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<東京怪談・PCゲームノベル>


草間興信所・お花見費用を探し出せ!

1.
「まーまーまー。たまにはお日さんの顔見な『もやし』になってしまうで?」
嫌がる草間武彦の背中を押し、ずんずんと入り口まで強制連行。
その後カチャリと鍵を閉め、井上麻樹(いのうえまき)は草間興信所から所長を見事に追い出した。
・・外ではドアをドンドンと叩きながら「開けろ!井上〜!!」と叫ぶ声が聞こえるが・・。
「お兄さん・・」
心配げな瞳で入り口のドアを見つめる零の姿に、麻樹は「草間さんも大人やからダイジョーブやて」と軽くそう言った。
「・・そ、それではよろしくお願いします」
その強引さと外でわめく兄に少々戸惑いながらも、零は深々と麻樹に頭を下げた。
「こんなめっさおもろそうな事に呼んでもろたんだから、そない仰々しくせんでええんよ♪」
ニコニコと笑う麻樹に一抹の不安を感じながら、零は再度深々と頭を下げた。
「何かあったら奥にいますので呼んでくださいね」
「わかった。見つかること祈っといてや♪」
笑顔の麻樹につられ、零も微笑んだ。
「では、がんばってくださいね」
そういうと、零は奥の部屋へと消えていった。

「さぁ、やったるで〜! 家捜し開始や!!」

麻樹は異様なハイテンションでそう高らかに宣言し、気合を入れたのだった・・・。


2.
「まーずーはー定番やけど、水着のお姉ちゃんのポスター裏からいくか」
今日ここに来た当初から色々と目を配り、麻樹はあらかじめ目をつけた場所をいくつか思い出していた。
1番最初に入った瞬間に嫌でも目に付くビキニの女性のポスターへと麻樹は近寄った。
両面テープで貼られているらしいそれを破けないように少々気を使いつつ剥がす。
ポスターの下からはヤニに汚れていない限りなく白に近い壁が現れた。
それ以外のものが貼り付けられている様子はない。
「・・・ないか。ま、そない簡単に見つかってもおもろないしな」
麻樹はそう呟き、ポスターを元へと戻した。
きっちりと壁の変色の境目を見えないように麻樹は小器用にポスターを元に戻した。

さて、次はどこさがそかな?

少し悩んだ後、麻樹はボスっと草間の机の椅子へと腰掛けた。

オーソドックスに机の引き出し。
でも、引き出しの中やなくて開けた天井に張り付けてあったりとかするねん、ああいう人は。
草間さん、真面目に見えて案外お茶目やからなぁ。

一番上の引き出しに手をかけた麻樹は、その引き出しに鍵がかかっていることに気がついた。
「あかへん・・」
むぅっと考え込んだ麻樹は、おもむろに次の引き出しを開け中身を物色し始めた。
お茶目な草間のことだから、鍵を持ち歩いたりはしないだろう。
ならば鍵穴から1番近くに置いておくのが使い勝手もいいし、人に気取られにくいだろう。
そう思った麻樹はがさがさと引き出しの中をかき回す。
もともと乱雑に物が入っているため、何がどう入っているかよく分からない。
元に戻すのは不可能に近いだろう・・と麻樹は思った。

と、光るものが麻樹の目に映った。
「・・ビンゴや!!」
そこには銀色に光る小さな鍵があった・・・。


3.
鍵穴に鍵を差し入れぐるりと回すと、鍵は何の抵抗もなく開いた。
麻樹はウキウキとその引き出しを開けた。
さて、草間のどんな秘密が出てくるのやら・・・?
「おぉ!? AVビデオ! こら零ちゃんならともかくシュラインさんが見つけたらヤバイなぁ」
まず目に入ったのはAVビデオであった。
思わぬ弱みを握った・・・というところであろうか。
他にも飲み屋のねぇちゃんの名刺(キスマーク付)だの、飲み屋のマッチだの・・・。
「おっと。こないなモンにかまっとる暇はなかったんやった」
我に返り、麻樹は引き出しの内側へと手を差し入れた。

「・・・!?」

引っ掛かりを感じ、掴んでで一気に引き剥がす!
中から出てきたのは引き出しの上に明らかに故意に貼り付けられた白い封筒であった。
バリバリッと遠慮なくその封筒の中身を調べる。

「やり! 草間さんの奢りで花見や!! ・・まぁ、酒代にするにはちーと少ない気ぃするけど・・」

見事、麻樹は草間のへそくりと思われる封筒入り新渡戸稲造氏をゲットしたのであった・・・。

4.
日は変わり、お花見当日。
陽気もよい昼下がりの1時に現地集合。
麻樹は5千円を元手に酒やジュースを買い出した。
・・・が、少し物足りない。
「ちーと自腹切るか・・」
印税で潤っているし、少々の自腹を切るくらいは痛くも痒くもない。
麻樹は更に飲み物を買い足した。

