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合コンをしよう!
神聖都学園・交流研究同好会――またの名をコンパ同好会。
このたびこの同好会が主催となって、外部参加者OKの合コンを開催することとなった。
の、だが。
……これ、合コンのはずですよね?
ええそのはずなんですが。
しかし微妙にその目的とずれた感じの人物が約一名。
他の者たちに比べるとえらく早いペースで酒と食べ物を消費している鬼頭郡司。
一人でしっかり肉を抱えこみ、
「おーい、オヤジ。店にある酒全部持ってきやがれ!」
なんともまあ豪快な注文をする。
「……予算、大丈夫か?」
今回の面子の中でも飛び抜けて綺麗な顔立ちをしている青年、朔夜・ラインフォードが半ば茫然と呟いた。彼の目的は彼女を作るというよりもむしろカップル未満をたきつけからかい苛めて遊ぶことであったのだが。
誰のせいだか知らないが、とてもとても、カップルができそうな雰囲気にはなっていなかった。
朔夜のお隣に座っているのは二宮エリカ。ハーフであることも手伝ってか、華やかな容貌を持つ少女だ。が、どうも性格は華やかとは逆方面に向いているらしい。
少しばかり緊張した面持ちで、朔夜の呟きに言葉を返した。
「う、うーん。……どうなんでしょう」
言いつつ、心の中では大丈夫なはずないでしょう、なんて思ってみたり。普通合コンって食べることよりむしろお喋りを目的にするものではないだろうか?
実際エリカも本日の目的はむしろそっちが本題。そりゃあ初めて会う人とはちょっとドキドキするけれど、そんなドキドキも楽しめたらいいな、なんて思っていたのに。
「わたくしは飲食いたしませんから、その分予算は浮きますし……」
店の用事で学園を訪れた鹿沼・デルフェス。ちょうど居合わせた合コン面子からの誘いを受けて、そのまま合コン参加することになったのだ。
ミスリルゴーレムである彼女、確かに飲食はしない。
だが。
「……明らかに、女性一人分の飲食量を数倍は上回っていると思いますわ」
ぱくぱくと食べ続ける郡司の様子を眺めつつ溜息をついたのは、桜柄の振袖が鮮やかな、日本人形と見紛う程に幻想的な雰囲気を持つ美少女――榊船亜真知だ。
「まあまあ。まず楽しむことが第一だ!」
大学部受かったのも卒業できたのも怪奇現象だと自認する学園卒業生、雪ノ下正風がビールジョッキを左手にカンパイの仕草を見せる。
……そういえば、まだカンパイもしていなかった。
郡司の勢いに押されてすっかり忘れていたのだ。
「ほい、ちょーっとストップ」
さっと朔夜が郡司の前の食料を退避させた。
「ああっ? なにすんだよ、俺の肉!」
不満を露にした郡司に、すかさずデルフェスがにこっと笑いかける。
「せっかくみんなで来たんですもの。一緒に乾杯いたしましょう?」
「よし、全員グラスを持ったな?」
正風が確認を取ると、皆はグラス片手に返事を返す。
が。
「あれ?」
……確かグラスは人数分しか貰ってないはず。
なのに、テーブルの上にはグラスがまだ一個残っていた。
「間違えて置いて行ったんでしょうか?」
グラスなんてもともと入れ替わりの激しいものだし、エリカの意見ももっともだ。
だが。よくよく数えてみるとグラスだけではない、お箸にお皿におしぼりに……全てが人数分より一つ多いのだ。
「あの、一つ多くないですか?」
「え?」
会場となっている飲食店の店員に声をかけて聞いてみると、逆に不思議そうな顔をされてしまった。
と、その時。
「……お騒がせしてすみません……それ、たぶん、私です…」
突如聞こえた声に、集まった面子が一瞬ざわめく。
気付けばいつの間にやら、全く知らない顔がそこに混じっていた。
腰まで伸ばされた艶やかな漆黒のストレートと、黒曜石を思わせる黒い瞳が印象的だ。それに肌も白い。……かなり美人なお嬢さんである。
が。
向こう側が透けている。
明らかに、幽霊と言うヤツだ。
怪奇現象の多い学園ではあったが、学園外でも怪奇現象に出会ってしまうとは……。
「あんまり楽しそうだったものだから、つい……。私も、お仲間に入れてください」
にっこりと微笑む様(さま)はまるで小さな撫子の花のよう。
「まあ、いいんじゃないの?」
言い出したのは誰だったろう。
そうして、幽霊を加えた合コンが始まった。
――幽霊も参加してるのっ!?
エリカがまず思ったこと……それは、この一言に尽きる。
昔から霊視能力を持ち、だが視えるだけのエリカは超常現象の類いを苦手としていた。
ならば何故この神聖都学園の合コンに参加したのかと言えば。
…………無知とは、恐ろしいものだ……。
チラと、彼女を見る。目を合わさないように気をつけて。……何度見ても、きっちり透けている。
日本の学校と言うのはそういうものなのだろうか?
