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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


花天の下


 ふわり、と薄紅色の花びらが一片、濃紺の空に舞う。
 寝静まった住宅地の中にある公園。
 池や噴水などといった物もない街の小さな憩の場所に、街灯のぼんやりとした明りの中で白く浮び上がる満開の桜の老木が立っている。風に舞ったのは、その木に無数に咲いた花の一片だった。それは風と戯れるように、くるくると宙で回転しながら静かに地面に落ちていく。
 ひらりひらり…と舞うそれは、まるで雪のようだった。
 その下を、千鳥足で歩く人影が一つ。
 些か乱れたシャツにネクタイ、無造作に背広の上着を片手に抱えた会社員らしき男だ。男は重く枝を垂れた桜の木を見上げて、感心したように大きく溜息をついた。夜気の中に僅かに流れた酒気は、風の中の香りに紛れに一瞬で消えてしまう。
 その日の風は春の風だった。暖かなく湿った風の中に含まれた、廃棄ガスの匂いに混じる土の香りが鼻をつく。
 …そして、僅かに香る腐敗臭。
 近くから匂うそれに男の足がピタリと止まる。
 しかし、彼には異様な匂いの元を確かめる事は、出来なかった。


「公園で死体発見…これで3件目か。」
 編集部にある自分のデスクで、碇麗香は唸った。
 デスクの上には今日の新聞が広げられている。開かれているのは、『住宅街で連続殺人事件か』と大きく見出しのついた記事の載っている一面だ。
 住宅街の中にある、とある公園で死体が発見されたと記事には書いてある。犠牲者は会社勤めの男性。今月に入って、同じ公園で発見された3人目の犠牲者だ。死体は何れも溺死体で、争ったような形跡はないという。
 ごく普通の殺人事件、だが何処か奇妙な事件だった。
 碇の編集者としての勘は、この事件が『本物』であると告げている。
 しばしの沈黙。
「桜の下の溺死体の謎…これは記事になりそうね。」
 碇はそう呟くと調査を頼むべく、携帯を手に取った。


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(本文)


芳しき花朶の下に


1.

