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<東京怪談ノベル(シングル)>


 『嘉神先生の天使降臨 ― 記憶の無い女子高生幽霊 ― 』

「どうした? まだ泣きやまねーの? だったら泣きたいだけ泣けよ。俺でよかったら側にいてやる」
『・・・・あなた、誰?』
「嘉神真輝。ただの教師さ」
『教師、ね』
「どうした? 教師に何か嫌な想い出でもあるのか? それで?」
『そんな単純ならいいんだけどね。だけど世の中は一見とても単純そうに見えて、だけどとても複雑に入りくんでのよ。1+1=2 世の中、そうやって数式みたいに筋道が立っていれば最高だけど、実際はそうじゃない。嫌にならない、嘉神先生? つまりね、そういう事。あたしがあなたが教師、と聞いてすごく嫌そうな顔をしたとしても、それがあたしがこうなった理由とは限らないのよ』
「へいへい。で、結局、おまえはどうして、


 幽霊になってもここにいるの?


 わかるように説明してくんない? それと俺、ちょっと哲学って苦手なんだよね♪」
『はぁ−、やれやれね。あなたもM教師の口?』
「うーん、そうでもないと想う。って言うか、俺はK教師」
『K教師?』
「そう、K教師。同僚にいじめられて、生徒にいじめられて、セクハラされて…そんな風に毎日毎日嫌な事に耐えるかわいそうで健気な教師…だからK教師。わかる?」
『わからないわ。それにさ、結局それってあなたの周りにはいつもたくさん人がいるって事じゃないの? 本当にそれが嫌なら…心が悲鳴をあげるぐらいに嫌な想いをしているなら、そうやって口には出せないでしょう』
「うーん、そうだな。まあ、確かに楽しくはあるかもな。背が縮むっていうすごぉ〜〜く嫌な事があったけど」
『え? なになに、面白そうじゃない。詳しく教えてよ』
「あ〜、だから……俺が女みたいに見えて、それでちょっとこいつホ○? と疑いたくなるようなデカイ生徒どもが俺に圧し掛かってきて、んで、そのせいだと想うんだけど、俺の背が縮んだんだよ」
『ぷぅ。面白ぉ〜い。きゃはははは』
「面白くない。人の不幸を笑うなよ」
『ごめんなさい。ああ、だけど笑ったのは久方ぶりね』
「久方ぶり? そんなに古くからいんのかよ? その割りによくM教師なんて言葉知っていたな?」
『ええ。用務員のおばちゃんの隣で毎日正座して一緒にテレビ見ているからね』
「ぷぅ。ふわははははは」
『って、あなたは何を笑っているのよ、嘉神先生?』
「あん? いや、あのごつい用務員のおばちゃんの隣であんたみたいなかわいい女子高生がちょこんと正座してテレビを一緒に見ている光景を想像したら笑えてきてさ」
『それってまるっきりM教師発言よ』
「厳しいね、どうも」
『うーん、年下にはお姉さんぶりたくなるのかしら?』
「幾つだよ、あんた?」
『あら、失礼ね。女性に年齢を訊くものじゃないわ』
「そりゃあ、失敬」
『ええ。じゃあ、その罰として明日の夜……あれ? 今は午前2時32分よね。こういう場合は今日の夜と言うのかしら? とにかく来てくれるかしら? 女の子っておしゃべりな生き物だから、だから嘉神先生がまた来てあたしとおしゃべりしてくれると嬉しい』
「へいへい。俺でよければ」
『だけど不思議よね』
「なにが?」
『この学校にもね、あなたのように嘉神真輝と言う名の家庭科教師がいるのよ。とても面白くって優しい先生で、生徒にもすごく人気があってね。あなたもその彼と同姓同名の教師なんだからがんばりなさいな。それにしても天使にも学校があって、教師がいるなんて不思議ね』
 ・・・。


