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付帯曲『北へ』
〜Lieder ohne Worte - Op.62-a 猊座の日記帳より
『――みあおと一緒に、北海道に旅行なんてどうだい?』
父親に呼び出されて聞かされた、あまりにも突然な提案に、その日は流石に、海色の髪と瞳の少女は――海原(うなばら) みなもは、戸惑いを隠す事ができずにいた。
『お父さんも、それからみそのもお母さんも都合が合わないから、二人だけで行くか、もしくは誰かを誘って行っておいで』
ほら、みなもも色々大変だろう? ここいらで一休みしてきてはどうだい?――と、労われるかのようにしているその内に、いつの間にか事は決定してしまっていたのだ。
そうして、それから数日後の夜。今、みなもは、とある大きめの部屋を借り切り、黙々と荷物の整理を続けていた。
……これがみあおの分の着替え。こっちはあたしの分。それから、他に必要な物は……。
出発は、まだ数日後の事であった。しかし荷物は予めホテルに送っておいた方が良い、という結論の元、みなもは日々、少しずつ荷物の整理を始めていた。
しかも更に、妹の――みあおの話によれば、まだ増えるかも知れないと言うのだから、
そこも、考えておかなくちゃあね。
思いながらも、自然と零れ落ちるのは苦笑、というよりは、むしろ妹の嬉しそうな姿を思い出した時の微笑であった。
さらりとした銀髪に、同じ色の瞳のあの少女は、今はこの部屋のすぐ傍にある廊下の電話で、とあるシスターに――星月 麗花(ほしづく れいか)に、お誘いの電話をかけているはずであった。
「ねー、羨ましいでしょ? おとーさんがホテルとかも全部手配してくれるんだって! みあおがお願いしたら、行って来て良いよって!」
みなもの耳にも、楽しそうな声音が聞えてくる。
――勿論その声の主は、受話器を片手にした、パジャマ姿のみあおであった。
みあおは廊下に立ったまま、電話向こうの、麗花のいる教会の駄目聖職者――ユリウス・アレッサンドロに、早く麗花に代ってよ! と急かしつつも自慢をしながら、
「だから、北海道に旅行っ!」
〈あー、でしたら私も行きましょうか? 良いですねぇ、北海道! 桜前線を追いかけるんですか〉
「桜はねー、向こうはまだ早いってニュースで言ってたよ、ユリウス。それに誰がユリウスのこと、誘うって言ったの?」
〈――え?〉
電話の向こうで、ユリウスが凍りついた事が良くわかる。
〈いやだって、今の話の流れからしますと、『ねぇユリウスもどう? 麗花も一緒にさ!』――というのが話の筋では?〉
……随分勝手な解釈だよねえ。
思いながらも、
「確かに麗花誘おうと思って電話したけど、だってユリウス、忙しいんでしょ?」
〈そりゃあ、確かに忙しいですけれど――〉
「みあおって、オトナのジジョウだから」
にっこりと。
微笑んだみあおの悪戯な様子は、受話器の向こうにも届いているに違いない。
電話の向こうで、ユリウスは暫しの沈黙の後、
〈嗚呼、主よ……〉
「お祈りなんかどうでも良いって! それより早く麗花に代ってってば。一緒に行ったら、麗花の訓練にもなるし! ね、だから早く、麗花に代っ――、」
痺れを切らし、みあおが叫んだその途端の話であった。
例の如く、受話器をひったくる音と共に、
〈もっ、もしもしっ?! もしかしてみあおちゃんっ?!〉
みあおの耳に、麗花の声音が聴こえてきたのは。
みあおは一転、ぱっと笑顔を浮かべると、受話器を両手に持ち直し、明るく言葉を返し始める。
「やっほー、麗花! この前はどうもありがとうね! ケーキ、お姉さん達もとっても喜んでた!」
〈いえいえいえいえ、こちらこそほんっとうにありがとうございました! 本当に楽しかったものだから、あの後ちょっと夕食とか、作りすぎちゃったのよねえ〉
作りすぎた――言ってはいるが、麗花自身は、あの日の夕食がほぼフレンチのフルコースであった事にも、その日のユリウスが思わず苦笑していた事にも、おかげで先月の財政が苦しくなっていた事にも、ほとんど気がついてはいなかった。
それから暫し、みあおと麗花とは他愛の無い会話をし、やがてみあおが本題を切り出したのは、ユリウスが受話器の向こうで突き飛ばされてから、数十分経ってからの話であった。
「でね、麗花、みあおが北海道に行って、『お友達に会いに行こうツアー』したいって言ったら、おとーさんが良いよって言ってくれたんだ。おとーさんったら色々と手配してくれて、それに、今回はお姉さんも一緒なの! ね、麗花も一緒に行こうよ! おとーさんも良いって言ってたし!」
〈えっ、ほ、北海道っ?! 桜前線を追っかけ――、〉
「向うはまだ早いってニュースで言ってたって。まだ全然そんな気配、無いんだって」
奇しくもユリウスと同じ言葉を口にした麗花に、今度は少しばかり詳しい情報を付け加えて言葉を返す。
「信じられないよねー。こっちはもうこんなに一杯、お花咲いてるのに」
〈へぇ、そうだったんですか……やっぱり信じられないですよね。そっか、咲いてないのねぇ……〉
「で、麗花、行きたくない? 嫌じゃなかったら、」
〈嫌なわけありませんっ! あ――でも、そんな、また色々とお世話になると思いますのに、迷惑じゃあ……〉
「迷惑なんかじゃないって! ね、だからユリウスに聞いてみて? きっと良いって言ってくれるはずだし! そこに、倒れてるんでしょ?」
みあおの言葉に、次の瞬間受話器の向こうから麗花の悲鳴が響き渡った。
