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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Friends〜フ・レ・ン・ズ〜

 ふたりの少女が、中学校の屋上に座り向かい合っていた。
お昼休みの他愛ない話。お弁当を膝の上に置いて…午後の授業までの束の間の休息。
他にも何人かの生徒達が同じようにして学校生活における短い至福の時を過ごしていた。
「私たち、死んでも友達かなあ…」
「はあ?なに言ってんの?」
 不意に呟いた少女、楓子(ふうこ)の言葉に、
訝しげに、そして茶化すようにして問い返した亜佐美(あさみ)。
「ん、私達おばあちゃんになっても友達なのかなーって思って」
「さあねえ?アンタが裏切らない限りはそうかもね?」
 互いに笑いながらそんな会話を交わして。
楓子は天然の栗色の髪の毛を三つ編みにして両肩に垂らすという…
典型的な大人しい風貌と言うか、十人中十人が”成績優秀なお嬢様”だと言うであろう少女で、
それに反して亜佐美は髪を金髪にして無造作に整えたヘアスタイルの、
校則では禁止されている化粧も施した、まあ十人中十人が”不良”と言いそうな少女だった。
 一見すれば、接点なんて無さそうに思える外見の二人なのであるが、
幼稚園の頃からずっと友達で、無二の親友と胸を張って言える…そう自負しているくらいだった。
「ねえ亜佐美ちゃん、もし何かあったとしても私、必ず助けるからね」
「なによ急に?なんもありゃしないわよ?それとも何かあるって言うの?」
 何か悩みでもあるのだろうか、と心配そうに亜佐美は楓子の顔を覗き込む。
しかし楓子は曖昧な笑みを浮かべたままでそれ以上は何も言わなかった。

 それは、学校が終わった帰り道。
学校の外にあるコンビニの前で、亜佐美は楓子が生徒会を終えるのを待っていた。
ガラの悪い連中と付き合いはあっても酒も煙草もやらない亜佐美は、
ただコンビニ前の駐車場にぼーっと座ったままで楓子が来るのを待っていた。
「お、来た来た…」
 学校側の道路から、楓子が歩いてくるのが見える。
亜佐美はゆっくりと立ち上がると、鞄を肩にかけなおして…楓子へと手をあげた。
そして楓子も同じように亜佐美に顔を向けた。

それが、ふたりが互いの顔を見た最後だった。



 草間興信所のブザーを鳴らし、やってきたのは一人の女性だった。
黒くて長い髪の毛を無造作に散らして…薄化粧をしていて、
武彦は一瞬、あの世の存在かとすら思えた。しかし、確かにその女性は人間だった。
「お願いします…妹を助けてください…」
「はあ…?」
「妹は呪われているんです…いえ、憑り依かれているといった方が正しいでしょうか…
お願いします…このままじゃああの子は殺されてしまうわっ…!!」
 またしてもどうやら怪奇系の依頼のようだ、と武彦は少し溜め息をつく。
しかし相手の真剣な雰囲気に、顔をキリっと引き締めて。
「もう少し詳しくお聞かせください?妹さんに憑依しているというのは確かなんですか?」
「確かよ!あの一ヶ月前の事故以来ずっと!真っ暗な部屋に篭もったっきり!!
誰が声をかけても開けてくれないし!たまに顔を出したと思っても食事もろくに食べないし!
いつもいつも”ごめんね、ごめんね”ってうわ言のように呟くだけ…!
それに、誰もいないところに向かって何か話し掛けてるのよ!?どうにかしてよ!!」
 一ヶ月前の事故と言えば…と、武彦は記憶の糸を辿って行く。
仕事柄、事件や事故関連のニュースは細かいものまで全て記憶するように心がけている。
そしてすぐに思い当たったのは、暴走したトラックが中学校前の道路を蛇行運転し、
歩道を歩いていた下校途中の生徒7名を巻き込み、3名が死亡するという事故だった。
 もしそれならば、この女性の妹というのはその時巻き込まれて助かった生徒のうちの1人になる。
しかし武彦はその女性の様子を見ていると、妹を助けて欲しいというよりは…
ただ鬱陶しいのでどうにかしてくれと言っているようにすら思え…。
「落ち着いてください。わかりました。さらに詳しいお話もうかがわせて戴きます…
その前に、貴女のお名前と妹さんのお名前をお聞かせ願えますか?」
「ええ、私の名前は朝子(あさこ)…妹の名前は…」