 ・・・・・・その夢はそこで終わった。
「っかしーな夢。どうして俺が天使・・・の教師って、おい!!!」
 俺は自分で自分にツッコミを入れた。だけど入れたくもなるものだ。だって俺の姿は・・・
「なんだよ、これは?」
 ベッドから飛び降りた俺は洗面上に飛び込んで、鏡に映る自分を見つめた。そこにあるのは見知った自分の顔に、そして翡翠色の瞳。だけど違う部分もある。腰下まである髪と、そして背中にある二組四枚の羽。これではまるで・・・
「天使じゃねーか?」
 俺は鏡に映る自分にぼやきつつ頭を掻いた。
 しかし・・・
「まあ、いいか」
 なっちまったものはしょうがない。幸いにも今日は土曜日だ。学校は休み。明日になってもまだ戻っていなかったらその時に考えよう。
 俺はそう結論づけてベッドの上に戻り、そしてどうやら服には何の影響も出さずに背中から生えている半透明の羽をいじりながら、煙草を吹かした。


 ――――――――――――――――――――

「って、わぁーーーー」
 ベッドに寝転んで二度寝をしようとした俺はしかし、跳ね起きた。
 ――――だってそうだろう? 俺が天使となって、夜の空を飛んで、学校に行って、あの幽霊の女子高生としゃべったのだって要するに夢ではなかったという事になるわけだから。
「何なんだよ、一体?」
 いや、ひょっとしたらこれ事態がまだ夢?
 ――――夢の中で起きて学校に行って、安心する夢を俺は見た事がある。ひょっとしたら俺はまだ夢の中で、つまり俺はまだ寝ているのにそれなのに・・・・
 俺はほっぺをつねってみた。オーソドックスな使い古された見極め方。しかし充分に頬は痛い。つまりは夢じゃないという事だ。
「・・・」
 なんだかナ――。
 俺はベッドに寝転がる。
 ――――どうでもいいが羽がくしゃくしゃにならないか心配する自分がいてどうにも違和感がありまくりだ。
 いや、今はそんな事よりも、とにかくは状況を整理しよう。
 

 そう、昨夜、俺は何やら変な感覚がして起き上がったのだ。そうしたら俺は何やら空中に浮き上がっていて、慌てたんだ。ひょっとして幽体離脱したのかぁー? って。
 だけど違っていた。なんと俺は何やら女みたいに髪を伸ばして、しかも羽を広げて飛んでいるのだ。
 それを確認して想ったのは、ああ、まだ俺は夢を見ているんだ、っていうものだった。それで俺は取りあえずは楽観して、夢なら夢で存分にこの夢を満喫してやろうって想って、夜空に繰り出したのだ。
 春の満月が輝く夜空の下で、俺は流れる車のヘッドライトの川に沿うように空を飛んだ。
 そして着いた先が神聖都学園だった。
 春の夜の虫の音。俺は空を雲のように漂いながらそれに耳を傾けていたのだが、ふとその俺の耳にそれが届いた。すすり泣く誰かの声。
 ――――変な夢。ひょっとして夢の方向性が変わるのか?
 そんな事を想いながら行き着いた先にいたのは、屋上の手すりの向こうに立つひとりの女子高生だった。とっさに上履きに目が行った。つま先の色は緑。つまり俺がこの春から担当している3年のものなのだが、しかし俺はその彼女の顔を見た事は無い。俺はすべての生徒の顔を覚えているので、それは確かなはずだ。
「あ、いや、これは夢だし、知らない顔の生徒が出てきても不思議ではないか?」
 俺は頭を掻きながらため息を吐く。それでも俺はとても悲しそうな顔で、屋上の下にあるアスファルトを見つめている彼女が気になって、それで俺は彼女に声をかけて・・・


