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<東京怪談・PCゲームノベル>


妖精さんいらっしゃい♪〜お花見ver

 その日シェラン・ギリアムは、ぽかぽかと暖かい陽気の中――……夜はまだまだ冷えるのだが――とある公園のベンチで野宿をしていた。
 ここ数日、空はすっきり晴れており、また桜は満開。夜桜も綺麗で、夜の寒さを除けばまあまあの就寝環境と言えよう。
 しかし桜の美しさを静かに愛でることができるのは夜の間だけ。
 昼ともなれば日々お花見宴会をする人間たちが集い、ドンチャン騒ぎを繰り返している。……と言っても、当初シェランはその騒ぎに対して積極的に何かを思っていたわけではなかった。
 どうせ昼は自分にも多少の用があるし、一日中この公園にいるわけではない。夜になれば静かに眠れるだけの状況になるのだから、昼間の宴会に口を出す気もなかった。
 が。
「出てけ〜っ!」
「桜さんを苛いじめちゃ、だめなのっ!」
「おや?」
 声と共に、突如ザッパと雨が降る。空は相変わらず晴れているのに、しかも公園の外は雨など降っていないのに……えらく局地的な雨であった。
 幸いにも公園の外れにいたシェランは雨の被害を受けなかったが、宴会真っ最中のグループがもろに被害を受けて、びしょぬれになっている。
 食べ物も酒も自分自身も水浸しになって、お開きになるグループも多数。
「わーいっ☆」
「おいだしせいこーなの〜っ☆」
 また、声が聞こえる。
 甲高くも可愛らしい少女の声だ。
 ぐるりと公園内を見まわして、シェランは声の主を発見した。桜の枝にちょこんと腰を下ろした小さな少女。
 ふわりと揺れるピンクの髪は軽くウェーブがかかっており、楽しげに笑う瞳は深緑の色。薄透明な四枚羽を持つ、人形サイズの妖精が二人。
「でもまだいっぱい残ってるの」
「ぜーんぶ追い出すのっ!」
「桜さん、可哀相だもんねっ」
 ……どうやらあの妖精たち、人間のドンチャン騒ぎに怒っているらしい。
 と、なんとなく状況を理解したシェラン。
「お任せ下さい、可愛いフェアリーのお嬢さん方☆」
「ほえ?」
「だぁれ〜?」
 きょとんと不思議そうにこちらを見る二人の妖精は、顔立ちもなにもかも、まったく同じ姿をしていた。
「初めまして、シェラン・ギリアムと言います」
 しばらくじーっとシェランを見つめていた妖精コンビは、唐突ににこっと笑うと、小さな羽根を羽ばたかせてシェランの目の前まで降りてきた。
 くるんっと空中芸のように飛んで、ぴたりと二人同時に静止する。そしてそれぞれ元気に宣言した。
「ウェルなのっ」
「テクスなのっ」
 名乗った直後、口を挟む間もなく二人は同時に口を開いた。
「なんとかできるの?」
 じーっと期待の眼差しで見つめられ、シェランはまったく動ずるなく余裕を持って頷いた。
「こうも自然を汚されたのでは、貴女方の怒りは最もです。私も協力しますよ」
「どーやって?」
「『大地の怨霊の呪い』を試してみる事にします」
「どんなの?」
「大地の精霊たちの怒りを借りる強力な術です。きっと、酔っ払いたちを懲らしめてくれるでしょう」
「わーいっ」
「すごいのーっ」
 くるくるくるくる。
 喜びの歓声をあげて、妖精コンビは宙を舞う。
「ただし、これは十三日間連続で続けなければいけないので効果が出るまで結構時間が――」
「十三日間?」
「どれっくらい?」
 きょとんと聞き返してくる妖精コンビ。
 どうやら日数という概念を持っていないらしい。
「太陽が十三回沈んで昇るまでです」
 二人はしばし考え込む。
 そして。
「んじゃ、よろしくなの〜っ」
「終わった頃にまた来るのっ☆」
 そう宣言して、あっさり去っていってしまった。
 …………。
 結局。
 言い出したのは自分だし。
 シェランはとりあえず杖の準備を始めたのであった。

