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調査コードネーム:激突! 魔リーグ!! 〜サッカー開幕編〜
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :草間興信所
募集予定人数 :1人〜4人
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新緑のピッチに戦士たちが戻ってくる。
一六チームの総当たり戦。
昨年のリーグにはいなかったチームもある。
というのも、二部リーグの上位二チームが、一部リーグの下位二チームと入れ替わるからだ。
そしていま、ふたたび一部リーグに返り咲いたチームがある。
毛利スリーアロー。
かつてはリーグ優勝を飾ったこともある名門チームだが、一昨年、降格という屈辱を味わった。
理由は多くは世代交代の失敗だろう。
しかし、彼らは戻ってきた。
過酷な生き残りレースを泳ぎ切り、わずか一年で戻ってきたのだ。
双子のミッドフィルダー崎森ツインズを中心として、攻守に高いポテンシャルもったチームとなって。
そして、初戦の相手は静岡エスパニオラ。
無冠の帝王とも呼ばれる強豪だ。
帰化人や韓国の英雄は抜けてしまったが、日本サッカー界の至宝たる登沢や鉄壁の守護神である田真などが健在である。
老練なプレーは、若き毛利水軍にとって最初の障害だ。
だが、むろん、負けるわけにはいかない。
「あたりまえだ」
「負けても良い戦いなんかないからな」
双子の呟き。
飲み込んで広島ビッグアーチが揺れている。
戦いの時を待ちかねて。
※魔シリーズ。パラレルです。
選手、観客、スタッフ。どんなスタンスの参加でもOKです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
受付開始は午後8時からです。
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激突! 魔リーグ!! 〜サッカー開幕編〜
円陣を解くと、両チームの選手たちがピッチへと散ってゆく。
二万人近くの観衆を飲み込んだスタジアムが興奮に揺れる。
「昔は円陣を組むなんて、ダサさの極致だったんだけどな」
指定席の一角。
男が言った。
「そういうもんなの?」
隣に座った女が、ビールを差し出しながら訊ねる。
春の陽光を映す蒼い瞳。
束ねた黒髪。
シュライン・エマという。
かなり控えめに表現しても、歴然たる美女だ。
ちなみに隣のどーでもいい男は草間武彦といって、ただのオマケである。
「‥‥どんどん紹介がおざなりになってくな‥‥」
明後日の方向にむかってぶつぶつと呟いている草間。
なかなかにアブナイ人だ。
「で、なんでダサいの?」
やや強引にシュラインが軌道修正する。
スポーツの中継などでも、円陣はよく見るのに。
「何の中継だ?」
「えっと、だから、高校野球とか?」
思い出しつつ応える。
「ほかには?」
「うーん」
「高校ラグビーとかその辺が有名だな。んで、高校野球とか高校ラグビーつていったら、何を想像する?」
「んー‥‥汗くささ」
けっこう酷いことを言う黒髪の美女。
ただまあ、一般的なイメージとしてはそんなところだろう。
努力と根性と汗と涙。
四本柱だ。
一昔か二昔前の青春漫画である。
「ま、円陣ってのはその象徴みたいなもんさ」
えらそうに解説する草間。
「なるほどねぇ」
シュラインがピッチへと視線を送る。
たしかにサッカーはユニフォームも派手だし、努力と根性というイメージはあまりない。
もちろんプロである以上、過酷な訓練を厳しい生存競争をくぐり抜けてきたに違いないのだが。
「だから、高校サッカーとかでも円陣とか組むと失笑されたもんさ。昔はな」
「いまはちがうのね?」
「スタイリッシュに戦って敗北するのと、ダサかろうと泥臭かろうと勝利するのと、どっちが良いかって話だな」
「後者が正しかったってわけね」
「さてな。そいつはどうか判らない」
「というと?」
「彼らはプロだ。プロってのはただ勝てばいいってもんじゃあないからな」
評論家みたいに腕を組んでみせる三〇男。
勝利だけではなく、プラスアルファが求められるのがプロスポーツの世界だ。
とはいえ、実際に戦うJ戦士たちは全力でプレーする。
岡目八目の無責任なサポーターは勝手なことが言える、というだけの話である。
「そろそろ始まるわね」
シュラインが言った。
主審のホイッスルが鳴り響く。
ギャラルホルンのように。
ボールが唸りをあげて、毛利スリーアローのゴールへと迫る。
