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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:呪いの桜
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 花にはたくさんの種類がある。
 中でも、日本人にとって特別な思いがあるのは、桜だろう。
 春を告げる花なら他にいくらでもあるのだが、やはりこの薄紅色の花なのだ。
「まあ、たしかに花見をしないことには新年度が始まらないってのはあるわな」
 草間武彦がいった。
 新宿の一角、古ぼけたビルに入っている探偵事務所。
 いつものようにのほほんとした所長である。
「兄さんの場合、花を愛でるというよりはお酒を飲むのが主目的ですけどね」
「うははは。飲ミュニケーションは人間関係の基本ってやつだ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 無言で、義妹の零と依頼人が肩をすくめた。
 ちなみに飲ミュニケーションとは、酒を呑むとコミュニケーションを足した造語である。作ったのは、名も知れぬオヤジだろう。
「解説するなよ‥‥哀しくなるから」
 ぼそりと呟く草間。
 自分で言って自分で哀しんでいれば世話はない。
「それで、呪いの桜というのはどういうモノなんですか?」
 零が訊ねる。
 義兄のせいで話が逸れるのはいつものことなので、べつに気にした風もなかった。
「それは‥‥」
 躊躇いを見せつつも、依頼主が説明を始めた。
 桜の名所である上野公園に、呪いの桜がある。
 もう何十年も前から花を咲かせることもなく、ただぽつんとたっている古木だ。
 区は幾度かその木を切ろうとしたのだが、その度に不可解な事故が起こり現在もたたずみ続けている。
「べつに放って置いてもかまわないんじゃないのか?」
 草間が口を挟む。
 切ろうとして事故が起こるなら、放置しておけばよい。
 それでなにか害があるわけでもなし。
「ところが、危険はあるんです」
 依頼主‥‥区の職員の顔に苦渋が広がる。
 その呪いの桜は、いつ倒れてもおかしくない状態なのだ。
 幹の内部はすでに腐りはて、空洞ばかりだから。
 これから花見のシーズンになる。もしも花見客の上に倒れたりなどしたら‥‥。
「大問題ですね」
 零が頷いた。
 それでなくとも行政に対するバッシングが激しい昨今だ。怪我人や死者などが出たら、何を言われるか判ったものではない。
 つまり、事故が起こる前に、その桜を「何とか」したいということである。
 下顎に手を当てて考えていた草間が、
「報酬は安くないぜ」
 と、言った。














※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。

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呪いの桜

 桜の木の下には死体が埋まっている。
 だから、妖しく美しく咲き誇るのだ。
 あるいはそれは冥界への誘い。
 人々を引き寄せ、暗く深い場所へと連れ去ろうとする。
「あなたも引き込まれますよぉ〜〜」
 ひゅーどろどろ。
 思い入れたっぷりに草間零が言う。
「‥‥怪談大会ですか? ずいぶん季節はずれですけど」
 きょとんとした顔で、事務所に入ってきたばかりの海原みなもが訪ねた。
 怖がってはくれていないようだ。残念ながら。
 まあ、零の話し方では怪談だってたいして怖くはない。
 中の鳥島にいた頃はもう少し迫力があったはずなのだが、日に日に人間が丸くなっている。
 幸福の証拠、ということで問題ないだろう。
「やれやれ‥‥」
 シュライン・エマが肩をすくめた。
 この探偵事務所の所長の細君で、
「影の支配者だごぐむぶぅっ!?」
 くだらないことを言おうとした巫灰慈が、一瞬で撃沈された。
「フンっ」
 蒼眸の美女の鼻息。
 はやいことはやいこと。
 相変わらず、彼女の踵落としは冴え渡っているようだ。
 いつもの光景。
 騒がしく、だが、どこまでも平和な。
「それはともかくとして、なんでお前がここにいるんだ?」
 缶入りの緑茶を飲みながら、守崎啓斗が言った。
「べつにいたっていいでしょ」
 つん、と、篠宮夜宵が反論する。
 非友好的な火花を散らしながら視線が絡み合う。
 といっても、本気で憎しみあっているわけでもなんでもなく、一昔前の猫と鼠のアニメみたいなものである。
「あの二人はなにをやってるんですかぁ?」
 啓斗と夜宵に視線を送りながら、みなもが訪ねる。
「仲良く喧嘩しなってやつさぁ」
 暢気に応えたのは守崎北斗。啓斗の双子の弟だ。
「あ、私にも一本ください」
「あいよー」
 ポッキーの小袋を投げ渡す。
 平和なことだ。
「はいはい。ミーティング始めるわよ。みんな座って」
 ぱんぱんと手を拍くシュライン。
 まるで教師のようだった。
 もっとも、一七歳が三人に一三歳が一人混じっているパーティーでは、こうならざるを得ない。
「つーか俺って最年長じゃん‥‥」
 巫の嘆き。
 彼はシュラインと同年の二六歳である。世間一般には青二才といわれる歳だが、最年少のみなもからは一三歳の年齢差があったりする。
「灰慈はまだいいじゃねーか‥‥俺なんか俺なんか‥‥」
 ぶちぶちと悲嘆しているのは草間武彦。
 すでに三十路に突入している所長だ。
「武さんっ!」
「灰慈っ!!」
 ひしっと抱き合う男ども。
 わりと鬱陶しい。
「まったく‥‥」
「まあまあ。義姉さん」
 溜息をつくシュラインと、その肩を叩く零。
 嫁と小姑の関係はすこぶる上手くいっているようだ。
 くすりと年少者たちが微笑する。
 自分たちの方が大人だと思ったから、ではない。
 心が老いない、ということを再確認したからである。
 むろん、素直でない彼らが面と向かって年長者たちを褒めることなどありえないが。


