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It's Gate Of...
■ACT.0 オープニング
こんばんは、先日は「幻のカクテル」についての調査報告、ありがとうございました。
友人たちも無事、家に帰りほっとしております。
さて、今回は私が噂で聞いた話なのですが、調査のタネとして使えますでしょうか?
私の住む町には小さな商店街があります。
そこは割りと昔からあるもので、かつては神社の門前町として栄えた場所です。
そのため商店街脇の小さい路地にはいくつかお社があるのですが、最近、町の区画整理で
その神社が移し変えられました。
その頃からでしょうか? この商店街を夜通る人が、あるはずのない小さい鳥居を見かけるようになったというのです。
誰かがその鳥居をくぐった、という話は聞きませんが、その鳥居の先には小さい神社があるといいます。
本当にそんな神社があるのでしたら、サイトのお話の為になると思い、今回投稿いたしました。
どうぞ、よろしくおねがいいたします。
■ACT.1 はじまり
「面白そうな話じゃねぇか。そのマボロシ神社とやら、いっちょ俺が確かめて来てやるよ」
スツールに腰掛け、にやりと笑うのは綾小路・雅。
ここは彩色町という町。東京都でありながら都心から少し出たあたりにある緑豊かな所。
その駅前に佇む一軒のダイニングバー。そこに雅はいた。
彼は、<ゴーストネットOFF>で、ある依頼を見てこの店を訪れた。
調査の依頼主はこのダイニングバーの店主である。
「気をつけてくださいねお客さん。まだ何かあったという噂は聞きませんが……帰ってこないからそういう噂がないということもありえますし」
カウンターの奥から、依頼主のバーテンダーは答える。彼が言うには最近店に来る客からそんな噂があって気味が悪いという話を何度も聞き、話の種になれば、とゴーストネットに投稿したのだという。
「何が出てこようとどーってことねぇよ」
お化けでも何でもドンときやがれ、といった感じでにっと笑って見せる雅。
コトの始まりは今から1ヶ月ほど前。元々昔ながらのごちゃついた街並みだった彩色町駅前商店街で、区画整理が行われた。
商店街自体はずいぶんと綺麗になったが、その際に商店街の中に点在していた小さな神社をいくつか移転したのだという。
そして、同じくらいの時期から、移転した神社のあった箇所で何人もがあるはずのない神社の鳥居を見かけるようになったのだという。
「まっ、肝だめしみてぇなモンだよな。でも、お化け屋敷とはワケが違うしなァ。
準備は万端に、ってな。……そうだ、マスター。区画整理前の地図って持ってる?」
店主から大体の経緯を聞いた雅はこんな事を尋ねる。
「ええ、ありますが……」
「ちょっくら貸してくれ。区画整理前の地図と今の地図を照らし合わせりゃドコが移転した神社か分かるだろ?」
彼はまず移転した神社というのが一体どこにあるのか。それを把握しようと思ったのだ。今の商店街の地図と照らし合わせる。
「まず商店街の端っこがここで……」
幸い商店街の一番大きな通りはそのまま残していたらしく、移転したという神社の位置は何とか特定ができた。
どうやら、お目当ての神社は今は公園となっているらしい。
「公園ねぇ……」
「そうですね……」
「まっ、場所が特定できたワケだし、後は足で稼げってな。じゃっ、行ってくんぜ」
ちゃりん、と勘定をカウンターに置くと雅は席を立つ。そして、現地へと向かった。
■ACT.2 町の隙間に或るモノ
区画整理されたという商店街は綺麗なアーケード街となっていた。
「えーっと……この辺か?」
あたりをきょろきょろと見回す。地図に書き記された辻と、行きすがら手に入れた商店街の店舗マップを照らし合わせる。
「おっ、あったあった。……って、ちぃせぇ公園だなァ?」
その公園は商店と商店の間にある、ごく小さなものだった。金網で囲まれた小さなその敷地にはベンチが一つ、そして、申し訳程度の遊具が設置されている。そこで遊ぶ子供はいない。
「見たトコどうってことはなさそーだけどなぁ……??」
傍目には何の変哲もない、ただの公園だ。
公園の両隣にある商店にも尋ねてみる。
「神社かい? ああ、そういえば前は隣にあったねぇ。この前区画整理したときに移動したみたいだけど」
