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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


アザゼルの宴


■序■

「これは<パンデモボード>と言ってね。日本風に言えば『万魔盤』ってエとこかい」
 店主たる碧摩蓮は、妙に嬉しそうに、そして自慢げに、店を訪れた4人――雨柳凪砂、神山隼人、光月羽澄、護堂霜月――にその盤を見せたのだった。
「肝っ玉のデカい人間がパンデモニウムまで盗りに行ったか、うっかりもンの悪魔がこっちに置き忘れていったか、さ。悪魔の遊び道具なんだよ」
 八卦盤のような盤だった。八卦盤とちがうのは、盤が六角形であるということ。中央にはスモーキークォーツの珠がセットされている。珠は、盤にびっしりと書きこまれたヘブライの文字と数字に囲まれていた。黒光りする盤そのものは、マホガニーにも似た木でつくられているようだ。
「ルールのことはよく知らないンだ。なんせ、気まぐれなやつらのゲームだからねエ。けど、ひとつだけ固定されてるルールがあるらしい。負けた悪魔は、この珠の中に閉じ込められちまうンだ。次に誰かがゲームを始めて負けるまで、外には出られないってエ寸法さ。――なンだけど――」
 蓮は片眉を吊り上げ、かちん、と煙管で珠を叩いた。
「新品でもなさそうなのに、珠の中はご覧の通り、空っぽさ」
 スモーキークォーツは、沈黙している。
「空っぽであるはずがないんだよねエ。というか4日前までは入ってたんだよねエ」
 ……4人の客は、そこで蓮が何を言わんとしているのか理解した。
 一様に変わった顔色をみて、蓮がにいと艶やかな笑みを浮かべる。
「4日前に、蔵から出して客に見せたンだ……それが、良くなかったか……ね?」

 蓮はいう。
 悪魔入りでなければこまる、というわけではない。
 だが、<パンデモボード>は万魔殿に住むものたちの定番ゲーム。万魔殿に住めるほどの高位の悪魔が、東京なぞに飛び出してしまったら――きっともう、はめを外すに違いない、と。
『興味があれば、あと、東京の街が好きだって言うンなら、追っかけてとッ捕まえて、地獄に送り帰すべきだろうねエ』
 客は要するに、蓮の不注意の尻拭いをさせられることになったわけだった。


■シルクハットの中身■

 東京は世田谷、闇の中。
 月さえ見えない夜空の真下を、時代と国を間違えたらしい老紳士が優雅に歩いている。年の頃は50にも60にも見えたが、背筋はよく、また上背もかなりあった。漆黒のフロックコートに漆黒のシルクハットを身につけている。
 ここは2004年の東京だというのに、彼はそういった出で立ちだった。
 あてもない散歩を楽しんでいたらしい彼は、いつしか小さな古びたカトリック教会の前に出ていた。彼はふわりと微笑んで、シルクハットを取ると、古い十字架に恭しく頭を下げた。
 老紳士が通りすぎたのを見計らったかのようなタイミングで、教会の十字架が外れ、ステンドグラスを割りながら、前庭のカーネーションと白百合畑の中に堕ちていった。


