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裏童
オープニング
―裏童というものを知ってますか？
この一枚の葉書がアトラス編集部に届き、麗香の目に止まった。
「裏童？」
その葉書によると、座敷童は人を幸福にする子供の霊だと聞くが裏童の事については
全く正反対の事が書かれていた。
―裏童はその人の運命を勝手に捻じ曲げてしまうそうです。
私の友人は裏童を見たといって二日後に交通事故にあい、重症です。
その友人から聞いた話によると裏童は、とある旅館に潜んでいるそうです。
けれど、私は臆病で確認しに行く事ができません。
できれば、裏童について調べて欲しいのですが…。
その葉書には旅館名と裏童が現われる客室の名前が書かれていた。
依頼人はよほど怖いのか、自分の名前も住所も書いていない。
「…これじゃあ、連絡の取りようがないわねぇ」
麗香は溜め息を交えて呟く。
「…さんしたくん」
麗香は葉書をぴらぴらと見せながらにっこりと微笑んで三下を呼ぶ。
三下は嫌な予感がしながらも「な、なんでしょうか？」と恐る恐る聞く。
「コレ、調べてくれる、よねぇ？」
否定の言葉を言わせない口調で麗香は葉書を三下に渡す。
「えぇぇぇえぇっ！」
悲鳴にも似た叫びを三下があげるが、麗香は聞いてはいない。
「…冗談じゃないよ…。死んじゃうかもしれないのに…」
「…何か、言った？さんしたくん」
「い、いえ…」
麗香に逆らう事は許されず、とりあえず、麗香のところを離れて三下は携帯電話を取り出す。
「あ、アトラス編集部の三下ですけど…実は…」
こうして依頼があなたのところにやってきたわけだが、あなたはどう調査する？
視点⇒桜皇院・朱黎
「裏童、ですか？」
アトラス編集部の三下から電話をもらい、朱黎は小さく呟いた、話を聞けば人を不幸にする裏童というものが旅館に居るらしいとの事。
「別に構いませんが…私はまだ未成年ですので三下さん、ついてきてくださいますか？」
朱黎のその言葉に電話の向こうで三下が凍りついた。行きたくないから朱黎に頼んだのだが…。ここでもし、万が一朱黎に何かあって依頼を人に頼んだ事が編集長にばれたら…と三下は考える。
「………三下さん？」
編集長に怒られる自分と、裏童に殺されるかもしれない自分、天秤にかけてみるがどちらを選んでも危険が付きまとう事には変わりはないらしい。
「あのぅ…」
朱黎の声でハッと我に返り「…も、もちろんついていきます…」と聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
「じゃあ、早速今日向かいましょう、善は急げといいますし」
朱黎は三下に迎えに来てもらい、問題の旅館まで行く事にした。
「うん、行ってきます」
朱黎は電話で携帯電話で話し終わり、電話を切る。
「誰と話していたんですか？」
「あ、蒼王・翼という人です。一緒に来れればよかったんですけど…」
苦笑いをしながら朱黎は三下に答えを返す。
「そうですか…一時間ほどで着く場所なのでそう遠い場所じゃないですね」
「そうですね、問題は裏童が説得を聞き入れてくれればいいのですけれど…」
朱黎は裏童を倒す、という目的ではなく、人を不幸にするのを止めて欲しいと説得に行くつもりで旅館に向かっている。朱黎としては消滅などはしたくないのだ。いくら人を不幸にするとは言っても子供なのだから。
「ここですね」
着いた先は古い旅館。いかにも何か出ます、という雰囲気を醸し出している。雰囲気が悪いのは果たして裏童が住み着いているからなのか、それとも最初からなのかは分からないけれど…。
「とりあえずは受付をして荷物を置きましょうか。裏童の事を調べるのはそれからでも遅くないですよ、きっと」
そう言って三下に受付をしてもらい、部屋を二部屋借りる事にした。
「あのぉ、裏童ってご存知ですか？」
三下が受付をしている間に受付嬢に朱黎が聞く。
「あぁ…椿の間に出ると聞きますが…」
「すみません、部屋の変更をお願いします。その椿の間の隣にお願いしますね」
朱黎がにっこりと笑って言った言葉に三下はカキンと固まった。
「構いませんよね？三下さん」