「楓子さん、ですか…」
 草間興信所のソファに浅めに腰かけ、城田・京一(しろた・きょういち)は資料を手に呟く。
どうしてこうも厄介な仕事を自分に頼むのかと、デスクに座って別の資料を見ている武彦に京一に視線を向けた。
自分には霊能力といった能力もなく、存在こそ否定はしないものの、見えることはもちろん、居ると感じることすら出来ないのだ。
そんな彼に、どうにも霊がらみのような仕事を頼むのは、少々筋違いのような気もした。
 しかし、武彦は武彦なりに何か考えがあっての事なのだろう。
絶大なる信頼があるわけではないのだが、武彦の”見る眼”に関しては京一は信頼を持っていた。
まず、この男が選び受けた依頼に間違いは無いだろうと。
そしてその男が選び頼む相手にも間違いは無いだろうと。
「まあとりあえず依頼されたからには受けましょう」
「ああ、頼むよ」
「けれどわたしに頼んだからには、結果がどうなっても構わないと言うことですね?」
「俺は依頼人の望むようになればいいと思っているからな」
「その考え、好きですよ」
 ふっと笑みを浮かべると、京一は資料を手に興信所の事務所を後にする。
資料には依頼人とその妹の個人情報と、住所、そして事故のスクラップ記事や武彦がまとめた書類が入っていた。
その中に、楓子の交友関係をリストアップしたものがある。
 どうせ本人に直接会ったところで、心霊的な解決が出来るわけでもなし…と、とりあえず周囲から話を聞いてみることにした。


 資料に載っていた中学校へと、京一はまず足を運ぶ。
あまり学校近辺をうろうろとしているのも教師に疑われてしまうだろうと、近くのコンビニへ向かった。
そこは確か、事故が起こったまさにその場所でもある。
当時の新聞記事のスクラップの情報によると、居眠り運転のトラックが道をそれてこのコンビにへ突っ込んだと言う事だった。
その際、歩道を歩いていた生徒4名を轢き1名が死亡、さらに駐車場に居た女子生徒1名死亡、店内にいた男子生徒2名のうち1名が死亡するという惨事になった。
京一の勤務先である総合病院にもそのうちの数名が搬送されてきて治療を受けていたのだが、
生憎、京一は当時は他の患者にかかっていて顔すら見てはいない。
「さて…草間君の資料によると…駐車場にいて亡くなったのが、楓子さんの友達の亜佐美さんですか」
 すでに一ヶ月以上は前になる事故だけあって、コンビニはすっかり修理されて事故があったとは思えない外観をしているのだが、
駐車場に部分的に残っているブレーキ痕や、駐車場の端の壁に手向けてあるいくつかの花の存在が確かにそこで何かがあった事を告げていた。
ポケットに突っ込んでいた手を出し、店内に向かおうとした京一だったが、
ゴミの片付けに出てきた若い男性店員と眼が合い、ちょうどいい…と、声をかけて名刺を差し出した。
「お医者さんが僕に何か…?」
「いえね、きみにと言うよりは…ここであった事故の事を知っている方とお話がしたいんだがね?」
「ああ!はいはい!それ僕ですよ」
 二十代前半くらいの店員は、名刺を胸のポケットに入れながら店の横手に回る。
来客から目立たない場所にまで移動すると、京一が質問するより前に口を開いて話し始めた。
「あの時は本当に今でも思い出すと恐いですよ。僕、二番レジにいたんですけどね、夕方でしたよ…そう。
店内には学校の生徒さんが何人かいて、まあいつもの事なんですけど、駐車場にもたむろってました。
まあ僕もいつものように接客してたんですが…その時ですよ!!」
 店員は話好きなのか、やたらとテンション高く流暢に喋る。
おそらくは普段からそのときの事を誰かに聞かれたり、あるいは聞かれなくても話しているのだろう…
相手の雰囲気から京一はそう感じた。
「突然ものすっごい高いブレーキ音がしたかと思うと、ガッシャーン!ですよ!店の入り口側を突き破ってトラックが突っ込んできたんですから!!!
そして一番レジをなぎ倒して止まってね…今でももしあの時、一番レジ使ってたらと思うとぞっとしますよ」
「駐車場と店内にいらした生徒さんが亡くなっているようですが…?」
「ええ…雑誌の前にいた男子生徒さんのうち片方が亡くなったようですね…あまり面識が無かったのですが…駐車場で亡くなった彼女は…」
 店員は少し声のトーンを下げて、寂しそうな表情にになる。
「うちの常連さんで…仲のいい友達と二人でよく来ていました。人当たりの良い子で僕にも気さくに声をかけてくれて…
名前も覚えてくれていたし、僕も彼女達の名前も覚えていました…だから、亡くなったと聞いて本当に残念で…」
「…それは、亜佐美さんという女性ですか?」
「え?ええ!ご存知なんですか?そうです、亜佐美ちゃんです。いい子だったんですよ。ホントに。
いつも一緒にいた楓子ちゃんって言うんですけど、その子もいい子で。とても仲が良かったんです。だけど、あれ以来、楓子ちゃんの姿も見なくて…怪我は軽症だったと聞いたんですけどね」
 切なげに呟く男性店員。
まさかその楓子の事で、京一がここに来ているなど思ってもいない様子だった。
「そのお二人は常連だったと言う事ですが、何かかわった事や気付いた事はありませんでしたかね?」
「変わったこと…ですか…?そうですね、変わったことというか気付いた事なんですけど…楓子ちゃんはあんまり家庭環境に恵まれてなかったみたいですよ。
以前ちょっと聞いただけですけど、お父さんは酒飲み暴れるタイプで、お母さんはなんていうんですかね…放任というかほったらかしみたいな…?
だから楓子ちゃんにとって亜佐美ちゃんの存在って言うのはすごく大事なものだったみたいですよ」
 武彦から貰った資料にはそこまでの事は記載されていなかった。
まあ、簡単に調べただけでは出てこない家庭内の膿など世間にはいくらもであるだろうから不思議ではない。
「では、そのお二人と親しくしていたほかの生徒さんはご存知ありませんか?」
「親しくしていた…ああ、それなら!」
 と、店員が告げた名前は武彦が用意していた資料のリストにもあった名前だった。
それならば次に話を聞いてみるべきはその人物になる。京一は店員に簡単に礼を告げると、リストにある生徒の住所を確認して向かう事にした。



