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【学園七不思議】第二の不思議
<オープニング>
「……桜の季節だねえ」
別れの季節、散る季節とも言うかなあと弓弦・鈴夏は呟きながら部室より外の風景を見ていた。
そこへ――、チッチッと鈴夏に指を振る、一人の少女。
元気そうな表情そのままに、ホームズルックに身を固め鈴夏を真っ直ぐに見、
「違う、違うっ」と言うのは真鶴・ほくと――とある繋がりで友達となった鈴夏より一つ年上の先輩とも言える少女である。
「いーやっ。桜の季節と言う前に3月といえば待ちに待った春休みの時期っ。
そして4月と言えば部員勧誘の時期っ」
「…ま、真鶴さん一体何処から」
気付かなかったよ……と、見えぬ汗をひたすら鈴夏は流しつつ、ほくとへと聞く。
「え。普通通りにドアから来たけど? ま、ま、それはさて置き…事件なんだな、ワトソン君♪」
すぽっと自分の被っていた帽子を鈴夏に被せると、ほくとはとある紙をジャケットの中から取り出す。
「事件? と言うと七不思議系列の?」
「ん、生徒さんからの投書がきてさ……最近講堂に夕方以降何やら奇妙な物が出るらしいと」
でだ、とほくとは言葉を区切ると鈴夏に向かい微笑う。
「良ければ同好会の面々で、この件調べに行かん?」
「講堂、かあ……うん、一旦調べてみるのも面白いかもですね♪」
「良し、決まり! しかし……何つーか、よっぽど見たくないものがあるっつーのか……」
見て、これ……と、ほくとは更に鈴夏へと投書の文を見せる。
『お願いします。とっとと、どうにかしてください』
――とっととどうにかって、一体講堂に何があると言うのだろう(汗)
思わず知らず、仲良く首を捻って考え込んでしまう鈴夏とほくとだった。
+1+
「ふっふっふ……何処からともなく、みあお登場ーー♪」
じゃーん!
……何故か背後から大々的な音楽が今にも聞こえてきそうな……そんな登場の仕方をしたのは海原・みあお。
くりくりっとした大きな青い瞳は無邪気そのもので、いきなり登場したみあおに、鈴夏もほくとも驚きよりもまずは笑みが零れた。
そして、鈴夏が笑顔を浮かべたまま、みあおの近くへと寄り、視線を合わせるように腰を少しばかり屈めた。
「いらっしゃい、海原さん。今日はどうしたんですか?」
「んー、鈴夏ってば、そんな他人行儀な質問しちゃいやっ。って言うか、また何かあったんでしょ? ね、ね、探索しに行こうよ〜!! て、言うか……行くの決定〜♪」
一体何処で息継ぎしてるんですか、海原さん……ふと、そんな素朴な疑問を抱えながらも鈴夏は、「その前に」とみあおへとほくとを紹介した。
「今度からご一緒する方ですよ。私より一つ学年上の先輩に当たる方ですが…真鶴・ほくとさんです」
鈴夏の言葉に、にこっと笑うみあお。
「海原・みあおだよっ、宜しくね!」
「こちらこそ。……にしてもさぁ……みあおは何だと思う? この投書の件の"とっとと何とか"ってのは」
投書をみあおへと見せながら、ほくとは聞く。
こう言う場合、色々な意見を聞いたほうが対処のしようがあるような気がした――が、今現在のこの問題に対しては聞く事が間違っていたのかもしれない……とすぐさま後悔する事になるのだが。
「んー……講堂で怪異と言えば、王道の『跳ねるバスケットボール』『文化祭開催中に交通事故死した演劇部部員のジュリエット』とか?」
「「え……」」
鈴夏とほくとの顔色がさあっと変わり……表情から笑みが消えていく。
が、みあおは、ふたりの顔色が変わった事にも構わず。
「後は応用で『転がるバレーボール』『試合中に心臓麻痺で死亡したバスケット部部員』。でも、みあおとしては大穴で『講堂地下に存在する大日本帝国秘密兵器貯蔵所に眠る新兵器が引き起こす怪振動』とか応用の『講堂地下にある100層に亘る試練場』がいいなぁ。なんたって夢があるもんね!」
いやー、悩むよねえ……一体どんな"とっと"が出て来るのかなあ♪
にこにこ、にこにこ。
邪気の無い笑みを再び浮かべながら「あ、あのね、道具も一応持ってきたんだよー♪」と言う。
みあおが背負うには少し大きめのリュックから、お菓子とジュース、懐中電灯とデジカメ…更には、マッピング用のモバイルにメモ用紙と筆記用具までが、出てき……一体本当に何時の間に……と思う鈴夏と、そして。
「……夢かい!」
スパーン!