■残り香■

 にっっっこりと微笑んで、羽澄が蓮に詰め寄る。18歳にはあるまじき迫力だ。
「もちろん、蓮さん、何か奢ってくれますよねえ?」
「……やってくれるのかい?」
「奢ってくれますよねえ?」
「やってくれるのかい?」
「奢ってくれますよねえ?」
 その禅問答のような会話を、霜月は菩薩のような佇まいで見守っていた。そして、彼の前には連が持ち出してきた双六盤<パンデモボード>があり、さらにそれを隼人と凪砂が囲んでしげしげと見つめている。奇妙なことに、ゲーム盤を眺める隼人の目は、いやに懐かしそうでもあった。
「しかし、斯様な玩具を野放しにするは、あまり好ましいことでは御座いませぬな」
「あァあ」
 霜月のことばに、蓮が煙管を燻らせながらゆっくりの振り向く。顔には、艶めかしくも余裕の笑みがある。
「一応、ウチに置くということは、厳重に保管してるってことと同じことさァね――沙耶も、そう言っているだろう」
「蓮さん……厳重に保管していたら何でこんなことになるんですか」
「それは客が悪いのサ」
「その客というのが気になるところです」
 盤の溝を指で辿りながら、隼人が口を開く。彼の金眼は、盤の周辺を泳いだ。
「それに、盤には賽や駒がつきもののはず。それが見当たらないのも、どうかしている」
 無音でフラッシュが光る。薄暗い店内での突然の閃光に、客と店主は一瞬目をすがめた。デジカメを構えた凪砂が肩をすくめて、ちょこんと頭を下げる。
「すみません。一応、記録写真を、と」
「見せてもらえますか」
「構いませんが――」
 何故?
 凪砂は首を傾げながらも、隼人の望み通りに、今しがた収めたばかりの画像プレビューを見せた。もの珍しそうに霜月が、次いで羽澄が小さな液晶を覗きこむ。
「ほう、これはこれは」
 隼人は大きく頷いた。まるで、その画像に見覚えでもあるかのような素振りだった。
 凪砂と羽澄は、小さく「あっ」と声を上げる。霜月は細い眉を寄せ、ざりざりと数珠を合わせた。
 デジカメのメモリの中に収められた<パンデモボード>の画像は、醜く歪み、神への呪詛と憎悪をそのままに写し取っているかのようだった。渦のようにうねり、とぐろを巻いている――
「蝮」
 霜月がかさりと呟いた。
「マムシ?」
「さよう、蝮に御座います」
 凪砂はデジカメの天地を返した。霜月の視線に合わせてみたのだ。……なるほど、歪んだ画像は、とぐろを巻き、牙を剥く毒蛇に見えなくもない。
「でも、悪魔なんてみんな蛇よ」
「ダンテが見たものに従えば、そうなりますわね」
「随分長いこと、この珠の中に閉じ込められていたのでしょう。解放された『気』がまだこの周辺にこびりついているのです」
「飛び出したのは4日前なのに、まだ残ってるの?」
「万魔殿に居るほどの悪魔ですから」
 会話の中で、霜月がふいと宙に浮く蜘蛛の糸を掴むような仕草を見せた。盤の周辺に残る『気』の残滓を掴み取ったのだ。あまりにも容易かった。
「魔を見過ごすわけには参りませぬ。拙僧はこの残滓を辿りましょう」
「お供します」
 しずしずと歩き出した霜月のあとを、隼人がふらりと何の気なしといったふうについていく。薄暗い店内には、凪砂と羽澄、店主の蓮が残された。
「その、4日前に蓮さんがこれを見せたお客が気になるわ。蓮さ――」
「連絡がつかないんだよ」
「……やっぱり」
「ちょっと調べてみますね。……ふふ、新作のネタにも、記事にもなりそう……」
 凪砂は首に架せられた首輪を撫でながら、持参していたモバイルの電源を入れた。


■潰れる目玉■

 蝙蝠の羽音そのままに、魔が往く。
 世田谷をあてもなく歩き続ける老紳士の耳元を、小悪魔がかすめた。
 老紳士は足を止め、僅かに首を傾げた。
 蝙蝠ほどの大きさの小悪魔は、紳士の眼前にまわる。
 きいっ、きちちち……
 小悪魔は小刻みに頷き、取って返そうとした。
「控えい、頭が高いぞ」
 紳士は囁き、ぱちん、と指を鳴らした。
 くちゃり、と小悪魔が挽肉になった。
「儂を誰と心得た?」


■通信終了■

 ふむ、と神山隼人が眉をひそめた。


■大当たり■

「光月さん、これ……」
「なに?」
 凪砂が見つけた情報。
 それは、世田谷の古美術商が、一等一億円の宝くじに当選したことを周囲に触れ回り、挙句に失踪したというものだ。宝くじの当選日は4日前であり、古美術商が失踪したのもこの日である。
 しかし、この古美術商は蓮の店を訪れ、<パンデモノート>を見た客ではない。それでも、関連性は充分にある事件には違いなかった。
「あア、こいつも消えちまったのかい」
「常連さん?」
「まアね。<パンデモノート>見た客とは、しょっちゅう会ってたようだった。友達……とまではいかない仲だったようだけれど」
「……いやな予感」
 羽澄はぶるりと肩をすくませ、武器たる鈴や鞭の点検をした。
 凪砂も、必要な情報をメモしたあとに、モバイルの電源を落とす。
「行きましょう。もうすでに、次の魂を求めているに違いません」
 そう、もうすでに、契約はひとつ成されているようなのだ。
 東京には希望と欲望が渦巻いている。悪魔を東京に解き放つのは、お菓子の家に子供を連れて行くようなもの。
 ここで、止めなければならなかった。