 しばらく真面目に術をの準備をしていたのだが……ふと、とある異変に気づいて行動を止めた。
 ……なにか……ずんっと背丈の伸びている桜が一本。
 さっきまでは確か、全ての桜の背丈はほとんど同じであったはず。
 一体何が……?
 そう思ったシェランは、とりあえず様子を見に行くことにしたのであった。


 桜の異変に駆けつけてきた四人――シェラン・ギリアム、シュライン・エマ、真名神慶悟、鹿沼・デルフェス。
 桜の異変を起こした張本人、セフィア・アウルゲート。
 そして、桜さんが可哀相だから人間全部を追い出すと言い張っていたウェルとテクスの妖精コンビ。
 その全員をゆっくりと見まわして、桜は、枝を手のように動かしてコキコキと肩――と言うのだろうか? どの辺が肩なのかはよくわからないが、まあ、肩をほぐすような動作をした。
「突然ごめんなさい。少し聞きたいことがあるんです」
 あまりの出来事に茫然としている四人を放って、セフィアが桜に話しかける。
「わ〜た〜し〜にぃ〜?」
 一音一音を伸ばしながら、桜はゆったりと低い声でそう聞き返す。
「ええ。お花見してる人間たちについてなのですけど」
「ああぁ」
 ゆぅっくりゆっくりと枝を動かした桜は、ぽんっと身体――幹の前で二本の枝を鳴らす。
「あの人たち、酷いのっ」
「追い出したげるのっ」
「あ、ちょっと待ちなさい」
 ぷんぷんと怒る妖精たちを、シュラインが制止する。……悲しいことに、シュラインは、この程度の異常現象では動じないだけの経験がすでにある。あっさりと喋る桜の存在を受け入れて、桜の返答を待つ。
「どうやっているのかは知りませんが……桜の意見を直接聞けるのならばそれが一番良いでしょう。少しだけ、待って頂けませんか?」
 続けて、シェランが妖精コンビに声をかけると、納得したのか妖精コンビはひゅっとセフィアの肩に乗って大人しくなった。
「そおぉだなあ〜。わ〜た〜し〜をぉ〜見ぃてぇ、楽しんでくれるのぉは〜嬉しい〜よぉ。けぇどぉなぁ。すこぉし、迷惑なのも〜いるなぁ〜。根ぇの上〜でぇ、暴れられるのぉは〜、けっこぉ〜痛いんだぁ」
「嬉しいの?」
「暴れない人は嬉しいの?」
 妖精コンビの問いかけに、桜はわっさと幹の上のほうを縦に揺らした――と、桜の花びらが落ちて、淡いピンクの雪が降る。
「そうですわね……それなら、きちんとマナーを守っていただけるようお願いに行きましょう。それでどうですか?」
 舞い散る花吹雪の下で。
 デルフェスの問いに、妖精はしばし考えこんだ。
 そして。
「うんっ☆」
 二人は同時に頷いたのだった。

 さて改めて。
「で……とりあえずは自己紹介でもするか?」
 各自、面識のない者が若干数名ずつ。なにかワンテンポずれている気もするが改めて自己紹介をしてから、一行はまずマナーの悪い者たちへの注意をすることにした。
「さて、若い連中はこれで聞いてくれると思うんだが」
 慶悟が【替形法】で、式神を別嬪さんやら二枚目の男やらの姿に変化させる。
 とはいえ、まったく面識のない相手にいきなり注意をしたとて聞いてもらえるとは思えない――所有者でもない人間からの注意では尚更だろう。――そこで、式神たちにゴミ袋を持たせ、公園内のあちこちに行かせることにした。
 ……案の定。
 ゴミ拾いをする美男美女の愛想笑いに、十代後半から三十代前半くらいのグループの大半が引っかかった。
 慌てて散らかしていたゴミをかたし、中には下心満載の笑顔を浮かべつつ積極的にゴミ拾いをする者もいた。
「君が為春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪はふりつつ……という感じか。この場合、『貴方のためにゴミを拾う』だが」
 一部ゴミ拾い大会となった公園内を眺めて、慶悟はそんなことを呟いた。