先ほど自分で受話器を奪い取る際、勢い余って上司を突き飛ばした事には気がついていなかったのか、あまつさえ大丈夫ですかっ?! との声音まで聞えて来ていたのだが――、
どうやらそのまま、麗花はユリウスの説得にかかったらしい。
電話を保留にする事すら忘れた麗花の声音が、受話器から聞えてくる。
〈ねぇ猊下、そういうわけで良いですか?……何ですって! 毎日毎日、料理当番代わっているじゃあないですか! トイレ掃除だって――!……話が別なんかじゃあありません! それに私だって色々な人に会いたいし――、は、用事?〉
「みあお、どうなりそう?」
「んー、こんな感じ」
不意に後ろからやって来たみなもに、みあおは背伸びして受話器を手渡す。
受取った受話器に耳を当て、
〈そんな用事でしたら、私がやって来ますから! 猊下は教会にいて下さって結構です!……部屋代が余計にかかるんです! 猊下だけ別部屋にしなきゃあならないじゃないですか!〉
みなもは思わず苦笑する。
……もしかして、
「……伯爵様、もしかして、来たがってたり……?」
「みたいだねー。みあおはユリウスのことなんて、誘わなかったんだけどなあ」
頭の後ろで腕を組み、みなもの言葉にみあおが暢気に言葉を返す。
受話器からの麗花の怒鳴り声を聞きながら、そうしてみあおは更にもう一言付け加えた。
「ま、来るなら来るで良いけどね。荷物持ちくらいの役には、たつだろうしさ」
――ようやく小さな花々が世界を彩り始めたばかりの、北の台地の政令指定都市。
春休み真っ盛りの人ごみの中に紛れ、見目にも仲の良さそうな二人の姉妹と、一人の私服姿のシスターと、そうして、大きな荷物を背負ったやはり私服姿の神父とが、一緒になって歩いていた。
「で、私は荷物持ちですか……、」
「すみません、伯爵様……その、色々東京のお菓子とか、お土産に持ってきたら……それだけ持ち歩かなきゃあ、ならなくなっちゃって……」
大通り沿いの高級ホテルへのチェックインを済ませ、部屋や、ホテルに前もって送りつけてあった上着や着替え、その他の荷物を適当に整理し。
そうして早速、一同は昼食の前に、とある人物と待ち合わせをすべく、札幌駅へとやって来ていた。
「改めて確認しますと、これからの予定は――お清(しん)ちゃんと合流してから、昼食。それから街を歩いて、夜は水源地に行く……のだそうです」
お清。
みあおがかつて会ったことのある座敷童で、今も北海道に住んでいるのだと言う。ちなみに、その他の予定に関しても、観光や食べ物に関しては、全て、それに詳しいみあおに任せてある。
みなもは、みあおから受取った、書き込みの多い観光関係の雑誌を捲りながら、
「昼食は、季節が季節だし、折角だからお鍋にしよう――って話になったようです」
「はぁ、鍋ですか。……ちょっと季節としては遅いような気もしますが、美味しそうではありますよね。で、デザートは勿論、出るんですよねぇ?」
「――多分、出ないと思いますけれど……」
「何ですってっ?!」
大袈裟に驚くユリウスに、
「出るはずないじゃないですか。お鍋屋さんですよ? ファミリー・レストランとは違うんです! ねぇ、みあおちゃん?」
「あったりまえじゃん。デザートなんて、ガイドブックにも書いてなかったし」
みなもが呆れるその前に、みあおと麗花のつっこみが飛ぶ。
容赦無く現実を突きつけられ、荷物の重さも相俟ってか元気を失うユリウスに、しかし、
「でも、待ち合わせって一時に札幌駅の北口でしたよね? もう……十五分なんですけれど」
悪気も無く、不意にみなもがもう一つの現実を言い表した。
しかしそれにばかりは、ユリウスもあまり、どうと感じる事も無かったらしく、
「大丈夫ですって、十五分くらい。待ち合わせには、少し遅いくらいが丁度良いんです」
「ユリウス、ここイタリアじゃなくて日本」
言われた台詞に、みあおがぴしゃりと言葉を返す。
大半の日本人は、待ち合わせに関していえば、一分一秒も適当に扱ったりはしない。
勿論みあおには、そこまで細々と言うつもりもないのだが、
……お清ちゃん、待ってたらどーするのさ。
「ユリウスのせいだからね! あーやって寄り道ばっかりするから! お土産は後で見ようって言ったのに!」
「だって美味しそうだったんですもの、あのチョコレートクッキー!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて……、」
「海原さん、良いんですよ。猊下が悪いんだから」
みあおとユリウスの応酬を止めに入ろうとしたみなもに、麗花がそっと付け加える。
――そうこうしているその内に、ようやく一向がお清との待ち合わせ場所に辿り着いたのは、それから五分後の事であった。
そうして、
あ、と、
不意にみあおが、驚いたように軽く駆け出す。
その視線の先には、一人のみあおと同じくらいの年齢の外見をした、一人の少女が立っていた。
「お清っ!」
「――あ、みあおちゃん!」
過ぎ行く人の流れを見つめていた少女が、みあおの声音にくるりと振り返る。
……驚いた。
出会ったあの当時の和服とは一転、膝上のふりふりとしたスカートに、キャミソールの上に長袖の上着を一枚。その上に白い春らしい上着をもう一枚重ね、すっかりとお清は、今の時代の子どもに溶け込んでいた。
それでも雰囲気のどこか古風なお清の手を取り、みあおは早速嬉しさに飛び跳ねながら、
「お久しぶり! でもお清、もしかして、一人でここに来たの?」
札幌駅って、こーんなに複雑なのに!
