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<東京怪談・PCゲームノベル>


草間興信所・お花見費用を探し出せ!

1.
「それじゃ、出かけてくる」 と草間武彦が興信所を出ると、零は急いで一本の電話をかけた。
その電話で呼び出された人物、綾和泉汐耶(あやいずみせきや)は特に急ぐこともなく草間興信所へとやってきた。
「多分あと1時間位は戻らないと思いますけど・・・」
「安く済ませるに越した事はないものね。花見の費用が出て草間さんが煙草を控えるのなら零ちゃんにとっても一石二鳥だもの。私に見つけられればいいのだけど・・・」
汐耶がそういうと、零は勢いよく首を横に振った。
「そんなことないです! 汐耶さんならきっと見つけられると思います。頑張ってください!」
キラキラとした期待に満ちた目を零は汐耶に向けた。
「・・あんまり期待されても困るけど・・見つかっても見つからなくても、差し入れ作るからね」

あまりの期待されぶりに苦笑いをして、汐耶は草間のへそくり捜索へと着手したのであった・・・。


2.
「さて、どこから手をつけていいものかしら・・?」
ぐるりと事務所内を見渡した後、汐耶はしばし考え込んだ。

他人があまり触らないような場所・・・。
他人があまり動かさないような場所・・・?

汐耶はつかつかとホワイトボードへと近寄り、おもむろにホワイトボードを持ち上げた。

「・・やだ。いきなり見つかっちゃった」

汐耶は拍子抜けした。
まさかこんなベタな場所に隠してあるとは・・・。
ホワイトボードの後ろに白い封筒がまだ真新しいセロハンテープによって留められていた。
封筒の中身は新渡戸稲造の5千円札が1枚で入っていた。

時間、ずいぶん余ってしまったわね・・。

汐耶は見るともなしに過去の調査ファイルへと目を向けた。
ホワイトボードの裏になかったら、次に調べようと思っていた場所である。
「・・ちょこっと見てみようかしら・・」
無類の活字中毒者・汐耶は過去のファイルに少々の興味を抱いた。
1冊手にとって眺めてみると、自分が関わった事件やまったく知らない事件の調査報告書が連なっている。
おそらく事務員であるシュライン・エマがまとめているのであろう。
事件を知らない者が読んでも分かりやすく簡潔にまとめられていた。
・・読み進めるとすぐに1冊読み終えてしまった。
その速さはさすが活字中毒者というべきか。
汐耶は二冊目の調査ファイルを手に取った。

と、調査ファイルからひらひらと何かが舞い落ちた。


3.
「・・何? これ」
拾い上げた汐耶は疑問を抱いた。
舞い落ちた物は先ほど発見したへそくりを入れていた封筒と同種の封筒だった。
汐耶は封筒を開けてみた。
中からは先ほどと同じ新渡戸稲造が1枚入っていた。

「・・・? へそくりが同じ金額で他の場所にも隠してあったってこと??」

そう疑問を口にした汐耶は考え込んだ。
何かが腑に落ちない。
そう。なんだか見つけられるのを最初から見越したような隠し場所なのだ。
グルグルと頭の中で疑問が駆け回る。

大体、あの零ちゃんが兄である草間さんのへそくりと使って赤字を補填しようと考えるだろうか?

汐耶は2枚の新渡戸稲造と封筒を見比べた。
封筒はまだ真新しく折り目もきっちりとしている。
そういえば、先ほどホワイトボードの裏に張ってあったときのセロハンテープも新しかった。
へそくりの封筒なんて、出し入れの度に取り替えるようなものではない。

・・・もしかしたら、これってゲームか何かかしら?

そう仮定すると、零もグルなのだろうか?
いや、この場合はグルだと考えるのが妥当だろう。
「手の込んだことするわね・・・」
汐耶はため息まじりに笑った。

私を含め、どれだけの人が巻き込まれているのやら?

そう思うと、無性に笑いがこみ上げるのだった・・・。


4.
日は変わり、お花見当日。
陽気もよい昼下がりの1時に現地集合。
汐耶は見つけた1万円を材料費に豪華なお重入りお弁当を持参した。
さすがに1万円だけにそれ相当に豪華な物が出来た。
「おー、来た来た」
少し大きめの公園にある桜並木の下でブルーシートを広げ、草間がそう声を張り上げた。
今回のお花見のメンバーは丈峯楓香(たけみねふうか)、柚品弧月(ゆしなこげつ)、井上麻樹(いのうえまき)、そしてシュライン・エマであった。
「初めましての方もいるわね。綾和泉汐耶といいます。よろしく」
そう言った後、「シュラインさん、お久しぶりです」と挨拶した。
にっこりと笑った汐耶は、持参したお重を皆に差し出した。
「うっわー! 豪華ぁ! シュラインさんのに負けてない・・」
楓香が感嘆の声を上げた。
見ると、エマも同様に重箱に料理を詰めて持ってきているらしかった。
「まま、ひとまずビールでもどないですか?」
一見美青年な麻樹にビールを差し出されつつ屈託なく笑いかけられ、汐耶は「いただくわ」とありがたく受け取った。
ぐぐっと一口飲むと心地よい風が吹いてきた。
少し時期の遅い花見の宴のせいで、その風に吹かれた花びらがはらはらと目の前を落ちていく。
「なかなか風情があっていいわね」
独り言のように呟いた汐耶に、エマが「まるで別世界ね」と微笑んだ。
「皆さん! 井上さんが持ってきてくださった飲み物や丈峯さんが持ってこられたお稲荷さんやおつまみ、柚品さんが持ってきてくださった春限定のケーキもありますから食べてくださいね〜!」
零がいそいそと紙皿を出したり、箸を用意したりしている。
と、唐突に草間が言った。

