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かけがえのない日常
その些細な動作に気が付いたのは、最近になっての事。
カレンダーを見たりテレビで今の流行を紹介するような番組を見出したのはここ最近だ。
色々な事に興味がでてきたのかと思ったが、それとも少しばかり違うような気がしたのはつい先日の出来事が切っ掛け。
「お帰りなさい」
「ただいま、メノウちゃん」
仕事帰り、いつものように出迎えてくれるメノウに挨拶を返す。
「これ前に読みたいって言ってた本」
「ありがとうございます」
最近はパソコンに興味を持ち始めたらしく、関連する本を読んでみたいと言ったからちょうど良さそうな本を探してきたのだ。
「解りやすく解説してあるから大丈夫だと思うけど、解らない事があったら聞いてね」
「はい」
軽く話をしていると不意に珈琲が飲みたくなったのは、珈琲の良い薫りがしたからである。
それもすぐ側。
周りに珈琲があるわけもなく、メノウからと言う事はすぐに解った。
「………?」
「お姉さん?」
どうしたのかと思って見ていたのだが、気付いたらしいメノウに直接聞いてみる事する。
「珈琲の良い薫りがしたから、どうかしたの?」
「あ、これは……帰りにリリィちゃんと喫茶店でお茶を飲んでたんです」
「そう、楽しかった?」
「……はい。あ、明日の支度があるので準備してきます」
小さなスリッパの音を残し、いそいそと部屋へと戻ってしまう。
気にはなったのだが、問いただすほどの事でもないだろう。
次に気付いたのは夕飯の支度をしている最中に何か熱心に何か一つの事に打ち込んでいるような、そんな様子。
「――っ!」
「大丈夫?」
「はい、少しかすめただけなので」
うっすらと細い線が残っているだけで、血も出ていない。
これならすぐにでも治る。
「どうかしたの?」
危うく指を切りそうになったのは、他の事に気を取られていた所為だからだろう。
「はい?」
「最近何か忙しいみたいだから」
「あ、それは。最近リリィちゃんとメールでやりとりしたりしているからです」
「上手くできるようになった?」
「はい、前学校で事件起きた時ありましたよね」
くつくつと音を立てる煮物の味見をしてから、もう少しと醤油を足す。
「あの事件ね」
「今度は何か起きないように、私とリリィちゃんで危ないのは関わる前に省いていこうと言う事になって」
「それでパソコンでやりとりする事になったのね」
「はい、見ただけでは解らない事もありますから、少しは危険を減らせると思って」
「それは良い案ね」
「リリィちゃんの提案なんです」
二人が関わって確認すれば、確かにむやみに関わるよりは危険は減るだろう。
そろそろ良い頃だと味見ようにダシを小皿にとりわけメノウに差し出す。
これも、最近はすっかり馴染んだ行動だ。
「どう?」
「美味しいです」
受け取った小皿から味見をしてメノウは頷いてから汐耶に微笑みかける。
「じゃあご飯にしましょうか」
「はい」
汐耶が盛りつけをしている間に、メノウがご飯をよそいテーブルへと運ぶ。
夕飯を食べ終え、二人で食器を洗い終えるとやる事があるとまた部屋へと戻ってしまう。
いつもなら学校で何があったかを話してくれて居るだけに、やっぱり何かありそうだと首を傾げたが、その時はそう日もあるのだろうと思っていた。
それから数日たっても、時折カレンダーを見上げて何かを考えているようなのだ。
何かあるのかも知れない。
例えば遊びに行く約束とか……それだったら話してくれても良さそうな物なのだが。
何かを隠しているようなのは解る。
だが、特に深刻な様子もないから様子を見ようと考えても、やっぱり気になってしまうのは姉としての感情だ。
仕事帰り、夕飯の材料を買っている途中にリリィの姿を見かけ声をかける。
「リリィちゃん、こんにちは」
「あ、こんにちは汐耶さん」
「買い物の途中だった?」
「ちょうど終わった所ですから」
ガサリとノートの入ったビニール袋をゆらしてみせる。
「最近メノウちゃんとよく遊びに行ってるみたいね」
「よく話をしたり、一緒に帰ったりしてるんです」
「最近は二人でゴーストネットの手伝いしてるとか?」
「そうなんです、私には出来ない事だから凄く助かってて」
楽しそうに話していたのだが。
「危ないから手伝ってくれるってメノウちゃんが言ってくれて」
「………え?」
「えっ?」
「………」
確かメノウはリリィが考えたと言っていたのだが……。
「………」
何かに気付いたらしく、パッと顔を上げる。
「あれ、私なにか……えっと、あははは」
にが笑いしつつ、それでもフォローしようと試みたらしい。
「あの、大丈夫ですから」
「……解ったわ」
元からそれは安心していたから、汐耶はほんの少しだけ苦笑しながら頷いた。
気になっていただけなのだから。
「じゃあまた」
ペコのと頭を下げてからビニール袋をゆらして帰っていった。
次の日からも相変わらず仕事は充実していたし、時折メノウから珈琲のいい薫りがしたりもした。
「お帰りなさい、お姉さん」
「ただいま」
帰ってきた汐耶を出迎えに来たメノウに汐耶が優しく微笑む。
「なんだか嬉しそうね」
「はい」
パッと表情を輝かせたが、ちょっとだけ考えてから。
「まだ、秘密です」
はっきりとそう言って微笑んだのは、きっと中途半端に誤魔化すよりもその方がいいと思ったのだろう。
上手い事を考えている。
こう言ってしまえば何か隠しているとしても、心配せずに待つ事が出来る筈と考えたのだ。
「解ったわ」
汐耶も微笑み返してから、何時もと変わらない様子で夕飯の支度や買ってきた本を読んだりし始める。
それは普段と変わらない出来事。
その秘密が解ったのは、すぐだった。
「お姉さん」
緊張したような声で、汐耶を見上げる
「メノウちゃん?」
「誕生日、おめでとうございます」
真っ直ぐな視線。
真っ直ぐな言葉。
ああ。
本当に、きれいに忘れていた。
こうして言われて始めて思い出したのである。
全部この時のために一生懸命支度をして、がんばっていたに違いない。
出来るだけ解らないように。
こういう風に、ビックリさせたくて。
喜んで貰えるようにと。
伝わるのは、何よりも暖かい感情。
「……ありがとう、メノウちゃん」
だから、出来うる限りの感謝の気持ちで返そう。
本当に嬉しいのだと伝わるように。
「ありがとう」
頭を撫でると、本当に嬉しそうに微笑んだ。
その日から、とても美味しい珈琲を飲む事と綺麗なブレスレットがかけがえのない日常の一つに加わる。
大切な一日。
3.24
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【1537/綾和泉・匡乃/27歳/男性/予備校講師 】
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■ ライター通信 ■
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誕生日おめでとうございます。
こういう形にしてみました。
当日までの事をメインに書かせていただきましたが、これでよかったでしょうか?
そ、それとも当日の事がお任せとかだったら申し訳ありません。
掛けがえのない日常は、やっぱり特別じゃなくて何時もしてる事かなと思ってます。
いつでも話が出来る事だったり、話を聞いてくれる人が居る事だったり。
普通だと思える事が一番じゃないかなと。
メノウちゃんをらしく書いていたらこう言う事に……。
美味しい珈琲の入れ方は喜んでると思います。
それでは、ありがとうございました。
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