始は午後8時からです。
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叛逆の星 〜星の女神〜
人はパンのみにて生くるものにあらず。
新約聖書の言葉だ。
意味としては、人間には物質的な裕福さだけでなく、精神的な充足こそ大切だ、というような感じである。
とはいえ、精神が満ち足りていても、人間は食わなくては生きていけない。
世知辛いが、それが現実というものだ。
「ようするに、教団組織は資金集めなわけなのね?」
シュライン・エマが問いかける。
「はい」
金星の巫女が満面の笑みで答えた。
悪びれないのが良いところだ。
魂の救済を求める人々にアドバイスなどを与え、幾ばくかの寄進をいただく。悪いことはしていない。
ただ、他の新興宗教と決定的に違うことは、組織幹部に本物の超能力者がいることであろう。
「まあ、サリンを撒いたりする連中よりは一八〇〇〇倍くらいマシだな」
つられるように笑ったのは巫灰慈である。
「その不穏当な比較はなんですか」
宮小路皇騎が苦虫を噛み潰したような顔をする。
たしかに比較論としては物騒だ。それに、のんびりと和んでいる場合でもない。
「皇騎さま。各員、配置につきました」
「よし。そのまま待機」
報告にきた部下に言葉を返す。
一度の襲撃を凌ぎきったブルーアース本部だが、すでに敵の第二陣が迫っている。
ざっと六〇名。
これに対して教団側の戦闘力は、金星の巫女を中心として一〇名もいない。宮小路の援軍を合しても三〇名弱といったところだ。
とても勝負にはならないだろう。
まして教団本部は要塞でもなんでもないのだ。
「でもまあ、負けないだけの算段は立ててるけどね」
不敵に笑ったのは新山綾。
北の魔女という異名をもつ女性である。
「大丈夫なんですか?」
胡乱げに宮小路が問う。わりと当然の反応だ。
ほとんど綾と面識のない大学生としては。
だが、巫やシュラインは信頼を込めて魔女を見ている。もっともシュラインの場合は多少の危機感が含まれていないとはいえないだろう。
なにしろ綾だ。
どんな無茶苦茶な作戦を立てていないともかぎならない。
「‥‥すごく失礼なこと考えてたでしょ? シュラインちゃん」
「邪推よ。気のせいよ」
くすくすと笑う蒼眸の美女。
その手には携帯電話が握られていた。
奇術の種は仕込んだ、ということである。
星の巫女たちの数は九人。
水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星。
そのうち、いま現在、生きているのは金星と海王星の二名。
火星、土星、天王星、冥王星の四人は先代の巫女からの世代交代の途中であり空席。
残り三名は、魔王星の手のものにより殺害された。
「そうまでして、その魔王とやらはなにを企んでいるのかしら?」
双眼鏡を覗きつつ、シュラインが訊ねる。
「彼らが求めるものは、終焉です」
神官の衣装を纏った少女‥‥檜山里奈が応えた。
「終わらせるってこと? なにを?」
「この星の歴史を、星系のすべての活動を」
「はぁ‥‥」
なんだか事態が大きすぎてついていけない。
太陽系を終わらせる、とはどういう事だろう。それ以前に、そんなことが可能だとも思えない。
シュラインの表情を見て、くすりし笑う巫女。
信じられないのは当然である。
「ですが、ここにはそのためのものがあるんです」
「‥‥ひょっとして、それを見てしまったの? 刑事たちは」
「そういうことになります」
少女の声は苦い。
教団の秘密とは、すなわち、巫女たちが護ってきたものだ。
それを潜入捜査員たちは見てしまった。
そして、重圧に耐えきれず自らの命を絶ってしまった。
初期の宇宙飛行士たちのように。
「なんなの? それは」
「星の怒り、と、呼ばれています」
不吉な彗星のように尾を引く声。
シュラインの頬を冷たい汗が伝う。
「あまりしつこく訊かない方がよさそうね‥‥」
あっさりと白旗を掲げる。
知的好奇心が身を滅ぼしたケースを、シュラインは幾度となく見ている。その轍を踏む気はなかった。
それに、いつか話せるときがくればこの少女は話してくれる。
単なる印象だが、蒼い目の美女はそう感じていた。
「とにかく今は迎撃戦ね」
「はい」
ふたたび双眼鏡に目をやるふたり。
教団施設の前庭では、激しい戦いが展開されている。
「さーて! 今日は本邦初公開の技いくわよー!」
綾の声。
久しぶりの最前線である。
好戦的で攻撃的な彼女が燃えないわけがない。
「ホーミングレーザー!!」
