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花見に行きましょう 2004
【前日】
お誘い:あやかし荘で
恵美と嬉璃がそう決めたときには、近くに数人遊びに来ている人がいた。元から住民の大曽根千春と縞りす、よくあやかし荘に遊びに来る田中裕介に鈴代ゆゆだ。
「お花見ですか、それは良いですね」
と、お茶をすする裕介。
「そうですねぇ」
同意する千春。
「お弁当など作るととても賑わいますね」
にっこり恵美がいう。
「わたし、千春さんのお手伝いするでぃす!」
縞りすはうきうきしている。
「では、私は他の方々に電話してきますね」
恵美は席を外した。
「さて、俺も……数人に電話してみますか」
裕介は庭にでて、携帯を取り出し誰かに電話をしていた。
場所取り
後に奉丈遮那も参加するという仕事先からの電話も入り、まずは見晴らしの良いところを取るべく調査隊と、目印を置くことに。
裕介の方には、何かモガモガ動く物体があった。ゆゆと嬉璃と一緒に歩いていく。
「木の根は弱いから気を付けてね」
とゆゆが促す。
「わかりますか?ゆゆさん」
「皆元気だよ♪特に元気なのはあの大きな『人』かな?」
裕介の質問にゆゆは、見頃の大きな桜を指さした。
「一緒にたのしみたいみたいだよ♪」
「なら決まりぢゃな」
「ええ」
裕介は、モガモガ動く物体を木に吊し、三人は去っていった。
「みなさんひどいですぅ〜」
謎の物体から顔を出したのは三下忠。若返っても相変わらず扱いはぞんざいである。
……此は避けられぬ宿命と言うものだろう。
――まぁ楽しくやりましょう
そんな桜の声が聞こえた気がする三下だった。
「楽しく……ですか……?」
はぁと蓑虫状態の三下はため息をついた。
田中裕介と似非猊下
教会。かの悪名高き似非枢機卿ユリウス・アレッサンドロの居る場所だ
「お花見ですか?」
砂糖を沢山入れた紅茶とショートケーキを優雅に食べながら、裕介と電話している。
「いいですね。イタリアにはあまり無いですし、日本文化に私はとても興味があります」
と、いつもの笑顔で答えている。
「え?麗花さんですか?どうでしょう?彼女は……」
電話先の裕介は少し暗くなった感じだ。
「大丈夫ですよ私も弟子に此処を任せて麗花さんもお誘いしますよ」
と、ニヤリと笑いながらユリウスは答える。
「猊下!その日はお仕事」
と、麗花が怒鳴るが。
「裕介さんが一緒に花見したいと申されますけど?どうします?」
今回、この似非猊下が有利のようだ。余裕な笑顔で麗花に訊いた。
「しかし、色々お仕事が……」
彼女は、やっぱり裕介と一緒にいたいと顔に出ているが……やはり熱心なシスターである。
「それは既に済ましていますよ、ほら」
まるで、そんなことが起こるかのように予測し、その日迄にするべき書類などの手続き、そして、花見当日の礼拝など行事委任状などを全て手配していたのだった。こうなると麗花も口出せない。不在とされている(らしい)この教会の正規司祭が切り盛りすることも有るようだ。
「分かりました、私も参加します」
ユリウスの腹黒さに感謝しなくちゃ行けない事に自己嫌悪する麗花さんであった。
【午前9時】
一番乗りは天薙姉妹だった。2人とも春を意識した桜の模様の着物である。
既に亜真知は和菓子の『桜餅』と『おはぎ』、洋菓子の『ドライフルーツのタルト』、『シフォンケーキ』を持ってきている。撫子は恵美と一緒に台所で一緒にお弁当を作る約束をしていた。2人揃って管理人室にて楽しくお料理している。
一方、千春とりすは、自分の台所で一緒に花見弁当を作っている。これだけいれば何とかなるだろうと男性陣は、お酒やジュースを現場まで持って行く事にした。現場には吊られている三下にゆゆが待っていた。
亜真知は嬉璃と一緒に饅頭うさぎと戯れている。
【午前10時】
2番目には相澤蓮が、箱いっぱいのお菓子とつまみ、ジュースと酒を積んだ車で登場する。車の方は後々取りに帰る方向にしているようだ。もし飲酒運転で捕まったら、又会社を首になりかねない(とある事件の冤罪で首になっている事は本人自体忘れているが本能で其れは避けているのだ)。匂いを嗅ぎ付けたのか、蓮の間の猫達がじーっと蓮を見ている。その数5匹かそれ以上
「欲しいのか?」
