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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


よくあるネット怪談、でも。
 
「きゃはっ。あるある〜」
 雫は声をあげた。ゴーストネットOFFには、今日も多くの怪奇情報が投稿されていた。それらをチェックしていた手が、ふと止まった。
「ん?」
 
 投稿者 K・ヒロコ
 助けてください。
 私の親友が大変なんです。ネットにつないでいた親友が、いきなり倒れてしまったんです。今は入院していて、お医者さんは命に別状はないと言ってるんですが、もう半月も目を覚ましません。友達のみんなは、魂だけがネットに吸いこまれたんじゃないかと言っています。最初はそんなことあるわけないと思ってたんですけど、今はもう笑えません。
 お願いします。親友を助けてください。今はS県S市にあるA大病院に入院してて、親友の名前は真由といいます。
 
 ありふれたネット怪談である。普段なら読み飛ばしてしまうのだが、場所が妙に具体的なのが気になった。
「んー、一応調査してみよっかな。場所も近いし」
 
 
「あ、みあおちゃん、ちょうどいいとこにきてくれたっ」
 海原みあおが行きつけのインターネットカフェに入った途端、雫に声をかけられた。
「ね、今ひま?」
「うん。春休みだし。なんか面白いことでもある?」
「こういうのがあるんだけど。みあおちゃん、頼まれてくれない?」
 言われてモニタを確かめたみあおは、「う〜ん」と呻ってしまった。正直、もっと大事件の予感がする調査依頼を期待していたのだけれど。
 よくありそうな話なんだけど、でも普通の人たちには、そんなにありそうな話じゃないし。困ってる人がいるのを知ってて見逃すのは、幸せを運ぶおきらくな鳥娘としても気持ち悪いし。
「うしっ、暇だしやってみようかな」
「やたっ、恩に着るよ、みあおちゃん」
「感謝してるんなら、あとでなんか奢ってね」
「うっ、そうくるか。今月ピンチなのよねー」
「じゃ、来月でもいいよん。っと、ついでにこのパソ借りるね」
 なにか言いたげな雫を脇目にして、みあおは席に座る。最初にしたのは、書き込みに対する返信。
『だいじょうぶ。ヒロコの親友はみあおが助けてあげる。あ、みあおは雫の友達で、雫は今忙しいんだって。でね、直接ヒロコに会いたいから、このレスみたらメールちょうだいっ』
 ヒロコからリアクションがあるまで時間か空くだろうから、その間にネットで情報収集。みあおの推測では、たぶんネットか病院に原因があるだろうから、S県S市のA大病院とキーワードを絞って。
「あたし的には病院が悪者であってほしいんだけど、っと」
 ヒットしたのは病院の公式サイトのほか、病院に関する情報交換サイトやゴーストネットOFFのような怪奇情報サイト。個人サイトの日記や掲示板も含めると、かなりの数だった。
 そこから得られた情報は、内科はいまいちだとか精神科は患者本位で診察してくれて親切だとかというものばかり。怪談話もいくつかあったのだけれど眉唾ものが多いし、だいいち情報量はゴーストネットOFFが一番だ。
「ねぇ雫ぅ、これの情報って他にないのー?」
「あるけど、タダじゃ教えてあげられないな。今度なんか奢ってよ」
 ……そうくるか。
「しょうがないなあ。さっきのはチャラにしてあげっから、なんか知ってるなら教えてよ。雫だってこの事件、気になってんでしょ?」
「ま、ね。でも、たいしたことは知らないよ。ネットやってて倒れたってケースをいくつか知ってるだけ。関連があるかどうかは分かんないけど」
「なんだ。なら意味ないじゃん。そういうネット怪談、みあおも知ってるし」
 でも、病院よりもネットのほうが怪しいかも。どのサイトに原因があるかはヒロコと落ち合ってから調べるとして、もう一度、検索キーワードを入れ直して。
 ……あった。
 S市の駅前に、魔女と呼ばれる占い師がいるという。その魔女に占ってもらうと、URLが書かれた名刺を手渡されるのだけど、そこにアクセスした人は突然意識不明になってしまうらしい。
「ただの都市伝説だと思うけど、火のないところに煙は立たないし。なんか関係あるのかも」
 
