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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:江戸ばとるっ!
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

「ふわぁ‥‥」
 大あくび。
 通りを歩きながら。
 腰に差した二振りの刀が、彼の身分を間接的に示している。
 北町奉行所同心、草間武彦。
 いわゆる八丁堀の一人である。
 街周りの最中なのだが、弛緩しきった表情がモチベーションの低さの証拠だった。
「眠そうだな。武彦」
 不意に後方からかかる声。
 振り返った先に立っていたのは、草間とたいして変わらぬいでたちの同心であるが、女だった。
 女サムライだ。
「こ、これは新山さま」
 草間があわてて礼をする。
 この行動で判る通り、身分に差がある。
 北町奉行所与力の新山綾。ようするに草間のずっと上司にあたる。
 へこへこと卑屈になるのは、まあ、平同心としては当然のことであろう。
「今日はどのような御用向きで?」
 なんだか揉み手までしてる。
 あまりにもさもしい姿だった。
「番所に顔を出そうと思ってな。武彦。お前も付き合え」
「へへぇっ! 喜んでっ」
 歩き出す綾と、忠犬のように付いて行く草間。
 が、二人の前に、
「てぇへんだ! てぇへんだっ!!」
 なんだかちいさな影が飛び出す。
 そして、えらく景気のいい音を立てて、綾と衝突した。
 もつれ合って倒れる女サムライと突っ込んできた者。
「絵梨佳‥‥だんどりちがってる‥‥」
 後ろの方で草間が頭を抱えていた。

「いたたた‥‥いったいどうしたのだ? 絵梨佳」
 気を取り直して、綾が訊ねる。
 ひっくり返っているのは、岡っ引きの絵梨佳である。
「てぇへんなんですよぅ‥‥」
「大変なのはもう判った。なにがあった?」
「じつは‥‥」
 説明をはじめる。
 昨夜、大店である上州屋の主人が変死したのだ。
 丁稚とともに寄り合いから帰宅するとき、突然たおれたのだという。
 その奉公人は、不気味なうなり声が聞こえたと証言している。
「まるで妖怪変化の仕業のようだな」
 下顎に手を当てる与力。
「へっ。妖怪なんかいやしませんて」
 草間が反論した。
「そうか。では武彦が担当しろ。この一件」
「あっしですかい?」
 ぽりぽりと頭を掻く同心。
 春風が、そよそよとそよいでいた。











※パラレル時代劇です。
「わいるどわいるどうえすと」の流れです。
 八丁堀、浪人、忍者、なんでもおっけーです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。

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江戸ばとるっ!