ぐるぐるぐるぐる頭の中で考えて、慌ててその思考を振り払う。
本人も幽霊である自分を気にしているかもしれないし、それにもし彼女が成仏を望んでいても、エリカには何もできないのだ。
「あんたは?」
「えっ?」
いきなり声をかけられてハッと我に返る――と、何故かいつの間にやら注目を浴びていた。
「名前だよ、名前」
どちらかといえばせっかちな方である郡司が、急かすように付け足した。
「あ、はい。二宮エリカと言います。よろしくお願いします」
慌てて答え、軽く頭を下げて……ふと。
妙なものが目に止まった気がした。
一.雪ノ下正風さんの後ろに、女性が一人。
二.朔夜・ラインフォードさんに狐の耳と尻尾。
三.鬼頭郡司さんの頭に角。
「…………」
酔ってしまったのだろうか。
いやいや、まだそう飲んではいないっていうか、酒は全然飲んでない。
くらり。
倒れかけたところを朔夜が受けとめてくれた。
「大丈夫?」
「あああ、はいっ、はい、大丈夫です」
ぱっと離れて改めて見る。
……ああ、見間違いじゃない……。
「なあ、さっきから何チラチラ見てやがんだ?」
郡司が怪訝そうに言って、次の瞬間はっと肉の皿を抱えこんだ。
「言っとくけど肉はやらねえからな」
「あ、いえ。そうではなくて……」
チラと、郡司の頭に視線を向ける。
エリカの視線を追いかけた郡司は、エリカが何を見ているかに気付いたらしい。
「あ、おまえコレ見えんのか?」
こくこくと頷くと、郡司は少しばかり考えこむような様子を見せた。
「人間、だよな……? 普通は見えねえハズなんだけど。ま、いいや。細けぇこた気にすんなって」
気にしますよおおおぉっ!
声には出さずに心の中でだけ思って曖昧に笑う。こういうところ、地味――引っ込み思案な性格は損だと思う。もう少しはっきり言えたら良いのに……。
と、なんと郡司は、今度は幽霊の少女まで呼び始めた。女の子は女の子同士とでも思ったらしい。
はっきり言ってかなり迷惑。
「……あの」
けれどまさか本人……本幽霊? を前にそんなこと言えるわけがない。
「どうした――……わっ、なんだよ泣くなよ?」
パッと見はガサツに見えるが、別に悪いやつではないらしい。思わず泣き出してしまったエリカを前におろおろとする。
横からなにか他の人の声が聞こえていたけど、意味までは頭に入ってこなかった。
「ったく、しゃーねぇなあ。ホラ、手ぇ繋いでてやっから」
……悪くて本人には言えないけれど、幽霊だけでなく、郡司さん、貴方も原因なんですが……。
「手、とかそう言う問題じゃ……ない…」
けれどちょっとは落ちつけて、涙もぴたりと止まってくれた。
「肉も一口なら食って良いぞ?」
「……肉で懐柔されるような食いしん坊じゃありません。それに、手を離してくれなきゃ食べられないじゃない」
まるで子供を相手にしているような気分になって、クスクスと笑みが零れる。
人外ばかりの合コンだけれど、案外楽しく過ごせた模様。
どうせ視える体質は変わらないのだ。これをきっかけに超常現象に慣れられれば……と多少思ったりもしたが、やっぱり世の中そうそう簡単ではない。
始終親切かつ優しかった朔夜や、もろにオコサマな郡司を怖がろうと言う気は起こらなかったものの、だが、それで他の超常現象への苦手意識が消えたかというと。
決して、そういうことにはならなかったのであった。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
1593|榊船亜真知 |女|999|超高位次元知的生命体……神さま!?
1838|鬼頭郡司 |男|15|高校生・雷鬼
2857|二宮エリカ |女|17|女子高生
0391|雪ノ下正風 |男|22|オカルト作家
2181|鹿沼・デルフェス |女|463|アンティークショップ・レンの店員
2109|朔夜・ラインフォード|男|19|大学生・雑誌モデル
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ライター通信
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はじめまして、こんばんわ、いつもお世話になっております。
日向 葵でございます。
同じ会場にいるはずなのですが、なんだか見事に二手にわかれました(笑)
でもまあ、結構こんなもんですよね。人数がいると、会話はだいたい複数グループにわかれちゃいますよね?
多分私にとっては初。前半同一文章、後半個別文章となっております。
ちなみにいつもは逆。
慣れない書き方をしてしまって、楽しんでいただけるかドキドキです(^^;
それでは今回はこの辺で。
……個別通信書く余裕がありませんでした、ごめんなさい。
また会う機会がありましたら、その時はどうぞヨロシクお願いします。
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