いい音を響かせ、誰を叩いて良いか解らない、ほくとのハリセンがテーブルを叩き――宙を、舞った。
+2+
篠咲・夏風は、この学校に通っている友人の手伝いで科学部へと顔を出していた。
セーラー服の上に白衣を羽織り、何処かそわそわと友人の言葉を聞いている。
「でね……ちょっと聞いてる?」
「あ……う、うん、勿論聞いてるわよ? で、その講堂がどうしたの?」
呆れたような友人の顔に夏風はきょとんとした顔をし友人を見返した。
(私…また奇妙なことを言ったのかしら?)
そう、思いながら「まさかね」とその考えを打ち消す。
が、返答はやはり最初に想像していた通りのもので。
「ほら、やっぱり聞いてない! 何だかね……出るらしいのよ」
「――出るって何が?」
「そりゃ、この時期にハエとか虫とか出るなら当たり前でしょう? 勿論、幽霊よ」
「……幽、霊?」
ぱちぱちと夏風は瞬きを繰り返す。
(…此処の講堂に幽霊が出ることなんてあったかしら?)
ほんの僅かな疑問。
実際、こっそり内緒で入っている事はあるが……一度もお目にかかった事がない。
(これは一体どう言うことだろう?)
夏風は疑問に思いながらも浮つく心を消し、友人の話に耳を傾けることにした。
……自分の取っていた行動がよもや、そんな話になっているとは露知らず。
+3+
その幽霊話とは、友人曰く簡略するとこう言うものだった。
『暗がりで白い人がピアノを弾いてる上に講堂に入ろうとすると耳元で何かを囁かれる』
思わず知らず夏風の顔にうっすら、汗が浮かぶ。
やばい!と思った。
他校だから構わないだろう――そんな考えだったのも否めない。
でも……でもっ。
(ま、まさか……そう言う話にされてるだなんて……!)
が、逃げるわけにも行かない。
とりあえず、夏風はふと浮かんだ疑問を友人に問うことにした。
「……入っていない筈なのに白い人だって解るの?」
「なんかそう言う話……って言うかね……用事があって入ろうとした子が居るらしいのよ。でも入りたくても囁かれるのが解るから、耳栓をして入ったそうなの」
「そうしたら、白い人が見えたの?」
「らしいわ。んで、結構大きな噂になっているから……つい先日、その子が"とっととどうにかしてください"って投書を送ったみたい」
「――何処に?」
投書と言う言葉に、ますます冷や汗が浮かんでいく。
まさか生徒会や先生じゃないと良いのだけれど……だが、そうでなければ一体何処へ?
「んと散策同好会って言って……ちょっと奇妙なものでも探してみてきます!と言うところ。…今の所、人数が少なくて部として承認されては居ないんだけど、確か最近奇妙な七不思議を見つけたとかで……」
「…散策、同好会……」
友人が言った言葉を再び繰り返す夏風。
その表情に友人も「おや」と思ったのか。
「部長さんって言うのかな、この場合会長さんかな? その子は白子みたいな色合いしてるから探すのは見つけやすいよ? 部室も高等部校舎から外れた所にあるし……」
興味ある?