 老紳士は、或る男の耳元で囁いた。
「其れは既にうぬのもの。棄てた、ここには無いと言い通せ。なに、儂が間を取り持とう。儂の得手のうち故に」
 金を望んだ男の前に、宝くじという姿の大金が転がりこんできたのは、4日前。そのときはまだ、それはただの宝くじで、しかも貰いものだった。アンティークショップで見つけたボードゲームの賽をふり、購入は保留ということにして自宅に戻ってみれば、現れたのは老紳士。妙に心地いい低い声で、老紳士は囁いた。
 未来、過去、現在、いずれを望むか。
 それとも、敵なり伴なりの間を取り持つか。
 はは、見えるか、未来が――
 なれば、其れは既にうぬのもの。
 そして、当たりくじだったということを知った男の友人が、宝くじを取り戻しにやってきた。
 あれは棄ててしまったんだ――
 男は言った。
 何だと、と突っかかろうとした古美術商が、不意に大人しくなった。へらりと笑って踵を返し、ふらりと帰っていってしまった。
「望みは、叶えた。うぬの穢れた魂は、儂のものだ。ゆめゆめ、忘るるな」

 そして老紳士は次に、宝くじを取り戻し損ねた古美術商の前に現れて――
「未来、過去、現在、いずれを望むか。それとも、それとも、敵なり伴なりの間を取り持つか?」
 奇妙なほどに心地いい声に、商人は思わず立ち止まるのだった。

「望みは、叶えた。うぬの穢れた魂は、儂のものだ。ゆめゆめ、忘るるな」

 その笑い声は、ひどく耳障りな、しゅうしゅうという音にも似ている。
 そう、ヘビが立てる呼気のよう。
 ようく聞いてみれば、少しも心地いい声などではないのに。


■おどる偃月刀■

「おう、おうおうお」
 住宅街のはずれ、車もめったに通らない公道のガードレールに腰掛けていた老紳士が、声を上げながら腰を上げた。彼は時代錯誤も甚だしいシルクハットを脱いで、隼人に向かって頭を下げる。
 シルクハットは、どうやらその頭に生えた角を隠すためのものであったらしい。そして彼が口を開くと、いやに大きな牙がきらりきらりと見え隠れした。
「これはこれは。して、第56982174回全体議会には、ご出席なされるか? 閣下も貴殿の答弁を、心待ちにしておられる」
「さて、何のことだか」
 隼人が苦笑とともに肩をすくめると、紳士はきょとんとした顔を見せたが、すぐに大きく頷いた。今の発言はなかったことにしたらしく、金の目は網代笠をかぶった僧侶に向けられた。
「異教を以って、儂を祓うというか」
「その道もありましょう」
「勿論、おまえが素直に古巣に戻るというなら、無闇に手出しはしませんが」
 隼人が目を細めた。
「但し、私の『目』の借りは返さねばなりますまい」
「ああ、あの小蟲に御座るか。節は、失敬」
「帰る気は?」
「いやなに、しばらくぶりの地上ゆえ、羽根を伸ばしとう御座いまする。あああ、バルバトスめが。最後の最後で、賽はあやつに味方した。煙水晶の牢獄は、まこと窮屈に御座った」
 ばうっ!
 紳士の背に、蝙蝠の翼が現れて――威嚇するかのように広げられた。


 世田谷の一角が、不意に切り取られたようだった。
 色彩と光彩が反転し、デーモンと隼人と霜月の周囲は、影に呑まれたようだった。
 それは、隼人の目がデーモンと同じ光を放った一瞬にして起きた変化であった。
「さ、護堂さん、お好きなようになさって下さい」
「微力ながら、参りましょう」
 ざっ、と霜月が印を結んだ。
 ぱちん、と悪魔が両手の指を鳴らした。