「そう、つまりはだから彼女も本物の幽霊って事なんだよ・・・」
 ―――それを認識した瞬間、胸に湧き上がった感情は恐怖ではなかった。それは悲しみ。そう、あの哀しい表情はこの世に本当に実在しているのだ。それに気づけなかった、俺。もっとちゃんと話を聞いてやればよかった。
「くそぉ」
 俺は壁を叩いた。
「いや、とにかく彼女を・・・って、この格好じゃあ・・・・」
 ―――さすがに昼間には出歩けない。ひょっとしたら人には見えないのかもしれないが、まだそうと決まった訳でもないし・・・下手な賭けはしない方がベターだろう。
「とにかくだったら今此処でやれる事をしなきゃならないか」
 俺はパソコンの置いてある机の前まで飛んでいくと、椅子に座り、機体を起動させた。
 彼女の履いている上履きの色は緑だった。つまり四年前以降の生徒の幽霊という事だ。そして彼女が着ていた制服は18年前にデザイン変更された服。ならばその間でパソコンで過去の記事を検索して、それで・・・・
「・・・くそぉ。ヒットしない。我ながらいい案だと想ったのにな」
 しかしそれは空振りに終わった。パソコンの検索にも引っかからなかったし、それにちょうどその間にずっと学校にいた先生にも電話をかけたのだが、その間に病死・事故死・自殺をした神聖都学園生徒はいなかったらしい。
「完全につまった」
 ・・・完敗だ。


 ――――――――――――――――――――

『こんばんは、天使の嘉神先生。って、どうしたのよ、そんな顔をして?』
「あ、いや、悪かった」
 俺が頭を下げると、彼女は目を瞬かせて、そしてその謝った理由という奴を説明すると、声をあげて笑った。
『ああ、なるほど。あなたはあの嘉神先生なのね。なるほどなるほど。うんうん。すごい美人な人と想っていたけど、本当に美人ね。男だとわかっていてもセクハラしたくなるわよ、これじゃあ』
 ・・・。
 なんとなく怒るに怒れない。きっと今の俺は次の獲物を探している連続殺人犯そっくりの表情を浮かべているはずだ。
「あー、なあ、あんた、本当にいつの人なんだよ? 今日の昼間、だからあんたを助けてやりたくって、まずはあんたの身もとを調べたんだけどわからなかった」
 そう言うと、彼女は悪戯を正直に告白した息子に優しい母親が浮かべるような顔をした。
『やっぱり優しいね、嘉神先生は』
「ああ、うん。まあ、これでも教師だからな。だからさ、普通はそれだったら想うだろう? 生徒はちゃんと助けてやりたいって」
『あら、あたしはあなたの生徒じゃないじゃない。それにひょっとしたらこうやって外見はぴちぴちの若い女子高生だけど、あなたよりもすごぉ〜く年上のおばあちゃんかもよ?』
「ああ、そうかもな。今のはぴちぴちだなんて死語は言わねーもん。あんた、相当おばさんかも」
『あ、ひどぉーい。普通はねー、そういう時は君は何年経っても綺麗だよ、いやいや、まだまだ若いよ、とかって言うものよ?』
 俺は肩をすくめ、そして彼女はぷぅーっと頬を膨らませると、そっぽを向いた。
 そのままひゅるひゅるひゅるぅー、と風の音だけが流れていく。
 ・・・。
 どうにもこの沈黙に耐えられない。
「あー、うん、ごめん。あんたはまだまだ若いよ。綺麗だよ」
『当たり前じゃない。死んでるんだから』
 つーんとした感じで言ったそいつにかちんとなったが、すぐにそんな感情も冷却される。


