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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人妻のお願い

●オープニング

「言いにくいのですが……」
 年が明けて早3ヶ月。いつも通りにぐちゃぐちゃとした興信所で、草間は女性から話を聞いていた。
「主人の……浮気を調査して欲しいんです」
「浮気調査……」
 単語を繰り返すと、彼女は不安気に頷く。が、それにはまるで気付かぬように、草間は驚愕の表情を浮かべていた。
「うちにも珍しく普通の依頼が――あれか、これを足がかりにまっとうな探偵に戻れという神の啓示か何か――」
「あ、あの……」
 女性は声をかけ――草間がぶつぶつ言い出したので、気になったのだろう――息を吐き出す。 
「それで、受けてもらえるのでしょうか……」
「ああ、問題無い。期限と依頼料。あと、名前と特徴くらいは教えてもらえるか?」
 おどおどした女性の問いに、草間はすぐさま頷き、質問を返す。
「名前は、その、知りません。特徴は――」
 何か考えているのか、女性は下を向き、目を瞑る。
「ま、深く考えないでも、見た目とか、住んでる場所とか、そんなんで――」
「浮気相手は、妖怪みたいなんです」


「話しをまとめると、浮気相手が妖怪らしいから、その筋で有名なお兄さんの所に依頼に来た、と」
 女性から依頼を受けた数時間後。買い物から帰った妹、零が、話しを聞き納得したように頷いた。
「気分がブルーになるからまとめるな。ああ、ちくしょう、なんだかんだで断れなかったし……また妖怪関係か」
 言いつつポケットからタバコを取り出し、吸い始める。
「受けちまったもんはしょうがないからな、とりあえずヒマそうなのに連絡しておいてくれるか?」
「わかりました。けれど、浮気調査って何すればいいんですか?」
 その手の知識は流石に詳しくないのか、零が首を傾げつつ聞く。が、
「さぁなぁ。普通なら張りこみとか現場押さえるとかだが……相手が妖怪だろ? そんなもん押し付けても逆ギレしかねないし、話し合いでもするしかないんじゃないかね」
 草間は適当に答えると、煙を吐き出した。 

●抜けてる探偵

「ちょっと待て。本当に浮気か? それ」
 いきなり声を上げたのは鈴森・鎮 (すずもり・しず)。
「そうよね。そもそも相手が本当に妖怪かもわかってないみたいだし。その辺りは確認しなかったの? 武彦さん」
 続けて、シュライン・エマ(しゅらいん・えま)も言う。
「そういや確認てしてないな……」
 言った瞬間、二人にジト目で睨み付けられる。
 流石に慌てたのか、草間はぶんぶん手を振りながら、
「い、いやだってだな、普通の依頼が来たと思ったのに、実はまたよくわからん依頼だったんだぞ!? その時点で俺は割といろいろど〜でもよくなったっていうか……」
 後半に近づくにつれ、どんどん声が小さくなる。
 とりあえず、この状態の草間に構っていても仕方ないのは確かなようだ。
「まずは……その女性に聞き込みかしらね」
「だな。相手を知らないんじゃ手の打ちようがないし、詳しい事を聞いた方がよさそうだ。というわけで、住所とかはあるんだよな?」
 鎮が問うと、
「そりゃな……昼間なら旦那はいないっつってたから、今から行けば話しが聞けると思うぞ」
「それじゃ、早速行ってみた方がいいわね。いろいろと疑問もあるし」
「まぁ、こっちでもそれなりに依頼人の素性は洗っておく。聞き込みの方は頼むな」
 草間はメガネを軽く持ち上げ、机に向かう。
「……今更格好つけても」
 その後姿に、鎮の声がグサリと突き刺さった。

