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<東京怪談ノベル(シングル)>


『深淵と闇と冷えた血』

 ― 【シーン0】 ―

 俺があいつと親友になったのはひとえにあいつが面白かったのと、そしていつか息子がどでかい壁にぶつかる時にあいつが、それを助けてくれる存在だったからだ。
 あいつを利用する気かって?
 はっ。
 何を今更。
 俺はそういう奴さ。
 そしてあいつもそうと知っていて、俺と付き合っている。
 世の中はギブ&テイク。
 そういう事だ。
 俺があいつを利用するように、あいつも俺を利用する。
 故に、あいつは俺の側にいたんだろう。
 まあ、だけどそれが全てではないがな。そう、結局は類は類を呼ぶって奴で不器用な俺とあいつは同類でだから親友をやれていたのだろう。
 そして俺があいつ……人がどんなに大事な話をしてようが平気でスルーしやがる城ヶ崎由代のそういうところを個性として面白がり、付き合っていたようにあいつのそういう部分を気に入り、恋仲にあった女もいた。
 そうだな。ああ、いい女だったよ。美人だったし、胸も大きかった。スタイルは抜群。知性も由代と同レベルの高い知性を誇っていたし、何よりもサラサラのアッシュブロンドの長い髪が魅力的だった。まあちと気が強いのがたまに傷だったがな。
 そう、だけどあいつらはほんとに傍から見ていてもいい仲に見えたんだぜ。お似合いだったよ、二人とも。
 俺は幸せな家庭なんか築けなかったが(しかし、まあ、俺は女房も息子も愛してるがな・・・って、言わせんなよ)、こいつらは幸せになれそうだった。そう、本当にいいコンビだったんだよ、こいつらは・・・。
 だけど・・・
 不幸は起きてしまった。


 ― 【シーンT】 ―

 魔術団本部の廊下は無機質な白に染まった無機質な空間だった。
 僕はその廊下の壁にもたれて、彼女を待っていた。
 部屋のドアが開く。
 ―――蝶番の音はどこか死霊があげる叫び声のような音を奏でた。
 そう想うのは僕の気のせいだろうか?
 否、決してそうなわけではないだろう。
 なぜならそこの部屋では・・・
「あら、由代。どうしたの、こんな場所で? あたしに何か用?」
「ああ、キミに忠告にきた」
「忠告、ね」
 彼女はアッシュブロンドの髪を弄りながら肩をすくめる。そして半目で僕を眺めながら、彼女は言った。
「人のことよりもまずは自分の事をしたら? あなた、どちらの派閥にも属さずに一匹狼でやろうってんでしょう? そういうの女としてとても魅力的に感じるけど、だけど結局はこの魔術団だって社会なの。それに適応できずに潰される才能には興味はないわ。女ってね、男に見切りをつけるのは早いのよ。後悔してからでは遅くってよ。色んな事でね」
 僕は肩をすくめる。
「忠告ありがとう。よく胸にとめておくよ」
「うそ。ほんとはいつもの通りに右から左にスルーしてるくせに」
「してないよ」
「してるわよ。だったらあたしが言った事を一字一句間違わずに言ってみなさい。ほら、さあ、早く。ほらほら」
 僕はつい渋い表情を浮かべてしまう。そんな僕を見て、彼女はとても意地悪そうに笑った。そして彼女がさらに僕を折りたたもうとするように口を開きかけたので、だから・・・
「言葉より行動でしめさせてもらうよ」
 と、彼女のブルーウイッシュという名前のルージュが塗られた唇に僕の唇を重ねた。右手は彼女の豊かな膨らみを誇る胸に。包み込むように彼女の豊かな胸に触れた手の平には彼女の軽やかな心臓のリズムが伝わってくる。
 最初は両手を僕の胸にあてて、押しのけようとしていた彼女も、しかし僕が閉じていた瞼を開いて、彼女のエメラルドグリーンの瞳を見つめると、彼女はわずかに目を細め、そして目で笑い、瞼を閉じて、僕の下唇を軽く噛んだ。
 唇を離した彼女は笑う。
「で、あたしに忠告したい事ってなに? 僕は今からキミにキスしちゃうから、気を付けろって?」
 僕は肩をすくめる。
「茶化すなよ」
 そして僕は顔に真剣な表情を浮かべた。
「キミが研究しているあの魔道書な、あれ、やめた方がいい」
「なぜ?」
 彼女はアッシュブロンドの髪に縁取られていた美貌に浮かんでいた笑みを消して、キツイ表情を浮かべた。
「あの魔道書の研究は最初は僕にやるように指示が出された。だけどね、あの魔道書は不完全な物だったんだよ。それに付け加え、あの魔道書を開きそこに書かれている事を解き明かすには、相当な魔力が必要となる。こう言ったらなんだが、キミにはちと荷が重い」
 そして次に耳朶に届いた彼女の右手が僕の頬を叩く音と、その叩かれた頬に走った痛み。
 僕は叩かれた頬を手で押さえる事は無く、彼女を見据えた。
 彼女は切れ長なエメラルドグリーンの瞳を鋭く細めながら僕を睨み、そして吐き捨てるように言った。
「なによ、それは? 忠告と言う名の嫌味? じゃあ、要するにあなたはあたしよりも魔力が上で、力も上って。なにさ」
 そして彼女はばっと素早くターンすると、僕に華奢な背中を見せて、去っていった。
 彼女に手で叩かれた頬は痛くは無かったが、ターンした時に翻った彼女の長いアッシュブロンドの髪に叩かれた頬の方はとても心に痛かった。