「…は、はは…別に…全然オッケーです…」
半分諦めたように呟くその姿はなんとも情けない姿だった。
「じゃ、荷物を置いてから聞き込みをしましょう」
朱黎は荷物を持ってさっさと部屋に向かう。三下もそれに続いて部屋に向かう。
「庭にいる女の方に聞いてみましょう」
三下の腕を引っ張りながら庭に出る。
「あの、裏童についてご存知ですか？」
朱黎が聞くと庭を掃除していた女性は「はぁ？」と曖昧な返事を返してきた。
「裏童、ですか…、噂に寄れば人に疎まれて死んでしまった子供だとか…」
「人に疎まれて…」
ソレを聞いた朱黎は少し悲しそうな顔をする。
「…可哀想な…子供…なんですね」
三下に言うと「そうだね」と短い返事が返ってきた。結局大した情報は手に入れることは出来ずに部屋に帰った。三下と話し合った結果、夜に椿の間に行くのが一番いい方法なんじゃないか、という事になり二人は夜を待った。
そして…夜。
「三下さん、行きましょう」
朱黎に起こされ、三下と二人椿の間まで移動する。椿の間に入ると、月の光に照らされて一人の少女がいた。
「あなたが裏童、ですか？」
「…あんたは誰？」
「私は朱黎、あなたの事を依頼されてここまできました」
依頼された、という言葉に裏童の表情が険しくなった。
「あ、そんなに怖い顔しなくてもあなたを退治しようとか考えてませんから。三下さん、何か聞きたいことあったんですよね？この際インタビューしたらどうでしょう？」
凶悪な裏童に対してインタビュー！？と三下は心の中で叫ぶが、とりあえずきちんとまとめないと編集長に怒られるためメモを取り出して口を開く。
「え、えと…運命を曲げられると聞きますが、なぜそのような事を？」
「…あたしの邪魔をするから。邪魔するヤツなんて死ねばいい」
「そ、そうですね…」
子供相手に恐怖するなんて笑い話だが、この裏童はゾッとするような目で三下を見ていた。
「いつからここに？」
「この旅館が出来る前から。だからここは元々あたしの場所なんだ」
そんなことを三十分ほど繰り返していただろうか、三下のインタビューが終わった後に朱黎が口を開いた。
「あの…人の運命を捻じ曲げているといいましたよね？それ…止めていただけませんか？」
「何で？」
朱黎の問いに裏童は即答で返してきた。
「悪いことなんです、流れを勝手に変えてはいけません」
「…皆があたしの邪魔をするからだ」
「何もかもを自分の思い通りにして…楽しいですか？あなたは満たされますか？」
「…やめれば、満たされるの？」
「今よりはましになると思いますよ」
朱黎が言うと、裏童は「そっか」と短く答えた。
「…やめて、みる」
「本当に？」
「うん」
裏童が言うと、朱黎は嬉しそうに笑った。
「三下さん、これで依頼は解決…ですよね？」
「え、まぁ…」
三下が答えると「良かった」といって朱黎は眠りこけてしまった。時間はもうとっくに人々が寝入っている時間、眠くなるのもおかしくはない。
「変な人」
裏童が小さく呟く。
この後、二人は旅館を後にしたのだが、後始末をした翼が一番苦労したのかもしれない。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
2863/蒼王・翼/女性/16歳/Ｆ１レーサー兼闇の狩人
2911/桜皇院・朱黎/女性/15歳/巫女兼中学生兼桜塚家の家政婦
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■ ライター通信 ■
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桜皇院・朱黎様＞
初めまして、今回「裏童」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
「裏童」はいかがだったでしょうか？
少しでも面白いと思ってくださったら嬉しいです＾＾
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします＾＾
―瀬皇緋澄
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