 桜にまつわる怪談。
 じつのところ、それほど珍しい話ではない。
 零が与太話を語ったように。
「とはいえ、そのうち本物の心霊が絡んでるケースなんて、一割もねーさ」
 タバコをふかしながらのたまう巫。
 浄化屋という職業柄、この手のことには非常に詳しい彼である。
 軽く頷く啓斗と北斗。
 彼らもまた、そのことをよく知っている。
 そしてそれ以上のことも。
「残り一割が、怖ろしいのよね」
「はい‥‥」
 夜宵とみなもの会話である。
 狂言なり誤認なりなら、それは怖れるに値しない。
「ま、用心していきましょ。用心していてなにもなかったときは笑い話で済むけど、用心しないで何かあったら、笑えないわ」
 シュラインが言った。
 賢者の弁というやつである。
 彼女が口を開くと、普段は不遜でふざけてばかりいる男どもがきちんと聞くのだ。
 影の支配者とは大袈裟だが、ようするに姉貴分として尊敬を受けているのである。むろん、本人が嬉しいかどうかは別問題だ。
「普通に考えて、木の種類は染井吉野よね」
 そのシュラインが、コンピューターから資料映像を引き出す。
 守崎ツインズが首をかしげた。
「桜に種類なんかあるのか?」
「あっしは知りませんぜ。あにき」
「バカ兄弟‥‥」
 溜息をつく夜宵。
 まあ、男の子は花の種類なんかに興味がないのだ。きっと。
 染井吉野をはじめ、八重桜や彼岸桜などその種類は多い。
「ちなみに桜はバラのなかまですよ」
「そっちは初耳だったぜ。詳しいな。お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんはやめてください」
 ぐりぐりと頭を撫でてくれる巫に、みなもがうーっと唸る。
 なんだか兄妹みたいに仲が良い。
「で、木の種類なんか関係あるのか?」
 啓斗が訪ねる。
 こくりと頷くシュライン。
「たとえば樹齢」
「樹齢?」
「そう。木の年齢ね」
 染井吉野は寿命が短い。
 せいぜい一〇〇年かそこらなのだ。
「それは短いの?」
「短いさ。屋久杉なんかには一〇〇〇年を超えるものもあるんだぜ」
 北斗の問いに巫が応える。
 何気ない会話ではあるが、無視できぬ示唆を含んでいた。
 今から一〇〇年前といえば明治時代の末期だ。
 つまり江戸時代や明治維新頃の幽霊が取り付いているはずがない、ということである。
「地縛って可能性もありますけどね」
「可能性だけなら、他にも色々あるわね」
 夜宵の言葉に、シュラインが苦笑を浮かべる。
 もともと染井吉野が品種として成立したのは、江戸時代の末期である。
 そこから植樹していったとすれば、
「寿命が尽きてる?」
「そゆこと」
 樹齢が尽きて花を咲かせなくなった桜に、怪談を仮借する。
 良くある話だ。
「どっちみち、行って確かめるしかないってことだろ」
 ミーティングの終わりを告げるように巫が席を立つ。
 シュライン、みなもが続いたが、啓斗がやや渋った。
 怪訝な顔で振り返る年長組。
 むろん彼らは、緑瞳の少年の心にある情動を知らない。
 知っていたのは、彼の親しい人たちである。
 北斗と夜宵。
 無言で彼の肩を叩く。
 安心させるように。あるいは、勇気づけるように。