 虚空から現れた輝くサーベルが二降り――
 一振りは隼人を、一振りは霜月を襲った。ふたりがひらりと身をかわすと、ぱちん、悪魔の指が鳴り、くるりと刃が後ろを向いた。
 ぱちん、二振りが同時に風を斬る。
 霜月の肩口を、隼人の右の脇腹を、サーベルは斬り裂いた。爛れるような痛みがふたりの傷口を襲った。サーベルの刃には、おぞましい毒が塗りつけられていたらしい。
 それも、毒蛇の牙から滴る神経毒だ。人間の肉などは、たちまち腐り落ちていくだろう。

「神山さん! 霜月さん!」

 切り取られた空間の中に飛びこんできた、銀の髪と黒の髪のふたりの女がある。紳士の目は、ちらりとその新参者に向けられた。
「悪魔は人の心に居るんじゃなかったの? まともにかたちを持ってるなんて」
 それは、光月羽澄と雨柳凪砂。羽澄が驚いた声を上げた。彼女は、悪魔が実体を持たずに、人の心から心へと伝染する病のようにとらえていたのだ。しかし見えないはずのウイルスは、翼を広げ、フロックコートとシルクハットを身につけた姿でそこに立っていた。
「我が魂を、ひとの器が収め切るか。良い戯れ言だ」
 ぱちん!
 霜月を狙っていたサーベルが、羽澄の胸を目標に定めなおした。
「光月さん!」
 凪砂が咄嗟に羽澄を押し倒す。サーベルはふたりの女の髪をかすめ、ぱちん、そこで静止した。ぱちん、くるりと刃を下に向ける。
「む!」
 悪魔が顔をしかめ、ぎろりと霜月をねめつけた。きらりと光ったのは、霜月の十指から伸びる鋼糸。鋼糸は悪魔の指に絡みつき、その自由を奪っていた。
「此れぞ、九耀流に御座います」
 冷えた黒曜石の目で、霜月は悪魔を見つめ返した。
 ――なうまくさまんだ、ばざら、だんかん――
 ばうんっ!
 明王の焔が鋼糸を走り、悪魔の右腕が爆発した。
 ぢぃん、
 サーベルの一振りが輝きながら地に落ちる。
「ええい」
 舌打ち。
 しかし、もう一振りのサーベルは――
「あげるわ!」
 羽澄が、鞭で捕らえていた。鞭に絡め取られた柄が、羽澄の手に収まる。振り下ろされた刃が、悪魔の左手を斬り落とした。
「おのれ、されど――」
 蛇に、腕があろうか。


■蝮の喉■

 そこに現れたのは巨大な毒蛇であった。蝙蝠のような翼を持つその姿は、さながら悪の道に引きずり込まれたケツアルコアトルといったところか。
「聞きたいことがございましたのに……」
 凪砂はむくれた顔をした。
「ゲームのルールに、万魔殿のご様子……いいネタになったでしょうけれど……その舌と顎では、もうことばは喋れませんよね?」
 凪砂の足元にある影が、ざわざわと蠢きだす。
 ほほう、と密かに隼人が口元を緩めた。影の中の力とは、まったく親近感を覚えるではないか。空間を現実から引き離したところで、彼は自分の出番は終わったものと考えた。悪魔が自分に手出しをすることはないと知っていたからだ。
 だが彼は、そこで少しだけ凪砂を手伝うことにした。
 見えない月に、獣が吼えた。
 猛り狂う毒蛇の喉元に、影よりも黒い狼が食らいついたのだ。蛇の喉とは、しかし、如何に。
『ごゥっ!』
 たちまち喉を食い破られた蛇が、どす黒い血を吐いた。それでも、一矢報いようとする闘志は凄まじいものであったらしく、喉を食い破られながらも、蛇は狼の肩口に食らいついた。のたうつ躰が、怪我の巧妙か、羽澄の足元をすくった。羽澄が転倒したそのとき、ちりりと涼しい音色が響き渡った。彼女を庇うかのような音色であった。音に叫び、蛇が狼から牙を抜く。恐るべき毒も、影に打ちこまれては意味を成さぬ。
『おおおおお、』
 蛇は血に塗れながら、怒号を上げた。
『呪われよ! 呪われよ!』
 鱗の間から、唐突に血が噴き出す。
 見れば、きらめく鋼糸がいつの間にか蛇を絡めとっていたのだ。
『うぬら――呪われよ!』
 影の狼がまたしても蛇の喉に咬みついた。
 蛇は、ばちんと弾けて、崩れ落ちた。