「え? 今も神社が見える?? どうかなぁ? うちはそんな話聞いたことないけど?」
これといって有力な情報がつかめない。目撃の情報が夜だというから、商店の人たちが出歩かない時間なのかもしれない。
「うーん、どーすっかなァ……? ここに張り込むしかねぇかなァ?」
ずいぶん暖かくなったとはいえ、深夜までじっと待つのもなんとも辛い作業だ。雅の性格ならなおの事。
「しょうがねぇ、テキトーに物資調達して、鳥居が見えるって時間くらいに戻ってくるか……んん?」
その場を立ち去ろうとした、その時だった。
何かが足元を横切った。
「なんだ!?」
それがなにであるか確認しようと目を凝らす。そして、その主を確認して彼は驚く。
「……狐だぁ?」
そう、狐なのだ。金の毛皮は淡く輝いている。狐は赤く輝く目で雅を一瞥するとトーン、と跳ねて公園へと向かう。
「あっ! 待て!!」
すかさずその狐を追う雅。彼の目には、その狐は普通のものでない何かとして映っていたのだ。
彼が追ってくるのに気付いた狐は足を速める。公園の奥へと入り込み、その突き当りへと向かう。
「へっ、そっちは行き止まりだぜ」
公園は3方を商店の建物でふさがれている。逃げる余地は、ない。
……しかし、その時だ
「……何ぃ?」
狐は最奥の建物の壁に突っ込む。するとどうだろう? 壁にぶつかる一歩手前で狐の身体はすぅっ、と掻き消えた。
「どうなってンだ??」
そこに何があるのか、確かめようと目を凝らした彼の目にうつったのは……。
「……鳥居?」
淡く、向こうまで透けるほどに薄いが、そこには朱塗りの鳥居があった。
「さっきまではなかったはずだが……。コイツが噂の鳥居ってワケか……」
おりしも今は「逢魔が時」と呼ばれる時間。
「噂で聞いた時間とはちぃとちがうなァ……」
時計を確認し、つぶやく。どうする、行くべきか……? 奥が見えない鳥居。ごくり、と雅は息を呑む。
あたりを見回すが、その鳥居以外取り立てておかしな場所は、ない。
行くか……、持参していた懐中電灯を取り出す。
そして、その半透明の鳥居へと歩み寄る。
恐る恐る懐中電灯を鳥居の下へと通すと、差し込んだ懐中電灯の先がすぅっと消える。
「後はめぼしいトコもねぇしな……。飛び込むっきゃねぇか……」
あたりに何かの気配も感じない。鳥居の周りは異様なほどに静かだ。
静けさと共に薄恐ろしい感覚がじわじわと体の奥に入り込んでくるようだ。
「……えーい、なむさんっ」
このままここにじっとしていたら恐怖に呑まれる……。意を決し、彼は鳥居の向こう側へと飛び込んだ。
■ACT.3 神様の通り道
「なんだぁ? ここは……」
鳥居の向こう側、そこは先程まで見えていた公園の風景ではなかった。
周りの建物はどこへ消えたのか。あの狭い公園にはありえないほど広い敷地が広がっている。
玉砂利の敷き詰められた地面、空を覆わんばかりに茂る木々。
そして、彼の目の前には大きな朱塗りの鳥居と、更にその奥には小さな社が見える。
「……おっ?」
その社の前に、先ほどの狐がちょこんと座っている。
雅をじっと見つめ、「こっちへ来い」と誘っているようにも思えた。
「わざわざご招待してくれたってワケか」
あたりの気配に注意しながら、雅は一歩ずつ狐へと近づく。
「よく参られた」
あともう少し近づけば取り押さえられるだろうか? 微妙な間合いまで雅が近づいた時、狐は人の言葉を発した。
「鳥居を見ることが出来た人間で、ここまで追って来てくれたのはお主が初めてだ」
ごく落ち着いた声色。男性の声とも女性の声ともつかない印象を受けた。
「へぇ……。で、わざわざ俺を招待してくれて、何をするつもりだい?」
人語を解し、なおかつ自らそれを操る狐など、怪しいとしか言いようがない。 自分をこんな場所に引き込み、一体何をしようというのか……? 雅は身構える。
「そうでもしないと、私を見られるものはいても、ここまで来てくれる奴がいなくてな」
雅の警戒などまるで意に介さぬ様子で狐は続ける。
「何度か目ぼしい人間を引き込もうとしたのだが、みな恐れて近づこうともしてくれなかった」
「そりゃそうだろ? あんな怪しい鳥居、普通じゃ通る気になりゃしねぇって」
「ふむ……。たしかに」
狐はやや眉をひそめる。苦笑しているように見えたのは気のせいか?