●疲れた家

 高級ではないが、それほど不便でもなさそうな一軒家。住所を見て辿り着いたのは、そんな場所だった。
 昼間だけあって、他の家からは洗濯物やら、おばさん達の雑談やら、子供のはしゃいでる様子やらが見える。
 ただ、目の前にある家からは、そういった生活臭、とでもいうものは見当たらない。
「留守……かしら?」
「いや、さっきチラっと何かが動いたような……ま、とりあえずインターホンを鳴らせばわかると思う」
 言うが早いか、早速ボタンを押す。しばらくして――
「はい?」
「あ、草間探偵事務所から着ました――」
 シュラインが答えようとすると、
「ああ、探偵さんの……何かわかりました?」
 名乗る前に、聞いてくる。
「いえ、その事なのですが、もう少し詳しい話を聞きたいと思いまして」
「わかりました。ちょっと待っていて下さい」
 しばらくすると、扉が開かれ、中から一人の女性が現れる。
 年は二十台後半か三十台前半程度だろう。どこか、疲れてる表情が印象的といえば印象的ではある。
「とりあえず、立ち話もなんですから、中へどうぞ」
 女性に従い、二人は軽く一例すると、居間へ向かう。
 外観と同じく、中も至って普通。ただ、何と言えばいいのか、静かすぎるというか、寂しいというか……
「……それで、何か聞きたい事があるんですよね?」
「ああ。えっと、まず聞きたいんだが、なんでまた相手が妖怪だ、なんて思ったんだ?」
 鎮が尋ねると、
「主人の様子がおかしかったので……いえ、その、浮気――をすると、男の人はそれまでと変わったりするものなのかもしれません。けれど、そういう変わり方じゃないんです」
「どういう事だ?」
「目がとろんとしてて――心ここにあらず、とでも言うんでしょうか。どうしたのか聞いても、ボ〜っとして、いきなりハっとして、なんでもない、と言ったり。そういうことが、何度もあるんです」
 シュラインと鎮は互いに視線を向け、頷く。
 話を聞く限り、どうも魅了や誘惑などをされているように思える。何度もということを考えると、おそらく偶然でもないだろう。
「それで、どうして浮気をしている、って気づいたんですか?」
「夫の服から、女物の香水の匂いがして……もしかして、と。それで、探偵さんに調査してもらおうと思ったんです」
 女性は語り終えると、軽くため息をついた。今まで何度も繰り返したのだろう、その行動に不自然さがなくなっている。
「別に、夫が私と別れたいと思っているのなら、それでもいいんです。ただ――隠し事をしたり、疑うのは、もう、嫌なんです」
 彼女は最後にそう言って、話を締めくくった。

●出来すぎた情報

「というわけで、彼女の話が本当なら、その主人は何かの暗示を受けているのかもしれないわね」
「まぁ、有名どこだと吸血鬼とか、夢魔辺りが、そういうのが得意だけど……話を聞いた限りだと、完全には特定できないな。後は夫とやらを尾行でもして、現場を見てみるか何かしないと」
 事務所に戻り一服してから、シュラインと鎮は草間にそう告げた。
「なるほど……それは割と関係があるかもしれないな」
 言いつつ、何枚かの資料を持ってくる。
「彼女、数年前に事件にあってるんだ」
「事件?」
 鎮が聞き返すと、
「ああ。なんでも、友達と二人で、自転車を使って旅行してたらしいんだが、その時、道に迷ったらしくてな。どうしたものかと思ってる時に、古い空家を見つけたんだと。で、誰もいないようだし、一晩だけそこにいようと思ったらその晩、丁度地震があってな。空家は崩壊、彼女は命からがら逃げ出した――と、本人は言ってるらしい」 
「うん? 何か引っかかる言い方だな」
 言われ、草間は頭を掻きながら、う〜ん、と唸る。
「それがなぁ、彼女が言った場所に空家なんてないし、地震の起きたような形跡も見つかってないんだ。けど、その友人の物だと思われる自転車はあったとか」
 おかしな話ではある。嘘をついているという可能性も無いではないが、それにしてはあまりにも適当過ぎる感が否めない。本当に嘘をつくなら、もう少しまともな嘘をつきそうなものだ。
「なるほどね……でも、それだけだと、関係があるって線は薄いんじゃない?」
 シュラインが言うと、草間は手を突き出しそれを止め、
「まだ続きがある。ていうか、これが最後だ。なんでも、その辺り、妙に吸血鬼関係の噂が多いらしい」
「「……」」
「いや俺もなんつ〜か、こうドンピシャだとむしろ罠か!? って警戒したくなるんだが、そういう噂があるのは確かだ」 
 実際言いにくそうに、草間は目を逸らす。
「そういうわけで、とりあえずその場所に行けば何か掴めるかもな」
「それは行くしかないような気はするけど……にん肉でも持っていこうか」
 どこか疲れた顔をしながら、鎮が言う。
「仕方ないわね……武彦さん、その場所って遠いの?」
「ここからはそう遠くはないな。車で一時間程度か」
「……それって十分遠いと思うのだけれど」
「ま、今から行けば夕方か夜くらいにはつけるだろ」
 シュラインのジト目を受け流しつつ、草間は気楽に返事をしたのだった。

