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花見に行きましょう 2004
【前日】
場所取り
後に奉丈遮那も参加するという仕事先からの電話も入り、まずは見晴らしの良いところを取るべく調査隊と、目印を置くことに。
裕介の方には、何かモガモガ動く物体があった。ゆゆと嬉璃と一緒に歩いていく。
「木の根は弱いから気を付けてね」
とゆゆが促す。
「わかりますか?ゆゆさん」
「皆元気だよ♪特に元気なのはあの大きな『人』かな?」
裕介の質問にゆゆは、見頃の大きな桜を指さした。
「一緒にたのしみたいみたいだよ♪」
「なら決まりぢゃな」
「ええ」
裕介は、モガモガ動く物体を木に吊し、三人は去っていった。
「みなさんひどいですぅ〜」
謎の物体から顔を出したのは三下忠。若返っても相変わらず扱いはぞんざいである。
……此は避けられぬ宿命と言うものだろう。
――まぁ楽しくやりましょう
そんな桜の声が聞こえた気がする三下だった。
「楽しく……ですか……?」
はぁと蓑虫状態の三下はため息をついた。
【午前9時】
一番乗りは天薙姉妹だった。2人とも春を意識した桜の模様の着物である。
既に亜真知は和菓子の『桜餅』と『おはぎ』、洋菓子の『ドライフルーツのタルト』、『シフォンケーキ』を持ってきている。撫子は恵美と一緒に台所で一緒にお弁当を作る約束をしていた。2人揃って管理人室にて楽しくお料理している。
一方、千春とりすは、自分の台所で一緒に花見弁当を作っている。これだけいれば何とかなるだろうと男性陣は、お酒やジュースを現場まで持って行く事にした。現場には吊られている三下にゆゆが待っていた。
亜真知は嬉璃と一緒に饅頭うさぎと戯れている。
【午前10時】
2番目には相澤蓮が、箱いっぱいのお菓子とつまみ、ジュースと酒を積んだ車で登場する。車の方は後々取りに帰る方向にしているようだ。もし飲酒運転で捕まったら、又会社を首になりかねない(とある事件の冤罪で首になっている事は本人自体忘れているが本能で其れは避けているのだ)。匂いを嗅ぎ付けたのか、蓮の間の猫達がじーっと蓮を見ている。その数5匹かそれ以上
「欲しいのか?」
蓮が訊く
「にゃ〜」
ステレオ否、サラウンドで答える猫。
「待ってろよ」
と彼は、猫が食べるだろうと思われるつまみを上げた。猫は喜んで持って帰る。
「ありがとうの一言無しかよ!」
「にゃー」
「後に言われてもなぁ」
――ああ、猫ってそんな奴らばっかだなと頭をかく蓮だった。
丁度4人のお弁当が出来たらしい。その合図が管理人室と千春の部屋で聞こえた。
【午前11時】
男性陣が一通り揃ったところで、重い荷物などを桜並木公園まで運んでいる。お祭りになれている住民が多いし、かつ去年も花見をしているので楽なのだ。
茣蓙をひいて、重しを地面に刺した。と言うか、どう見ても投げナイフそのものに見える。蓮の間から天然剣客が適当な物を見つけてきたのだろう。
「準備の最中ですか?」
と、のんびりとした神父服の男と、少し春らしい洋服に身を包んだ美人がやってきた。
「先生、麗花さん」
裕介が駆け寄る。
「本日は楽しみましょう。ね、麗花さん」
「は、はい……」
どうも麗花の調子がおかしいようだが。このさい気にしない。
わいわい和やかなムードの中、荷物を運び、蓑虫三下をおろして、真ん中に4人が作ったお弁当。そして、既に席が決まっているような感じに皆が座った。時計回りで、恵美、遮那、嬉璃、裕介と麗花に似非猊下、らせん、りす、蓮、撫子、義明、茜、亜真知にエルハンドだった(あれ?三下は?)。
只遮那だけは本当に眠たそうである。
らせんの膝にはかわうそ?が座っている。其れを羨ましそうに見ているりす。
周りには、猫たちと草間興信所の赤猫・焔、饅頭うさぎが楽しく遊んでいる。