 柔らかな光が降ろされたブラインドの隙間から僅かに差し込こむ。東京の都心も季節が冬から春に変り、どこか浮き立っているような気配に満ちている。ここ、アトラス編集部もまた、何時もと変らぬ作業風景の中に何処となく、そんな春を感じさせる雰囲気が伺えた。その中で碇のデスクの周りが些か騒がしい。例の春先に起きた溺死体放置事件の調査を依頼された者たちが顔を揃えていたからだ。
 海原みその(うなばら・−)がアトラス編集部を訪ねたのは、そんな春の午後のことだった。
「こんにちは、ご機嫌如何ですか、碇様」
 桜の花びらを思わせる薄墨色のワンピースに豊かな黒い髪が揺れる。デスクの碇に向ってゆったりとお辞儀を一つ。そして、その手に持った生臭い匂いの漂うビニール袋をデスクの碇に渡す。
「お土産にあんこうを持ってまいりましたの。お鍋にすると美味しいそうです。宜しかったら皆様で召し上がってくださいませ」
「あら、お土産だなんて、気を使わなくていいのに。ありがとう、あとで頂くわ」
にこりと微笑んで袋を受け取った碇に、デスクの脇から声が掛かった。
「警察のこれまでの発表では、被害者たちに溺死以外の共通点は見られない訳ですね?」
 柚品弧月(ゆしな・こげつ)はデスクの脇で紙の束を繰りながら、そう言った。彼が手にしているのは、アトラス編集部で纏められた事件に関する資料だ。それには、件の事件をあつかった新聞のスクラップ記事が添えてあった。3月初め頃に発生した第一の事件から、先頃起きた第三の事件までが順をおってクリップで止められている。その少し皺のよった記事をペラペラと指先で捲りながら、目を通す弧月の横で藍原和馬(あいはら・かずま)は溜息をついた。
「この事件の記事なら俺も読んだが、なんか腑に落ちないんだよな。近くに水場があったわけでもなし、争った形跡もなしなんだろ?」
 あんたはどう思う?
 独白とも問いかけとも取れる言葉の後の、和馬の無言の問いに、デスクチェアに座ったまま碇は一つ肩を竦めてみせた。
 デスクの傍で彼らの遣り取りを微笑みを浮べながら聞いていたセレスティ・カーニンガム(−・−)は、自分の視界の端を白い物が過っていったような気がして、ふと窓の方へと目を向けた。
 窓の外は春らしい薄曇り。空を覆う薄いぼんやりとした白い雲の合間から柔らかい陽光が降ってくる。東京都心にあるアトラス編集部の入っているビルの周りには、桜の木など無いはずなのに、今にも風にのって薄紅色の花弁がひらりと舞ってきそうな空だった。
「今のところ…」
 眼鏡のフレームを白い指先で押し上げながら、碇が静かに口を開く。その声でセレスティは窓の外に向けたままだった視線を元に戻した。
「警察の方から、特にこれといった情報は発表されていないわ」
「すると、警察からの発表は犠牲者名と新聞記事に書かれている、監察医による検視の結果、溺死と判定のみですか…あ、検視の詳しい内容は?」
「発表されるわけがないでしょう?公園で発見された溺死体だから、監察医による検案と解剖は行われた可能性もないとはいえないけれど。一般公開される情報ではないわ」
 隣にいる和馬に資料の束を手渡しながら、弧月は眉根を寄せて唸った。彼は溺死体の肺の内容物についての情報を得た上で、現地で調査にあたるつもりでいた。だが、監察医による検案や解剖の詳しい結果は一般には公開されないのだという事を碇の言葉で気付かされたのだった。
「となると死体の肺の中身も分りませんね。新聞記事を読む限りでは被害者に共通点も無さそうですし…」
 共通点があるとするなら、被害者全員が死体発見前日に家に戻っていない事と翌朝に同じ公園で溺死体として発見されている事くらいだ。
「何か他に変った事とかは?」
 先ほど読んだ新聞記事の内容を反芻しながら弧月は碇に質問した。
「そうね…検視結果とは関係ないけれど、死体発見現場の近くで妙な噂が流れている程度かしら。」
「噂?」
 碇の言葉に反応したのは、弧月の横で資料に目を通していた和馬。紙面から顔を上げて言葉の先を促す。
「真偽の程は分らないのだけれど、発見された遺体は腐っていたそうよ。被害者は全員、遺体で発見される前日にいなくなって、翌日に公園で発見されている。それなのに、長年、水の中にあった死体のようにね…」
 桜の花の下で発見されたのは、普通の溺死体ではなかった。
 腐っていた。
 それも一晩のうちに。
 胃の辺りから酸っぱいものが込上げてきそうな嫌な噂だ。
「それはまた…」
「かなりタチの悪い冗談だな」
 呟く弧月の横で、和馬は肩を竦めながら、思わず苦笑いを浮べて言った。この手の話をただの噂だと片付けてはいけない事は、彼とて良く分っていたけれども。
 その傍らで、キィ…と微かな金属音がした。
 それまで少し離れた場所で話しを聞いていたセレスティがデスクの近くへ車椅子を移動させたのだ。
「…その噂ですが…冗談ではないようですよ。」
 そして、彼の口が静かに言葉を紡ぎ出す。リンスター財閥の会長であるセレスティの指は長い。そう、警察の奥にまで届いてしまうほどに。その張り巡らせた独自の情報網を利用して、彼はアトラス編集部に足を運ぶ前に、今回の事件について調べを進めていた。発見された死体の異様な状態も、その途中で一情報として網に掛かっていたのである。
「聞いていてあまり気分のよい物ではありませんので、詳しい話は避けますが、腐敗状態はかなりのものらしいですよ。あと、柚品さんが気になさっていた肺の中身ですが」
 セレスティはそこで一度言葉を切った。デスクの回りにいる全員の視線が彼に向けられる。期待と不安、聞きたいような聞きたくないような。そんな視線が交わる中で、その青い双眸を僅かに伏せセレスティは言った。
「中身は淡水だったそうですが…肺の中に入り込んでいた水も、肺と同様に、かなり腐敗していたと…。」
 一瞬にして周囲の気温が下がったような気がした。和馬が片眉を跳ね上げ、弧月は胃の辺りを片手で押さえながら些か食欲不振気味の表情を浮べる。
 居心地が悪くなるような沈黙が一同の間に過っていく。その沈黙を破るように、がりがりと頭を掻きながら和馬が口を開いた。
「まぁ、こうしてても仕方ない。そろそろ動くとしようや」
「そうですね、私はもう少し調べてから現場に行こうと思うのですが、皆さんはどうされます?」
「俺は現場に行ってみるつもりです。少し調べたい事もあるし」
「俺も現場に行くかな」
 セレスティの問いに弧月と和馬が応える。最後に応えた和馬の語尾に、可愛らしい少女の声が重なった。
「わたくしもご一緒させて頂いて、よろしいでしょうか」
 声の主は、それまで黙って彼らの話を聞いていたみそのだった。
「桜の花に心奪われて、できししてしまった方に興味がありますの」
 突然のみそのの申し出に3人は僅かに顔を見合せたが、彼女が普通の少女ではない事を知っている彼らに、みそのの同行を拒む理由はなかった。
「それでは参りましょうか」
 そう言って、みそのはふんわりと微笑んだ。