 同心と岡っ引きが通りを歩く。
「つまりあれだ。現場百回っていって、事件があった場所に百回いくと幽霊が出るんだ」
「なるほど。それでその幽霊に話を聞くってことでやんすね?」
「おうよ。完璧な計画だろう?」
「さすがは草間の旦那。頭の冴えが違いやすねっ」
 馬鹿な会話をしながら。
 ボケが二人。
 一ボケを草間武彦、二ボケを絵梨佳という。
 ツッコミ役がいないので、話はどんどん馬鹿な方向へ進んでゆく。
「俺の推理では、下手人はあれだな。ぬらりひょんだな」
「おおっ! そいつは大物っすねっ!」
「妖怪帝国を作る第一歩として上州屋を襲ったんだ」
「すると第二撃は、幼稚園バスをバスジャックですかい?」
「ま、そんなところだな」
 ついに時代考証まで無視しはじめた。
「いい加減にしなさいな」
 ぺちぺち。
 横から会話に割り込む女の声。
 軽く叩かれる二人の頭。
「おおぅ。シュラインじゃねーか」
 ぽっと染まる草間の顔。
「天下の往来で馬鹿な話をするもんじゃありませんよ。武彦さまも絵梨佳さんも」
 妖艶な笑みを浮かべる女。
 シュラインという。
 芸妓たちに小唄などを教えるお師匠である。
 ついでに、草間の思い人であったりもする。
「みんな遠巻きにみてますよぅ?」
 にょきっとシュラインの後ろから生えた少女がいった。
「お。みなもじゃねぃか。息災かい?」
「はい絵梨佳親分。おかげさまで」
 礼儀正しく頭をさげるみなも。
 いろいろ事情があって、シュラインが可愛がっている娘である。
「上州屋さんのことを調べてなさるんですか?」
「まあな。横暴な上司に押しつけられたからな」
 文句たらたらの草間。
「横暴なのはてめーのほうだろが」
 いきなり背後からかかる声。
 どかっと蹴り飛ばされる同心の尻。
「いってー!」
 振り返った草間の瞳に映ったのは、袢纏を鯔背に着流した若い男だ。
「灰慈てめ〜〜」
「新山さまの悪口を言うんじゃねぇ」
 苦情もどこ吹く風。きっぱりはっきり言い切る。
 飾り職人をやっている灰慈という。
 草間がシュラインに惚れているのと同様、この粋な若者は北町奉行所与力の新山綾にホの字だったりする。
 まあ、けっこう身分違いではあるが、恋に垣根はないという言葉もあることだ。
「恋は男を狂わせるものですねぇ」
「なにをえらそーに」
 訳知り顔を頷いているみなもに、背後からツッコミが入る。
 神田明神に仕えている見習い神主。
 月斗という。
 寺でいうと小坊主だ。年齢は一二。みなもよりも幼いのである。
「月斗ちゃんに言われたくないようなきがきます」
「ちゃんをつけるなっ」
「まあまあ」
 険悪になりかけた雰囲気を、絵梨佳が収拾しようとする。
 かりかり。
 十手で地面に線を引いて。
 みなもや月斗が居る側と、草間、シュライン、灰慈が居る側に分ける。
 怪訝な顔をする一同。
 よいしょ、と、絵梨佳がシュライン側に入った。
「なにやってるの?」
「大人と子供の境界線でやんす」
 しれっと応える。
「絵梨佳親分は子供だと思うけどな。俺は」
 灰慈が言った。
 もっともである。
 しかし、
「ち、ち、ち」
 と、十手を振る絵梨佳。
「歳の事じゃないでやんすよ」
「じゃあなんだよ?」
 むっとして、月斗が訊ねる。
 割と当然の反応だが、彼はまだ絵梨佳の怖ろしさを判っていない。
 にへっと岡っ引きが笑った。
「つまりこの線は、経験のあるなしでやんす」
「経験?」
「もちろん男と女の‥‥」
「それ以上いっちゃダメだーっ!!」
 上から落ちてくる声と影。
「もがもがー」
 そして絵梨佳の口を塞ぐ。
「北斗じゃない。ひさしぶりね」
「どうも。シュライン姐さん」
「もがーもがー」
「行方知れずのお兄さんの手掛かり、見つかった?」
「いやぁ。それがさっぱりでさぁ」
「もがーもがー」
「和むのまも良いんですけどー 絵梨佳親分が窒息しかかってますよー?」
 みなもが指摘した。
「おおっ!?」
 慌てて手を放す北斗。
「死ぬかと思ったでやんす〜〜」
「それがいっそ平和のためだったんじゃないか?」
 じとっと見つめる月斗だった。
 こうして、なんだかよく判らないうちに調査チームが結成された。
 同心の草間、唄の師匠のシュライン、かんざし屋の灰慈、忍者の北斗、岡っ引きの絵梨佳、町娘のみなも、見習い神子の月斗。
 平均年齢一九歳。
「若いことはいいことだな。うん」
 そう語ったのは唯一の三十路、草間である。