蓮が訊く
「にゃ〜」
ステレオ否、サラウンドで答える猫。
「待ってろよ」
と彼は、猫が食べるだろうと思われるつまみを上げた。猫は喜んで持って帰る。
「ありがとうの一言無しかよ!」
「にゃー」
「後に言われてもなぁ」
――ああ、猫ってそんな奴らばっかだなと頭をかく蓮だった。
丁度4人のお弁当が出来たらしい。その合図が管理人室と千春の部屋で聞こえた。
【午前11時】
男性陣が一通り揃ったところで、重い荷物などを桜並木公園まで運んでいる。お祭りになれている住民が多いし、かつ去年も花見をしているので楽なのだ。
茣蓙をひいて、重しを地面に刺した。と言うか、どう見ても投げナイフそのものに見える。蓮の間から天然剣客が適当な物を見つけてきたのだろう。
「準備の最中ですか?」
と、のんびりとした神父服の男と、少し春らしい洋服に身を包んだ美人がやってきた。
「先生、麗花さん」
裕介が駆け寄る。
「本日は楽しみましょう。ね、麗花さん」
「は、はい……」
どうも麗花の調子がおかしいようだが。このさい気にしない。
わいわい和やかなムードの中、荷物を運び、蓑虫三下をおろして、真ん中に4人が作ったお弁当。そして、既に席が決まっているような感じに皆が座った。時計回りで、恵美、遮那、嬉璃、裕介と麗花に似非猊下、らせん、りす、蓮、撫子、義明、茜、亜真知にエルハンドだった(あれ?三下は?)。
只遮那だけは本当に眠たそうである。
らせんの膝にはかわうそ?が座っている。其れを羨ましそうに見ているりす。
周りには、猫たちと草間興信所の赤猫・焔、饅頭うさぎが楽しく遊んでいる。
蓮としては、このメンバーはかなり最高だなと思っていたりする。ただ、一部妙な雰囲気があるのは否めなかった。それは、眼鏡の和服美人と常備ハリセンを持っている女子高生が何か真ん中の高校生を挟み、火花を散らしているのだ。おそらく三角関係なのだろうか?と思ってみたりする。
――花見の最中にどう発展するか見物だろう。
お酒やジュースが注がれ、裕介が簡単に話しをしてから、
「乾杯」
と、音頭をとって花見が始まった。
【正午】
女性陣が男性陣にお酌しており、裕介がダウン気味の遮那に変わって、色々手伝いをしている。ゆゆは、飲み物を貰ってから八分咲きで綺麗な桜並木を眺めて歩いている。
【午後A5】似非猊下、麗花と裕介の雑談
「こう日本の桜を愛でるのは良いですねぇ」
ユリウスは、シフォンケーキと、蓮の持ってきたチョコを美味しそうに食べながら桜を眺めていた。
「お誘いありがとうございます」
「いえ、出会えて嬉しいです麗花さん」
と、一緒に良い雰囲気を出している2人。
「あの、此お礼じゃ無いんですけど……余ったので作ってきました」
麗花が少し赤面したように包み紙を裕介にわたす。
「あ、美味しそうなクッキーですね」
裕介は優しい感想を述べ、一口。
「美味しいです」
「……」
沈黙している麗花。
――たこ足裕ちゃん。
そこで誰かの声が聞こえた気がする裕介だが……気にしないことにした。
「似非、酒は飲まないのか?」
エルハンドは、ユリウスがこの2人の邪魔をしないために訊いてきた。
「あ、頂きます」
「ワインもあるとはお前が持ってきたのか?」
「いえいえ」
と、世間話をしている。
エルハンドは愛弟子の行動(つまり一寸した悪戯;酒を入れていく)は目をつむっている。このメンバーで羽目を外す者は殆ど居ないからだ。居たら、直ぐに自分が星にするだろう。
「真面目に働いて居るのか?似非」
「貴方のお父様みたいに似非と言わないで下さい」
「事実だろう」
ユリウスの皿を狙っている弟子とナマモノ。其れに気が付くエルハンド。3人は心の中でニヤリと笑う。
「日本文化に親しむというのは素晴らしいことだ」
と、色々他愛ない話をするエルハンドとユリウス。すっかりユリウスは……気が付かないで神の術にハマっていた。
ユリウスは自分の皿にあるシフォンケーキの残りを食べた。
しかし、其れはシフォンケーキでなかった。気が付かなかったユリウス。
彼も凄腕エクソシストと言うけれども人の子。エルハンドの話術と魔術、そして、愛弟子の素早い行動でシフォンケーキがおはぎにすり替わっていた事に気が付かなかったのだ。
そのまま青ざめ……バタリと倒れるユリウス。
――やった!宗家の真似が出来た!