蹴ったのは、静岡エスパニオラのフォワード巫灰慈。
「名刺代わりの一発だ。受け取ってくれや」
嘯く。
今年、移籍したばかりフォワードとしては、大いに存在をアピールしたいところだ。
だからこその、キックオフ直後の超ロングシュートである。
退魔ーショットから進化を遂げた「ネオ・退魔ーショット」。
数ヶ月に渡る山ごもりの末に会得した、超必殺シュートだ。
「はっ!」
横っ飛びでキャッチする、毛利のキーパー。
黒く長い髪が風に舞う。
新人の田中祐介。
高校を卒業したばかりの一八歳だ。
ちょうど、アテネオリンピック日本代表に選ばれている平山相太選手と同年である。
が、平山選手とは違って、田中はまったくの無名人だ。
その無名な新人がゴールマウスを守らなくてはいけない。
むろん、多少の事情がある。
もともと毛利のキーパーといえば、ベテランの田下である。神とまで讃えられる抜群のセーブ力をもった名キーパーだ。
田下に続く二番手は、森林だろう。彼もまた二三歳以下の日本代表に選出されるような素晴らしい選手である。
この二人の下で田中はじっくりと才能を伸ばしてゆくはずだった。
しかし、サッカーの神は高校を出たばかりの少年に試練を用意していた。
試合前日、正キーパーの田下が熱を出したのである。
インフルエンザだった。
おり悪く、森林は日本代表チームに合流しており、すぐには戻れない。
一八歳のルーキーが、開幕戦のゴールマウスを守らなくてはならなかった。
誰もが不安に思った。
しかし、
「よしっ」
大切にボールを押さえ、呟く田中。
「へ。やるじゃねぇの。坊や」
賞賛と警戒をこめた視線を、巫が送った。
あるいはこいつは良い選手になるかもしれねぇ。
心の声が告げていた。
「コウジさんっ!」
大きくスローイングされるボール。
崎森ツインズの弟の方が、柔らかくトラップする。
「兄貴っ!」
「応っ!」
すかさず兄へのパス。
互いが壁となり、その間を高速でボールが行き交う。
誰にも止められるものではない。
さすがは双子。完璧なコンビネーションだった。
さて、ピッチで戦う双子もいれば、観客席で戦う双子もいる。
「べんとー! お弁当に飲み物はいかがですかー!!」
守崎啓斗の声が、メインスタンドに響く。
「美味しい美味しいヒロシマ名物毛利弁当はいかがですかー!!」
守崎北斗の声が、バックスタンドに木霊する。
緑のフィールドを挟んで、絡み合う視線。
蒼の瞳と、緑の瞳から放たれる不可視のビーム。
ばちばちと火花が飛び散りっている。
彼らは双子である。
同時に、ライバルでもある。売り上げを競争の。
啓斗と北斗がアルバイトしている弁当屋は、売り上げ一位にボーナスが出るのだ。
バイト代八千円にプラスされるボーナス一万円!
美味しいなどいう次元の話ではない。
「六回は食い放題いけるじゃんっ!」
「家計がだいぶラクになるな‥‥」
それぞれの思惑で頑張っている。
ちなみに、前者が弟で後者が兄である。
見た目はそっくりでも、性格はずいぶんと違うようだ。
「あ、お弁当ふたつ」
北斗に声がかかる。
シュラインと草間のカップルだ。
なんだか寄り添って観戦中である。
まあ、こういうカップルはスタジアムに何百組もいるだろう。
「まいどー! お茶もいかがっすかー!」
「そうね。じゃあお茶もひとつ」
ごく自然に買い物を済ませたシュライン。
頭をさげて北斗が去ってゆく。
そして、ふと振り返ると‥‥。
「しゅらいん☆」
「もう。なに甘えてるのよ」
「いいじゃないかー」
「もう。しょうがないなぁ‥‥はい。あーん」
「あーん☆」
いちゃついている。
ものすごい勢いで、いちゃついている。
「けっ! やってられっかっ!」
なんだか肩を怒らせて、ピッチに視線を送る北斗だった。
試合が動いたのは、前半も残すところ一〇分となったときだった。
中盤でのボールの奪い合いから崎崎兄が抜け出し、ライン際を駆け上がる。
ケアに行った静岡の選手は登沢。
大ベテランである。
まだ若い崎森に抜くことはできない、と、誰もが思った。
右へフェイント。
登沢も即応する。が、右に振れたはずの崎森の背後に現れる崎森。
「なっ!?」
大ベテランが一瞬戸惑った。それは、砂時計からこぼれる砂粒が数えられるほどの極短時間。
種を明かせば、兄の後ろに弟がいただけである。
すぐに気が付いた登沢が、倒れ込みながらも必死に足を伸ばす。
だが、ミリ単位の差でとどかない。
崎森弟の足から放たれるパス。
キラーパスと讃えられる、正確無比なラストパスがゴールの前に飛ぶ。
グラうンダーのボール。
キーパーとディフェンダーの間に。
飛び込んでくる毛利のフォワード、木茂。
決死のスライディングボレー!