「おー、来た来た」
少し大きめの公園にある桜並木の下でブルーシートを広げ、草間がそう声を張り上げた。
今回のお花見のメンバーは丈峯楓香(たけみねふうか)、柚品弧月(ゆしなこげつ)、シュライン・エマであった。
後から遅れて綾和泉汐耶(あやいずみせきや)という女性も現れた。
「初めましての方もいるわね。綾和泉汐耶といいます。よろしく」
にっこりと笑った汐耶は、持参したお重を差し出した。
「うっわー! 豪華ぁ! シュラインさんのに負けてない・・」
楓香が感嘆の声を上げた。
エマもお重に豪華な料理を詰めてきていた。
つまみは多ければ多いほどいい。
「まま、ひとまずビールでもどないですか?」
麻樹はビールを汐耶に差し出した。
中世的な顔立ちではあったがにっこりと笑い「いただくわ」と言った汐耶の顔は女性らしい華やかさを持っていた。
心地よい風が吹いてきていた。
少し時期の遅い花見の宴のせいで、その風に吹かれた花びらがはらはらと目の前を落ちていく。
「なかなか風情があっていいわね」
独り言のように呟いた汐耶に、エマが「まるで別世界ね」と微笑んだ。
「皆さん! 井上さんが持ってきてくださった飲み物や丈峯さんが持ってこられたお稲荷さんやおつまみ、柚品さんが持ってきてくださった春限定のケーキもありますから食べてくださいね〜!」
零がいそいそと紙皿を出したり、箸を用意したりしている。
と、唐突に草間が言った。

「で、おまえら俺のへそくりは見つかったか?」

ニヤニヤと笑いながら、意地の悪い口調。
「な、何で知ってんの〜!?」
楓香が眉間にしわを寄せ、いたずらが見つかった子供のようにうろたえた。
「・・やっぱり草間さんのいたずらでしたか・・」
汐耶は特別驚くでもなくそう言った。
「ほな、あの新渡戸さんは・・?」
麻樹は、数度瞬きをし怪訝な顔で草間を見た。草間は大きくうなずいた。

「宝探しみたいで面白かっただろ? 白い封筒に一律5千円入れといたんだ」

してやったりといった顔の草間に、柚品が頭を抱えていた。
「そんなゲームみたいな物を俺は見つけられなかったと・・・」
半ば自虐的にそう呟き、柚品はがっくりと肩を落とした。
「なんや? 柚品さん見つけられへんかったん??」
「じゃあこのケーキ自腹切ったんですか?」
楓香と麻樹がそんな柚品に追い討ちをかけるように聞く。

お茶目な草間さんにしてやられててもーたか・・・。

麻樹は少々心の中で悔しさが湧き上がった。
が、すぐに(それもありか・・)という気になって、悔しさは消えた。
と、柚品がゆらりと立ち上がった。
「・・こういう時のために実は持ってきたものがあるんですよ・・」
楓香と麻樹に追い討ちをかけられていた柚品が、自分の荷物の中から何かを取り出した。

「げ!? それは!!!」

それを見た草間の顔色が真っ青に変わった。
『あー!?』
それは、いつか見た棒付きの人形・・・『怒りん棒』であった。
柚品は『怒りん棒』をつかむと、嫌がる草間へとじりじりと近づいていく。
どうやら柚品は草間にそれを装着させるつもりのようだ。
「本当のへそくりの在り処、白状してもらいましょうか?」
「知らん! 俺にへそくりなどない!」
逃げ回る草間に、追いかける柚品。
大の男2人が鬼ごっこをやっている姿はなにやら異様であったが、花見の席だからなんでもありか? と他の花見客は気にしている様子もなかった。

「・・面白そうやし、ちーとほっとこか♪」
「ま、また草間さん、気絶するかも・・」
ケタケタと笑う麻樹に、心配げな楓香の横顔。
「柚品さんも本気じゃないし大丈夫・・だと思うんだけど・・」
少々語尾に自信がないらしいエマの声。
汐耶は1人、そんな彼らを見て微笑んでいる。
ひらひらと風が吹く度に落ちていく花びら。
お酒とお弁当とおつまみと・・・そして、何よりゆったりと流れる時間。

1人で花見するんも悪ないけど、やっぱ花見は大勢でやったほうが楽しいなぁ。

追いかけっこはまだまだ続くようだ。
だが、草間の速度がだんだん遅くなっていくのは目に見えて明らか。
次の余興はほぼ決まったようなものだ。
麻樹はお稲荷さんやお重の中の料理を口にいくつか放り込んだ。

まだまだ花見は終わらない・・・。

−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 / 大学生

2772 / 井上・麻樹 / 男 / 22 / ギタリスト

1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書

■□     ライター通信      □■
井上麻樹様

この度はゲームノベル『草間興信所・お花見費用を探し出せ!』へのご参加ありがとうございました。
大変遅くなりましたことをお詫び申し上げます。
本当なら4月上旬までには納品する予定だったのですが・・・。
桜の季節、ほぼ終わってしまっている地域が多いのですが、楽しんでいただければ幸いです。
飲み物を買っていただきましたが、多分5千円では酒類を買うのには少なすぎるかな?とカンパしていただきました。
印税生活・・・私もやってみたい・・・。(夢のまた夢)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。