 ハイエースとシルビアが問題の公園に到着したのは、午後も遅くになってからだった。
 四月に入ったばかりの風はほの暖かく、臆病な春の女神の息吹のようだ。
 公園の桜は、ごくわずかに蕾が脹らみはじめ、開花が間近いことを教えている。
「これは‥‥」
「なかなか‥‥」
「ちょっとしたものね‥‥」
 女性陣が、やや怯えたように遠方を見遣った。
 公園の奥。
 小高い丘になっている場所に、ぽつんとたつ巨木。
 染井吉野だとすれば、樹齢一〇〇年はこえていそうだ。
 逆光のシルエットはまるで妖怪樹。
 枝はくねり、葉はまだらに染まり、不気味さを醸し出している。
「たしかに変な噂が立つのは、当然だろうな」
 巫が断じる。
「ああ‥‥」
「まったく‥‥」
 双子が続いた。
 それほどまでに陰鬱な雰囲気だった。
 まるで問題の桜の周囲だけが別世界のようである。
 怪奇探偵の兄妹を含めた八人が、ゆっくりと桜の近くへと進む。
「なにか感じる? 灰慈」
「んー‥‥いや、べつに」
 わずかに躊躇った後、浄化屋が応えた。
 頷くシュライン。
「この桜を区が伐採しようとしたのは三回。六年前、三年前、そして今年」
「どれでも事故は起こったのか?」
 啓斗が訪ねた。
「と、いわれてるけど、誰がどの程度の怪我をしたのかは公式記録には書かれていないの」
 微妙すぎる答えだ。
 小首をかしげる夜宵とみなも。
「せめて今年の分は記録がはっきりしていても良いと思うけど」
「ですねぇ」
 過去の記録なら、不備がある可能性もたしかに否定できない。
 しかし、今年に入ってからのものに不備があるのはどうだろう?
「可能性その一。お役所仕事」
 歌うように北斗が言う。
「可能性その二。隠したい事情がある」
 真面目くさって告げるのは啓斗だ。
 なんとなく仲間たちが顔を見合わせる。
 前者は、まあ役所というものの体質を考えれば、ある程度は納得できる。
 だが後者は?
「‥‥しまったかも‥‥」
 モバイル端末を取り出すシュライン。
 流麗な手の動きを、仲間たちが固唾をのんで見守った。
 やがて、
「ビンゴ」
 蒼眸の美女が、笑う。