両手から二本の光条が伸びる。回避しようとする敵を、なんと追尾して炸裂。行動不能に陥らせる雷撃を与えた。
「一発ずつしか撃てないライトニングとはちょっと違うわよぅ」
胸を反らす魔女。
ものすごく生き生きしている。
バトル イズ ハーライフ といったところだろうか。
くだらないことを考える巫。
「あんまり無理するなよ! 綾!」
一応、声をかける。
こうみえてもふたりは恋人同士だったりするのだ。
「まーかせてっ☆」
「おれも負けてられねーなっ」
紅い瞳の青年の手からも、無数の火球が飛ぶ。
恋人譲りの物理魔法。ファンタジー的な言い方をすればファイアボールの魔法というところだろうか。
次々と着弾して小爆発を起こす。
蹈鞴を踏む襲撃者たち。一様に黒い装束に身を包み、同色の頭巾のようにもので顔を隠している。
石を投げられてもおかしくないような妖しい恰好だ。
「突撃っ!」
霊刀をかざした宮小路を先頭に、陰陽師たちが突進する。
響き渡る爆音。
至近距離で炸裂する魔術。
信じられないものを、黒髪の大学生は見た。
宮小路家が誇る陰陽師部隊が、次々と打ち倒されてゆくのだ。
「なんで起きられるのよっ!?」
綾の声。
なんと物理魔法で倒されたはずの敵兵が立ち上がり、戦列に復帰している。
根性とか気合いとか、そういう次元の問題ではない。感電したものが、こんなに簡単に動けるはずがないのだ。
「こっちもダメだ」
失望の表情で巫も後退する。
彼の使った物理魔法も、目眩まし以上の効果がなかったのである。
「くっ! この!」
霊刀を振るう宮小路の顔にも焦りの色が濃い。
防衛線は、じりじりと退がりつつある。
ブルーアースと宮小路家の手勢、あわせて一〇人ほどの損害を出してしまっていた。
対する敵は、なんと損害ゼロだ。
数で劣り戦闘力で劣るときては、勝算など立てようもない。
「すこし、まずいかな‥‥」
胸中に呟く黒髪の青年だった。
FTRが疾走する。
東京郊外を目指して。
運転するのは守崎北斗。空色の瞳の少年だ。
そしてタンデムシートに座っているのは、深緑の瞳をもった少年。
守崎啓斗という。
驚くほど似た顔立ちなのは、双子ゆえである。
彼らはシュラインから連絡を受け、援軍としてブルーアース本部へと向かっている。
「どうも苦戦しているらしいぞ」
啓斗が言った。
無線で本部と連絡を取り合っているのだ。
「そろそろ見えてくるはずだぜっ」
グリップを強く握る北斗。
状況はよく判らないが、とにかく逼迫しているらしい。
それにしても、巫や宮小路がいて苦戦する相手とは何者だろう。
ふたりが共通に思い起こすのは、かつて戦ったヴァンパイアロードだ。
うそ寒さを感じて、啓斗がぶるっと身を震わした。
あんなモンスターとは、できればもう関わり合いになりたくない。
「見えたぜっ!」
ヘルメット越しに弟の声が鼓膜を打つ。
ぐっと気持ちを引き締める啓斗。
ブルーアースの前庭に、爆音を立てた単車が躍り込む。
「いっくぜぇ!!」
悍馬のように前輪をもちあげ、FTRが突進する。
黒装束が、一人二人と跳ね飛ばされる。
タンデムシートから天高く舞った啓斗の手から十数本の棒手裏剣が飛び、敵の足を大地に縫いつける。
勢いを取り戻した陰陽師たち。
宮小路を先頭に、ふたたび突撃を敢行する。
「不死身の正体っ! 見せてもらうぞ!!」
霊刀一閃。
大きく頭巾を切り裂く。
「ついでに、もえちまえ」
指をならす巫。
大学生が斬りつけた敵が、いきなり炎につつまれる。
大気摩擦を利用して黒装束を燃やしたのだ。
そして‥‥。
「人形‥‥?」
双眼鏡を覗いた姿勢のまま、シュラインが声を絞り出した。
敵兵の顔には、目も鼻も口もなかった。
朱泥で描いたような、変な模様。
それが不自然に白い全身に描かれている。
「パペット。呪法によって生み出された哀れな人形です」
里奈が言う。
哀しみを込めて。
「どうやったら倒せるの?」
散文的な問いかけをする蒼眸の美女。
人形は哀れかもしれないが、それに殺される人間はもっと哀れだ。
感傷に浸るより、まずは勝算を立てなくてはならない。
「あのなかに、操っている者がいるはずなのですが‥‥」
「なるほど。人形使いをなんとかすればいいわけね」
軽く頷いたシュラインが踵を返す。
六〇の人形の中から生きている人間を探す。おそらくはパペットマスターもまた人形のフリをしているだろう。
発見は至難の業だ。
「私以外にはね」
くすりと笑う美女。
そう。
彼女には特定する方法があるのだ。
「くっ!?」
弾き飛ばされる啓斗の身体。
「兄貴っ!」
駆け寄ろうとした北斗の前に、数体のパペットが立ち塞がる。
