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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


【みんなでお遊戯】
「友達に飢えている子供の霊、ですか」
「うむ。なかなか可哀想なやつぢゃ」
「ああ、ここんとこ毎晩泣いているのはそいつやったんか。うるさくてかなわんよ」
 恵美、嬉璃、綾の三人娘(?)は管理人室でお茶を飲みながらくつろいでいた。嬉璃はお茶菓子代わりに、ここ数日起こっている事件の中で一番気にかけている『夜な夜なすすり泣く子供の霊』について話して聞かせたのだった。
「数多の気配に誘われてここへ来たはいいものの、おるのは子供が怖がるような者ばかりぢゃからな。さぞガッカリしたことぢゃろう」
「何とかできないんですか?」
「うむ。大勢で遊んでやれば、おとなしく成仏するはずぢゃ」
「でも大勢って……私たちだけじゃとても足りませんよ」
「そんなもん、うちがパッパと集めたるわ」
 拳を握り締め、綾が立ち上がった。
「集めるって、来てくれるかしら」
 恵美が言うと、綾はポケットから札束を取り出した。
「心配せんでええ、バイト代はコレで足りるやろ」
 札束をパチパチ指ではじく綾。財閥令嬢の本領発揮である。
「その可哀想な子供、キッチリ成仏させてやろうやないの」

「おーい、連れてきたでー」
 綾が両手を振りながら帰ってきた。連れているふたりの少女を見て、恵美はほくそ笑んだ。
「年が近そうな子が集まってくれましたね。どうして引き受けてくれたの? 幽霊は怖くないの?」
「……だって、ほうっておけなかったから。そのゆうれいさん、かわいそうです」
 今川恵那は小さな声で言った。つぶらな黒い瞳が特徴的な女の子だ。
「私は恵那に誘われたからです」
 と、飛鷹いずみは短く言葉を切った。その茶髪といい口調といい、小学生らしからぬ雰囲気の持ち主である。
「用意が出来たようぢゃな」
 後ろで見ていた嬉璃がつぶやいた。
「ではその幽霊を呼ばないといかんが」
「私がテレパシーで、遊ぼうって、よびかけてみます」
 恵那が目を瞑り、何事か念じ始めた。
 すると、音もなく気配もなく、恵美の横に……半透明の少年が現れた。目はうつろ。顔色はこの上なく青白く、生気がない。まさしく幽霊だ。元来怪奇嫌いの恵美は思い切り叫んだ。
「大声を出すな。怖がるぢゃろうが」
「いきなりすぎますよ! まだ心の準備が」
「この子ですね。つらそうな顔してる……」
 恵那が眉をひそめ、恐れることもなく幽霊に近づく。いずみは困惑の様子を見せながら恵那と共に歩みを進めた。
「私、今川恵那。私たちがあそんであげるから、なかないでね?」
「飛鷹いずみ。まあ、そういうことだから、辛気臭い顔だけはやめてね。私も一応頑張ってみるから」
「大したもんやね。このふたりのほうが、よっぽど大人やんか」
 綾は腰を抜かしている恵美を、そんな風に笑った。

 管理人室に移動した六人は、まず恵那が持ってきた多くの遊び道具の中から、トランプをやろうということになった。恵那がテレパシーで幽霊に聞いたところ、トランプがしたいとのことだった。六人で出来るトランプといえば、定番のババ抜きである。
「ルールは大丈夫?」
 いずみが聞くと、少年幽霊はやや笑って頷いた。
 ジョーカーを含む53枚のカードが恵那によって均等に配られ、各々がペアのカードを場に置いていく。
「むー、一番多いのはうちやんか」
 6枚のカードを睨んで綾が言う。一番少ないのは嬉璃の3枚。
「これならすぐに終わりそうぢゃな♪」
 ご機嫌な者、そうでない者、いたって冷静な者。さまざまな思惑が入り混じったババ抜きは始まった。

「……ひけ、ひけ、ひけ! ……やった、あがり!」
「あーあ、残念」
 恵美が万歳し、恵那がうなだれる。いよいよ終局に差し掛かり、残るは恵那と少年幽霊のふたりとなった。
「お、なんかいい顔しとるやないか少年」
「ふむ、楽しいということぢゃろう」
 綾が言うとおり、力のなかった幽霊の顔に、いつしか負けたくないという強い思いが込められてる。
「私は負けませんからね。さあ、えらんでください!」
 手持ちは恵那が2枚、幽霊が1枚。ババは恵那が持っているということだ。
 幽霊の指がおずおずと伸び、左のカードに手をかけられる。そこで、恵那が顔を歪める。それを見た幽霊は、右のカードを取ろうとして……もう一度左のカードをつまみ、今度は勢いよく引き抜いた。
「はあ、負けちゃった」
 恵那が心底残念そうに言った。幽霊は赤のクイーンのペアを場に置くと、初めて嬉しそうな表情をした。
「おめでとうぢゃな」
 嬉璃がよしよしと幽霊の頭を撫でた。
「さっきの表情、あからさますぎよ。演技は下手なのね」
 いずみが恵那の肩に手を置く。
「ねえ、もう1回やりましょ!」
 今度は絶対絶対勝ってやると、恵那は燃えるような目をした。
 
