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【闇夜と悪の旋律】
貴城竜太郎が社長の座に就いている『テクニカルインターフェイス・ジャパン』はこの日本で、ハイテク産業、軍事産業における巨大なシェアを占めている。特に情報戦などはお手のものだ。
――当然、彼らに仇なす小虫の住処など、手に取るように割り出せる。
「な、何モンだてめえ! 怪しいカッコしやがって!」
時刻は深夜もいいところだというのに、突如ドアを蹴破ってオフィスに現れたソレに、男たちは狼狽した。軍事用強化装甲『ルシファー』に身を包んだ貴城だった。
「あなたたちがハッキングした、テクニカルインターフェイス・ジャパンの社長ですが」
貴城はゆっくりと言った。
「バ、バカな、たった30分でここを突き止めたというのか?」
男たちはハッキング集団だった。さまざまな企業から極秘裏に依頼を受け、競合企業のコンピューターを乗っ取り大打撃を与えることで多額の報酬を手にする。いわば裏の住人である。しかも、貴城の言うような未熟などでは決してない。事実、今まで誰にも尻尾を掴ませたことはなかった。それが30分で、こちらの正体をすべて知られてしまったのだ――。
「化け物か。早すぎる……!」
「まあ、なかなかいい腕をお持ちのようだが……あなたたちは到底エリートではない。私から見れば未熟も未熟だ」
ただ、テクニカルインターフェイスが、貴城竜太郎という男が、あまりにも巨大すぎた。とんでもないものを相手にしてしまった。あとになって、誰もがそう思うのだ。このハッカーたちもその例外に漏れなかった。
「どうせ違法な方々だ。何をされようと覚悟の上でしょう?」
その時、男たちのひとりが羽織ったコートの裏から拳銃を取り出し、瞬く間に全弾発射した。
「な……!」
弾丸はあっさり弾かれた。ルシファーには傷ひとつついておらず、白い美しさを保ったままだ。
「おやおや、そんなものまで持っているのですか。この分では殺人も大いにしていると見える」
装甲が歩み寄る。男たちは背筋を振るわせ冷や汗を流した。口調は丁寧そのものだが、それが逆に、貴城の氷のような冷たさを際立たせている。
「ま、待てよ。俺たちはアンタらが悪いことをやってるって聞いたぞ。今回の依頼主だって、軍事利用なんてけしからんとか言って……おいちょっと待ってくれ!」
「――淘汰されたまえ」
傷を知らない鋼の意思を
仮面の奥底に秘めて
真空を切り裂くほど速く
闇夜と悪を駆け抜ける
争いは進化の糧となる
ことごとく食い尽くせばいい
我に淘汰されよ人類よ
破壊なくして創造はなし
我に導かれよ人類よ
それこそが幸せと知れ
ナイフじみた赤い視線を
冷たいほどに澄まして
残酷なまでの現実主義
王たる者のテクニカル
目的に手段は選ばない
望むものそれは成果のみ
我に淘汰されよ人類よ
決して抗えぬ運命の中
我に導かれよ人類よ
天国を感じるだろう
我に淘汰されよ人類よ
我に導かれよ人類よ
我こそが支配者……!
彼らのオフィスは完全に破壊された。哀れなハッキング集団たちは、誰もがコンピューター機器の瓦礫の下に埋もれることとなった。
彼ら自身は当て身を食らわせただけであえなく昏倒した。手加減をしたとはいえ、最強の強化装甲ルシファーの一撃である。死なずとも重大な障害か何かが残るかもしれないが、そんなものは貴城の知ったことではない。
一階まで降りると、貴城は携帯電話を取り出した。相手は彼の秘書だ。
「私だ。ああ、奴らは壊滅した。では今から戻る。出迎えの準備を」
いとも簡単なやり取りのあと、貴城は専用バイク『マルドゥーク』に跨り、音速を凌ぐ速さで、その場を去っていった。
貴城竜太郎。彼は闇夜と悪を駆け抜けるライダーである。
【了】
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