 生徒の自宅近くの路上で、京一はその生徒に声をかけた。女子生徒だったら警戒されただろうが、都合よく相手は男子生徒だった。
男子生徒は京一を不審がる様子もなく、近くの公園まで移動しベンチに腰を下ろして大きく息を吐いた。
「いつかは誰かが来るだろうなと思ってました。誰に頼まれたんですか?あ、探偵さんなら守秘義務がありますね」
 やたらとインテリぶった感じで喋る男子生徒ではあるが、京一は気にも止めず話を聞く。
「亜佐美が死んでから、楓子はおかしくなったんですよ。葬儀が終わってから、一言も口を利かなくなりました。
でもね、何も無い空中や壁に向かってずっと話しはじめたんですよ…相手はどうも亜佐美のような喋り方なんですけれど…
これは俺が思う事なんですけど、あの日、コンビニで待っててと言ったのは楓子だったみたいなんですよね。
だから責任を感じて思いつめて精神をやられちゃったんじゃないかと思うんです」
「きみはまるで精神科医にでもなったつもりのように言うね?」
「いえ、決してそういうわけでは…ただ、俺はそう思っただけです」
 親しい関係だったと言うわりには、軽々しく精神をやられたと発言する男子生徒に京一はいささか釈然としないものを感じる。
しかし、昨今の若い世代と言うものはそういうものなのだろう。
「それできみはなんとかしようとしたのかね?」
「しましたよ!毎日、楓子の家に言って声をかけたりしましたよ。でも全然駄目です。見えてないんですよ。
彼女の眼にはきっと亜佐美しか映ってないんですよ。それくらい仲が良かったですから、あの二人」
 もう諦め半分といった表情で男子生徒は溜め息をついた。
楓子の姉で依頼人である朝子も、どこか諦めていてどうにでもしてくれと言った雰囲気が垣間見える様子だった。
どうにも、楓子を取り巻く周囲の環境はあまり彼女にとって良いものではなかったのではないか…京一にはどこかそう思えた。
「アイツ…そんなに亜佐美がいいなら亜佐美のところにいけばいいのにって思いますよ」
 ぼそっと呟く男子生徒。
「そうですね…わたしもそう思いますよ」
 表情一つ変えず、さらっと言う京一に男子生徒は驚いた顔を向ける。
自分で言っておきながら何故そんな顔をするのか京一には理解できなかった。
「ではわたしも楓子さんのところへ行ってまいりますかね…」
「あ、あの…」
「生憎、わたしには霊能力も何もありませんから…出来る事をするだけですよ…」
 京一は男子生徒に小さく笑みを浮かべると、羽織っていたコートを翻してその場から去っていく。
なんともいえないその空気に、男子生徒は胸騒ぎを覚えたのだが…しかし、後を追うことはしなかった。