みあおの言葉に、お清はううん、と首を横に振ると、
「お姉さんにね、ここまで連れて来てもらったんだよ。さっきまで一緒にいてくれたんだけど、どうしてもばいとに間に合わないって、さっきたくしーに乗ってお仕事に行っちゃった。でね、ゆりうすにお姉さんから伝言があるの」
言い終えるなり、不意に後ろからやって来ていたユリウスの瞳をじっと見上げ、愛らしい動作で胸の前で手を組んだ。
そのまま、一言。
「また待ち合わせ時間に遅れやがって。後で殺すからな!――だって!」
無邪気に。
にっこりと微笑みかけて見せる。
――その、言葉に、
ユリウスはいつもの微笑を引きつらせ、そのまま重く黙り込む。
お清はそんなユリウスの姿には気づかない風に、もう一度くるりと、視線の方向を隣へと移していた。
そこに立つみなもへと、ぺこりと一つ頭を下げ、
「えーっと、始めまして。日向(ひむかい) お清って言います」
「始めまして、お清ちゃん。あたしはみなも、って言います。海原 みなもです」
みなもも腰を屈め、お清と視線の高さを同じくして頭を下げた。
お清は小首を傾げ、みなもに一つ問いかける。
「もしかして、みあもちゃんのお姉さん?」
「ええ、そうです。宜しくお願いしますね」
「うん、宜しくお願いします!」
そっか、みあおちゃんのお姉さんかあ。
会うのは初めてだけど、と、しかしその海色の瞳に、お清は直感してしまう。
――きっと素適な、人なんだろうなあ。
そうして。
それから暫く、一同は目標のお鍋屋を目指し、札幌の街中をゆっくりと歩いていた。
「お清、それにしても何だか明るくなったんだね!」
本当の姉妹であるかのように手を繋げば、みあおの足取りも自然と軽くなる。
どちらかと言えば無口な方であったお清が、
――こおんなにお喋りになってるだなんて!
「そ、そっかな?」
「絶対明るくなったって! 服とかすっごく可愛くなったし! 前の着物も可愛かったけど、今のも今のですっごく似合ってるよ♪」
ユリウスの話によれば、お清は一連の事件の後、麗花の師ともいうべき、日向 遙(はるか)という名の女性の元に引き取られているのだという。
ま、みあおはそのハルカとかゆー人に、会った事無いけど。
しかしその人柄は、割と容易に想像できるような気がしてしまう。
「服はね、お姉さんが色々と選んでくれるの。それにね、お姉さんには、ギターを教えてもらったりするんだあ」
「へぇ、ギターかぁ。それじゃあお清も、ギター弾けるんだ!」
それなりに明るく、どちらかと言えば現代的な人。ギター、という単語から、それじゃあロックだよね! と思いながらも、みあおは繋いだ手を一度、勢い良く振り上げた。
お清はわっ、と、その勢いに歩きながらに、背伸びを一度強いられながらにも、
「ううん、弦に手が届かないから……。だから早く、おーきくなりたいなぁ」
みあおの方へと視線を向け、楽しそうに微笑んで呟いた。
「お姉さんは、とってもギターが上手なの。ろっくが好きだとか言ってるけど、お清にはろっくって、まだ何だか良くわからないけど、でも、時々テンテン手まり、とかも聞かせてくれるんだあ」
「へえ、そうなんだ!」
伯爵様、そこはケーキバイキングでは……。
やっぱり昼食はここにしませんか? ときょろきょろと周囲を見回すユリウスを窘める姉の声を聞き、みあおはふ、と、みなもの方へと視線を向ける。
……そのハルカとかゆー人は、
「一緒にお歌を、歌うの」
お清ちゃんにとっては、きっとみあおから見た、みなもお姉さんのような人なんだろうなぁ。
どうしてか不意に、嬉しさにも似た感情を覚えてしまう。
遙の――姉の事を語るお清の姿は、とても、楽しそうで、
「みあおちゃんも、今度お姉さんに会うと良いよ。きっと色々な事、教えてくれるから」
「それも楽しそうだよね! うん、それじゃあ後で、お清ちゃんの家に遊びに行こうかなっ」
お清ちゃんの家。
――今やきっと、遙だけの家ではなく、お清の家でもあるのだ。
「ねーねー、お姉さん、良いでしょ?」
「……あっと、あ、ごめんなさい、えーっと……、」
「お清ちゃんの家に、遊びに行くの!」
みあおにも、自分の家と言う事ができる家がある。
もはやただの義理ある仲ではなく、同じ屋根の下に住む、家族ともいえる存在のある場所がある。
みあおを、家族として受け入れてくれる場所がある。
……本当のおとーさんや、おかーさんにも会いたいけど、
今は今で、つまらない日々を送っているわけではないのだから。
「お清ちゃんがおいでって! ねー!」
顔を見合わせ、みあおとお清は間合い良く、同時に一つ頷きあう。
――そんな二人の姿に、
自然にみなもの困惑は、やわらかな微笑へと変わっていた。
その後、皆で鍋をつつき、暫く、道路の白線を引きなおしている真っ最中であった街中や、大通り公園を遊び歩き。
夜も六時になると、門限を理由に、お清は一旦、タクシーで家路についていた。
ユリウス曰く、遙があまり、夜な夜なお清を外に出したいと思っていないらしいとの事であった。ユリウスがいる以上、確かに遙としても安心ではあるのだが、いくら座敷童とは雖も子どもであるお清に対する姉心は、やはりかなりのものであるらしい。
まあ、でも、明日また遊べるって言ってたし!