■体験談■

「議長、よろしいか? 規定はこうじゃ。続く者が賽を振るまで、敗者は煙水晶の虜」
「よかろう、よかろう。その方が都合が良い。儂は先日の議案を纏めねばならぬ。局が終わるまで待たねばならぬとなると、閣下や陛下をお待たせすることになりかねん」
「ほっほ、大議長、負ける覚悟がおありかな」
「儂は実のところ、この双六のためしが無いのだ」
「それはそれは」
「手柔らかに」
「なれば、大議長から賽を振りなされ」
 黒瑪瑙の賽が、盤の上に落ちた。
 荘厳なる彫刻が並ぶ、絢爛なる待合室だった。人間の世では、紙上でしか有り得ない建築がそこで成されていた。鴉羽根の建築家が、一夜にして設計を成し遂げたという宮殿である。天にも、似たような宮殿はあるという。
 しかし、ここに広がる壁画や彫刻は、美しいほどに背徳的であった。
 賽が転がる。転がっていく。
 笛吹く悪魔の最後の出目は、66だった。
 敗者は、地獄議会大議長。60の軍団を統べる、大蝮。
「おのれ、呪われよ!」
「ひぃひひひ、大議長、煙水晶の手が伸びよう!」


 雨柳凪砂は、血と毒から、それを教えられたのだ。


■独り言■

「しかし、相変わらず人間に化けるのが下手な方だ」
 神山隼人は呟いた。


■地獄門■

「……帰ったの?」
 景色の色がくるりと反転し、もとの夜の世田谷へと戻る。羽澄は、軽い怪我で済んでいた。無我夢中で握りしめていたサーベルはなく、足元には鈴が落ちている。
「『気』は消えました」
 霜月が合掌し、小さく真言宗なりの祈りを捧げた。
「彼は忙しい方のようですから、もうしばらくはこちらにいらっしゃることもないでしょう。少し疲れましたね。蓮さんに何かご馳走になりましょうか」
「皆で言えばはぐらかされることもないかもね。……雨柳さんもどう?」
「……ああ」
 首輪をいじりながら自失していた凪砂は、羽澄の無邪気な問いに呼び戻された。
 ――あたしは、今見て聞いたことを、すぐに文章に起こしたいけど……。
「おなかが空いていたところです」
「じゃ、決まりね。護堂さんも、行きましょう?」
「犠牲者を弔いながら、ならば」
「犠牲者?」
 隼人はひとり、肩をすくめた。
「彼らはすすんであの道に入ったのですよ。犠牲者と言うのは、あまりにも――」
「もう、そんな冷たいこと言わないで」
 きっと、蓮の店は開いていて、まだ明かりがついているだろうと――それを見越しての話が、そこで展開されていた。

 しかし、蓮は一枚上手だった。
 4人が発ったあと、早ばやと店を閉め、<パンデモボード>を片付けていたのだ。
 結局、賽と駒はみつからなかった。




<了>

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【1069/護堂・霜月/男/999/真言宗僧侶】
【1282/光月・羽澄/女/18/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1847/雨柳・凪砂/女/24/好事家】
【2263/神山・隼人/男/999/便利屋】

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               ライター通信
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 モロクっちです。このたびはゲリラ開けの本依頼のご発注有り難うございました!
 いつもとは違う時間に開けたためか、やはり顔ぶれが違いますね。神山隼人様、護堂霜月様、はじめまして。これからもよろしくお願い致します。
 さて、今回皆さんがボコボコにしたデーモンですが(笑・「悪魔」ではなく「デーモン」なのがまたポイントでもあり)、一応ソロモン72柱のうちの1柱、超マイナーなんだけどもそれなりにエライお方になります。事典や辞典の記述に基づいた設定にしてみましたので、コイツじゃないかとか見当つけてみるのも面白いかもしれませんね。モロクっちはこのマイナーなデーモン、好きなんですよ。人に化けるのがヘタなところが特に(笑)。
 楽しんでいただけたら幸いです。
 それでは、また。