蓮としては、このメンバーはかなり最高だなと思っていたりする。ただ、一部妙な雰囲気があるのは否めなかった。それは、眼鏡の和服美人と常備ハリセンを持っている女子高生が何か真ん中の高校生を挟み、火花を散らしているのだ。おそらく三角関係なのだろうか?と思ってみたりする。
――花見の最中にどう発展するか見物だろう。
お酒やジュースが注がれ、裕介が簡単に話しをしてから、
「乾杯」
と、音頭をとって花見が始まった。
【正午】
女性陣が男性陣にお酌しており、裕介がダウン気味の遮那に変わって、色々手伝いをしている。ゆゆは、飲み物を貰ってから八分咲きで綺麗な桜並木を眺めて歩いている。
【正午2】蒲公英
弓槻蒲公英は女の子グループから追われていた。
その理由は彼女自身分からない。何故追われているのか。
「腹が立つわ!何とか言いなさいよ!」
「なんで、あんたなんかに!」
囲まれて、罵声を浴びせられる。
今まで我慢していたが、1人を押しのけ逃げ出した。
追いかけてくる女の子グループ
「なで、あの子にだけ、あの人構うの!」
「許せない!」
数は5人ほど。服は赤、青、黄、緑、ピンクとまるで戦隊ものである。蒲公英がそんなことを知るわけもないが。
必死に走って何とか逃げ出せた。というか、グループは有る地域から追うのを止めたようだ。
考えてみると、この地域は怪奇現象の噂が良く立つあやかし荘周辺だからだろう。安いと言う以外に、恐怖現象の噂が多いから其れを真に受けたのだろうか?
蒲公英もそう言う事は怖い。しかし必死に走ってきたので疲れて動けなかった。
大きな、アパートに近くの綺麗な桜並木。噂は違うと少し思う蒲公英。霊感がないから“何か”がいるとかは分からないが、意外にも落ち着く。しかし不安だけはぬぐえない
――…どうしよう…
彼女は思った。
そこで、数羽のうさぎが彼女を見ている。
――?うさぎさん?
首を傾げる蒲公英。うさぎの次に猫がいた。そして其処には見知った赤猫。
「猫さん。どうしたの?」
動物たちは彼女に近寄って懐いてくる。赤猫は彼女の服が破けないよう、上に上がろうと勧めている。
「どうしたの?猫さん」
うさぎも、こっちこっちと誘っていた。
悩む蒲公英。
「どうしたの?」
「どうされたんですか?茜さん」
元気な女の子の声と落ち着いた女の子の声がした。2人とも何か飲み物の入った籠を持っている。
蒲公英はビックリして、震えてしまう。
「あれ?この子どこかで?」
元気な女の子が言う。
「可愛い女の子ですね」
もう1人が言った。荷物を下ろし、近寄る。
「初めまして、私星月麗花と言います」
とても優しく蒲公英と同じ目線に合わせて彼女は自己紹介をした。
「私は長谷茜です」
茜も彼女に習うように自己紹介。
「わ、わたし…ゆ…弓槻…蒲公英です」
「可愛い名前♪」
麗花はたまらなくなって蒲公英を抱き寄せた。
「あ…」
更にビックリする蒲公英。焔が、なにかにゃーにゃー鳴いている。
「人見知り激しいみたいよ」
「あ、御免なさいね」
「い、いいえ……」
麗花は離れて謝るが蒲公英は首を振る。
「そうだ、一緒にお花見しませんか?」
「え?おはなみ?」
2人は頷く。
「で、でも……」
断りたいが……可愛いくお腹が鳴った。
赤面する蒲公英。
「決まりね」
「決まりですね」
2人はにっこり笑って彼女の手を引いた。
動物たちも喜んでいるかのように、3人の後を追いかける。
焔はいつの間にか蒲公英の頭に乗っかっていたのだった。
荷物は裕介が代わりに持ってくる形になった。
【午後A6】蒲公英
蒲公英は隅でじっとしていた。茜が色々お菓子やお弁当を持ってきてくれる。其れを、
「……ありがとう……」
しっかり、お礼を言う。
茜は何か彼女にはかなさと心の強さを感じていた。ただ、あやかし荘の住民に親しめるのか不安になってくる。
蒲公英はあまり人混みが好きではない。こういうお祭りもだ。
頭に乗っていた焔が悲しそうにしている。周りには猫とうさぎ。
――遊びたいの?