 だって彼女は本気で泣きそうな顔をしていたから・・・


「あの、悪い。悪かった」
『いいわよ』
 そう言う彼女を俺は抱きしめる。幽霊…霊体? とにかく俺は彼女に触れられる事に驚きつつも彼女をぎゅっと抱きしめた。
『知らなかった。天使は幽霊も抱きしめられるのね』
 俺の腕の中でぽつりとそう言った彼女に頷く。
「ああ、そうみたいだな。ちゃんとおまえの体、抱きしめられているぜ。すげー、女の子らしくやわらかいよ。だから・・・」
 ・・・おまえは独りじゃない、そう言おうと想ったのだが、
 いきなり彼女は顔をあげて、
『きゃぁー、ちかぁーーーーんッ。襲われるぅ〜〜〜。セクハラぁ〜〜』
「って、おい。誰が襲うかよ」
『嘘よ。嘘。冗談。冗談。いやいや、最近の昼ドラでこういうの用務員のおばちゃんと一緒に見てさ、それで、ね。言ってみたかったのよ♪ ああ、もう誰にも触れてもらえないあたしはこういうセリフを口にできないんだなーって想ってたから』
「ったく」
 俺は前髪を掻きながらそっぽを向いた。
 そしたら今度はいきなりまた、
『あ、怒った?』
 と、しゅんとした声で言う。
 俺はため息を吐いて、そいつの頭を撫でた。
「馬鹿。誰が怒るかよ。こんなのあの小娘ズや女教師ズ、それにうちの部員にかわいい双子の妹どもに比べれば本当にかわいいかわいい。だからさ、怒っちゃいないよ」
『うん』
 そして彼女はおもむろに自分の頭を撫でていた俺の手を両手で取ると、その手をぎゅっと握り締めながら声を出して泣き出した。ただいつまでもいつまでもそうやって泣いていた。


 ――――――――――――――――――――

『うーん、やっぱりあたしは天使ヴァージョンの嘉神真輝の方が好みね。あっちはすごく凛としていて神々しい』
「んじゃ、今の俺は?」
『あー、まきちゃん? って感じ?』
「はぁー。もういい。慣れた」
『あ、ねえねえ、ちなみにあたしも【嘉神真輝をオモチャにする会】に入れるのかなー?』
「あ、なんだよ、それ?」
『あら、知らないの? ダメねー、遅れてる。あなたをオモチャにする会が結構前から出来上がっているのよ? ちなみに科学教師が会員番号44番のわけは4月4日おかまの日にかけてあるそうよ♪』
「知らねーよ」
『あははははは。やだ、拗ねてるの?』
「うるっさい。って、ああ、もう朝礼が始まるわ。んじゃ、俺もう行くから」
『ねえ、まきちゃん。今夜も来てくれる?』
「はん。放課の度に来てやるよ」
『わぁー、嬉しいわ。あ、でも12時からは用務員室でおばちゃんと一緒にグラサンの人の番組見て、そのあとは人生相談見たり、ワイドショー見てたりするから、用務員室に来てくれると嬉しいぃー』
「あいよ」
 俺は、苦笑いを浮かべながら右手をあげた。


 ――――――――――――――――――――

 夜。ふと意識がなくなったかと想うと、天使ヴァージョンになっていた。
 そして俺は屋上に飛んでいく。しかしそこにあいつはいなくって、そして足下を見ると、そこにはチの字を少し崩した変な形でアスファルトの上に寝転ぶあいつがいた。
 俺はものすごく嫌な感情を胸に抱きながら、降り立つ。
「何をやっているんだよ?」
『え、あ、いや。今日の昼ドラでこういう形になっていたから、だからあたしもこういう風だったのかな? ってさ』
「冗談でもやめろよ、そういうの。よくない」
 ・・・。
『・・・にぃ』
「あ? なんて言った?」
『なによ、偉そうにぃ!!! あたしには記憶が無いのよ。気づいたらここの屋上にいたのよ。そんなあたしの気持ちなんか知らないくせに。なによ、まきちゃんの癖にぃーーーーー!!!!』
 そしてそのままそいつは消えて、俺は独りそこに取り残された。
「あー、くそ。何やってんだよ、俺は。また子どもを泣かせて。ったく。本当にダメな大人だな、俺は」
 俺は頭の毛を掻きながら夜空にある空を見上げた。


 ――――――――――――――――――――

『やあ、まきちゃん、おはよう。清々しい朝だね』
 次の日の朝、ダメ元で屋上に行ってみると、そこにはあいつがいた。俺はしばし呆気に取られてしまう。
『なによぉ〜、その顔はぁ!!!』
「あ、いや、悪い。何でもない。何でも」
『なにさ』
 ふんと顔を逸らした彼女。
 俺はにたにたと笑って、屋上に腰を下ろし、煙草を口にくわえる。
 そして朝の職員会議が始まるまでのささやかな時間をそこでそいつと過ごした。