 ― 【シーンU】 ―

 僕は自室に戻ると、パソコンを起動させた。
 デスクトップに表示されるのは、魔道書からコピーした魔法陣と古代ルーン文字だ。
 それを僕は僕がプログラムして開発したソフトを使って、現在の文字に翻訳する。
 その翻訳した文字…彼女があの魔道書の解析チームのリーダーを任されたと知った時からもう何度も読んだそれに目を通した。
 そこに書かれているのは、古き邪なる存在を呼び出す手順。しかしそれは確かに不完全なモノであった。いや、おそらく人間如きが手を出してはいけない代物のはずだ。
 だから僕はそれを断った。
 しかし彼女は・・・
 だから僕は彼女が心配だったから忠告をしに行ったのだが、
 あの有様。
 本当に・・・
「僕は何をやっているのやら・・・」
 僕はベッドに寝転んだ。
 見えるのは瞳が見つめるこの部屋の天井ではなく、わずかに瞳に涙を溜めた彼女の顔だった。


 ― 【シーンV】 ―

 そう、あいつは彼女のために忠告した。
 彼女が好きだったから。
 だけどあいつは失敗してしまった。
 決定的なミスをやってしまった。
 そう、それは面と面を向って、余計な一言を彼女に言ってしまった事・・・。

「なにさ。あたしだって、あたしにだってやれるわよ」

 そして魔法団本部に振動が起こった。
 だがいつの間にか眠ってしまっていた由代がベッドから跳ね起きたのは、その振動のせいではない。
 あいつが跳ね起きたのは強大で、そしてとてつもなく邪悪な魔力を感じたせいだ。