●浮気の理由

「よし、着いたか……」
 草間は胸ポケットから煙草を取り出すと、それに火をつけ、口に加える。
 前に目を向けると、たくさんの木々が生えているのがわかる。幾分か手入れされている道もあるようだが、もうしばらく誰も通っていないのだろう、雑草などがかなり伸びていた。
 一見しただけでは、空家などある様子はない。仮にあったとしても、これだけ視界が悪いと、気づくかどうかは疑わしい所ではあるが。
 それとは反対に、気づかざるをえないこともあった。いや、今まであえてそれを無視してきたのだが、これ以上はそうもいかない。
「……で? 他に言いたい事はある?」
「車をレンタルする金がないなら最初からそう言ってくれよ……」
 二人に攻められ、草間は目を泳がせながら、煙を吐き出す。
「電車で一時間はともかく、徒歩で三十分ってどういうことよ! 辺りもう真っ暗じゃない!」
「いや、それはこう、些細な計算違いというか、人間ミスする事は多いと――」
 弁明しかけた時、辺りにざわざわとした音が響く。
 風か何かで木が揺れているだけか、と考えるが、そもそもこの辺りに風など吹いていない。ならば、考えられる可能性としては、聞き間違いか、そうでなければ、何者かが枝葉を揺らした、か。
「あんまりいい雰囲気じゃないな、もしかするといきなりビンゴかもしれない」
「話がわかる人だといいのだけれど……厳しいかもしれないわね」
 二人は周囲に気を配り、辺りを見回す。    
 しばらくして、後ろの方から足跡が聞こえてくる。慌てて振り返ると、そこには依頼人の女性と大して変わらない年の女性がいた。ただ、赤い目が、夜の闇に映えているのが、その女性が人では無い事を物語っていた。
「あら……珍しい。お客さんですか?」
 女性はにこりと笑いながら、問いかけてくる。
「ああ。一応な。あんたと、話し合いに来たんだ」
「半ば検討はついていますよ。あの人の旦那を取ったことでしょう?」
言った瞬間、笑みが消えた。
 変わって浮かんできたのは、哀しそうな、それでいて、怒りを感じさせる表情。
「けれど、その事なら、話す事はありません。私はあのこを絶対許さない」
「……何でそんなに拘ってるんだ? 何か理由があるんだよな?」
 鎮が問うと、彼女は口を噤み――少しして、再び口を開く。
「ここに来たのなら、だいたいの経緯は知ってるのでしょう?」
「経緯……空家に泊まってて、地震が起きた……?」
 確認するようにシュラインが言うと、彼女はコクリと頷く。
「そう、それです。もっとも、その地震は幻覚でしたけど。彼女は一目散に逃げ出しました。私の安否も確かめずに、ね。友達だと思っていたのに……で、私は見ての通りの体になりました」
 自身の目や、口元、そして、傷跡が残る首筋を指しながら、
「どうしても許せなかった。だから、私はあのこを許さない。絶対幸福になんかさせない」
 彼女はそう言うと、手をおろし、また笑顔を浮かべる。
「わかったでしょう? 何を言っても――」
「でも、彼女が本当に逃げたのかはわからないと思うのだけれど」
 何か言おうとした所に、シュラインが口を挟む。
「彼女、どこかに助けを呼ぼうとして、一目散にその場を去ったのかも。事実、その後に警察に事情を話してるわ」
 言われて、彼女は沈黙した。
 多分に、その言葉について考えているのだろう。じっと口元に手をやって、動かない。
 どれくらいたったか。少なくとも、数分が経ってから、
「それなら、彼女に話を聞いてみたい。それで、全てわかりますから」
 彼女は、静かにそう言った。