 ……さて。これでも残る宴会迷惑グループはまだまだいる。
「そうねえ……妖精さんたち、ちょっと良いかしら?」
「なあにぃ?」
「あの人たちが今捨てたゴミ。あの人たちのところに戻せる?」
「できるのっ☆」
「まかせてなのっ!」
 ひゅっと小さな風が吹き、たった今捨てられたゴミが、捨て主達グループのビニールシートに戻って行く。
「なんだぁ?」
 最初はそれでもただの風だろうと再度捨てていた彼らであったが、何度も何度も戻ってくるゴミに不気味がり、最後にはゴミを回収してそそくさと立ち去って行った。
 が、それだけでは不完全だと感じたシュラインは、公園を出る時に必ず目に付く場所にぺたりと一枚、張り紙を貼っておく。
『楽しんだ後は使った場所を掃除し、ゴミは分別して持ちかえりましょう』
 ……あんな妙な現象のあとだ。多分気づいてくれるだろう。

 これで四分の三ほどの迷惑客が更正もしくは撃退できた。
 残っているのは怪奇現象を見ても全く動じない完全酔っ払いと、こんな現象偶然だと言い張り意地で花見を続ける迷惑グループ。
「ここまでやっても態度を改めてもらえないんだもの……」
 少しくらいのお仕置きは必要だろう。
 セフィアはほてほてと迷惑花見客の方へと歩いて行く。
「どうするんですの?」
 デルフェスの問いに、セフィアは、見てればわかるからとだけ答えて、迷惑花見客のすぐ傍にまでやってきた。
「お嬢ちゃん、オレたちになにか用かい?」
 ほぼ全員がかなーり真っ赤の顔で、相当酔っ払っている様子。その中の誰かが、そんなふうに聞いてきた。
「あんまり横暴な方にはお仕置です♪」
 言って、迷惑客の体に触れる。
 と、セフィアに体力を吸収されて、ばったばったと花見客が倒れて行く――と言っても酔っ払いの上に体力を削られて眠ってしまっただけだが。
「これで静かになりました」
 一番やっかいな連中は、まったく改心してないのが少しばかり気になるが。
「まあ、彼らにはあとで報いが行くでしょう」
 穏やかに人好きのする笑みを浮かべてシェランが言う。
「わーいっ」
「ありがとうなのっ☆」
 くるくると一行の周囲を飛びまわりながら、妖精コンビが何度も何度もお礼を言う。
「せっかくですから、私たちも楽しみましょう」
 デルフェスが妖精たちに声をかけて。
 縁があって共同作業をした五人は、空いた場所でお花見をすることになったのであった。


 さて、その騒ぎからきっかり十三日後。
 忠告も警告も最後まで聞かなかった迷惑客たちは、動く桜の木に追い掛けられるという悪夢に魘された。
 その原因を知っているのは……シェラン一人だけである。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1366|シェラン・ギリアム  |男|25|放浪の魔術師
0086|シュライン・エマ   |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
2181|鹿沼・デルフェス   |女|463|アンティークショップ・レンの店員
0389|真名神慶悟      |男|20|陰陽師

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         ライター通信          
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 こんにちわ、日向 葵です。
 このたびは依頼にご参加いただきありがとうございました。

>シェランさん
 お久しぶりです。
 ……最後の数文……何故シェランさんしか原因を知らないのかというと、妖精コンビが十三日も後まで覚えているわけないからです(苦笑)
 でも、おかげさまで最後まで残った迷惑客もきっと改心したことでしょう。どうもありがとうございました。

>シュラインさん
 とっても冷静なご意見、ありがとうございました。
 桜さんも同様の意見だったようで、ある意味平和(?)に事態が進んだと思います。
 張り紙はちょっとツボでした……別におかしいことではないはずなのですが、なんだかほのぼの雰囲気で楽しかったです。

>セフィアさん
 ものすっごく楽しかったです。
 喋る桜さん!
 本人(?)に話を聞けたことで話もスムーズに進んで、書くのも凄く楽でした(笑)

>デルフェスさん
 お花見のお誘いありがとうございます。
 一生懸命説得していただいたのですが……飛び去ってしまった妖精さんたちを探すのはきっと大変だったでしょう。
 お疲れ様でした。

>慶悟さん
 うう、生気を宿す祈念斎の描写を入れる余裕がありませんでした。
 ごめんなさいぃ〜。
 でも式神さんには大活躍していただきました。ちょおっと酒が入ったくらいの方々にはちょうど良い説得(?)方法で、書いてるこちらも楽しかったです。

 それでは、今回はこの辺で……。
 またお会いする機会がありましたら、その時はどうかよろしくお願いします。