伸ばした田真の指先をかすめるように、ゴールに吸い込まれて行くボール。
ぱさりと、ネットが揺れる。
一瞬の沈黙。
スタジアムを歓声が包んだ。
一対〇。
毛利の先制である。
そしてハーフタイム。
ここぞとばかりに弁当を売りまくる守崎ツインズ。
あいかわらずいちゃついているシュラインと草間。
後半に向けてのコンセントレーションに余念がない両チームの選手たち。
「‥‥安心できる点差、ではないですよね」
田中の呟き。
「後半が勝負だぜ」
対戦チームの控え室では、巫が決意を固めている。
後半四五分は、より激しく、より熱くなるだろう。
サイドを代え、攻防が展開される。
ドリブルしながら、ぐんぐんと加速してゆく巫。
もともとがスピードに乗ったプレーを得意とする選手なのだ。
「俺の移籍第一戦が負け試合ってのは勘弁だぜっ!」
はやいはやい。
一九八六年、メキシコワールドカップの時のディエゴ・マラドーナのようだった。
黒豹のようにフィールドを駆ける。
一人抜き、二人かわし。
みるみる毛利ゴールにせまる。
「‥‥俺だって、デビュー戦でゴールを許したキーパーになるのは御免ですから」
束ねた長い髪を弾く田中。
待ちかまえる。
一人で突破してくるだろうか。
それとも。
ちらりと視線を走らせると、サイドを駆け上がってくる登沢が黒い瞳に映る。
「デコイ‥‥?」
静岡の一〇番を背負う男だ。
そのくらいの奇策は取ってくるかもしれない。
いずれにしても、次の手を見極めなくては。
そう田中は思っていたのだが、
「くっ!」
焦れたディフェンダーが飛び出してしまう。
ヨンパイオ。
毛利ディフェンス陣の要になる選手だ。
絶倫の技量を持った名選手なのだが、やや短気なのが玉にきずだ。
このときも、猪突の感が否めない。
ディフェンダーは賭をしてはいけないのに。
フォワードなら、多少の賭博は問題ない。
届くかどうか判らない状況でも、可能性を信じて飛び込んで良い。
だが、守備は違う。
確実に、安全に、慎重に。
たしかに地味ではあるが、それがディフェンダーというものだ。
二三歳以下日本代表のディフェンダー、田中・マルクス・闘莉王が、今ひとつ高い評価を得られないのは、性格とプレイスタイルが攻撃的すぎるからである。
「ふ」
にやりと笑った巫がボールを右へはたく。
大きく体勢を崩すヨンパイオ。
フリーで走り込んでいる登沢。
すでにシュートのモーションだ。
しかし、
「甘いですっ!」
その前に立ちはだかる田中。
ヨンパイオが突っ込んだとき、彼にはこの展開が読めた。
だからこそ、登沢一人に絞ったのである。
しかもこのベテラン選手はシュート体勢だ。いまさらデコイの役目は果たせない。
「とったっ!」
シュートコースはすべて塞いだ。
会心の笑みを、田中が浮かべる。
しかし、
「デコイはできなくても、壁にならなれるものだ」
登沢の蹴りだしたボールは、田中の目前でバウンドした。
後方へ。
強烈なバックスピンがかかっていたのだ。
V字の軌跡で転がるボール。
ラストパスを出したはずの巫の足元へと戻ってゆく。
「退魔ーショット!!」
唖然とする田中の横を光の帯が通過し、
「ば‥‥かな‥‥」
ゴールネットを揺らした。
遠く静岡から駆けつけた少数のサポーターたちが跳びあがって喜ぶ。
一対一。
試合は振り出しに戻った。
「ですが‥‥これからです」
大きく息を吐いた田中が、電光掲示板を見た。
残り一五分。
ここから先は、もう一歩も通さない!
エピローグ
「すごい試合だったわねー」
スタジアムから帰る人混み。
シュラインが恋人に言った。
結局、毛利の新人キーパーはその後の静岡の猛攻を凌ぎきり、試合は一対一の引き分けに終わった。
「ああ。毛利は台風の目になるかもしれないな」
草間が論評した。
「えらそーにっ」
くすくすと笑ったシュラインが、右腕に手を回す。
「またこようねっ!」
「もちろんさ」
どこまでもらぶらぶな二人だった。
ところで、ピッチの外にいた双子の勝敗はどうなったかというと。
「俺らも‥‥」
「ひきわけ‥‥」
なんだか疲れたように顔を見合わせる啓斗と北斗。
ボーナスは半分ずつ仲良く分けることになった。
「ま、あれだ」
「良しとしたもんさ」
双子が笑みを交わす。
春の風が、スタジアムの熱気をゆっくりと冷ましていた。
シーズンは、まだ始まったばかりである。
おわり
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/ シュライン・エマ /女 / 26 / らぶらぶ観客
(しゅらいん・えま)
0568/ 守崎・北斗 /男 / 17 / 弁当売りの少年A
(もりさき・ほくと)
0554/ 守崎・啓斗 /男 / 17 / 同 B
(もりさき・けいと)
0143/ 巫・灰慈 /男 / 26 / 静岡FW
(かんなぎ・はいじ)
1098/ 田中・祐介 /男 / 18 / 毛利GK
(たなか・ゆうすけ)
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
「激突! 魔リーグ!! 〜サッカー開幕編〜」お届けいたします。
なんと引き分けでした。
弁当勝負も引き分けでした。
ちなみに、本当のJリーグ第1節、広島VS清水も引き分けでした。
TOTOは、なかなか当たらないですねぇ。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って。
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