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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ちいさくなったらなにをする?

「こんにちわー、今お暇ですかにゃー?」
 ノーテンキな声が草間興信所に響き渡った。
 ドアをあければそこには見覚えのある巨大猫。
「……何か御用ですか?」
 なんとも微妙な相手だが一応客……そう思い応接間に招き入れつつ尋ねると、猫は恭しい仕草で菓子折りを差し出してきた。
「先日はお世話になりましたのにゃ。今ではこいつと仲良くやっていますのにゃ。」
 落ちる視線を追うと、猫の足元には全長20pあまりの、どっからどう見てもエビフライに針金状の手足が生えた物体が……しかもそいつは草間の視線に気付くとまるで恥ずかしがるかのような素振りで猫の体の影に隠れやがるのである。
「………。」
 ……目を反らしてもいいですか?
「ご協力いただいた材料で作りましたエビフライですのにゃ。」
 いや、確かにエビフライですが……。
「今ではすっかりうちの看板エビフライですのにゃ。」
「はぁ……。」
 なんと返せばいいか……戸惑う草間に猫は真剣な面持ちでこう切り出してきた。
「……実は今日は一つお願いと言うか、相談があってきましたのにゃ…。」
 応接までお茶を頂きつつ聞いたところによれば、このエビフライ、なんともやんちゃでお困りの様子。たまには思い切り遊んでやりたいと思うもサイズがあまりにも違いすぎる。いい遊び相手がいないものか……せめて一度ぐらい思い切り遊ばせてやりたい。
「そこで、こういうものを作ってみたのにゃ!」
 猫が差し出したのは可愛らしい瓶に詰められた星型のクッキー。
「お一つどうぞですにゃ。」
「結構。」
「……やっぱりにゃ……TT」
 猫はめそめそとソファの背に突っ伏して涙を流し始める。
「……内容を先に話してください。」
「この子と同じサイズのなれるのにゃー!」
「そんな得体の知れんもん食えるかっ!」
「やっぱりダメかにゃ……た、食べて遊んでくれそうな人に心当たりないかにゃ…?」
 ……確かにここには色々な人間がいる。中には小さくなって見たいという酔狂な人間もいるかもしれない。
「……まぁそう言うことなら探してみてもいいが……」
 と、言いかけて、武彦はふと違和感に気付いた。
 猫がどんどん遠く……いや、大きく……。
「!?」
 そう言えばさっき、猫が持ってきた菓子折りの中のクッキーを食べた……。
 みるみるうちに体は縮み、あっという間に人形サイズ。
「罠か!?」
「にゃっ、にゃにゃっ、お、おいにゃは別に…お、おかしいにゃ、詰め間違えたのかにゃ…」
 おろおろと慌てる猫の足元で、先ほどの殊勝な態度はどこへやらエビフライが踊っている。
 顔があればそりゃもう喜色満面といったご様子。
「………犯人はお前かー!」
『♪』
 飛び掛る草間をエビフライはひらりと避けた。
「くっ……うぐっ!」
 軽やかな動きで草間の背後に廻り、足を引っかけ転がせた挙句に、逆エビ固め…。
「ぐっ、こら、やめんかッ!」
「……プロレスして遊んでもらってるにゃ、良かったのにゃ!」
 涙を流して喜ぶ猫。
「ちがーう!」
 ばんばんと床を叩いて放すように促すがエビフライは一向に離れない。
「…ところで、これどうやって戻るんですか?」
 と、誰かが尋ねた。
「………。」
「………。」
「………。」
「……消化されたらもどらにゃいかにゃ?」
 確証なしかよ。
 その場にいた全員が内心で突っ込みを入れる中、猫はじゃーんと毒々しい紫にピンクの水玉のきのこを取り出した。
「だ、大丈夫にゃのにゃ!いざとなったらこのきのこを使えば!」
「それは……?」
「右からむしって使ったにゃから左からむしって使えば大きくなれるワンダーランド産不思議なきのこにゃのにゃ!」
 つーことはあれですか、さっきの菓子折りの菓子の中にはそのめっちゃ毒々しいきのこが入ったお菓子が混ざっていたわけですね?
 げんなりする一同……そして次の瞬間、きのこは猫の手から消えていた。
「!?」
『♪』
 机の上で、いつ移動したものか、きのこを奪ったエビフライがガッツポーズ。
 そしてそのまま、エビフライはどこへともなく逃走を始めたのだった…。
「ま、まてこらーッ!」