 六年前、この桜の伐採を請け負ったのは、三島工務店という会社だ。
 三年前、この桜の伐採を請け負ったのは、オフィスミシマという会社だ。
 そして今年受注したのは、TI工業という会社だ。
「この三つは、同じ人が経営してるわ」
 シュラインの言葉。
 もつれた糸をほどくように。
 三島甚一。
 現TI工業の社長である。
 彼は父親から小規模な工務店を相続し、オフィスミシマと名前を変え、先年、株式公開をしてTI工業とした。
 まず順当に会社を成長させたわけだ。
「名前が変わったのには、とくに意味はないと思うわ。この件に対しては、という意味だけど」
「偶然の結果だったから、判りづらかっただけですね」
 夜宵が、むしろ自分に解説するように言い、みなもがつづく。
 TI工業は、三度、桜伐採の依頼を受け、三度失敗している。
 普通に考えればおかしな状態だ。
 失敗は、企業としての信用を失う。
 二度目なら、信用回復のためのリベンジ、という見方もできる。だが三度目は?
 ギャンブルとすらいえないような無謀さだ。
 であれば、
「その会社は、わざと失敗した‥‥?」
 みなもが呻く。
「信用を失ってまで守りたいものが、ここにはある?」
 まじまじと桜を見つめる北斗。
「むしろ、信用以上のものを失うのさ。ここのことがバレるとな」
 肩をすくめながら、巫が呟いた。
「やっぱりなんか気づいていたわね」
 やや棘を含んだ視線を、シュラインが浄化屋に向ける。
「そういうシュラインも気づいてたんじゃねーか」
「私は灰慈の態度からなんとなく察しただけよ。説明してちょうだい」
「説明もなにも、ここに悪霊はいねぇ」
「でも、なにかはあるのね?」
「零の与太話さ。死体がある」
『!?』
 一〇代の四人が息を飲む。
 そして、
「そうか。知ってしまったか」
 探偵たちの背後から響く声。
 背広姿の男だ。
 おそらくは三島甚一。
 啓斗と北斗がすっと身構えた。肉弾戦に優れた二人である。
 だが、男は戦意を示さず両手をあげた。
 あるいは、疲れ切った老兵のように。
「話して、もらえますね?」
 夜宵が微笑みかけた。聖母のように優しく。


 もう三〇年以上も前のことだ。
 三島は恋人を殺した。
 この場所で。
 別れ話のもつれである。当時、彼に縁談が持ちあがっていたのだ。
 良家の娘との。
 別れを切り出す三島を、恋人は烈しく責めた。
 ナイフを持ち出し、あなたを殺して私も死ぬといって暴れた。
 揉みあいになった。
 我に返ったとき、三島の手には果物ナイフが握られ、恋人は地面に倒れていた。
 彼は怖れ、焦り、恋人の遺体を木のウロに入れて逃げた。
 もちろん完全に隠すことなどできない。
 すぐに見つかるだろう。
 恐怖のままに一夜を自宅で過ごし、翌日、この公園にきてみると。
「うろは、なくなっていました」
 呟く。
 恋人は桜に飲み込まれたのか。そもそも最初からウロなどなく、恋人とのいさかいも幻だったのか。
 彼には判らなかった。
 判っていることは、その年から、この桜の木が花をつけなくなったということだけである。
 三島は警察に調べられることもなく、一歳また一歳と年齢を重ね、白髪を増やしていった。
 桜もまた、花をつけぬまま時を過ごした。
「とりこまれた‥‥のか?」
 啓斗が、我知らず身震いする。
 真面目だが果敢なニンジャボーイにも、苦手なものがあるのだ。
 ただまあ、不気味といえば不気味な話ではある。
「事故が起きるってのは、どういう事ですか?」
 気を取り直したように、みなもが訪ねた。
「それは‥‥」
 説明する三島。
 彼は実際に工事する人間に整備不良のチェーンソーを渡し、この木にまつわる怪談を言って聞かせた。
 あとは人間の心理である。
 怖いと思えば、枯れ尾花だって幽霊に見える。
 動きの悪いチェーンソーは桜の仕業ということになった。こんな仕事をしていれば指先を切るくらい日常茶飯事だが、それね桜のせいにされた。
「なんとまあ‥‥」
「見事だな‥‥」
 シュラインと北斗が唸る。
 ある意味において、三島は見事なまでの策略家だったというべきだろう。
 こうして桜の木はずっと守られてきた。
 三島の罪を隠して。
「まあ、特殊な例ではあるんだけどな」
 言った巫が、いきなり懐からナイフを取り出し、深々と幹に突き刺す。
 どろりと溢れ出る樹液。
 息を飲む仲間たち。
 それは、血と同じ色をしていた。
「ひぃぃぃぃ!!!!」
 蒼白になった三島が脱兎のように逃げ出す。
 髪を振り乱し、必死の形相で。
「あっ!」
「このっ!」
 守崎ツインズが追おうとするが、
「放っておきましょ」
 夜宵が二人を留める。
 錯乱した六〇過ぎの老人など、放置しておいてかまわない。
 殺人を犯し、その罪を三〇年以上もの間ずっと抱え込んできたと思えば哀れでもある。
「それに、もう時効なんじゃないですか?」
 みなもが言った。
「法律的にはね。でも、人の心に時効はないわ」
 視線を上に向けるシュライン。
 ざわざわと、呪いの桜がざわめく。
「この世に寄る辺なき魂。畏み畏み申す」
 朗々と響く巫の祝詞。
 ひとつの木に宿った、ふたつの命。樹木と人間の。
 それを分離しているのだということを、仲間たちは理性以外のもので察した。
 むろん、どちらも助けることはできない。
 桜はすでに寿命に達し、命数を使い果たしている。
 取り込まれた人間は、最初から死者だ。
 だから、ふたつの魂を解放する。
 生者にしてやれることは、そのくらいのものだ。
「みてっ!」
 夜宵が指さした。
 枝を。
 それは、まるで魔術のように。
 奇跡のように。
 何十年も花をつけなかった桜が、次々と花を咲かせてゆく。
「狂い‥‥咲き‥‥」
「でも、きれいですね‥‥」
 シュラインとみなもが呟いた。
 桜を縛っていた人間の魂が解放され、樹木本来の力が蘇ったのだ。
 大きく息を吐く巫。
 玉の汗が浮かんでいた。
「‥‥‥‥」
 無言で、啓斗が巨木を見つめていた。
 その内心をどんな思いが去来しているのか、むろん他人は知る術がない。
「兄貴‥‥俺がいるから」
 いつの間にか横に並んだ北斗が告げる。
「ああ」
 兄が応えた。
 それは、兄弟にだけ判る会話だったろうか。
 数十年の時を経て咲いた桜が、人間たちを見つめる。
 風がそよぐ。
 薄桃色の花弁が、優雅に舞っていた。