 ― 【シーンW】 ―

「まさか、彼女は。えーい、早まった真似を」
 僕は舌打ちした。
 この邪悪なる魔力。完全に奴だ。だけどあの魔道書は・・・。いや、それよりも彼女は?
 僕は部屋から飛び出し、彼女がいつも使っている第一儀式場に向った。
 奴はまだ完全にはこの世界に召喚はされてはいない。今ならまだ、儀式をキャンセルできる。
 だから僕は走ったのだ、廊下を。彼女のために。
 しかし・・・
「そんな??? なんだよ、この壁は」
 第一儀式場へと繋がる廊下にはシャッターが下りていた。
 魔法工学の結晶ともいえるこのシャッターは簡単には壊す事はできない。
 それでも僕は・・・
「いでよ、????」
 僕は虚空にシジルを描き、最強のモノを召喚する。それは組織では便宜上【魔王】と呼ばれている。【ソレ】の名前を明確に表現できないのは【ソレ】がそれほどまでのモノだからだ。
 僕は召喚した【ソレ】にそのシャッターを壊させようとした。
 しかし、
「待て、由代。おまえには、それをやらせん」
 その割れ鐘のような声が耳朶を叩いたかと想うと、【ソレ】は召喚者である僕の意向はすべて無視して、魔界に強制送還される。そんな事ができるのは・・・
「長老」
 そこにいたのは魔術団を仕切る十老頭がひとりだ。
 そしてそれは最初に僕に魔術書を調べるように言い、彼女に命令した人だ。
 僕は頭をふった。
「理解できない。長老よ、あなたはこの邪な魔力に何も感じないのですか? もしもこのままこれの召喚の儀を続ければ、そしたらこの魔術団の本部・・・いや、世界が滅びますぞ」
 焦燥に駆られながら僕は訴えた。だが、それを聞いた彼は鼻を鳴らした。
「ふん。何を言い出すかと想えば。それがどうした? 我らは魔術師。世の魔法の理を常に求める者。そのためなら、こんな魔術団や世界など」
 彼はそれを本気で言っていた。
 僕は下唇を噛み締める。甘える彼女に噛まれた感触がまだ残る下唇を。
「城ヶ崎由代よ。おまえはいずれ次の十老頭の一員になる者だ。ならばあのような女など斬り捨てろ。代えはいくらでもある」
 笑うようにそう言った彼の顔から笑みが消えたのは、
「なんだ、そのシジルは?」
「邪魔をするならばあなたを殺す」
「本気か、由代」
「ええ、本気です」
「わからんな。貴様も魔術師だろう。ならば!!!」
「ふん。残念ですが価値観の相違ですね。それに僕はどうやら魔術師である前に男のようだ。惚れた女のためなら、なんでもするね」
「馬鹿が」
 そして二人同時に虚空にシジルを描き、【ソレ】を召喚する。その結果は・・・
「な、なにぃ?」
 彼は僕の召喚した【ソレ】の手に心臓を貫かれている。そして口から大きな血塊を吐き出した彼の顔は【ソレ】の息に腐り、抱かれた彼は砕かれた。


 ― 【シーンX】 ―

 砕かれたシャッター。
 僕はそこの向こうにあった廊下を走る。儀式場へ。だが・・・
 その儀式場への扉の前では、その儀式を押す者とそれをやめさせようとしている者たちとが争っている。ものすごく邪魔だ。
「えーい、ままよ」
 だから僕はそれらすべてを無差別に召喚魔で蹴散らした。
 そしてようやっと儀式場へ入り・・・・


 光り輝く魔法陣の前に立っている彼女。
 ―――その魔法陣から半身を出している【ソレ】・・・


 僕の見開いた目と、彼女の目があい、
 ほんの数時間前には僕の唇と重なっていた彼女の唇が、囁くように動く・・・


 助けて、由代・・・


 そしてその次の瞬間に僕の意識はブッラクアウトした。
 ・・・。


【ラスト】
 そしてあいつは無機質な白で満たされていたはずの・・・しかし、今は天井も床も、壁もすべてが真っ白に塗り替えられた部屋に独り立っていた。そう、独りだ。
 真っ赤な床にできた大きな血溜りの中に沈んでいるのは、彼女だった。しかしその彼女はもう完全に事切れていて、そして由代は・・・


 彼女に関する記憶をすべて失っていた。
 おそらく【ソレ】は由代の記憶と彼女の魂を呑みこんでしまったのだろう。そう、それはそういう奴だった。
 そして由代はかつてすべてを捨ててまで守ろうとした女の死を理解できぬままに今を生きている。
 そして俺はそんな由代を哀れみながら、いつかあいつがその記憶を取り戻せる事を祈りながら、今は姿を変えてあいつの召喚魔…便宜上の呼び名で言えば【魔王】として、あいつと共に生きている。
 それはそういう話だ。
 何の救いも無い、今じゃ当の本人の由代さえもう覚えていない過去・・・。


 ― fin ―



 **ライターより**

 こんにちは、城ヶ崎由代さま。
 ライターの草摩一護です。
 いつもありがとうございます。


 今回のお話はどうだったでしょうか?
 一応、プレイングに書かれた事を忠実に再現し、故にびっくりなラストでしたが。^^
 少しでもお気に召していただけてましたら嬉しい限りです。
 こちらもプレイングには本当に嬉しいお言葉がありましたので、本当に気に入っていただける仕上がりになっているといいのですが。


 それでは本当に今回もありがとうございました。
 またよろしければ書かせてくださいませ。
 失礼します。