ちょっと残念だけど、でも、
「ほら、東京限定のお菓子! クッキーとか、チョコレートとか、有名なのたっくさんあるんだ! あんまり知らないでしょう?」
(うん、見た事無いのばっかり……)
またこの子にも、会えたし!
夜の、水源地。
みあおが再会していたのは、ベンチに座っていた小さなポニーテールの女の子であった。
幸い――と言ってしまっては悪いのだろうが、少女はまだ天には帰らずに、あの時と同じようにベンチに腰掛けていた。
「その子も、みあおのお友達?」
ユリウスに持たせた荷物の中から取り出させた、東京限定のお菓子を膝の上に広げるみあおの隣から、みなもがふ、と問いかける。
「うん、そー! 前にここに来た時にね、一緒にトウキビ食べたんだ!」
「……こんな可愛い子に、猊下は会っていたんですか。手、出されませんでした?」
「麗花さん、人聞きが悪いですねえ……」
みあおがこの子に会っていた時、丁度麗花は、みあおとユリウスとは行動を別にしていた。故に、麗花はこの子とは会った事が無かったのだが、
「それにしても、みあおちゃんに、お清ちゃんに、この子に……今日は可愛い子に三人も会っちゃったわ……」
随分と幸せそうに微笑むと、短い祈りの語句と共にそっと十字を印す。
「――星月さん、そんなに嬉しいんですか……?」
「嬉しいもなにも! 幸せすぎて私――ああもうっ!」
思わず問うてきたみなもへ、麗花は短く答えを返す。
そうして暫く、ユリウスだけが置いてきぼりの状況で、様々な女の話に花が咲き――、
「そうだっ、記念撮影しよっ!」
不意にみあおが提案したのは、ようやく話にも一区切りがついた頃であった。
(え、でも――、)
そんな、写真なんて……。
戸惑う少女へと、みあおはにっこりと笑いかけて見せる。
「大丈夫、写るって! みあおがいるんだからさ! ユリウス、カメラ取って!」
みあおの素早い指示に、渋々ユリウスがカメラを取り出した。
手渡され、カメラを受取ったその手で、みあおは少女のごく近くに寄ると、
「ほら、いくよー!」
麗花やみなもを呼び寄せ、ぎゅうぎゅう詰めに寄り添いあう。
そのまま自分達の方へとカメラのレンズを向け、三、二、一――! と、シャッターボタンを押した。
――無意識ではあったものの、ユリウスは抜け者にした、そのままで。
そうして、それから小一時間。
ようやく少女と別れた一同は、当ても無く、水源が遠くに見える位置を歩きながら、他愛の無い会話を続けていた。
しかし会話の途中、突然思い出したかのようにして、みあおがあっと声をあげて立ち止まる。
「あ、そうだ、お姉さん、実はね、」
言いながら、みあおはユリウスを指先でちょいちょいっと呼び寄せ、
「ねえユリウス、その中にね、ピンクの包みと、青い包みが一つ入ってるから」
「……もしかして、」
「探して出して。もう、早く!」
やっぱり……と嫌な予感を覚えていたユリウスは、みあおの一言に、がっくりと一つ肩を落としていた。
しかしやはり逆らう事はできなかったのか、大人しく荷物を降ろし、大きな鞄の中を適当に漁り始める。
「もう、早く早くっ!」
「ああっ、すみませんっ、伯爵様っ! あたしも手伝いますか――、」
「良いんですよ、海原さん。手伝う必要はありません」
「でも、」
「――いつも私達が使われている分、みあおちゃんにはコキ使ってもらわないと困ります」
ユリウスを急かすみあおに、唯一この場でユリウスに申し訳なさを感じているみなも。しかし駆け出そうとしたみなもを引きとめたのは、なかなか鬼染みた事を思っていた、麗花であった。
やがて暫く、三人の見守る中。
「……あのー、みあおさん、これ、ですか?」
周囲に荷物を散らかしたユリウスが、ようやく鞄の中から二つの包みを取り出した。
――みあおの言っていた通り、ピンクの包みと、青い包み。
中身はそれほど硬い物でもないのか、包みの形は、少々歪なものであった。
「そう、それ!」
みあおは颯爽とユリウスからそれを取り上げると、みなもの方へと駆け寄って行く。
そうしてにっこりと微笑み、
「はい、これ!」
リボンのついた、ピンクの包みを差し出した。
みあおの頭よりも高い位置に差し出されたそれを、みなもが疑問と共にそっと受取る。
「……えっと……、」
「忘れてた! おとーさんから、お姉さんにって!」
「お、お父さんが?」
「そう!」
大きく頷かれ、みなもは更に困惑してしまう。
……何だろう。
この重さと感触からすれば、
――まさか――……、
「ほら、お姉さん、こんな所で開けちゃ駄目! もっと木陰の方で! ユリウス! 絶対お姉さんの方見ちゃ駄目だよ!」
服……?