2.

 ひらり、と白い花弁が舞う。
 満開に花を咲かせ、枝に白い霞みが掛かっているように見える桜の木から零れるように落ちた一片だった。
 その老木は閑静な住宅街の中に作られた小さな公園の片隅に立っていた。先頃の事件の影響もあるのか、昼間の公園だというのに人はまばらで、どちらかといえば閑散とした印象を受ける。特に桜の周りに人影は全くなく、そこにぽっかりと穴が空いているかのようにも見える。
 そんな空間にも、柔らかな陽射しは静かに降り注いでいた。

「できしされた皆様は、この桜の花びらに溺れてしまわれたのですわね」
 みそのは老木の下に立って、静かに花の咲き乱れる枝を見上げた。そして、こくんと首を傾げる。全てのモノの流れを感じる事ができるみそのは、桜の下の地面に溜まる淀んだものを感じたのだ。
どろどろと汚泥のように淀んだそれは、桜の木の根元から沸き上がっているように見える。みそのはそっと老木の幹に手を当てた。
 がさがさとした分厚い樹皮の向こう側に確かに流れるモノがある。それは、気の流れとでもいうべきモノだった。みそのは、そっと目を閉じるとその流れを追った。
 老木の根の下から沸き上がるように流れるそれは、根元付近で二つに分岐しているらしい。一つは幹の中から枝先へ。もう一つは根元あたりの地面から水が湧き出すように地面へと溢れ、みそのが感じた淀みを作っている。
「源は木の下にあるようですわね…」
 そう呟いて、みそのは流れの源を探った。桜の木の根を這い昇るように流れる気脈を逆に辿る。その先にそれはあった。
 流れの源、桜の下に、木の根に抱かれるようにして土に埋もれる数体の白骨が。
 どうして、こんな場所に数体の白骨が埋もれているのか。それを探ろうと、みそのが時間の流れを遡りかけた、その時だった。
 白骨が、悲鳴を上げたのは。

死ぬの?
殺すの?
誰を?
私を?
どうして?
あの人を残して。
あの子を残して。
私に死ねとそういうのね

おぉうおぉう…私は…私を…おぉう…

 嗚咽混じりの悲痛な女の声。
 愛情と憎悪、入り混じる無念の思い。
 流れる水に飲まれるイメージに、重く冷たい土に埋もれゆく圧迫感。

殺さないで!
まだ、まだ…生キテイタイ!!