OP・雪ノ下正風

 雪ノ下正風が草間興信所に遊びに来た時、応接間はまるで泥棒でも入ったのかと思うような状況だった。
 床に転がるティーカップ、本、書類、ひっくり返された椅子……しかし机の上にはケーキやクッキー、普段興信所では見ないような薫り高い紅茶が放置してある。
 ……ついでに何故か白い服の人形が一体。
「……誰もいないのか?」
 紅茶はまだ仄かな湯気を立てていて、ついさっきまで誰かがいたような気配はあるのだが……まるで何かのホラー映画の一幕のようだ、と思った。
 突然人間が消える…昔ながらの使い古されたネタではあるが、お約束のネタ程わかりやすく面白いものでもある。
 まあ本当に消えていたらそれはそれで困るが……また何か事件にでも巻き込まれたかと思いながら、正風は何気なく机のクッキーを手に取った。
 半ば無意識のように、極自然にそれを口に入れ……。
『あー!!』
「ん!?」
 誰かいたのかと下を向けば机の上の人形が大きく口を開けてこちらを指差していた。
『吐けっ、直ぐに吐けバカっ!』
 人形が動くと言うのも十分オカルト……興味の尽きない現象ではあるがそれ以前に何故人形にバカよばわりされねばならんのか……。
「バカとはなんだ、失礼な人形……!?」
 思わず言い返した正風は、動いた覚えなどないのにそれが急激に近づいてくる視界に目を見張った。
 机が眼前に近づく、そしてそれは高く遠ざかっていく……。
『だから言ってやったのにバーカバーカ』
 人形が机の上から見を乗り出してこちらを見ている……と言うより嘲っている。
「ノイ、ダメだよそんなこと言っちゃ。すいませーん、この子口が悪くって」
 続けて顔を覗かせたのは銀髪の女性……如月縁樹。人形の方はノイと言うらしい。
「悪気はないんですよね」
 のほほんとした声と共に顔を覗かせるのは金髪碧眼の神父……アリステア・ラグモンド。
 ノイは彼らに答えて胸をはった。
『バカにバカって言って何が悪いんだよ』
「だから人をバカ呼ばわりするなっ!」
 咄嗟にそう叫びながら、正風はようやく状況を把握した。
 下にあった机が上になっている、小さかった人形が今は大きく…とどのつまり、身体が縮んでいた。
「こいつは一体何事だ!?……事件か、事件だな!?敵は何処だっ!」

 ふと、雪ノ下正風はふと食欲をそそるいい香りに気付いた。
 誘われるように振り向くと……走ってくるエビフライが見えた。
「……エビフライ!?」
「にゃー!」
「うぎゃああぁぁっ!」
 ぽーんと軽やかに正風の頭上を飛び越えるエビフライ、続いて白い子猫とその背中に跨った…否むしろしがみついた金髪の兄ちゃんが……。
「……来てたのか。」
「おう、これは一体どういうことだ?」
 なにやら疲れた様子でその後から現れたのはここの所長、草間武彦だった。
 無論彼も小さくなっている。
「……話したくもないんだが…」
「話さなきゃわからん」
 言えば、武彦は渋々と言った様子で状況を語り始めた。
 猫が持ってきたクッキーのこと、それが菓子折りに混入していて興信所に居た殆どの人間がエビフライの策略で…エビフライにそれだけの知能があることは認めたくはないが…それを口にしてしまったこと。
 その上そいつが元に戻るためのキノコを持って逃げてしまったこと。
 さらには猫に変化してそれを追っていた中藤美猫が猫の本能故に、加えて小さくなったことを楽しむと公言して憚らない伍宮春華もおそらく本能故(?)に暴走を始め、美猫の背中に跨っていた鈴森夜刀は振り回され、春華の起こした竜巻は室内をしっちゃかめっちゃかに掻き回し…。
「……俺はもういい。元に戻るのを待つ。」
 武彦氏、大分お疲れの様子。
 ソファの足に背を持たれかけさせて、ポケットからマルボロを取り出してそれに火をつけた。
「……ふぅ」
「灰皿ないけどいいのか?」
「………。」



