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<東京怪談・PCゲームノベル>


かけがえのない日常


 ふと匡乃がカレンダーを見上げたのは、3月になって、少したった頃。
「今年はどうしようかな……」
 3月14日は妹、汐耶の誕生日だ。
 祝ってあげたいからこそ、喜ぶ物を選びたいと考えるのは普通だろう。
 だが汐耶が好みそうな物をと考えると、どうしても毎年似たような物が多くなってしまうのである。
 幸いまだ日にちはあるのだからゆっくり考えればいいと……そんな時だった。
 一本の電話に出てから、匡乃はそれまで考えていた事がしっかりと形をなしていくのを感じ取っていく。
 今年の誕生日は、少しだけ違うのだ。
「提案があるんだ」
 もう一人の妹の頼み事を匡乃は快く引き受けた。



 時間を決め、待ち合わせた場所で待ちながら、そろそろ時間だと周りを見渡す。
 ここから匡乃が動かなければ背が高い事とスーツ姿が人目を引く事を考えれば、すぐにでも見つけられるだろうが、こちらから捜すのも当然の事だろう。
 その甲斐あって、先に人混みの中からメノウの姿を見つけたのは匡乃だった。
 軽く手を挙げ微笑みかける。
「こっちだよ、メノウ」
 振り返ったのは淡い桜色のワンピース姿の少女。
「お兄さん、お待たせしましたか?」
「今来た所です、行きましょうか」
「はい」
 電話で相談を受けたのだ。
 誕生日を知って、何を送ったらいいかを考え匡乃に相談を持ちかけたのである。
「どうしたらいいか解らなくて」
「気持ちがこもっていれば、伝わると思いますよ」
「……例えば?」
 上手く思いつかないのはこういう事になれていないせいかもしれない。
 けど汐耶とメノウが一緒に暮らし始めて、そう短くはない月日はたっているから……もう気付く切っ掛けはあるはずだ。
 それを自分で気付いて欲しいと願ったのは仕事柄のせいかもしれないし、小さな妹に対してしてやりたい事でもあるだろう。
「メノウがこれまで一緒に暮らしてて嬉しかった事は?」
「……一緒にいられる事です、話をしたり、勉強を教えて貰ったり。料理を教えて貰った事もあります」
 あった事を話すメノウを見る目はとても優しい。
 どれもほんの些細な事で、人にとっては当たり前に思える日常をこんなにも嬉しそうに話す。
 それはきっと、二人が仲良くやっている何よりの証明。
「きっと汐耶も嬉しいと思うよ」
 匡乃の提案に驚いたような表情を見せたが、嬉しそうに笑う。
「……はい」
「料理はメノウが選んだ物にしようか、それからケーキも」
「はい」
 色々と計画を立てながら、プレゼントも色々と見て回る。
 服や小物類、普段使えそうな……けれど少しばかり変わったデザインの日用雑貨。
 選択肢の中に本が含まれていたのは好きだと知っていたからだろう。
「うーん……」
 こういう事は、悩み始めたらなかなか決まらないものだ。
 一軒一軒根気よく付きあ合いながら色々と店を回っていたが、通りかかったジュエリーショップの前で何かを思いついたように顔を上げる。
「アクセサリーとかは喜んでくれるでしょうか?」
「きっと喜ぶと思いますよ」
 店員の女性に頼み、ショーウィンドウに飾ってあったブレスレッドやネックレスを見せてもらう。
「こちらでよろしいですか?」
「はい……」
 真剣に選んでいる様子が微笑ましくて優しそうに見下ろす。
「……あの、このブレスレットで」
「はい、かしこまりました」
 微笑む店員に、メノウより早く財布をだした匡乃が微笑む。
「僕が払います」
「ありがとうございます」
 少し考えたようだが、好意として受け止める事にしたらしい。
 きれいに包装して貰ったブレスレットを手に、店を出てから少しだけ迷ったように……。
「……あの、聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「………最近物騒ですし、ブレスレットに身を守るような効果とか付けたらおかしいでしょうか?」
 意外な提案ではあったが、メノウも術を用いる術者だ。
 自分の得意な事をしたいと思ったのだろう。
「いいと思いますよ」
「変じゃないですか?」
「大丈夫ですよ」
 やりたいと思った事をさせてあげるのは兄妹で共通の考えだ。
 身を守るような効果なら止める理由もないだろう。
 今度は当日の料理やケーキを選び始める。
「和食も好きですが……それだとお姉さんが作った方が美味しいですし、やっぱり誕生日だから洋風のほうがいいでしょうか」
「そうだね、だったらこういうのもあるよ」
「……悩みますね」
「時間はあるから、ゆっくり選んでも大丈夫ですよ」
「はい……こっちも美味しそうです」
 色々と聞かれた事についてアドバイスをしたが、最終的には全てメノウの選択だ。
 そうする事に意味がある。
「少し買いすぎてしまった気が……」
「大丈夫、何とかなりますよ」
 匡乃が代金を持っていたからゆとりがあった事とあれもこれも美味しそうだと選んでいたら、少し多くなってしまったかも知れない。
 やる事は大分終わり、あとは当日を待つだけなのだが……。
「……あの、本当にこれで大丈夫でしょうか?」
 それでもまだ不安そうなメノウの様子に匡乃が一つの提案を持ちかける。
「メノウ、美味しい珈琲の煎れ方を覚える気はありますか?」
「珈琲を?」
「どうですか」
「……やってみます!」
 しっかりとした返事に匡乃は頷いてから、合い鍵を渡す。
「いつでも来ていですからね、がんばりましょう」
「はい!」
 それから、当日までの短い間美味しい珈琲を入れる特訓が始まった。
  ドリップ珈琲のほうがいいだろうと言う事でメモを見ながら、あまり慣れないだろう手順を練習し始める。
 一人分なら8グラムが基本と言われている。
 しっかりと沸騰させた熱湯を30秒程冷ましてから、粉にした珈琲をフィルターの中に煎れドリップの用意をしておく。
 次に湿らせる程度のお湯を注ぎ豆が膨らんできたら二回目を注ぎ、以下何度かに分けてから注ぎ終え……。
 ホッと肩の力を抜いた。
「うん、良くできてるね」
「はい」
 まだ肝心なのはこれから。
 あらかじめ温めた珈琲カップに珈琲を注ぐ。
「空気が入った方が美味しいから、少し音を立てるように煎れてご覧」
 真剣な表情で頷き、言われたとおりにカップに注ぐ。
「……出来た」
 フワリと珈琲の良い薫り。
「今度はメモを見ないでやってみようか」
「………はい」
 この手順を上手く行くように繰り返し練習する。