 彼女の本名は川崎浩子といった。
 みあおと直接会った浩子は目をしばたたかせて、「ほんとにみあおさん?」と聞かれてしまった。見たところ浩子は高校生くらいで、外見上は一〇才ほど年下に見えるのだから、彼女が不安がるのも無理はない。
「小学生のみあおじゃ頼りない?」
「そんなことないです」
 あわてて首を振ったものの図星のようだった。
「無理しないでいいよ。気持ちは分かるし」
 みあおは笑った。
「そんでも、見た目よりかは全然頼りがいはあると思うよん」
 魔術とか電脳とか医術とかは専門で知ってるわけじゃないけど、と都合の悪いことは伏せておいたけど。
「でね、さっき電話でもいったけど、まずは真由の部屋を見せてもらいたいんだ。倒れる直前、どのサイトを見ていたのかが分かれば、なにか分かると思うんだよね」
「ええ、それはおじさんとおばさんに許可もらったから。自由にどうぞって」
 浩子に案内されて真由の部屋に入る。女の子らしい部屋だった。部屋全体がブルーで統一されていて、ベッドや勉強机には猫やクマのぬいぐるみがいくつも飾られている。
 部屋の真ん中に小さなテーブルが置かれていて、その上にノートパソコンがあった。みあおは、すぐにそれを起動させてネットにつなぐ。真由がどのサイトを見ていたかは履歴を調べていけば大丈夫だと思うのだけど。
「あの、みあおさん?」
 パソコンを操作しているみあおに浩子が尋ねた。
「直接真由に会わなくていいんですか?」
「んー、っていうか病院は苦手なんだよね」
 正直、行きたくない。
「ま、そんな心配しなくていいよ。絶対なんとかなるって」
 言いながらパソコンを操作していたみあおの手が、「ん?」とふいに止まった。履歴に残っていたページにひとつずつアクセスしていたのだけど、どうやら真由は占い系サイトをよく見ていたらしい。
「ねえ浩子。真由って占いとか好きだったの?」
「あ、言われてみればそうかも。彼氏ができてから、恋占いにはまってたみたい」
「ずいぶん凝ってたみたいなんだよねー」
 とディスプレイを指さす。映っているのは、占いの申し込みフォーム。生年月日、生まれた時間、生まれた場所、現住所、占ってほしい内容を記入するようになっている。履歴には、似たようなページがいくつも残っていた。
「魔女の噂って知ってる?」
「はい。駅前のですよね。でも、見た人はいないって。ただの都市伝説――ってまさか?」
「会ったのかもしんないね。それっぽい話、なんか聞いてないの?」
「ごめんなさい」
「そっか」
 なにか手がかりはないのかな、と部屋の中を探してみる。「それ」は思いの外すぐに見つかった。ハンドバックの中にあった財布に入っていたのだ。
 噂にもでてくる、URLの書かれた名刺。黒い衣装を身に纏ったおどろおどろしい魔女のイラストも描かれている。
「いかにもって感じだよねー」
 アドレスバーにURLを入力すると、古びた洋館の画像が現れた。ENTERと書かれた扉をクリックすると――不意にみあおの身体から力がぬけ、意識が飛んでしまった。
 