 その後、10回にも及ぶババ抜きの末、
「ねえ、もっと体を動かす遊びをしましょうよ」
 いずみの鶴の一声に、一同頷いた。
「体を動かす、かあ。いくらでも考え付きますけど」
「夢幻廊下でかけっこでもするかの?」
 嬉璃がからかうように言うと、恵美は首を振った。
「私、バンジージャンプがしてみたいです」
 唐突にいずみが言った。
「え、バンジーってアレ?」
「高いところからゴム紐をつけて飛び降りるアレ。爽快よ。そういう大きい穴は、ありませんか」
「そ、そんなものあるわけないじゃないですか。ねえ嬉璃さん?」
「いや、ちょうど雑霊が気まぐれで開けた穴が本館の大部屋にあるぞ。深さは20メートルほどかの」
「面白そうやん。やったろやったろ」
 アハハと笑う綾と正反対に、恵美の顔は青ざめている。そして、絶対に私はやらないから、とつぶやき始めた。
 一行はその大部屋に向かった。嫌だ嫌だと言っていた恵美も、怖いもの見たさで一番後ろからついてきている。
 嬉璃がふすまを開けた。一同の目に飛び込んだのは、ポッカリとうつろに開いた暗い穴。半径は10メートルほどか。深さはその二倍というから相当な大きさだ。
「へーえ、大きいですねえ!」
 恵那といずみが穴の淵に駆け寄って、下を覗いた。
「怖いね、深いね」
「じゃあ、試しに……」
 次の瞬間――恵那は、宙に舞った。いずみが急に恵那の背中を突いたのだ。
「き……きゃああああああああああああああ!」
 恵那の絶叫が響く。
「な、なにするんや?」
 綾も絶叫する。
「大丈夫ですよ。……ベクトル変換」
 いずみが落ちてゆく恵那を凝視しながらつぶやくと、恵那は落下スピードを緩め、次第に止まり――ついには上昇して、元いた場所に帰ってきて、着地した。ベクトル変換。運動エネルギーを持ったものなら自在に動かせる飛鷹いずみの能力である。
「……面白かったですか?」
「心臓に悪いことをするなー!」
 いずみ以外の五人が同時に突っ込んだ。……幽霊も心臓が悪くなるのかとかは、誰も突っ込まなかったが。
 
 一行は、その後は健全に(?)バンジージャンプを楽しんだ。それからも五人は時間を忘れて様々な遊びを幽霊と共に楽しんだ。途中、いずみは綾からもらったバイト代で豪華なお菓子を買い集めてみんなで食べた。いずみ本人は、何と幽霊を自分に憑依させて食べさせるという快挙に出て、『本当にお前は小学生か』などと突っ込まれた。
「わ、上手ですね!」
 恵那が持ってきたゴムを使って、幽霊はゴム飛びをしていた。軽快な跳躍は、死者とは思われない動きだった。彼の表情は喜びに溢れていた。生前は明るくて元気な子だったのだろう。誰もがそう思った。
 やがて、幽霊は足を止め、座敷わらしと人間たちに向き直った。
「――もう十分、満足したようぢゃな」
 嬉璃が言うと、幽霊はニコリと笑った。
「あ、成仏できるんやね」
「そうですか。楽しんでもらえたのね。よかった」
 綾も恵美も、感慨深げに頷いた。
「いっちゃうんだ。……じゃあ、お別れのあくしゅ」
「うん、握手」
 恵那といずみが、小さな手を差し出す。握り返してきた少年の手は暖かかった。
 夕陽の明るい赤があやかし荘を包む中、幽霊は掻き消えた。五人は確かに聞いた。
 
 ――本当にありがとう。笑って言った、その一言を。
 
「もういちどうまれたら、またあそぼうね!」
 そう天に向かって言うと、恵那の瞳から、涙が溢れた。いずみは穏やかな笑みを浮かべていた。
 
【了】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1343/今川・恵那/女性/10歳/小学四年生・特殊テレパス】
【1271/飛鷹・いずみ/女性/10歳/小学生】

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■         ライター通信          ■
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 担当ライターのsilfluです。ご依頼ありがとうございました。
 
 今回の登場人物は年少者なので、台詞がそれっぽくなるように
 苦労しました。小学生、難しいものですね……。
 
 それではまたお会いしましょう。
 
 from silflu