「邪魔だ!」
体術の限りを尽くして戦うが、道は啓開できなかった。
それどころか、強烈な打撃を受け、北斗の方が膝をついてしまう。
「なんて強さだ‥‥」
呻き。
この人形ども、一体一体が武道の達人のように強い。
特殊能力などなにももっていないのだが。
「まだまだぁ!!」
空中に投げ出された姿勢のまま、弟手製の炸裂弾を投げる。
連鎖する爆発。
その爆風が、さらに啓斗の身体を飛ばす。
いくら忍者としての修行で鍛えているといっても、無事ではすまない高さまで。
緑の瞳の少年が大地と接吻するさまを、仲間たちは幻視した。
だが、
「まったく。いつもいつも」
柔らかく抱き留められる身体。
耳をくすぐる声。
「いつもすまないねぇ」
自分を受け止めたものの正体を知った瞬間。啓斗が戯けたように笑った。
ササキビクミノ。
この少女に救われたのは二回目だ。
「‥‥いつも助けてやれるとは、限らないんだぞ」
にこりともせずに応えるクミノ。
「一別以来だな。元気そうでなにより」
「‥‥のんきに挨拶している暇があるのか?」
冷静に、少女が告げる。
余計なことなどなにも言わないし、問わない。
「そうだったな」
啓斗の顔が引き締まった。
実際、クミノが参戦したからといって戦況が良くなったわけでもない。
あいかわらず、ブルーアース側は押されっぱなしである。
とはいえ、
「相手が人形なら、それに相応しい戦い方ってのがあるぜっ!!」
巫が生み出した炎が剣の形を取り、人形の両足を切り落とす。
倒れた人形はなおも動こうとするが、足がなくては機動力などゼロに等しい。
不敵な笑みの浄化屋。
倒すのではなく、戦闘力や機動力を削いでしまえばいいのだ。
たとえば人間相手なら、首を刎ねれば致命傷になる。
だが人形にその攻撃は通用しない。
「ある意味で、アンデッドを狩るのと同じですね」
宮小路の剣も躍る。
有効な、この戦法だが弱点もある。
一体一体に時間がかかりすぎるのだ。
まして、人形どもは強い。
戦線は後退に後退を重ねていた。
その時である。
「そいつが人形使いよ!!」
突如として、シュラインの声が戦場に響いた。
指さす先には黒装束。
人形どもとまった姿の。
しかし、突然の指摘に、一瞬、動きが止まったことを、仲間たちは見逃さなかった。
「なるほど」
「人形があるなら人形使いがいるのは当然かっ!」
「オフコースっ!」
クミノ、啓斗、北斗の三人が、無謀なまでの突進で敵の中枢に迫る。
拳銃が火を吹き、小刀が舞い。
崩れ落ちる黒装束。
瞬間、動きを止める人形たち。
決着は、あまりにもあっけなかった。
「心のない人形に上手く化けていたけど。呼吸音と鼓動を消すことはできなかったわね」
シュラインの言葉。
夕日が、ぼろぼろになった建物と庭を照らしていた。
血のように赤い色で。
エピローグ
「人形使いがやられたか」
「御意」
「口ほどにもなかったな」
「おそれながら、あのものはなかなか強うございました」
「‥‥それだけ護り手どものが強いということだろう。邪神どもやヴァンパイアロードですら後れをとったのだからな」
「御意」
「同じ轍を踏まないようにしたいものだな」
くくく、と笑いが漏れる。
まだ若い声。
まるでゲームでも楽しんでいるような。
つづく
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/ シュライン・エマ /女 / 26 / 翻訳家 興信所事務員
(しゅらいん・えま)
0143/ 巫・灰慈 /男 / 26 / フリーライター 浄化屋
(かんなぎ・はいじ)
0554/ 守崎・啓斗 /男 / 17 / 高校生
(もりさき・けいと)
0568/ 守崎・北斗 /男 / 17 / 高校生
(もりさき・ほくと)
0461/ 宮小路・皇騎 /男 / 20 / 大学生 陰陽師
(みやこうじ・こうき)
1166/ ササキビ・クミノ /女 / 13 / 学生?
(ささきび・くみの)
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
「叛逆の星」おとどけいたします。
この作品を書いているときに、なんと太陽系に10番目の惑星が発見されました。
偶然とは、おそろしいものですねぇ。
ルシファーではなく、セドナと名付けられました。
いっそ、わたしの方でもセドナにしようかと考え中です☆
それでは、またお会いできることを祈って。
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