 上州屋は、倒れたときひとりではなかった。
 丁稚奉公の佐吉が一緒だったのだ。
 役目としては、まあ、提灯もちである。
 不気味なうなり声を聞いた、と、証言したのは、この佐吉である。
 大番所は、もちろん独自の調査をおこなった。
 佐吉を疑う声もあった。
 第一発見者でもあるのだから当然のことである。
 だが結局、佐吉には動機がない。
 上州屋を殺したところで、佐吉には一銭の利益もないのだ。
 主人の提灯もちまでしていたとなると、関係は良好であったと考えるべきで、怨恨のラインはちょっと浮かばない。
「妖怪の仕業だと、武彦さまはお思いですか?」
 シュラインがやんわりと訊ねる。
 いつもながら、聞いているだけでとろけそうな声だ。
 にへらーっと弛みかかる顔を一生懸命に引き締め、
「丁稚以上に動機がねぇやな。妖怪には」
 草間が応えた。
 婉曲的な言い方だが、仲間たちは正確に意味を察した。
 妖怪変化とやらが人間を害する理由はない。あるいは、あったとしても上州屋だけに的を絞る理由がない。殺されるなら佐吉も一緒に殺されるだろう。
「普通に考えると商売敵とか、そのあたりが怪しいやな」
 灰慈が言う。
 動機があるという点では、たしかにその通りだ。
 上州屋は大店であり、当然、ライバルは多い。
 その死を願う人間だって少なくないはずである。
「だけどよ。殺してまでってのもあるぜ?」
 もぐもぐと握り飯を食べながら、北斗が指摘する。
 ちなみに、せっせと少年忍者にエサを与えているのはみなもである。
 屋根から落ちてくるくらい飢えているので、エネルギーを補給してやらないことにはモノの役にたたない。
 まあ、餌付けのようなものだ。
「お手」
「わん」
「アホか」
 呆れ顔の月斗。
 至極当然の反応だ。
 最年少の月斗ひとりが、真面目に、かつ真剣に、遺体の検分をおこなっていたのである。
 大人たちは茶をすすったり、飯を食ったりしているのに。
 油断なく遺体を調べる視線が哀しかった。
 一生懸命に死因を調べる姿が虚しかった。
「あんまり真面目にやってると疲れるぞぅ?」
 ぼりぼりと煎餅などを補食しながら、かんざし屋が言った。
「仕事とは真面目にやるものだ」
 月斗が応える。
 正論である。
 これ以上ないってくらい、正論であるのだが、
「みなも。おみやにあと五個くらい握ってくれ」
「食べた分は働かないとだめですよぅ?」
「タイタニック号に乗ったつもりで、任せとけっ」
「それ、全然安心できません‥‥」
 食欲魔神とエサ係には、まったく通じていなかった。
「ついでに時代考証が滅茶苦茶よ。いまさらのことじゃないけど」
 ごく軽くシュラインが突っ込んだが、その顔には諦めの色が濃い。
「で、真面目な神子にはなんか判ったのかぃ?」
 言いながら土間に降りる灰慈。
 どうでもいいが、大番所はすっかり彼らの支配下に置かれてしまっている。飯は食われるわ菓子は食われるわ茶は飲まれるわ。
 まあ、租税で運営されているのだから、還元したと思えば良いのだろうか。
「ここを見ろ。かんざし屋」
 ちらりと視線で指し示す月斗。
 死体の右肩のあたりに、ごく小さな赤紫の斑点がある。
「打ち身‥‥にしては小せぇな」
「ああ。死斑の色ともちょっと違うだろ?」
「なぁる‥‥」
 下顎に手を当てる灰慈。
 どうも胡散臭いことになってきた。
「おい北斗。お前ならなんか判るんじゃないのか?」
 呼びつける。
 飽食した忍者が、のしのしとやってきた。
「ちゃんと調べないとなんとも言えないけど、毒だと思う」
 一瞥しただけで告げる。
 たとえ食欲魔獣でもスチャラカ忍者でも、北斗はニンジャボーイなのである。ちゃんと修行だってうけてる。
 毒物などに関してはそれなりの知識がある。
 薬草を採りに行ってくるように頼まれたのに、松ぼっくりを拾ってくるみなもとは違うのだ。
「関係ないでしょっ!」
 明後日の方向に怒鳴るみなも。
 ちなみに、松の実は酒のツマミである。
「ようするに上州屋さんは毒殺されたってことかしら」
 小首をかしげるシュライン。
 青い瞳に沈毅な光が宿る。
 毒殺ということは、もちろん妖怪の仕業ではなく人間の所行だ。
 つまり、欲得や愛憎が絡んでいる、ということである。
「ある意味、厄介かもしれないわね」
 ぽつりと呟く。
 どこかの秘境巡りでは案内人が行程の終了に言うらしい。
「皆々様を、これから最も怖ろしい場所へと案内いたしやす。さあどうぞ。人の世です」と。
 人間が、一番怖ろしいのだ。
 食うわけでもないのに他の命を奪うのは、人間だけだ。
 それに比較したら、妖怪だって動物だってずっと健全でおとなしい。
 だからこそ、人間は世界の覇者となったのだ。
 曖昧な笑みを、みなもが浮かべた。
 彼女は、人の強さも愚かさも知っている。
 ぽむ、と、少女の頭に北斗が手を置いた。
 ぐしぐし掻き回す。
「もぅっ。なんですかぁ?」
 抗議するみなも。少年の不器用な配慮に感謝しながら。