「で、おまえら俺のへそくりは見つかったか?」

ニヤニヤと笑いながら、意地の悪い口調。
「な、何で知ってんの〜!?」
楓香が眉間にしわを寄せ、いたずらが見つかった子供のようにうろたえた。
「・・やっぱり草間さんのいたずらでしたか・・」
汐耶は自分の勘が当たったことを知った。
「ほな、あの新渡戸さんは・・?」
麻樹が目を数度パチパチと瞬かせた後、そう言うと草間は大きくうなずいた。

「宝探しみたいで面白かっただろ? 白い封筒に一律5千円入れといたんだ」

してやったりといった顔の草間に、柚品が頭を抱えていた。
「そんなゲームみたいな物を俺は見つけられなかったと・・・」
半ば自虐的にそう呟き、柚品はがっくりと肩を落とした。
「なんや? 柚品さん見つけられへんかったん??」
「じゃあこのケーキ自腹切ったんですか?」
楓香と麻樹がそんな柚品に追い討ちをかけるように聞く。
どうやらこの2人は見つかった人間のようだ。
そんな3人を見つめていた汐耶にエマがポツリと呟いた。
「・・そんな計画だったなんて・・」
汐耶はその言葉が気になり、聞いてみた。
「シュラインさんは見つからなかったんですか?」
「え? う〜ん・・。そういうわけじゃないんだけど・・」
言うべきか言わざるべきかを悩んでエマは言葉を濁していた。
どうやら何か別の物を見つけたらしい・・・と汐耶は思った。
「・・こういう時のために実は持ってきたものがあるんですよ・・」
楓香と麻樹に追い討ちをかけられていた柚品が立ち上がり、自分の荷物の中から何かを取り出した。

「げ!? それは!!!」

それを見た草間の顔色が真っ青に変わった。
『あー!?』
汐耶から見たそれはどう見てもただの棒を持った人形でしかなかった・・のだが、なにやら不穏な空気が他の人々の間で流れている。
「あれ、なんですか??」
事情がよく分からないので、エマに聞いてみた。
「『怒りん棒』っていうの。頭に装着すると感情の高ぶりによって最高5回まであの棒が振り下ろされるのよ」
「・・な、何ですかそれは・・」
エマの真面目な返答に、汐耶は少し戸惑った。
見ると先ほどまでうなだれていた柚品は『怒りん棒』を持ち、嫌がる草間へとじりじりと近づいていく。
どうやら柚品は草間にそれを装着させるつもりらしい。
「本当のへそくりの在り処、白状してもらいましょうか?」
「知らん! 俺にへそくりなどない!」
逃げ回る草間に、追いかける柚品。
大の男2人が鬼ごっこをやっている姿はなにやら異様であったが、花見の席だからなんでもありか? と他の花見客は気にしている様子もなかった。

「・・面白そうやし、ちーとほっとこか♪」
「ま、また草間さん、気絶するかも・・」
ケタケタと笑う麻樹に、心配げな楓香の横顔。
「柚品さんも本気じゃないし大丈夫・・だと思うんだけど・・」
少々語尾に自信がないらしいエマの声。
ひらひらと風が吹く度に落ちていく花びら。
お酒とお弁当とおつまみと・・・そして、何よりゆったりと流れる時間。

こんな桜の下で本を読むのもなかなか悪くない。
それとも、妹や兄を誘ってみるのもいいかもしれない。
1年に1度の花びらの降る季節なんだもの・・・。

ふと、そんな考えが浮かんだ。
こうやって誰かと過ごす時間もなかなか悪くないものだ。
汐耶は持っていたビールをゴクンと一口、飲んだ。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 / 大学生

2772 / 井上・麻樹 / 男 / 22 / ギタリスト

1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書

■□     ライター通信      □■
綾和泉汐耶様

はじめまして、とーいと申します。
この度はゲームノベル『草間興信所・お花見費用を探し出せ!』へのご参加ありがとうございました。
大変遅くなりましたことをお詫び申し上げます。
本当なら4月上旬までには納品する予定だったのですが・・・。
桜の季節、ほぼ終わってしまっている地域が多いのですが、楽しんでいただければ幸いです。
今回のシナリオは受注をいただく前にこちらで隠し場所を決めておりました。
が、それが裏目に出て・・というか、汐耶様の1番最初と2番目に探す場所として書かれていた場所がドンピシャだったのでどうしようかと思いました・・。(^^;
ので、とても頭の切れる方だと思いましたのでこのような形となりました。
あと、エマ様とお友達・・ということでしたが、少々調べ方が足りないせいでどういったお友達(呼び方とか)か分からないまま書かせていただいたことをお詫び申し上げます。
今度からはこのようなことがないように頑張ります。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。