「……はぁ、どういう事です?」
「みあお、この中身って……、」
「おとーさんがね、お姉さんにって! きっと気に入ってくれると思うって言ってた。ね、着てみて! ほら、早く!」
写真撮りたいし!
何度かユリウスの方を牽制しながらも、みあおは明るくみなもへと笑いかける。
「おとーさんと約束したの! 記念撮影してくるって!」
「そ、そんなの、別にこの場所でなくても……」
「ねえ、お願い! 良いでしょ? ねー、ね?」
着替える場所も無いのに?
更に悩んでしまうみなもへと、みあおはもう一言、
「大丈夫、誰も来ないって! それに、麗花に見張っててもらえば大丈夫!」
根拠の無い保障をする。
――それから、暫く。
数分後には、すっかりみあおに説得されてしまった、みなもがそこに取り残されていた。
「それじゃ着替えたら、向こうで待ち合わせね!」
みなもと麗花を残し、満足気に頷いたみあおは、ユリウスを引き摺ってそのまま水源の方へと、去って行ってしまっていた。
もしかしてみあおさん、アレを、呼ぶつもりでは……?
柵の向こうに水源を見据えた時、初めてユリウスが口にした言葉が、これであった。
――実はこの水源の中には、変な幽霊が住んでいる。
全身黒尽くめの、自称『魔王』。前回この水源を訪れた際も、このファンタジー被れな男には、ある意味苦労させられたものであったのだが、
「久しぶりだねー、馬鹿魔王。遊びに来てあげた!」
(うむ、よくぞ礼拝に来たな! みあおとやら! そればかりは褒めてやろう!)
しかしみあおはあまりそれを気にした様子も無く――むしろ楽しい思い出の一つであったと言わんばかりに、ユリウスの懸念どおり水面下の魔王を呼び出していた。
呼び出され、早速謎の言葉を叫びながらせり上がる水の舞台と共に現れた魔王は、舞台の上から華麗に跳躍し、今、みあおの目の前に立っている。
見上げてくる久しぶりの姿に、魔王は随分と機嫌良く高笑いを上げると、
(だが我が元に礼拝するのであれば、もう少し後の方が良かったのだがな!)
「誰が礼拝するって、誰が」
(今の時期はいかん! 寂しい! 寒い! 残念だな、貴様等よ。桜吹雪の中に佇む我はとってもびゅーちふぉーなのだよ!)
「誰も見たくないって、そんなもの」
(そのびゅーちふぉーわんだほふぉーな姿を、貴様にも見せてやりたかったのだがね。きっと素適な黒影に、『きゃー、魔王様ってとってもり・り・し・いのねえ!』だなんてピンクの悲鳴が飛んで来たに違いないのだ!)
自分で自分を抱きしめ、くねりと一つ身震いをして見せる。
その姿に、必要以上の寒気を覚えながらも、
「どうしてそんな目深にフード被ってるのに、凛々しいとかわかるってさ」
(えぇいっ! おこちゃまは黙っているが良い!)
先ほどまでの上機嫌はどこへやら、早速感化されてしまったのか、魔王はぴしぃっ! と、みあおに手にした剣の切っ先を向けていた。
しかしみあおは、慌てず騒がず、むしろにっこりと不敵な笑顔を浮かべてみせる。
――あーあ、結構話、聞いてないようで聞いてるんだあ。
へぇ、と一つ驚きを示しながらも、
「ばーか」
一言。
その言葉に、魔王はむっと声をあげ、みあおの眼前へと剣を振り下ろした。
みあおの目の前を縦に流れた軌跡に、ユリウスが思わず息を呑む。
……しかし、みあおは。
何の前触れも無く、その剣を左の手で勢い良く払い除けていた。
途端剣は、宙高く空を舞う。月光に鈍く輝き、地面に落ち始めたそれは、
(――ああああああっ?!)
からんっ、と甲高い音など決してたてるはずもなく――むしろからからと乾いた軽い音をたてながら、剣は魔王の叫びも虚しく、道の向こうへと転がって行った。
不意に夜を吹き撫でた風に、剣はそのまま、遊ばれるかのようにして連れ去られ――、
やがて、
(……選ばれた魔王にしか使えない、特別な剣だと言うのにっ?!)