――頼まれていたんだろ?
――はい。
念話でエルハンドと義明が会話する。
「せ、先生!」
「猊下!どうされました!?」
驚く麗花と裕介だが、
「なに、神がコイツの悪行を見つけ少しだけ懲らしめたんだろう。気にしては行けない」
と、エルハンドが宥めた。
何か有耶無耶にされ、ユリウスはそのまま放置される事となった。
【お開き】
皆で一緒に片付けて、後はあやかし荘で二次会をするという方向になった。しっかりゴミは分別し、綺麗にしている。
蓮は何とか戻って来られたので、又二次会に参加するそうだ。
裕介は、ピクリとも動かない似非猊下を担いで、麗花と共に帰るという。
「お疲れ様でした〜」
と、皆があやかし荘で挨拶してから、各自の行動に移ったのだった。
【閉幕2】似非猊下復活
「は!私は一体!」
ユリウスは裕介の背中で起きあがった。
「遊び過ぎです先生。いきなり倒れたのでビックリしましたよ」
裕介が答えた。
「大丈夫ですか、猊下?」
「あ、えーっと……」
記憶を思い出そうとするユリウス。
――たしかシフォンケーキを……しかし……味があんこ
「あああ!またしても!」
思わず両手で頭を抱えるユリウス。そのまま裕介の背中から地面に落ちてしまう。
「先生!」
打ち所が悪い。いや脳天直撃。意識不明となった。
「先生!しっかり!」
「猊下!」
2人は又ピクリとも動かない似非猊下をみて混乱していた。
――あの親子神……やってくれましたねぇ……。
混濁する意識の中ユリウスはそう思った。しかし、復讐しても……彼らにはとうてい敵わないのだろうという解が見いだされ失意と共にしばらくの眠りについた。
皆があやかし荘で色々やっている時、ゆゆは桜並木公園にいた。
彼女は、桜たちに、
「又来年ね♪」
と、言って自分の本体に戻っていった。
――来年もまたね。
桜たちも彼女に答えて、また花を咲かし、散らせ、眠りにつく。
End
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0170 大曽根・千春 17 女 高校生】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生】
【0428 鈴代・ゆゆ 10 女 鈴蘭の精】
【0506 奉丈・遮那 17 男 高校生・占い師】
【1098 田中・祐介 18 男 高校生兼何でも屋】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【1992 弓槻・蒲公英 7 女 小学生】
【2066 銀野・らせん 16 女 高校生(/ドリルガール)】
【2295 相澤・蓮 29 男 しがないサラリーマン】
【2821 縞・りす 15 女 高校生(神の使徒)】
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■ ライター通信 ■
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滝照です
『花見に行きましょう』に参加して頂きありがとうございます。
予定では、1ヶ月後になるはずだったのですが、筆のすすみが一瞬早くなったため、こうして、お花見シーズンにお届けできたことにホッとしております。
色々な方の花見風景が有りますので、是非そちらもご覧下さい。
弓槻蒲公英さま、相澤蓮さま初参加ありがとうございます。
又の機会が有ればお会いしましょう。
滝照直樹拝
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