 気がつくと、みあおは不思議な場所にいた。
 真っ白でなにもない空間。ぐるりと見渡したが、どこまでも白、白、白。ひとの気配も感じられない。空も地面も白一色で、自分が地面に立っているのか、それとも宙に浮いているのかも分からなくなってしまいそう。
「ここ、どこなんだろ」
 もしかしたら、この空間のどこかに真由がいるのかも。
 みあおは小鳥に変化して、あたりを偵察してみる。真っ白な世界の遥か前方に、小さな黒点がひとつ。あれはなんだろう、とそこまでひとっ飛びしてから人型に戻る。
 黒点の正体は――少女だった。
 立ったまま眠っている。年齢は十五、六。浩子と同い年くらいの彼女が、たぶん真由なんだろう。ただ、普通とちがうのは、首から上を残して、身体が繭に包まれているということ。
「真由」
 声をかけたけど反応はない。「ねえ、起きてよ」と二、三度、身体を揺すってみたけれど返事はなし。鼻をつまみ、何度か頬をたたき、繭にくるまれた身体を思いきり蹴飛ばして、ようやく。
「うーん」
 真由はまばたきした。
「目、覚めた?」
「……あなたは誰?」
「あたし、みあお。浩子に頼まれて真由を迎えにきたの。さ、帰ろっ」
 どうやって帰るかは知らないけど。
 みあおが手を差しのべると、あからさまに真由は顔をこわばらせた。
「嫌っ。帰りたくない」
「帰りたくないって、なんでさ」
「……あそこは、辛いことばかり、だから」
「辛いことばかり?」
 もしかして、とみあおは思った。真由は目が覚めないんじゃなくて、目を覚ましたくないのかも。この繭は心の防御壁で。占いにはまってたのも、心の拠り所がほしかっただけで。
「なにがあったか知んないけど、真由が帰らないと浩子が可哀想。浩子、不安で死にそうな顔してたよ」
「浩子は関係ないじゃん。放っといてよ、あたしのことなんて」
「放っておけないってば。真由も不幸かもしんないけど、今のまんまじゃ浩子だって不幸なんだよ!」
「そんなの関係ないっ!」
 悲痛な叫び声を真由はあげた。
「浩子にあたしの気持ちなんか分かんないものっ。彼氏がいない浩子には。ましてや子供のあんたに、男に捨てられたあたしの気持ちなんか絶対分かりっこないっ!」
 ムカッ。子供子供って、みあおだって好きで子供をやってるわけじゃない!
「真由の気持ちなんか全然分かんないよ! でも、真由だってみあおの気持ちは分かんないじゃんっ! マッドサイエンティストに改造されて、身体も記憶もめちゃくちゃにされて。でも、みあおは生きてるよ。好きだって言ってくれる友達も家族もいる。だから、みあおは笑ってられるんだよ。大事な人のために笑えるんだよ」
 苦しくて苦しくて、本当に辛いのなら、逃げたっていいと思う。無理に向き合うことなんてない。みあおだって病院は苦手でそこから逃げてばかりいる。でも、逃げる場所は選ばなくちゃ。こんなとこに逃げたって、大事な人が泣いてしまうだけなんだから。
「ね、そんなとこにいないで一緒に帰ろっ。真由は幸せになれるよ。みあおが保証するって」
「そんなの当てになんない――」
「なるって。なんてったって、みあおは幸運を運ぶおきらくな鳥娘なんだから」
 みあおが笑うと、小学生の少女だった姿からだんだん変化をし、天使の羽が生え、そして――。
 
 目が覚めると、真由の部屋に戻っていた。みあおの顔を心配そうに浩子が覗きこんでいる。瞳には涙が浮かんでいた。
「よかったぁ。みあおちゃんまで寝たきりになったらどうしようって心配してたんだよ」
 いつのまにか「みあおちゃん」になっていて、少しくすぐったい。
「ね、浩子は真由のこと、好き?」
「うん。親友だもん」
「だよね」
 疲れたから、ちょっと眠らせてね。そう告げて、みあおは再び目をつむった。夢の中では、浩子と真由のふたりが笑っていた。
 
 数日後。浩子からメールがきた。
『みあおちゃん、この間はありがとう。おかげで真由は目を覚ましました。真由ったら急にしおらしくなって、心配かけてごめん、って謝られちゃった。なんか、らしくないって感じ。
 そうそう、みあおちゃん聞いて。真由ってね、夢の中で天使に会ったんだって。笑っちゃわない? 天使だなんて。でもね、私ね、真由が会った天使ってみあおちゃんだと思うんだ。おかしいかな?』



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1415 / 海原みあお / 女 / 13 / 小学生】


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■         ライター通信          ■
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みあおさん、はじめまして。駆け出しライターのひじりあやです。
お届けするのが大変遅くなってしまって申し訳ありませんでした。もう少し参加してくださるPCはいらっしゃらないかなと待っていたら、作業に入るのが遅れてしまいました。……結局、みあおさんだけの参加なわけですが(苦笑)
 
参加PCがひとりなのはみあおさん的にはどうなのかなと不安はあるのですが、わたしとしては、その分、みあおさんを掘り下げて描写することができたのでとても楽しかったです。
キャッチフレーズにある「幸せ運ぶおきらくな鳥娘」という言葉がものすごく気になってしまい、そこからイメージを膨らませるところがたくさんありました。ちょっと重たい話になってしまったかな、という気もしますけど、気に入ってくださったら幸いです。
今回は参加してくださってありがとうございました。また会えることを祈りつつ。