「どーせそこら辺の霊能者にヘコヘコしながら、『どーかこの剣を私にも持てるようにしてやって下さい、お願いしますぅ』だなんて一所懸命頭下げたんでしょ?」
怪我一つ無い左手はスカートのポケットの中に、みあおがじっと、魔王のフードの中を覗き込む。
そのまま無邪気に、更に一言を付け加える。
「でも本当馬鹿だよね」
――勿論、みあおもユリウスも、真実には気づいていた。
先ほど魔王の手にしていたあの剣は、百円ショップにでも売っていそうな、プラスチックのオモチャの剣であった、という事に。
今時の百円ショップと言えば、海賊の帽子があったり、魔女のステッキがあったり、変な仮面が売っていたりと実に取り扱っているものが幅広い。勿論その仮装道具の中には、プラスチックの日本刀もどきや、剣もどきも含まれているのだが、
みあおも良く、見に行くんだよね〜。
「そんなオモチャの剣一本のためにそんなに頭下げるだなんて!」
買わなくても、見てるだけで面白いし。
――お姉さんにあんな格好させたら、お姉様喜ぶだろうなぁ、などと考える事もあるのは、
ま、お姉様とみあおの秘密だけどっ!
にこにこと、そのまま自分の方を見つめてくるみあおの姿に、魔王はしばし、沈黙せざるを得ずにいた。
指摘された通り霊能者に頭を下げたのか、はたまた剣が玩具であった事に気がついていなかったのか――ただの取り繕いか、はたまた真実の確認か。魔王は焦り、上ずり気味の声をあげる。
(なっ、何を言うっ?!)
「だーかーらー、オモチャだって、さっきの剣!」
(……我がダーク・オブ・エクスカリバーを馬鹿にしおったなっ?!)
「名前だけはいっちょまえ何だね〜。ネーミングセンスないけどっ!」
(な、何だとおおおおおおっ?!)
「――みあお?」
――と。
不意に、風に乗って声が聞こえてきた。
全員がふと振り返れば、そこに立っていたのは、
「そちらの方は、お友達? それにしてもお父さんったら、またこんなフリフリを選ら――……」
(姫!)
桜色のワンピースに、白いフリルと紅色アクセントの鮮やかな姿の、みなもであった。
少々開いた胸元には、いつもの貝のペンダント。頭には大きなレースのリボンを飾り、肩から母親の瞳にも似た、深紅のストールを羽織っている。
しかしそんなみなもの言葉を遮ったのは、みあおでもなくユリウスでもなく、後ろから一緒に駆けて来ていた麗花でもなく、一番遠くの位置からみなもを見た、魔王であった。
「……姫?」
この魔王と初対面のみなもには、当然相手の性格など知る由も無い。
はい? と、問い返すかのように疑問の声をあげたみなもに、
「なっ――何であの馬鹿魔王がこんなトコロにいるのよっ! まずいわ海原さんっ、逃げてっ!」
麗花が鋭く叫び声をあげた。
が、
(ふっ――ふははははははっ! ようやくここで我が出番がやって来たというワケか! そうだ、我はガキの子守ではあるまいぞ! そうだ、子守などではないのであるぞ!)
ぴしぃっ! とどこか遠くの空を指して笑うなり、魔王は素早くみなもの方へと駆け寄って行く。
慌てて立ちはだかった麗花を突き飛ばし、
「ち――ちょっとっ?!」
(そういうわけで、姫君は頂いたっ!)
長い外套を大きく広げ、その中に優しく、みなもを包み込む。
そのまましっかりと抱きとめ――実際は、実体に触れる事のできない魔王の代わりに、みなもを持ち上げてるのは水源から伸びる水の鎖であったのだが――高く跳躍。悲鳴をあげるみなもを、あたかも水ではなく自分が攫っているかのように見せかけ、水源の上に浮かぶ舞台の上へと着地した。
相も変わらず、演出にだけは抜かりが無い。
「ち、ちょっと、どういう事なんですかっ?!」
(姫、これは勇者との戦いなのですよ!)
説明もほどほどに、早速魔王は得意になって語りを始める。
(そうして格好良い魔王に、姫君は恋をする! 『きゃあ、勇者様やめてぇ! 魔王様は、そんな悪い人ではありませんわあ!』と言う姫君のお優しい言葉に、魔王は思わず涙するに違いない!)
「いえあの、」
(愛が芽生えるのだよ! 美しい姫と魔王との禁断の愛だ!)
「……そうじゃあ、なくて、」
(考えてもみろ! どうして勇者がいるのだっ! 勇者がいるから魔王がいるのかっ、否! 魔王がいるから勇者がいるのだよ!)
「どうしてあたし、」
(つまりは魔王はファンタジーの最大の宝だ! 宝玉だ! 世界そのものなのだ! とにかくそういうわけで、恋に堕ちる魔王と姫君っ!)
「こんな風にして攫われて……、」
(そうしてフィナーレだ!)