 最初の内はたどたどしかった手つきも、数日が経過する頃には大分上達していた。
 練習してきた甲斐あって、手つきもなかなか様になっている。
「ありがとうございました」
「がんばったね、きっと喜んでくれるよ」
「はい」
 がんばった事は、きっと実を結ぶ。
 努力した分、その感情はひとしおだろう。


 そして、誕生日。
「お姉さん」
「メノウちゃん?」
「誕生日、おめでとうございます」
 驚いたような表情。
「……ありがとう、メノウちゃん」
 喜んで貰える事が、きっと何よりの思い出になる筈だ。
「ありがとう」
 頭を撫でると、メノウは本当に嬉しそうに微笑んだ。



 3.24





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【1537/綾和泉・匡乃/27歳/男性/予備校講師 】

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■         ライター通信          ■
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誕生日おめでとうございます。

こういう形にしてみました。
当日までの事をメインに書かせていただきましたが、これでよかったでしょうか?
そ、それとも当日の事がお任せとかだったら申し訳ありません。

掛けがえのない日常は、やっぱり特別じゃなくて何時もしてる事かなと思ってます。
いつでも話が出来る事だったり、話を聞いてくれる人が居る事だったり。
普通だと思える事が一番じゃないかなと。

メノウちゃんをらしく書いていたらこう言う事に……。
美味しい珈琲の入れ方は喜んでると思います。


それでは、ありがとうございました。