と、彼女は思った。
何せ、擦り寄ってくるしとても懐いているからだ。
「……遊びたいの?」
蒲公英が訊いた。意思疎通できるわけでもないが何となく思った。
動物たちは同意するかのように鳴く。
動物たちの仕草から、彼女は追いかけっこや近くにある遊戯施設で遊びたいと考えた。
気になって、茜を見てしまう。
「なかなかこの猫たち懐かないのよ。蓮の間と言うところに集まる人でも僅かだから」
「……そうなんですか……」
「遊んで欲しいそうだから、お姉さんの事気にしないでいいよ」
茜は蒲公英の頭を撫でて優しく言った。
「……あ、ありがとうございます」
初めて蒲公英は笑った。それは何故か自分でも分からなかった。
【午後B3】|Д゚;) ←一生の不覚
蒲公英と動物たちは楽しく遊んでいる。お姉さん気分で彼女を見ている茜。
本当に彼女は楽しそうに猫とうさぎたちと遊んでいた。
「何故、内気なのかな?」
何か引っかかっている茜。
「過去の辛い思い出を持っているのかな?」
と色々考えてしまうところ、お節介焼きの現れか。
そんなことは分からず、蒲公英は
「うさぎさん……と猫さん……不思議です。喧嘩しないなんて」
そう、猫同士はじゃれ合うこともあって蒲公英を楽しませるのだが、うさぎは猫と何か世間話して笑っている感じで接している。鼻をひくひくするうさぎたちを優しく撫でて笑う蒲公英。
おそらく、誰が見ても彼女ははかなさを感じさせるであろう。
ひょっこり、小麦色の生物が蒲公英の前に現れた。かわうそ?だ。
「……かわうそさんですか?初めまして」
蒲公英が挨拶する。
「きゅー」
かわうそ?はゆっくり近寄り、猫のように身体をすり寄せた。
「可愛い……」
彼女はかわうそ?を撫でる。
「でも……川にいるはず……どうしてかな?」
少し疑問に思った蒲公英が、ふと口にした。
「かわうそ?だから」
かわうそ?は返答した。
「え?」
蒲公英の思考が止まった。
――あり得ない。動物が喋るなんて……インコさんや九官鳥さんなら……わかる。
茜はこの異常を感じダッシュで彼女の元に駆け寄る。
同時に蒲公英は人形のように倒れた。
何とか焔と、かわうそ?が支える。
「こら、かわうそ? 非常識すぎるにゃ!」
「あうーそんなはずじゃない」
と、焔とかわうそ?が動物語で話ている。
「こらー!ナマモノ!何をしたの!」
「何もしてない!いやー!」
心地よいハリセンの音と共に、小麦色のボールが空高く舞い上がった。
茜は蒲公英を抱っこし、エルハンドの方に向かっていった。
【お開き】
皆で一緒に片付けて、後はあやかし荘で二次会をするという方向になった。しっかりゴミは分別し、綺麗にしている。
蓮は何とか戻って来られたので、又二次会に参加するそうだ。
裕介は、ピクリとも動かない似非猊下を担いで、麗花と共に帰るという。
「お疲れ様でした〜」
と、皆があやかし荘で挨拶してから、各自の行動に移ったのだった。
【閉幕4】蒲公英の夢。エルハンドの優しさ
――夢を見ている。
とーさまと一緒に散歩。いつも我慢していた我が儘を言えて、何故か気分が良い。
本当、とーさま……本当のとーさまなのかな?
でも……甘えられるって、幸せ……。
あれ?
とーさま……どこ?