……駄目だ、この人。人の話聞いてない……。
大袈裟な声を聞きながら、みなもは頭の片隅でぼんやりとそんな事を考えてしまう。
――えーっと……、
(勇者の剣に倒れそうになる魔王! 『姫、何を仰るのですか! 奴は魔王なのです! 姫を攫い、姫を苦しめ、姫を陥れようとした魔王なのですよ!』『いいえ違うわ! 私は彼のことを愛している! だからお願い、彼を殺さないで! 私は、彼と一緒に――!』『……もう、良いのですよ――姫、』『魔王様っ!』)
水が触れているから、いざとなれば……別に危なくは、ないと思うけど……。
人魚の血を引く者として、その点だけは安心できる。
一人で三役をこなし、あまつさえ声の高さまで上下させつつ台詞を読み上げる魔王に苦笑を向けながら――むしろなんて演技が下手なんだろう、という現役演劇部としてもの感想を持ってしまった、という事は、口にはしなかったが――みなもはこっそりと、一つ溜息を吐いていた。
……いつまでこんな状況、続くんだろう……。
いまだに続く魔王の演技を聞いていれば、或いは、父親やみあおは、元々これを企んでいたのではないか――という疑問まで沸き起こってきてしまう。
みあおから渡された包みを開いた時、確かに、どうしてこんなフリフリなドレスをこんな所で――と、思った事には思っていたのだ。
しかし、
『きゃあああああっ、可愛いっ! 可愛すぎるっ! 海原さんっ、是非早く着てみて下さいっ!』
こんな所でお着替えだなんて、できませんよねえ?
包みを開く前までは合意していたはずの麗花が、中身のドレスを見た途端、一転してみなもを諭し始めた事が、みなもに後戻りを許さなくなってしまったのだ。
星月さん、かわいいもの好きだから……。
実際着替えさせられた後も、みなもは、麗花には、いかにも嬉しそうな悲鳴と共に、何度か抱きしめられたり、スカートを直されたりとされていたのだから。
……でも、問題はそこじゃあ、なくて。
多分問題は、間違い無くそこではなく、
(聞いているのか? 我が姫君よ)
この服が、この間合いで取り出された都合の良さ。当然みあおは、この魔王に以前会っている以上、このファンタジー被れな性格を良く知っているはずであった。
つまりは……、
父親もみあおも、この事態を見越していたとなれば、全ての説明がつく。
まあ――、
(むっ!)
良いけれど、もう……。
もう慣れてしまっているのだから――と、みなもが諦めかけた、その瞬間。
「姫を返せっ!」
岸から飛んで来た言葉に、みなもの視線がそちらへと向けられる。
そこにいたのは、こちらの状況を黙視していたユリウスと、一々魔王の台詞に怒りの言葉を返していた麗花、そうして、
(貴様は誰だっ!)
……みあおですって。
みなもは知らず、心の中でつっこみを入れていた。声をかけて来たのはみあおだと、そんな事は誰にでもすぐわかる。
勿論先ほどの魔王の台詞も、気の効いた彼自身の演出でもあったのだが、しかし改めてみなもが再考したところ、確かにみあおのいる方向には、魔王に改まった演出をさせるだけの材料が揃っている。
「みあおちゃん、いつ着替えたのっ?!」
みなもの耳には、今にもみあおを抱きしめようとしているであろう、麗花の声音が聞えてきていた。
――外灯の光に照らし出され、みなもの目にも、岸の様子は良く見えている。
麗花の指摘していたとおり、そこに、腰元の剣に手を当て立っていたのは、
「勇者みあおに敵う者無しっ!」
古代西洋を思わせる、青を基調とした服に身を包む、曰く勇者姿の、みあおであった。
……ああ、なるほど、
成り行きに翻弄されながら、みなもは更に考える。
「そういうわけでみなも姫っ! 助けに来たからねー!」
あの青い包みの中身って……あの服だったんだ……。
つまりはやはり、全ては父親とみあおによって書き記された、脚本の上での出来事だったのではないだろうか――或いは母親や姉も、事に加担しているのかも知れないが。
しかし逆に、もうここまで来れば諦めもついてしまう。
……頑張れ、演劇部。
あたし、いつもこれよりすごい事、やってきてるじゃない。
不意に、心の中で呟いて、
今までの思考と決別するかのように、みなもはすっと、大きく息を吸い込んでいた。
そうして、
「――勇者様、お助けを! あたしはここにいますっ!」
もう、
なるようにしか、ならないんだから――。
ようやく過激なファンタジーごっこが終了した頃には、ユリウスは近くのベンチに荷物を降ろし、買ったばかりのチョコレートクッキーを食べつつ、すっかり観戦に徹してしまっていた。
繰り広げられていたのは死闘――というよりも、口喧嘩や口答え。しかしそれでも、ようやく魔王も満足したのか、
(そうですか姫、ご友人の法事であるのならば仕方が無い。我もそのために姫が帰る事を止める事はできん――必ずや今度また、姫を攫いに行きましょうぞ)
あくまでも、勇者に負けて終りたくはなかったらしく、散々悪の魔王に一人で浸りきった挙句――実際みなもはあれからすっかり姫君に、みあおは勇者になりきっていたのだが――無理やりな展開を作り上げ、捉えていたみなもをみあおの元へと返していた。
そうして魔王は、高笑いと共に再び水面に飛び降り――、
しかし、
「あ、馬鹿魔王! ちょっと待って! 帰る前に写真写真っ!」
(写真だとおっ?! 我が写るはずなかろうにっ!)
みあおの言葉に、律儀に陸へと戻ってくる。
「だあいじょうぶだって! 撮る人が撮る人だし! ユリウスってあれでも優秀な霊能者なんでしょ? だったら写るって!」
それに、みあおがいるから絶対大丈夫!