 気脈の中から伸びてきた白く細い数本の手が、みそのの身体の絡みつく。
 腕に足に、艶やかな黒髪に。
 叩きつけられるような断末魔の中で、触れられた部分が、ぐずぐずと腐っていくような感覚が彼女を襲う。腐る。骨になる。崩れ去る。
 みそのは思わず、流れから意識を切り離していた。      
 その途端に衝動的な流れが止まる。午後の柔らかな陽射しに現実に戻った事を感じつつ、彼女はふらりとよろめいた。手を付いた先にごつごつとした桜の老木。その樹皮の感触を掌に感じながら、みそのは今回の事件の原因が何処にあるのかを理解した。そして、地面に淀むモノが何であるのかも。
あとは、実際に確かめるだけだった。

「大丈夫か、顔色がよくないが…」
 はぁ…と小さく良きをついたみそのに、何時の間にか桜の下に来ていた和馬が声をかけた。
「大丈夫ですわ。藍原様の方は何かわかりまして?」
「あぁ、色々とな。公園の中でも変なことが起こっているらしい…っと、何だ、これは?」
 和馬が桜の根元に転がっていたものを拾い上げた。それは苔蒸した石の破片のようだったが、その一部の断面だけが妙に新しい。そして苔の中に文字のような物が見えた。
「人工物、か?」
 手の中の石を見ながら、彼は呟くように言った。そして、みそのは見た。
 和馬の手の中にある石に、あの淀んだ流れが僅かに纏わりついているのを…。


3.

 黒々と夜の帳を下ろした空に、白い桜が浮んでいる。昼間の優しく儚い様子と異なる、堂々とした姿だった。濃紺の空に広がる白い花朶は、見る者に威圧感すら与えてくる。そして、木の真下から見上げる空は桜の花で覆われていた。まさに、花天である。

 夕刻、公園で顔を揃えた一同は、桜の下は危険だという弧月の言葉に従い、少し離れた場所のベンチに腰を据えて、事が起こるのを待っていた。関係のない人間が迷い込んでこないようにと和馬が公園全体に結界を張ったせいもあるが、弧月が聞いた通り、夜間の人通りは本当に少ないようだった。公園沿いの道は、午後八時を回った辺りから既に人通りはまばらで、十一時を過ぎた辺りから車も通らない。住宅の灯りも時間の経過と共に数を減らしていくのが目に見えて分る。公園の中にも街灯があるので、暗いという感じはないのだが、周りの灯りの数が減って行く光景には少し寂しさ感じてしまう。そして、時計は午前一時を回った。
「深夜一時を回ったか。そろそろ、例の異音が始まっても良い頃だと思うんだがな」
 腕時計の確認し、和馬が口を開く。それほど、大きな声で話しているわけではないのに、その声は誰もいない公園に響いていくようだった。
「真夜中に聞こえる水を撒くような音、でしたね。それも恐らくは、柚品さんが見た被害者の死亡時の様子に何か関係しているのでしょう。それに…」
 穏やかに話しながらセレスティは、弧月の手に中に視線を向けた。弧月の手の中には、和馬が桜の下で拾った石片がある。それは弧月が調べた結果、先月の終わりに壊された石碑の一部である事が分ったのだ。
「石碑が壊れたことで、事件が起きたとは思いたくありませんが、しかし…」
 自分の見てしまった青い何かの姿を弧月は鮮明に思い出してしまった。
「まぁ、実際にこうして待っていれば分るだろうさ」
 和馬は気楽な口調で言って、街灯の灯りのせいなのか、それとも思い出したモノのせいなのか、幾分顔色が青い弧月の肩を軽く叩く。それに答えようと弧月が口を開く前に、それまで黙っていたみそのがポツリを呟いた。
「あの桜の下には…」
 一同の目が、みそのに注がれる。夜風に長い髪を揺らしながら彼女は続けた。
「桜の下には、沢山の想いが眠っていましたわ」
「想い?」
「えぇ、ひとばしらという物にされてしまった方々の残した想いですわ。それが土の中から地面に溢れ出しています。それが…」
「それがこの事件の原因。そして、溢れ出した原因は、石碑が壊されたためだと仰るのですね」
 静かに口を開いたセレスティは、彼女の言葉に重ねるようにして続けた。静まり返った公園に波紋が広がるように、ただ言葉が響いていく。
「残された想いは強いもののようですわ。あの桜も…」
 言いかけたみそのをセレスティが制した。桜の下から腐臭が臭ってくるのだ。ベンチから立ち上がった和馬と弧月が桜の下を凝視して身構える。
 四つの視線が集まる中で、それは姿を現した。
 ぼこりと泡立った土の下から、青くぶよぶよした腕が伸ばされる。次に体が。そして、足が。土の中から這い上がる。
 ざんばらの白髪。青くてらてらと光る皮膚を持つ、膨れ上がった体。目は白髪の下に隠れて見えない。膨れた青い皮膚は所々破けていて、そこから大量の水が噴出している。その度に、耐えがたい腐臭が周囲に漂うのだ。
 それは人の形はしていたが、間違いなく異形だった。
「なるほど、これが異音騒ぎの犯人か」
 人一倍鋭い嗅覚を持つ和馬が、腐臭に耐えながら唸る。その声に気がついたのか、それとも一同の気配を感じ取ったのか。以外なほどに身軽な動作で近づいてきたそれが水鉄砲のように勢いよく、口から水を噴出した。四本の線を描きながら、水が空中を飛んでくる。
 弧月の脳裏に、昼間見た光景が蘇る。彼は水を回避しながら、隣の和馬に向って叫んでいた。
「避けてください、和馬さん!」
 その声に和馬も水を回避する。彼らに当らなかった水は、後ろのあったベンチを直撃した。たちまち漂いだす腐敗臭。水の当った個所が一瞬のうちに腐敗したのだ。
「これが原因で…」
「溺死体が腐ってたってわけか」
 腐ったベンチに視線を送った弧月と和馬がうめくように声をあげた。その背に異形の吐出した新たな水線が迫る。それは彼らに当る前に空中で弾けた。セレスティが己の能力を使い、四散させたのだ。
「気脈は、桜の木の根元ですわ」
 セレスティの後ろにいたみそのの言葉に頷きながら、弧月と和馬は走った。同時に異形の動きがピタリと止まる。みそのが気脈の流れを一時的に止めたからだ。桜の下に辿りついた和馬が、例の石片を媒介にした結界で気脈の流れを封じ。弧月の神聖銀手甲をつけた腕が、異形の体に叩き込まれた。
 おぉんおぉん…
 異形の鬼が喚くように声をあげる。そして、その身は崩れ落ちるように土の中へと沈み込んでいった。