●彼女の選択

 翌日。
 草間を含めて三人で、依頼人の家に行き、事情を話した。
 最初は、呆然として、信じられないような表情をしていたが、今ではある程度落ち着いている。
「……わかりました、私が行けばいいんですね?」
 その返事に、草間はほっと息を吐き出した。
「承諾してくれたか。後は暇な日を教えてくれれば――」
「いえ、その、私一人で行きます」
 その言葉に、三人が同時に固まる。
「今の所、何されるかわからないんだぞ?」
 鎮が言うが、それでも彼女は首を振り、
「でも、私が原因ですし。依頼は、あくまで浮気の調査です。それ以上は……」
「あのね、よくわかってないみたいだから言うけれど……本当に、何されるかわからないのよ? 最悪、死ぬなんて事もありうるわ。もしそうなりでもしたら、残された旦那さんや家族はどうなるの」
 シュラインが言うと、彼女は多少言いよどむが、
「それは……でも、それじゃ、昔と変わらないんです。私一人じゃないと……それに、本当に友達なら、話せば、わかると思います」
 結局、決意は変わらないようだった。
「……わかった。が、終わったら必ず連絡をいれてくれ。それと、幾つか護身用の道具を渡しておく」
「はい、わかりました」
 彼女は最後だけ、素直に頷いた。


● エンディング

「どうなったのかしらねえ、彼女」
 昼下がりの事務所、シュラインはポツリとそう呟いた。
「さて、な」
 草間はポリポリと頭を掻きながら、返事をした。
「ただ忙しくて連絡ができないのか……じゃなければ――」
 その先は、言葉にならず、ため息に化ける。
 実際、これだけ連絡がないと、どうにかなってしまった可能性が高い。と、その時――ではないが、無言の時間がしばらく過ぎた頃、電話が鳴り始める。
「噂をすれば、だといいんだが、な」
 呟きを聞きながら、シュラインは受話器を取った。
「はい、こちら草間探偵事務所――」
「あ、探偵さんの助手ですか? 私です」
 その声は、確かにあの彼女のものだった。
 
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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号 / PC名    / 性別 / 年齢 / 職業】

 0086  /シュライン・エマ/ 女性 / 26  /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 2320  / 鈴森・鎮  / 男性 / 497 /鎌鼬参番手

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■         ライター通信          ■
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 どうも、高橋葉です。え〜……何というか、今回は割とどういう方向にでも持っていけるようにやろう、と思ったら逆にどうすればいいかわからない、みたいな感じになったようで……ごめんなさい。
 なんというか、ある程度方向性というか、何がどうなってるのか具体的な情報がないと動きようがないですね、確かに。もちょっとプレイヤの立場に回らないといけないなあ、と痛感しました。
 さて、反省はこれくらいにして(なんか毎回してる気もしますが)次回はもうちょっとストレートな依頼になると思います。よろしければ、お付き合い願います。
 とまぁ、地味に宣伝した所で以下個別ですー。

>シュライン・エマ 様

 どうも、毎度ありがとうございます。さて今回ですが――本当は結局どうなったかわからないエンドとかを想定していました。
 ただまぁ、それだと読後感がひたすら悪いなあ、等と思い変更してみたり。どっちがいいかは自分でもよくわからないのですが。
 プレイングは例によっていろいろ書かれていて、上手だなぁ、と素直に思います。問題は私が完全に再現できない所ですか。って、言ってる内容が上とあんまり変わってない! 
 えぇっと……精進します(結局それか)ともかく、今回もありがとうございました。それでわ〜。