付け加え、みあおは早速ユリウスに鞄の中からカメラを取り出すようにと言い伝え、そうしてもう一つ、指令を付け加える。
「ほらユリウス! 撮って撮ってっ!」
「あー、はいはい、良いですよ」
そうしてしっかり、記念撮影。
魔王を一番後ろに、水に濡れたドレス姿のみなもと、勇者姿のみあお。そうして、苦笑する麗花。
みあおはそれからユリウスに駆け寄り、鞄の中からもう一つ包みを取り出させると、再度魔王の方へと素早く駆け寄り、
「それからこれ、お土産! 東京のお菓子。折角だから、イッてる魔王にもお土産買って行こうと思って、わざわざ買っといたんだ♪」
(……うむ)
「まぁ、受取ってみなって! それからちゃんと、食べれるよ!」
何せこのお土産には、あの少女にあげた物と同じく、みあおの霊羽による霊力が込められている。
物には触れない――と言わんばかりに困惑していた魔王は、しかしそれでも、ゆっくりと、みあおに差し出されたお土産を受取った――受取る事が、できてしまった。
驚く魔王に、
「ま、この借りはきっちり高くつけとくからね」
(わ、我に借りだとっ?!)
「今度来る時は、三回回ってワン! でもしてもらおうかなー!」
(な、なんだとおおおおっ?!)
「ま、でもどの道、みあお達、まだ北海道にいるからさ。帰る前に気が向いたらまた来てあげるよ。気が向いたらね」
笑顔を一つ。
みあおはそのまま周囲を廻らせ、全てを確認するかのように更に言い放った。
「お清ちゃんともまた明日遊ばなきゃいけないし! それから、明日は観光して、また料理食べて、お土産買いに行こうね! おかーさんやお姉様に、それにおとーさんにも服のお礼もしなきゃあいけないし! それから、お清ちゃんの家にも行くの! ね、お姉さん、麗花、そうでしょ?」
その言葉に、みなもと麗花は思わず顔を見合わせる。
確かに。
一日やそこらでは、この広い北海道、やりきれない事も沢山ある。
――つまりは。
つまりはまだまだ、
「確かにみあおの言うとおり、折角の春休みだし、ね」
北海道旅行は、始まったばかりであるのだから――。
Fine
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I caratteri. 〜登場人物
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<PC>
★ 海原 みあお 〈Miamo Unabara〉
整理番号:1415 性別:女 年齢:13歳 職業:小学生
★ 海原 みなも 〈Minamo Unabara〉
整理番号:1252 性別:女 年齢:13歳 職業:中学生
<NPC>
☆ 星月 麗花 〈Reika Hoshizuku〉
性別:女 年齢:19歳
職業:見習いシスター兼死霊使い(ネクロマンサー)
☆ ユリウス・アレッサンドロ
性別:男 年齢:27歳
職業:枢機卿兼教皇庁公認エクソシスト
☆ 日向 お清 〈Oshin Himukai〉
性別:女 年齢:不明 職業:座敷童
☆ ポニーテールの女の子
性別:女 職業:水源のベンチに座る幽霊
☆ 魔王 〈Maoh〉
性別:男 職業:自称魔王
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Dalla scrivente. 〜ライター通信
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まずは長々と、本当にお疲れ様でございました。
今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はご発注を頂きまして、本当にありがとうございました。
先日は色々とご丁寧にご連絡を頂きまして、本当にありがとうございました。また、発注を頂くにあたりまして、窓につきましては色々とお手数をおかけする結果となってしまい、本当に申し訳ございませんでした。
随分と続きが止まって久しい蝦夷編でございますが、色々と覚えていて下さりまして、本当に嬉しく思いました。ちなみに、お話には入らなかった部分なのですが、実はみなもちゃんが捕われの身となった瞬間のくらいに、みあおちゃんと麗花の間にはこんな会話があったようです。
「あの馬鹿魔王! てっきり氷付けになって水源の底に沈んでいるのだとばっかり思っていたのに!」
「麗花って、やっぱりちょっとカゲキだよねえ」
「今度こそっ! 今度こそ再起不能にしてやるんだからあああああああっ!」
――実際麗花は、この手の男が大嫌いであるようです。
今回ユリウスは、大した用事も無いのに無理やりついてきてしまっていたようですが……実際暇なのではないかと疑ってしまいたくもなりますが、疑ってしまえば予想通りの答えが返ってきそうなような気も致しますので、あまり深く追求しないでやって下さりますと幸いでございます。
なお、麗花は、電話を頂いた時点で行く気に満ち溢れておりました。たとえユリウスが駄目と言ったとしても、簡単には諦めなかったのではないかと……。
ちなみに蝦夷は、時々はまだ雪が降りますものの、ようやく日差しも暖かくなってまいりまして、畑には小さな花も見られるようになりました。
それでもまだ、桜の蕾は固いままであったりします。丁度ゴールデンウィークとお花見シーズンが重なる事もあるのですけれども、どの道開花は、まだ少し先の話であるようです。
では、そろそろこの辺で失礼致します。
様々なご無礼があるかとは思いますが、どうかご容赦下さりますと幸いでございます。
何かありましたら、ご遠慮なくテラコン等よりご連絡をよこしてやって下さいませ。
――又どこかでお会いできます事を祈りつつ……。
07 aprile 2004
Grazie per la vostra lettura !
Lina Umizuki
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