 それから一週間後の事。
京一は武彦から呼ばれ、草間興信所へと出向いていた。
用件はわかっている。何を聞かれるかも、だ。
案の定、京一が興信所の事務所に入り、ソファに腰を下ろすなり…武彦はその正面に座り小さな新聞記事を差し出した。
 そこには、一人の少女が車道に飛び出して自殺をしたという時期が載っていた。
その場所と言うのが、あのコンビニの前の道路。そして、自殺した少女と言うのが―――
「草間君、それで…依頼人はなんと仰ってたんですか?」
「不思議なものでね…やっと開放されたと晴れ晴れしい顔で昨日ここに訪れたよ」
「それは良かったですね」
「…しかしな、ひとつ聞いておきたい…彼女、楓子さんが自殺したのは…」
「自分の意思でしょう?彼女は亜佐美さんに会いたかった。唯一、自分の理解者で自分を守ってくれて、
自分を信頼してくれる存在であった親友の元に行きたかったんですよ…ただそれだけの事です」
 京一は零が運んできたお茶に手を伸ばし、静かな口調で言う。
武彦には調査報告として自分が行った事は全て書類として提出済みで、それ以上の事は何もしていない。
そう、ただ…楓子に会って、亜佐美に会いたいのなら彼女の元へ行けばいいと言っただけの事。
その勇気が無いのなら手伝ってあげようと言っただけの事。
「思いのほか楓子さんは勇気のある女性でしたね…いえ、それほど彼女は亜佐美さんに会いたかったのでしょう」
「ああ、確かにな…」
「草間君、最初に仰いましたね?依頼人の望むようになればそれでいい、と」
「わかっている…」
「大丈夫ですよ。きみに頼まれて仕事をしている以上、法律に触れるような事はしていませんからね」
 京一はお茶を飲み終わると、ゆっくりとした動作で立ち上がり武彦に一礼をする。
武彦は特にそれ以上は何も言わずに黙ったままで彼を見送った。
「どうして”死”に関ることになると深刻な顔になるんでしょうねえ…」
 興信所の外に出ると、コートのポケットに手を突っ込んだまま、京一は空を見上げた。
その彼の瞳は、まるでその空が移りこんでいるような透き通った青い色を称えていた。



†終†


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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<亜佐美>
【0086/シュライン・エマ/26歳/女性/翻訳家・幽霊作家+草間興信所事務員】
【2268/氷川・笑也(ひかわ・しょうや)/17歳/男性/高校生・能楽師】
【2381/久住・良平(くずみ・りょうへい)/16歳/男性/高校生】
<楓子>
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/25歳/男性/財閥後継者・調理師】
【2585/城田・京一(しろた・きょういち)/44歳/男性/医師】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度は「フレンズ」にご参加いただきましてありがとうございました。
ライターの安曇あずみです。今回は参加していただいた方皆様、別々の話となっております。
(プレイングのより氷川様と久住様は共通のお話とさせていただいております。)
ですので、全部で四種類の展開と結末という形のパラレル的なお話になりました。
集合型にしようかな、とも思ったのですが、皆様のプレイングを拝見していて、
これは個別でじっくり書きたい…と思いましたので個別で書かせていただきました。(^^;
 ですので誰かと一緒に事件解決!という展開でなくなってしまっていますが申し訳ありません。
共通して、最後は余韻という雰囲気を残して終えさせていただきました。
楽しんでいただけていたら幸いです。また宜しければ依頼のお手伝いをお願いしたく思います。
 この度はありがとうございました。<(_ _)>

>城田・京一様
 こんにちわ。初めましてのご参加どうもありがとうございました。
今回、城田様のプレイングのお陰で一度書いてみたかった展開のお話で執筆させていただく事ができました。
果たして城田様の思うような展開になっていると良いのですが。(^^;
初めてのご参加ですので、性格や喋り方等を上手く捉えられていないと思いますが申し訳ありません。
楽しんでいただけていたら幸いです。またお会いできるのを楽しみにしております。

:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>