そう言う友人に向かい、「そうね…もしかしたら事件かもしれないでしょう?」と夏風は顔色を変えないように微笑んだ。
実際は――それどころではなかったのだけれど。
+4+
「……特に、何も無いようじゃない?」
ガセだったかもしんないなあ……と呟くほくとに鈴夏が微笑う。
シン…と静まり返った講堂には3人の姿と静寂以外、何もなく……。
投書された紙に「とっととどうにかして下さい」以外、何も書かれて居なかったが、もしかしたら噂によって誰もが講堂へ入ることを避けているのかもしれなかった。
が、此処で帰ろうとしない辺りが同好会の面々なのかもしれない……何せ、みあおは好奇心の固まりのような子だ。
「何か無いかなあ?」……そう言いながら、あちこちを探し回ってはデジカメで写真を撮って回っている。
そして、
「……鈴夏、どう? 何か感じる?」
と、聞いてきた。
「いえ、特には……式で探索させた方が良いんでしょうけど……何て言うか、当たり前で」
「当たり前?」
ほくとが眉間に皺を寄せた。
当たり前と言う言葉にどう言う意味があるのかを視線で、問い掛ける。
ええと、と言葉を継ぐ鈴夏。
「いつもの講堂と同じようにしか見えないって事です」
何故、噂になったんでしょうね……と、みあお達が、講堂内で話している時、夏風はと言うと――……
「い、いやああああ! 何で部室に誰も居ないのーー?」
ま、まさか、もう講堂へ行ってるとかそう言うことじゃないわよね……?と、辺りを見回し机の上に置いてあった書置きに、蒼白になってしまう。
『少しの間、出ています。御用の方は講堂まで』
……読みやすい几帳面な文字で、しっかり「講堂」と書かれているのに蒼白さも手伝い眩暈も起こしそうになるが、
(ま、負けちゃ駄目よ夏風……此処で倒れても、何の意味があると言うの…っ!)
と、自分を励ましつつ、講堂へと向かう。
講堂内部では、みあおがメモ用紙に「此処の講堂は、何年に立てられたらしく、まだ内部は意外と綺麗な模様」とか書き込んでいる。
鈴夏やほくともあらゆる所を見、触ったりしているが、やはりこれと言った異常も無く……首を捻るばかり。
弾く人の居ないグランドピアノだけが寂しそうに存在感を示すことも無く、其処にあった。
+5+
ぜーぜーと息切れしながら夏風は講堂へと歩いてゆく。
すると「何か?」と聞く、ほくとと目が合った。
話し掛けやすそうな雰囲気に、息を整えるべく夏風は息を吸い込み、そして……
「ごめんなさい! その噂、私なんですーーー!!」
と、叫んだ。
ほくとから離れていた場所に居た鈴夏とみあおも、その声で「はい!?」と振り返り…更に、みあおは元気良く、夏風の元へと駆け出した。
「ねえねえっ、その噂がお姉さんだってどう言うことっ? みあお達、噂も何も知らずに此処に来てたんだよっ?」
「……え……? あの…だから…白い幽霊は私なんですっ」
……ますますもって解らないまま「???」とみあおら3人にクエスチョンマークが、くるくる回る。
どうやら詳しい話を聞く必要があるようだ、と感じたほくとは取り合えず、夏風へと「そうだねえ、詳しいことはとりあえず、部室で聞かせてくれるかな?」と、にっこり微笑んだ。
(幽霊ネタ、か……。道理で、詳しい事が何も書いてないわけだよ……)
…心の中で「してやられた!」と苦笑を浮かべながら。
4人は場所を変えるべく、ゆっくり部室に向かい歩き出す。
その間に自己紹介をしながら、夏風が、みあおと同じく他校生であること、また友人の手伝いで科学部へと良く遊びに来ることなどが聞け……ふむふむと鈴夏とほくとは頷いた。
「何となーく噂の真相が解ってきたような……」
「不思議と言う事にしておいた方が楽しいような……」
ぶつぶつと呟くふたりに、みあおが「応用編じゃなくって残念だったね!」と言う。
ほくとが、その言葉に対し、
「や、それはまたそれで不思議と言うには……ねぇ?」