 ――――――――――――――――――――

「もう卒業アルバムの製作の準備をするなんて早いッすね」
「なに言ってんだい、嘉神先生。3年って言う学年はものすごく時が経つのが早いよぉー。もう本当にあっという間だし、二学期からはものすごく忙しくなるからこれでも遅いぐらいさ。覚悟しときなよ」
「あ、はい」
 俺は苦笑いをしながら何気なく過去の卒業アルバムを手に取った。そしてたまたま偶然開いたページにそれを見る。
「ば、馬鹿な、これは・・・」


 ――――――――――――――――――――

『あら、なにそのアルバムは? ひょっとしてまきちゃんの? なら、見せて見せて♪』
「いや、違うよ。これはあんたの学年の卒業アルバムだよ」
『はあ? 何を言ってるのよ?』
「だからさ、ほら、このページを見て」
『・・・』
 そこのページに載せられた写真を見て、彼女は表情を失い・・・・


 そして・・・


『いやぁーーーーーーーーッ』


 いきなり力を暴走させた。


 屋上に巻き起こった凄まじい風の爆発。
 その衝撃に俺は吹き飛ばされ、
 そして卒業アルバムは鎌イタチ現象で細切れになる。
 そう、彼女はここの学校の生徒だったのだ。あのページには2年の春に行く修学旅行の写真があり、そこに映っているのが彼女だった。
「くそぉ」
 俺は風になびく髪はそのままに凄まじい勢いで外へと叩きつけるように吹く風の柱の中心にいる彼女に向かって飛んだ。
 その俺の体は凄まじい風の衝撃に鎌イタチ現象で斬れていくがしかしそんなのには俺はかまわなかった。
 そのまま俺は彼女に向かい飛んでいく。
 ――――――――だって知ってしまったから、彼女の苦しみを。死んだ理由を。
 そう、あの写真には幸せそうに笑う彼女の写真があって、そしてなぜにその写真が載せられていたかと言うと、2年の一学期の終わりまでこの学校にいた彼女は父親の転勤で転校してしまったのだ。しかしその彼女を悲劇が襲った。転校してわずか数日で両親が事故死して、そしてその彼女の両親の血液型は父親がA型で母親がO型、そして彼女はAB型だったのだ。それを知った彼女はこの学校にいた時の担任(俺が前に電話でこの学校の過去を聞いたのもこの先生で、どうしてこの人から彼女の名前が出てこなかったかと言うと、俺がこの学校で、と限定してしまったからだ)に悩みを相談していて、そしてそのわずか数日後に彼女も自殺してしまったのだ。だから当時の生徒たちが一番綺麗に彼女が写っているその写真を載せた。
 だけど本当は彼女は・・・・
「くそが。このままで終わらせてたまるかよぉ」
 彼女はいつでも泣いていた。
 そして消え去りたいと想っていたのだろう。
 ――――だから俺が天使となるまで・・・それ以前の俺ではそんな彼女に気づけなかったのだ。
 だけど俺は彼女に気づいてやれた。そして俺は彼女の誤解を証明できるのだ。その俺が諦められるかよ!!!!
「くぅそぉぉぉぉーーーーーー」
 ――――今までだって感情が高ぶると、自分の知らぬ力が働くような感じはいつも感じた事があった。そして俺は確かにそれを感じたのだ。その今までに感じたどの時の力よりも強い力を。
「これならいける」
 俺はその力を感じながらついに風の巣のような叩きつける風を突っ切って、彼女の元に到着し、そして俺は彼女を抱きしめた。その瞬間に彼女の魂から彼女の記憶が想いが伝わってくる。


 母さんは父さんを裏切っていたんだ・・・


 それともあたしは他所の子なの?