  エピローグ

「ありがとうございますっ」
 アルバイト料を受け取ったみなもが、元気に頭をさげる。
「またよろしくね」
 大蔵大臣の、ありがたいお言葉だ。
 もちろん報酬はみなもだけではなく、他のメンバーにも出ている。
 厚くもない封筒を内ポケットに入れ、巫が事務所を後にしようとした。
「あ、待って灰慈」
「なした? シュライン」
 振り返る。
 少しだけ寂しげな笑顔が、紅い瞳に映った。
 結局、狂い咲きは一夜で終わり、呪いの桜は倒れた。
 それを見守ったのは怪奇探偵たちである。
 そして、幹からは人間の骨や衣服など出てこなかった。
 完全に一つになっていたから、と、浄化屋は説明した。
 三島に刺された女性は、桜の木の中で死にたくないと願った。
 その願いを桜が聞き届けた。自分と同化することで女性を救った。そして何十年もあの場所にたたずみ、ゆっくりと怨念を浄化していったのだ。
 汚水を、森の木々が浄化するように。
 それが今回の事件の結末である。
「えっとね‥‥」
「なんだよ?」
「お花見でもしない? 解決祝いに」
 やや唐突な申し出。
 巫がなにか応えるよりはやく、
「それいーじゃんっ!!」
「賛成ですっ!」
 草間とみなもが食いついてくる。
 お祭り好きの二人だ。花見と聞いて黙っているわけがない。
「OK。ぜひ参加させてもらうぜ」
 苦笑を浮かべつつ、巫が親指を立ててみせた。
「そうこなくっちゃ」
 微笑するシュライン。
 上野公園の桜たちが騒々しい闖入者を迎えるのは、もう間もなくのことだ。
 すっかり暖かくなった風が、ゆらゆらとカーテンを揺らしていた。










                       おわり



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1005/ 篠宮・夜宵    /女  / 17 / 高校生
  (しのみや・やよい)
0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0554/ 守崎・啓斗    /男  / 17 / 高校生
  (もりさき・けいと)
0568/ 守崎・北斗    /男  / 17 / 高校生
  (もりさき・ほくと)
1415/ 海原・みあお   /女  / 13 / 小学生
  (うなばら・みあお)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「呪いの桜」お届けいたします。
こういう結末です。
お客さまの推理は当たりましたか?(懐かしのフレーズです☆)
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。





☆お詫びとお知らせ☆

4月12日、19日、26日の新作アップは、著者、私事都合によりおやすみいたします。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
代わりといっては何ですが、今月はシチュエーションノベル系をずっと開けておきますので、よろしければご利用ください。