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<東京怪談・PCゲームノベル>


人形博物館へようこそ!〜夜桜見物

「お花見をしませんか?」
 人形博物館の一室、ローズマリーの部屋で、榊船亜真知はにっこりと笑った。
 周囲に人がいないことはきちんと確認済みである。一応、あまり騒ぎを起こさないように心がけているらしい人形たちは、他に人がいると話し掛けても答えてくれないのだ。
 目の前にいるのはこの部屋の主――人間側から見ればこの部屋の目玉展示物ということになるのだろうが――ローズマリー。
「……お花見?」
 きょろきょろと周囲を確認してから、ローズマリーはおずおずと問い返してきた。
 亜真知は笑顔のままでこくりと頷いて答える。
「はい。わたくしがお世話になっている神社に、とても綺麗な桜があるんです」
 亜真知が住んでいる天薙神社は、規模こそ小さいものの隠れた名所で、のんびりと花見をするには最適な場所なのだ。隠れたと言うだけあって人も少ないので、お人形たちを誘って遊ぶにもちょうど良い。
 ローズマリーはゆっくりと戸惑いの表情を変え、はにかむように笑った。
「ご招待どうもありがとうございます。是非、行ってみたいわ」
 と、その時。
「ずるーいっ」
 足元から響いた声に、亜真知はぱっと視線を下に向けた。
 そこに赤いリボンで金髪をポニーテールにまとめたお人形――ジェシカが腰に手を当てぷくっと頬を膨らませていた。
「ボクも行きたいっ」
 それから、ジェシカの隣にはくるくるっとした天然パーマのショートカット、他のお人形たちに比べると少々幼いエリス。
「では、皆でお喋りをしましょう。きっと賑やかな方が楽しいですわ」
 亜真知の提案に、ジェシカとエリスがわーいっと歓声をあげる。
「あの……すみませんっ」
 何故か恐縮してしまっているローズマリーに、亜真知はにこりと笑顔を送った。
「謝ることなんてありませんわ。だって、お友達は多いほうが楽しいですもの。わたくしも嬉しいです」
 その言葉にローズマリーは、照れたように顔を赤くしながらも、嬉しそうに微笑んだのだった。


 人形博物館の閉館時間は午後の五時。故に、お茶会は夕方からということになった。まあこの時期ならば五時過ぎくらいならばまだ充分に明るいし、夜桜という手もある。夕焼のお花見というのもなかなかに風情があって良いかもしれない。
 そんなお花見計画を考えつつ、肩に三人を乗せた亜真知は天薙神社へと向かう。
 実はすでにだいたいの準備は済ませてあったりする。亜真知お手製のスコーンとクッキーはお皿に並べるだけだし、茶葉もカップもすぐ出せるようにしてあった。
「うわあ……」
 テーブルの上にもう一つ、人形サイズのテーブルが置かれているのを見つけて、ローズマリーがきらきらと瞳を輝かせた。
 ジェシカとエリスも楽しげな様子でテーブルを見つめている。
「すごーいっ!」
 テーブルの上に降り立ったジェシカは、パタパタと人形サイズのテーブルへと駆け寄った。
「あ、ジェシカ。ちょっと待って」
 勧められるまで待ったほうが良いと考えているらしいローズマリーは、慌ててジェシカを止めようとする。だが言葉程度で止まるジェシカではなかった。
「すごぉいっ!」
 ジェシカの口真似で言ったエリスも、ジェシカを追って駆け出して行く。
「あの、ごめんなさい……」
 済まなそうに俯くローズマリーに、亜真知は優しく微笑みかけた。
「謝るようなことなんて一つもありませんわ。あんなに喜んでもらって、わたくし、とっても嬉しいですもの」
 予想外の答えだったのか、ローズマリーは少しだけ目を丸くして。それから、にこりと嬉しそうに笑った。はにかむのではない笑顔――ローズマリーには珍しい表情である。
「さあ、ローズマリーさんもどうぞ」
 小さな椅子を勧めると、ローズマリーはドレスの裾を持って優雅に礼をしてから席につく。
 亜真知は人形さん用に作った小さいスコーンやクッキーをお皿に並べて、カップにお茶を注いでいく。
 その身のこなしは優雅で、春の季節にぴったりの桜柄の振袖姿と相俟って、風流そのものの光景を見せた。
 一通りの準備を終えた亜真知が席につくと、待ってましたとばかりにジェシカとエリスからいただきますの声があがった。
「おいしーいっ」
「えへへへー」
 ぱくっと一個に手を伸ばしたジェシカとエリスは、にこにこと上機嫌にお菓子とお茶を頬張っていく。
「いただきます」
 ローズマリーはきちんと亜真知と目を合わせて言ってから、お菓子とお茶に手を伸ばした。ローズマリーの表情が柔らかに綻ぶ。
「本当、すごく美味しい」
「そう言って頂けると、わたくしも作ったかいがありますわ」
 夕焼に赤く染まった桜も昼間とはまた違った趣があり美しい。
 が、夕焼の時間というのは短いものだ。
 楽しくお喋りをしていたこともあって、あっという間に時間は過ぎる。気付けば、あたりはもう夕闇に染まり始めていた。
 誰も『終わり』などと言うことは口にしなかったが、お人形三人は暗くなったらお開きになると思っている様子。
 だってここは外で、大きな公園とは違いライトアップできるような設備もない。
 亜真知は、名残惜しそうにしている人形たちににっこりと笑いかけた。
「これからが本番ですわ」
 クスリと。
 手品のたねでも明かすように言って、亜真知は力を発動させた。
 ぽっと、当たりに小さな光が灯る。
 ホタルよりも少し明るい、けれど決して明るすぎない光が桜に降り注ぎ、当たりは幻想的な風景に満ちる。
 そのあまりの美しさに何も言えないでただただ桜を見つめるお人形たちに、亜真知は再度にこりと笑顔を向けた。


 結局――その日のお花見は日付が変わる頃まで続いた。尽きないお喋りと幻想的な風景と。
 四人は、心行くまでお花見を楽しんだのであった。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1593|榊船亜真知|女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?

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         ライター通信          
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こんにちわ、いつもお世話になっております日向 葵です。

このたびはお人形さんをお茶会に誘ってくださり、どうもありがとうございました。
さすがに全員は書ききれなかったので、十人の仲では特にローズマリーさんと仲の良いジェシカさんとエリスさんに登場願いました。

呼称をプレイングに合わせてローズマリーさんとするか、キャラクターデータに合わせてローズマリー様とするか悩んだのですが、プレイングに合わせました。
イメージとずれていたらすみません、その場合には遠慮なく言ってくださいませ。

それでは、今回はどうもありがとうございました。