PART 4

「人間サイズのエビフライか…これはぜってー食わなければ!」
 そう心に誓って、雪ノ下正風はエビフライに飛び掛った。
 それを軽やかに避けるエビフライ…。
「……やるな。」
 エビフライは何を考えたものか、片手でちょっと待っていろと合図をして、何やらボードを取り出した。
 そこにはどうにか判別可能の汚い字でこう書かれていた。
『おまゐもな』
「食らえーっ!」
 正拳付き、回し蹴り……体術で持ってエビフライを追い詰めていく…と、そこに乱入してきたのは白い子猫。
「にゃああぁっ!」
「うわっ」
「ひー!」
『◎×△□!?』
 三者三様の悲鳴、奇声が上がり、4人……2人と2匹、あるいは2人と1匹と1本はもつれ合った転がった。
「お、おのれ……」
 正風が頭を振って顔を上げる。
「にゃ……す、すみません……」
 動きが止まったことで我に返って、美猫は恥ずかしさに顔を赤くして猫の手で自分の顔を覆った。
「や、やっと止まった……」
 目を回す夜刀の下にはエビフライが……。
「よし、お前、そのまま動くな!」
「え?ああ!?」
 夜刀は慌ててそれを踏みしめて動きを止めた。
『!!』
 今度はエビフライが床を叩く番だった……ばしばしと床を叩き苦痛を訴えている。
「召し取ったりー!!」
「よし、タルタルソースを持て!」
「え、エビフライさん、食べちゃうんですか……?」
 美猫としては動く知能のある多分生き物を生きたまま食べると言うのはなんだか怖いというか可哀想と言うか…。
「なんだ、もう終わっちゃったのか?」
 と、その背後から春華が顔を覗かせた。
 ノイに追われていたようだったが…遅れてノイ達が集まってきた。
『お前っ……あ、エビフライ捕まえたのか』
 ……そう言えばエビフライを追いかけていたような、と今思い出したのは秘密だ。
「キノコ取り返せばいいんですよね?」
「……そのまま食べて効くんですかねえ?」
 アリステアが首を傾げ……おうそう言えばと夜刀はエビフライの手元を見て声を上げた。
「あれ、キノコは!?」
「……ない。」
「何処に落としたー!!」
 そう、叫んだ時だった。視界がぐらりと揺れたのは。
「!?」
 全員が同時に、目を見張った。
 見る間に、ぐんぐん物が小さくなっていく…否、元のサイズに戻っていく。
「あ、戻りました。」
 そう言って、縁樹は確かめるように自分の掌を見た。
『良かったエンジュ〜!』
 ノイは抱き上げれるいつもの大きさになっていて、縁樹の足しがみついて、ノイが歓声を上げている
「良かったですねぇ。」
「あー、面白かった♪」
 アリステアがのほほんといい、ストレスを解消した春華は大きく伸びをしてにんまりと笑った。
「皆さん元に戻られて良かったです」
「人間サイズのエビフライ食い損ねたー!」
「こうなったらこのサイズでも…」
 そう言って夜刀がエビフライを摘み上げる。
 このエビフライには散々恨みがあるのだ。食ってやらねばなるまい。
「や、やめてくださいにゃ〜…」
 ふらふらと、奥の台所から猫が歩み出てきた。
 ……散々エビフライに翻弄されて滑って転んで頭を打って気絶していたのである。
「あ、猫さん大丈夫ですか……?」
 慌てて人間の姿に戻った美猫が駆け寄り彼を支え、猫はそれに大丈夫にゃ、と言い置いてその場に膝をついた。
「そいつはおいにゃにとっては大事な家族なのにゃ、食べないでやって欲しいのにゃ…最初は究極のエビフライを作ろうと思ったのにゃが…一緒に暮らしているうちに愛着が湧いて…確かに悪戯っ子にゃが悪気はにゃいのにゃ!皆に遊んで欲しかっただけだと思うのにゃ!」
 さめざめと語る猫……美猫はエビフライを掴んでいる夜刀と、早くもフォークを手にした正風を見た。
「ぅ……」
「……ぬ……」
 純粋な子供の目が痛い。
 猫さんが可哀想だから食べないで下さい、言葉にはされなかったがありありと伝わってくる思い……。
 エビフライを食そうとしていた男二人は固まった。
『!』
 その隙にひらりと夜刀の手を逃れたエビフライは猫の前に歩み寄り、そっとその膝に片手を置いた。
 もう片方の手が持ち出したパネルには……。
『ごじゅしんざま・・・。』
 相変わらず汚い字でそう書かれていた……ついでに微妙に間違っている。
「……エビフライー!!」
 がっしとそれを抱き締めて号泣する猫。
「それなりに楽しかったですしいいんじゃないですか?」
 そう言って、縁樹はにっこりと微笑んだ。
「お菓子の家を食べるヘンゼルとグレーテルの気分が味わえましたしねぇ」
「俺も楽しかったぞー」
『ボクは縁樹がいいって言うならいいけどね。どっちかと言うとエビフライよりそこのバカ鳥に迷惑かけられた感じだし?』
「誰がバカ鳥だっ。天狗様だぞっ!」
『バカにバカって言って何が悪いのさ!』
「……しょうがねえなあ……」
 お子様と人形が口論を初め……毒気を抜かれて夜刀は溜息を吐いた。
「かわりに美味しいエビフライを作りますにゃ!」
「おし、じゃなるべくでっかいの頼むな!」
 正風はぐっと拳を握る猫の肩を叩く。
 その背後で。
 エビフライが笑った……にやり、と。
「……確信犯!?」
「おい、そのエビフライ猫被ってるぞ、騙されんな!」
 男達がエビフライを指差したが、その時には彼(?)は先ほどの殊勝な態度…殊勝に見える態度……でもって猫の足に隠れたのだった。