いつの間にかはぐれちゃった……。
どうしよう……
あ、人がいる……。銀の髪の……男の人……?
なにか、とーさまの優しさがそのまま感じられる男の人……
あなた、誰ですか?
蓮の間は修羅場となっているので、管理人室にエルハンドが彼女を抱えていた。
「不思議な子だな」
剣客は思った。
蒲公英の雰囲気が神秘的である。過去視をすれば、何があったか分かるだろう。しかし神は其れをしなかった。其れは野暮と言うものだ。
花見の時も独りでいた。人が怖いのだろう。しかし、極普通の動物の懐き様は目を見張る。
「……とーさま……」
寝言か?とエルハンドは思った。
蒲公英は目を覚ますと、見知らぬ外人に抱えられているので直ぐに硬直する。
「驚かしたかな?大丈夫かい?」
エルハンドは優しく訊いた。
暫くして、首を振る蒲公英。
「……私はエルハンド・ダークライツというあやかし荘に住んでいる者だ」
厳しい口調なので、少し怖がっていることがわかる。しかし此は地だから仕方ないと剣客は思った。
しかし、蒲公英は彼の温かさを不思議に心地よいと思った。
「……わたくし……蒲公英。弓槻蒲公英ですえるはんどさま……」
「良い名前だね、立てるかい?」
コクリと頷く蒲公英。
――たしか、奇妙な喋るかわうそを見て……ずっとわたくしを看ていて下さったのでしょうか?
そんな疑問がよぎるし、更には、“とーさま”の感じがして抱きかかえられて居た時がとても心地よかった。
「こんな時間になってしまったな……」
時刻はもう8時。
「とーさま……お仕事して……」
「そうか……どうする。友達などは?」
首を振る蒲公英。
流石に見ず知らずの男が彼女の家まで送り届けるのは無理がある。さてどうしたものか?
「とーさまにでんわしたいです」
「そうか」
電話を借りて、蒲公英は“とーさま”の家にあやかし荘で泊まると伝え、最後に
「ごめんなさい」
と言った。
「良いのか?父親に怒られるぞ?」
「お留守番電話……」
「そうか、管理人さんに伝えなくてはな」
さてどうしようか悩む剣客。
「エルハンドさま…」
「なんだい?」
“とーさま”にあまり迷惑をかけられないため我慢していたが、何故かこの人には甘えられそうな気がした。
思わず、
「エルハンドさま……暖かい……です。抱っこ……してくれませんか」
自分でも驚く。気が付いたら顔を真っ赤にしている自分が居る。
「いいよ」
と、剣客は彼女を優しく抱っこした。
「さて、泊まるのは良いが……今私の部屋は凄いことになっているだろうな」
苦笑しているエルハンド。
其れに吊られて笑っている蒲公英だった。
皆があやかし荘で色々やっている時、ゆゆは桜並木公園にいた。
彼女は、桜たちに、
「又来年ね♪」
と、言って自分の本体に戻っていった。
――来年もまたね。
桜たちも彼女に答えて、また花を咲かし、散らせ、眠りにつく。
End
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0170 大曽根・千春 17 女 高校生】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生】
【0428 鈴代・ゆゆ 10 女 鈴蘭の精】
【0506 奉丈・遮那 17 男 高校生・占い師】
【1098 田中・祐介 18 男 高校生兼何でも屋】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【1992 弓槻・蒲公英 7 女 小学生】
【2066 銀野・らせん 16 女 高校生(/ドリルガール)】
【2295 相澤・蓮 29 男 しがないサラリーマン】
【2821 縞・りす 15 女 高校生(神の使徒)】
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■ ライター通信 ■
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滝照です
『花見に行きましょう』に参加して頂きありがとうございます。
予定では、1ヶ月後になるはずだったのですが、筆のすすみが一瞬早くなったため、こうして、お花見シーズンにお届けできたことにホッとしております。
色々な方の花見風景が有りますので、是非そちらもご覧下さい。
弓槻蒲公英さま、相澤蓮さま初参加ありがとうございます。
又の機会が有ればお会いしましょう。
滝照直樹拝
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