 花が散る。
 はらりはらりと落ちる白い花弁は、まるで人柱にされた女たちの涙のようにも見えた。
 白い花天を見上げて、みそのが静かに口を開く。
「この桜は、彼女たちの想いに支えられているんですわ」
 先程の妖しと同じように…。
 そう言って、みそのはふんわりと微笑んだ。何処か寂しげな笑みだった。
「今回の事件、これで終ったのでしょうか」
 弧月が誰にともかく呟いた言葉に、セレスティが首を振った。
「桜の下にある想いは、私たちではどうする事もできません。けれど、新しい石碑ができれば、この事件は終るでしょう」
「あの石碑は、彼女たちの墓標だったんですね」
 やりきれない思いで弧月は呟いた。彼の頭上にも静かに白い花弁が落ちる。
「何時か土に還えるまで、か…」
 新しい石碑ができるまでの間、桜の下の気脈が溢れない様にと結界を張る作業をしていた和馬も、また手を止めて桜を見上げた。その言葉は、桜の花朶を揺らす夜風の中に溶けていった。
 来年も、この桜は花を咲かせるのだろう。自らの人生を奪われた女たちの想いを受けて、見事な花を。
 想いが土に還える、その日まで…。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1883 /セレスティ・カーニンガム / 男 / 725歳 /財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1388 / 海原・みその / 女 / 13歳 /深淵の巫女 】
【1533 / 藍原・和馬 / 男 /  920歳 /フリーター(何でも屋)】
【1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22歳 /大学生 】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、新人ライターの陽介です。

セレスティ様、みその様、和馬様、弧月様、初依頼へのご参加、ありがとうございました。
今回の物語は如何でしたでしょうか。
まだまだ至らぬ点もあるかと思いますが、少しでも皆様の心に残るものであったならば幸いです。

それでは。
またどこかでお会いできることを祈りつつ…。