「第一発見者を疑え。結局、たいして面白くもない結論だな」
 灰慈がいう。
 佐吉は、怪しいうなり声を聞いたと証言した。
 その証言が発端で妖怪変化の仕業という方向に話が進んだのだが、毒殺ということであればそれもちょっとおかしい。
 偽証という可能性がある。
 何のためにか。
「操作を間違った方向に進めるため」
 つまらなそうに月斗が断じる。
 ただし、どうして佐吉が上州屋を殺さなくてはならないのか。
 その動機がまだ判らない。
「佐吉さんをきちんと調べる必要があるかもね。一度呼び出すか訪ねるか‥‥」
「てぇへんだ! てぇへんだっ!!」
 計画を立てているシュラインを遮って、絵梨佳が大番所に飛び込んできた。
 相変わらず騒がしい娘だ。
「佐吉が‥‥殺されたっ!」
 報告は一同の意表をついた。
 驚愕が番所のなかを躍りまわる。
「‥‥こいつは‥‥」
 灰慈がうめき、
「消されたな‥‥」
 月斗が続いた。
「くっ」
 悔しそうに舌打ちする草間。
 追求の方法がなくなってしまった。
 このまま迷宮入りしてしまうのか‥‥。
「いや。そーでもないぜ」
 にやりと、北斗が不敵に笑った。


  エピローグ

 夜。
 白磁の月が大通りを照らす。
 音もなく走る影たち。
 頭巾で顔を隠し、黒装束をまとい。
 深夜の江戸を駆けてゆく。
 と、その足並みが止まった。
 前方に障害物があったからだ。
 物‥‥ではない。
 立ち塞がる、一人の男。
「次は、越前屋でも狙うつもりかい?」
 紡がれる声。
 草間ものであった。
 覆面たちが色めき立つ。言い当てられたから。
 さっと抜刀する男たち。
 相手はたかだか八丁堀が一人。斬り破ることなど造作もないだろう。
「やめとけよ」
「勝ち目ねーぜ」
 草間の背後から現れる、月斗と灰慈。
「もうネタはあがってるんだよ」
「年貢の治め時です」
 北斗とみなもの声は、男たちの背後から響いた。
 振り向いた先にはシュラインを含めた3人の姿。
 蒼い目の美女の手が、さっとあがった。
 同時に現れる無数の御用提灯。取方のなかには絵梨佳の姿もある。
 風魔忍者の流れを汲む集団。
 それが、今回の事件の黒幕だ。
 不可解な事件を次々と起こし、江戸の町を混乱に陥れる。
 そして、かつての飼い主である北条家の権勢を復活させる。
「過ぎ去りし夢を見るのは自由だが、人の命を奪って良いってことにはならねぇぜ」
 短い格闘の後、引き立てる男たちを眺めながら、灰慈が呟いた。
 だいぶ暖かくなった夜風が、ゆっくりと髪をなでていた。














                       おわり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0568/ 守崎・北斗    /男  / 17 / ぷーの忍者
  (もりさき・ほくと)
0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 唄の師匠
  (しゅらいん・えま)
1252/ 海原・みなも   /女  / 13 / 町娘
  (うなばら・みなも)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / かんざし屋
  (かんなぎ・はいじ)
0778/ 御崎・月斗    /男  / 12 / みならい神主
  (みさき・つきと)

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■         ライター通信          ■
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おまたせいたしました。
「江戸ばとる」お届けいたします。
西部劇、時代劇ときましたから、つぎは何にしましょう。
‥‥すぺーすおぺら?
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。



☆お詫びとお知らせ☆

4月12日、19日、26日の新作アップは、著者、私事都合によりおやすみいたします。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
代わりといっては何ですが、今月はシチュエーションノベル系をずっと開けておきますので、よろしければご利用ください。