と、鈴夏と夏風に同意を求めるが、夏風は解らずきょとんとするばかりで、鈴夏は鈴夏で軽く笑うばかり。
みあおも、「ま、何にせよ楽しかったし良いのかな?」誰に問い掛けるでもなく、肩を竦めた。
+6+
部室に着くと夏風は、やや戸惑い気味ながら話し出した。
どう、言っても呆れられるだろうなと言う考えがあるだけに、掌にじっとりとした汗が浮かぶのも抑えられなかった、けれど。
「夢は保母さんになることで……迷惑かなとか解っていながら講堂のピアノを…その友人を手伝った後に必ず弾いていたんです」
「…あれぇ? それだけなら噂になんかならないんじゃない? 確かに白衣も着てるから"白い人"だけどさっ」
納得いかないーー!と叫ぶ、みあお。
まあまあと、鈴夏がみあおの方を軽く叩き、ほくとが「続けてくれる?」と夏風へと続きを促す。
「ええ……確かに、それなら噂にもならなかったと思うんです。でも、私…まだヘタなのでその……」
「どうしたんです?」
「…暗がりでピアノを弾いていた上に、遠話投射、と言う能力を使って…入ってくるだろう人に色々入って来ないよう囁いてたんです…!」
ご、ごめんなさいっ。
唖然とする皆を見、夏風は申し訳なさを一杯にさせ机に額がくっついてしまう程、深く深く謝った。
そして、暫しの間。
「鈴夏さぁ……これ、こう言う不思議があった、と言うことで処理できない?」
そんな、ほくとの呟きが聞こえてきて。
みあおも、素直にほくとの意見へと同意した。
「みあおも賛成っ。どうせ夏風ももう、そう言う風には講堂で練習しないんだろうし……ピアノコンクールに出場できず無念のまま死んだ幽霊とか……どう?」
「んー……まあ、噂にもなっていたくらいですし……出来ないことはないですけど……。ただ、その幽霊…成仏したことにします? どうします?」
「え? どうするって…ああ、そっか…なるほどね」
鈴夏の問いにほくとも合点が言ったのか、なるほどなるほどと頷き、みあおも、何を言っているのか解らなかったようだが漸く解ったように、にっこり笑った。
「そっか! 夕方何時台から何時台まで出るよ、と言うことにしちゃえば良いんだ! 無論、土日祝日は幽霊さんとは言えお休みだろうけど♪」
その手段もあったんだねー♪と喜ぶ、みあお。
おずおずと、夏風の頭が漸く僅かながらに、机から離れる。
「あの…でも、それでいいんですか?」
凄くご迷惑かけちゃったのに……涙目になりながら夏風は顔をあげ皆を見た。
その時、夏風の瞳に飛び込んできたものは皆の笑顔と。
「大丈夫。世の中、不思議だと思うことばかりで溢れているんだから♪」
たまには、こう言う不思議も良いでしょう?
――……と言う、言葉だった。
―End―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生】
【2102 / 篠咲・夏風 / 女 / 17 / 高校生/風喚師】
【NPC / 弓弦・鈴夏 / 女 / 16 / 高校生/式神使い】
【NPC / 真鶴・ほくと / 女 / 17 / 女子高生】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、ライターの秋月 奏です。
今回はこちらの依頼に、ご参加くださり誠にありがとうございました!
篠咲さんは初めてのご参加ですね♪
いらしていただけて本当に嬉しかったです(^^)
何と言うか…自分がしていた事が噂になってたと言うのは
考えるだけで「ごめんなさい!」となりますよね。
私も学生時代にそう言う事があったなあと遠い目をしてみたり(笑)
少しでも今回の話を楽しんで頂けましたら、幸いです。
それでは、また何処かにてお逢い出来ますことを祈りつつ。
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