 その後彼らは猫の作った料理を楽しみ……腑に落ちない人間も約2名程いたようだが美味しい料理で宥められた……和気藹々と散って行き……。
「…俺は楽しくなかった」
 武彦氏に残されたのは猫の作ったエビフライの山とミニ竜巻で荒らされた室内の片付けだった。

                              −END−

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
3002/アリステア・ラグモンド/男性/21歳/神父(癒しの御手)
1892/伍宮・春華/男性/75歳/中学生
1431/如月・縁樹/女性/19歳/旅人
2348/鈴森・夜刀/男性/518歳/鎌鼬弐番手
0391/雪ノ下・正風/男性/22歳/オカルト作家
2449/中藤・美猫/女性/7歳/小学生・半妖・44匹の猫の飼い主
(発注順になっています)

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■         ライター通信          ■
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 今回はプレイングの関係で雪ノ下さんのみ個人パートが長めで、全体の文章が短めになっております。
 全員個別のパートがあり、他の人の個人パートにでていることもありますのでよろしければ他の参加者の方の物も読んでみてやって下さい。

 ご参加ありがとうございました。
 誰もいない所に現れる、とのことでしたのでこのような形にさせて頂きました。人間大のエビフライは食べれませんでしたが少しでも楽しんでいただければ幸いです。ご縁がありましたらまた……。