「で、わざわざ人を引っ張り込んでどうしようってんだ? とって食う気なら、そう簡単にはいかねぇぜ?」
常々持ち歩いている玩具の銃を取り出し、その銃口を狐に向ける。
一方の狐はそれをしばらくじっと見つめていたが、ふと、からからと大きな声で笑い始めた。
「安心せよ、人を食う気はない」
ひとしきり笑ってから狐は続ける。
「私はただ、ちょっと手伝いをしてくれる者を探していただけだ。しかし、あそこの店主もずいぶん血気盛んな若者をよこしたものだ」
「あそこの? ……駅前のバーのマスターか?」
雅の問いかけに狐は短く、「そうだ」と答える。
「あそこは普通の人間と、私達のような者達の境目に立っていてな。この神社のようにちょっとばかし私達と人と暮らすのに不都合なことがあったら何かと相談に乗ってくれる」
「……ちっ、グルだったのか」
そうならそうとはっきり言えばいいだろ、と雅は悪態をつく。
「なんだ、なにも知らされていなかったのか? まったく、あそこの店主の悪癖にも困ったものだ」
どうやらあの店主、相談には快く乗ってくれるのだが、依頼した相手に全てを話さず、事実をあえて本人で確認させるクセがあるらしい。
「まぁ、それはいい。それでもお主が来てくれたのだ」
「いや、あんまりよくねぇって……」
どっと疲れた気がした。
「しかし……俺とか、さっきも来てくれる奴がいなかったとか言ってたな。なんで人を呼び寄せる必要があったんだ?」
「それはな……、アレを運んでもらおうと思って」
狐がくい、と目で指し示した先には小さな、石を削り出したと思しき鳥居があった。
「なンだぁ? このちっちぇえ鳥居は」
人が到底くぐれる大きさではない。せいぜい膝下程の高さしかないその鳥居を覗き込んで雅は首を傾げる。
「『門』だ」
「門?」
「そう。私達がこの町を往来する上で通る門。まぁ、お主のいる世界と、私達の住む世界との境目になる」
「あんたたちの住む世界?」
「まぁ、いわば異世界とでも言うべきかな?」
まぁ、話を掻い摘んで言えばその鳥居はいわゆる現実世界と神様とか、妖精とか、そういうものがすむ世界をつなぐ門なのだそうだ。
「今までは神社の奥にあって、気軽に利用できたのだが、人間達が区画整理をしたあおりで神社だけが移動してしまってな。これだけ持っていくのを忘れられてしまったらしい」
狐は苦笑する。
「自分たちで動かしたいところなんだが……。ほれ」
狐は自分の前足で鳥居に触れようとする。しかし、その前足はすかすかと鳥居を通り抜けてしまう。
「これは、ずーっと昔人間が作ってくれたものでな。ただ、同時に人ではないものが気軽に触れることもできん」
あのバーのマスターも、人の姿を装ってはいるが、人ではないので動かすのは困難だと言っていた。と狐は付け加える。
「で、俺らみてぇなのにこいつを運ばせようってことか」
「すまぬ。引き受けてくれぬか?」
見た目は奇異ないでたちだが、お主なら預けられよう、と。
「お世辞言っても何もでねぇぞ? しかし……参ったねぇ……」
がしがし、っと頭を掻いて少しばかり考えた雅はにっと笑う。
「頼まれると断れないクチなんだよな。いいぜ。運んでやるよ」
見た目はかなり不良のそれだが、それが心根と同じわけではない。
まぁ、困っているのなら助けてやるのが人の情けというものだ。と理由を付け加える。
まして、それが自分たちのような力がなくては触れることすら出来ない存在なのであれば。
雅の返事に狐は「ありがとう」と頭を垂れ、礼を述べた。
「おいおい、狐に礼を言われるなんて、なんか様にならねぇよ」
やや照れくさげに頬を掻き、雅は言った。
■ACT.4 かくして
狐の頼みを聞いた雅はその石の鳥居をカバンに詰め、移転後の神社へと向かった。
移転後の神社は移転前の場所から程近い場所に移設されていた。
綺麗に整備され、ちょっとした公園みたいな感じだ。
「えーっと……、できれば目立たねぇトコがいいよなぁ?」
こんな開けた場所だったら、何かの拍子に何も知らない人が門にイタズラするかもしれねぇし、と彼は神社の奥まった場所へと入る。
「お、ここがいいかな?」
目をつけたのは社の裏手。そこに植えられていた木の根元。小さい稲荷があったのでその側に置いてやることにした。
「神様とやらも住みづらい世の中になったモンだねぇ……」
鳥居を積み直し、雅は苦笑する。
自分たちのように人外が見えれば、こういった事にも目は行き届くかもしれないが、一般の人には意外と気付かないものがある。
昔ながらの風習が伝えられなくなった今なら尚のこと。普通の人にはこんな小さな鳥居、ただの飾りか何かにしか見えないだろう。
「さーて、終わった終わった、帰るかねぇ」
雅は大きく伸びをした。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【2701/綾小路雅/男性/23歳/日本画家】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、この度はご参加頂きまことにありがとうございました。
ほんの少しでも、その異世界<彩色町>に触れて頂けるきっかけとなりましたら幸いです。
本日の舞台「異界:東京都西多摩郡彩色町」
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=476
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