 嫌だ。いやだ。こんなのイヤダ。消えちゃいたい。こんな世界から消えちゃいたい・・・


 ――――――そして屋上に立つ彼女。
 だけどそれは自殺をしたかったんだじゃない。そこからなら神聖都学園が見えるかも…悲しい現実は何も知らずにただ笑っていられた時を見たくって……それで屋上の手すりを越えて、身を前に乗り出させて、学校を…学校を………


 だけど不幸にもその瞬間に風が吹いて、そして彼女は………


『放して。放してまきちゃん』
「嫌だね、放さない」
『やだ、放して。あたしは……あたしはお母さんがお父さんを裏切って……お父さんやお母さんはあたしの本当の………』
 ――――ああ、すごい悲しみ。
 胸が張り裂けそうだ。
 だから彼女は記憶を失っていた。
 だけど本当は・・・
「よく聞け。母親はおまえの父親を裏切ってはいないし、父親も母親もおまえのちゃんとした両親だ」
『嘘よ』
「嘘じゃない。よく聞け。いいか、おまえの父親はA型で母親がO型、そしておまえはAB型。確かに普通ならその血の組み合わせでAB型は生まれない。だけどな、同一染色体上にAとBの遺伝子がのる場合―シスAB=cis ABが稀にあり、この場合は片親がABでありながらO型の子どもが生まれたり、逆に片方がO型の親からおまえのようにAB型の子どもが生まれたりするんだよ。さっき病院にも問い合わせたんだが、おまえの両親はそれに一致していたんだ。つまりおまえはちゃんとしたお父さんとお母さんの子どもなんだよ」
 ―――――そして風がおさまる。
 彼女は何とも表現のし難い顔で俺を見つめる。
『うそ』
「ほんとだよ。ほんと。よかったな。これでもう辛くないぞ。今まで本当によくがんばったな」
 俺は彼女を抱きしめた。そして彼女は俺の胸に額を押し当てて、泣いた。悲しみではなく安堵の涙を零して。


 ――――――――――――――――――――

『ありがとう、まきちゃん』
 俺の胸から離れると、彼女は涙に濡れた顔に咲いた花のような笑みを浮かべた。
「いいや、別に」
『ううん、ありがとう。あたし、まきちゃんには感謝してる。だってまきちゃんがいたからあたしは成仏できるんだもん。本当にありがとう』
「ああ。あっちに行ったら、うーんと親父さんとお袋さんに甘えな」
『うん。だけどちょっとまあ、それも恥ずかしいけどね』
 ぺろりと舌を出して笑う彼女に、俺は微苦笑する。
 そして彼女はそのまま顔を前に出して俺の唇にほんの一瞬唇を重ねると、にこりと笑って、そして金色に輝きながら、夜空にある茫洋な満月に溶け込んでいった。


 そうして俺はひとり。
「さてと、んじゃ、今夜も夜の散歩を楽しむか」
 ちょっくら妹どもの寝顔でも覗きに行ってやろう、そう想いながら俺は背中にある天使の羽を羽ばたかせた。


 ― fin ―


 **ライターより**

 こんにちは、嘉神真輝さま。
 ライターの草摩一護です。

 今回も本当にご依頼ありがとうございました。
 今回はまきちゃんが、天使となるということでこのような物語をご用意させていただきました。
 生徒想いなまきちゃんに天使のパワーがプラスされた瞬間、それまで世界から消え去りたいと望んでいたが故に誰にも気づかれなかった彼女にまきちゃんは気づけたのです。
 そして奇跡は起こり、彼女は成仏できた。自分なりにはとても優しく救いのある物語に仕上げる事ができてほっとしてます。そして嘉神PLさまにも何かしらの想いを感じて、喜んでいただけていたら嬉しい限りです。^^

 ちなみに血液型ははったりライター草摩一護お得意のはったりではなく、ちゃんとネットで調べました。^^
 あーいう事もあるのですね。って、こんな事を言ったら過去に草摩に教えてくださった生物の教師たちが泣きますね。なんとなく授業でやったような気もします。^^;


 それでは本当に今回もありがとうございました。
 嘉神PLさまの心が少しでもこのノベルを読んでぽっと温かくなっている事を祈っております。
 失礼します。^^