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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


呪われた三下
「……おはようございまぁす」
 なぜだかいつもよりも3割増に陰気な様子で、三下忠雄が編集部へと入ってくる。
 そのあまりの陰気さに、思わず碇麗香は顔を上げた。
「どうしたの? さんしたくん。死相が出てるわよ」
「し、死相……!」
 麗香の言葉に過敏に反応し、三下はがたがたと震えだす。
 いったい何事かと、麗香は目をしばたたかせた。
「三下さん、どうしたんですか?」
 らちがあかないと思ったのか、近くにいた編集部員が三下に向かって訊ねる。
「実は……僕、呪われちゃったみたいなんです!」
「……は?」
 ぽつりぽつりと三下が言うことには、昨日、取材からの帰り道、たまたま道でぶつかった女性に「呪ってやるぅぅぅ」と恐ろしい声で言われたのだという。
 そのときは気味の悪い人だと思っていただけだったのだが、そのあと、帰宅するまでにどぶに落ちるわ水はかけられるわで大変だったらしい。
「もしかしたら、このままじゃ、本当に殺されるかも……どうしたらいいんでしょう」
「それは私が聞きたいわよ」
 どうしろと言うのだ、と麗香はため息をついた。

「……それは大変ですね」
 それからしばらくして、このままでは編集部が辛気臭くなるばかりだと外に放り出された三下は、たまたまばったりと会った城之木伸也とふたりで喫茶店にいた。
「もう……本当に」
 けれども喫茶店の中ですら気の休まるときがなく、三下はぐったりとテーブルに頬をくっつけてたそがれてしまっていた。
 なにしろ、店内に入った瞬間に、たまたまモップがけをしていた店員が手を滑らせて三下にぶつかってきてみたり、店員が手を滑らせて三下にコーヒーをかけてみたりと、通常ならありえないようなトラブルばかり起こっているのだ。三下ならずともやさぐれたくもなろうというものだ。
「でも大丈夫ですよ、三下さん。その女性を見つけるだけなら簡単ですから」
「ほ、本当ですかっ!?」
 三下はがばっと顔を上げると、伸也の手を取らんばかりに顔を近づける。
「ええ。ただ……説得して気持ちを落ち着かせたとしても、念だけは残ってしまうでしょうね」
「そんなぁ……」
 ふたたびがっくりと肩を落とし、三下がつぶれる。
「……どうやっても呪いが解けないときには、お手伝いしますから。まずは、その人を見つけましょう?」
 伸也が励ますように言うと、三下はあいかわらずぐったりとした様子だったが、嬉しそうに何度もうなずいた。

 そしてしばらくして、ふたりは人気のない公園を訪れていた。
 伸也が三下にまとわりつく恨みの念をたどった結果、こちらの方にそもそもの念の持ち主――三下に呪いの言葉を吐きかけてきたという女性がいる、とわかったのだ。
「でも、本当にこんなところにいるんでしょうか……」
 三下は不安げにつぶやく。
 ここまでに来る間にも、三下はすっかりぼろぼろになっていた。
 どぶに落ちること3回、犬に追いかけられること2回、カラスにつつかれること1回。もはや、不幸体質などという生易しいものではない。
「多分、いますよ」
 伸也は断言した。
 念をたどってきた結果、ここだと出たのだ。
 その女性と同等の恨みを持つ人間と間違えた、などというのでもないかぎり、人違いということはないだろうと伸也は思っている。
 けれども三下はまだ不安なのか、伸也の背中の影に隠れてきょろきょろとしている。
「……あ!」
 やがて、三下が声を上げた。
 三下の視線をたどると、その先に、真っ黒なワンピース姿の、髪の長い女性がいた。木になにかを打ちつけている。
 物陰になっていてよくは見えないが、どうやらわら人形に五寸釘を打っているらしい。
「あの人ですか?」
「はい、そうです! 間違いないです! あのなんかどす黒いオーラとか、絶対にそうです!」
 三下はがくがくと首を振りながら断言する。
 たしかに、その女性のまわりにはなにか黒いオーラかなにかがただよっているかのようだ。
「……まずは、話をしてみましょうか」
 言って、伸也はすたすたと女性に近づいて行った。
「私に……なにか?」
 声をかける前に、女性がくるぅりと振り返る。
 目の下にはくまができていて、どこか不気味な様子だ。
「この人に呪いをかけませんでしたか?」
 伸也は単刀直入に訊ねる。すると、女性はくく、と笑った。
「ええ、かけましたよ。私にぶつかるのが悪いんです……」
「そんな! 僕、謝ったじゃないですか!」
「……ごめんですむなら警察いらない……」
 三下の叫びに、女性が小声でつぶやく。
「どうしても、呪いをとく気はない、ということですか?」
「ええ……」
 仕方がないと、伸也は荷物の中から刀を出した。鞘から抜いて、抜き身の刃を女性に向ける。
「私を殺しますか?」
 動じた様子もなく、女性が言う。
「じょ、城之木さん!」
 三下が叫ぶ。
 伸也はそれを気にもとめず、刀を振り下ろした。
 けれども刀は女性を切り裂くことはなく、その周囲にまとわりつく恨みの念のみを切り裂く。
 すると、ぱっと女性の顔が明るくなった。
「……え?」
 そのあまりの変化に、三下が目をぱちくりさせる。
 たしかに、驚くのも無理はない変化だった。目の下のくまはなくなっているし、背筋も伸びている。
「……私、どうしてこんなことしていたのかしら」
 目の前の五寸釘を見つめて、女性が不思議そうにつぶやく。
「どういうことなんでしょう?」
 三下が訊ねてきた。
「多分、恨みの念を切り捨てたから、明るくなったんじゃないかなと思います」
「はあ……」
 そういうものなんですね、と、三下は釈然としない様子でつぶやく。
 けれどもよくわからないのは、伸也にとってもそうなのだ。
「ごめんなさい、呪いの言葉なんて……それじゃあ、私、失礼いたしますね」
 女性はぺこりと頭をさげると、スキップしながら去っていく。
 三下はまだ納得していないのか、いつまでもそのうしろ姿を見つめていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1092 / 城之木・伸也 / 男 / 26 / 自営業】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。
 今回は城之木さんおひとりの参加だったのですが、ちょうどいい能力をお持ちでしたので活用させていただきました。いかがでしたでしょうか? お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。