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午後の紅茶と乙女の夢。
暖かな春の陽射しに包まれて薫り高い紅茶を頂く…最高の時間。
それが愛しいの恋人と一緒の一時となればこの上ない至上の時間であることは間違いない。
可愛らしく盛り付けられたまるで宝石のようなケーキにうっとりと顔を緩めるのはヴィヴィアン・マッカラン、120歳。恋する乙女である。
…実年齢はともかく外見年齢は二十歳なので乙女を名乗っても問題はないだろう。
そんな彼女には一つだけ気になることがあった。
…愛しのあの方とは相思相愛いい感じ。
そりゃもぅヒトも羨むってな感じで、二人の間に割ってはいる者はないっ…と行きたいところだけどだけど。
「………。」
ちらりと視線を上げた先には向かいのソファに座って優雅に紅茶を啜っている金髪美形で緑の眼の、一見人当たりがよさそうな好青年、モーリス=ラジアル。
そう、彼こそが唯一彼女の幸せに落ちる一片の影である。
愛しのあの方の部下で…当然それだけなら全然気にならない。なにせあの方は財閥の総帥、ただの部下なら何千何百と持っているだろう。
でも彼は何となく特別で、ばいっつもいっつも主人に対してめちゃくちゃ馴れ馴れしいと言うか親密と言うか…とにかく何かが違うのだ。
二人の間に流れる空気とかそう言うのが他の部下とは違うというか…。
でもあの方に直接聞くことなんかできなくて、ずっとずっと気になっていた。
そんな矢先。
『どうしても少し顔を出してこなければならなくなりまして…すぐに戻ります』
あの方があの蕩けるような慈愛に満ちたお顔ですまなそうに微笑んで席をお外しになって。
普段なら愛しのあの方は大財閥の総帥でめちゃくちゃお忙しい方だから大事な仕事もたくさんあるから残念だけど仕方ないと思う反面、でもやっぱり折角一緒にお茶してるのにいなくなっちゃうのは寂しいとか思うわけだけど。
今日だけは違っていて、むしろ席を外してくださってラッキーぐらいの勢いだったりする。
何故かと言うと、今日は他のお客様とか給仕の方も全然いなくて、完全完璧二人っきりで…逆を言うとこいつさえいなければ愛しのあの方と二人っきりだったってことも言えるんだけど。
一度じっくりみっちり聞いてみなきゃと思ってはいたのだ。
……つまり、これってちゃーんす。
「……と、言うわけで!その辺の所はどうなんですのっ!?」
そう言って、ヴィヴィはだんっと机を叩いた。
「その辺の所と申しますと?」
上品な白磁に小さな花のあしらわれたカップを、これまた上品な手つきでソーサーに戻して、男は悠然と微笑んだ。
「ですからっ、あなたとあの方のご関係ですっ!ただの上司と部下と言うには親密すぎませんことっ!?」
「それは……」
そう言って、男は言葉を切った。
視線を泳がせて、何やら考える素振り。
口元には仄かな笑みが浮かんでたりなんかして…あぁ、苛々するっ!その余裕っぷりは何ですのっ!?
「それはなんですのっ!?」
そんな思いのままに上体を乗り出すヴィヴィに、彼は悠然と答えた。
「……そうですね、あの方は私の『全て』ですから。」
……嘘は吐ていない、何故なら今のモーリスは契約により姿形を決定づけている。この姿は『全て』契約者が決めたものだ。
言葉が足りないことは重々承知している……当然、ワザとである。
「なっ……!す、全てってどういうことですのっ!?」
「私はあの方の命令には絶対服従ですから。」
……何せあの方は私の契約者ですから。と言うのは口に出さず、モーリスはニッコリ綺麗に微笑んだ。
「ぜ、絶対服従って……」
…瞬間、ウラワカキヲトメの頭に浮かんだのは。
明かりの落とされた暗い室内、豪奢な寝台。
『出来の悪い部下にはお仕置きをしてあげなくてはいけませんね…』
寝台に腰掛けて優雅に微笑む主人、その足元に跪く金髪の美青年。
青年は差し出された指に縋るように、許しを請うように恭しくその指先に口付け、そのままそれを口に含む。ねっとりとその指先に舌を絡め爪先を辿り、まるで男性そのものに奉仕するかのように執拗に繰り返される愛撫。
『……今度はこちらにしていただきましょうか……?』
主人から下される命令は絶対。
『……ご、ご主人様っ……』
それだけのことで既に興奮を覚えていたのか青年の息は荒く、その声は情欲に濡れている。
彼は躊躇う様子さえなく、むしろ歓喜と欲に満ちた表情で身を乗り出していく。
『…ンっ…』
軽い金属音、布擦れの音、そしてぴちゃぴちゃと甘く濡れた淫靡な音と荒い呼吸音が当たりに満ちて…。
きゃーきゃーきゃー!?
「っ…そ、その……特別な関係ってコトですの…?」
思わず上げかけた悲鳴を噛み殺して、ヴィヴィは恐る恐る尋ねた
「……ええ、特別ですね。」
「!!」
や、やっぱりそう言う関係ですの!?
それともあれ、逆!?ベッドでは主従が反対とか…萌えシチェーション、じゃなくてっ!!
じゃなくて……。
柔らかなリネンのシーツに散る銀糸の髪。
『……モーリスっ……』
『ご主人、様っ……』
しっとりと濡れた声、寝台にうつ伏せに押し付けられる細身の肢体、波打つ寝台で絡み合う二人の……。
じゃないってばー!!
何考えてるんですかあたしー!!
「〜〜〜!!」
顔が熱いなんてもんじゃなくて、ヴィヴィは慌てて自分の頬を押さえたが血の引く気配はない。
どうしたらどうしたらっ、あーもうそんなことあるはずないのにっ。
確かにあの方もコイツもどっちもいける人だけど……どっちも……きゃーきゃーきゃー!!
……声に出せない悲鳴が止まらなかった。
「………。」
一体何を考えているものか、目の前でヴィヴィは顔を真っ赤にしている。
何故ワザとこんな風に遠回しに、意味深に、彼女が誤解するような言い回しをするかと言うと。
はっきりきっぱり面白いからである。
一体何を考えているのか……目の前で百面相を繰り広げているヴィヴィはあまりにもからかいがいがありすぎてこれは当分飽きない玩具を手に入れた気分。
勿論彼女は主の大切な恋人で、あまり遊びすぎるわけにも行かないのだがこれぐらいは構わないだろう。
……しかし、そろそろ遊びすぎただろうか?
「冷たいものでもお召しになりますか?」
穏やかな空気でもってそう言えば、彼女は顔から湯気を上げながらこくこくと頷いた。
ソファの背凭れにもたれかかり目を回してる様子を可愛らしく思いながら冷たい紅茶を手渡してやると、彼女はそれを一気に煽ってぷしゅぅとソファの背凭れに身体を預けた。
「あ、ありがとうございますぅ〜……」
「ケーキの方はもうおよろしいのですか?」
何事もなかったかのようにモーリスは銀台に盛られていたケーキを指し示す。
瀟洒な銀台の上に並べられているのは食べやすいようにどれも小さめ、上品なサイズの色とりどりのケーキ達。
苺やラズベリーをたくさん使った可愛いピンクのケーキ、色鮮やかなフルーツを散りばめられたタルトの表面は光りを受けて艶やかに輝いているし、ぱりぱりのパイの切れ目から覗くシナモンたっぷりのりんごは金色で、女の子なら見ているだけで幸せになれる光景だ。
「紅茶も温かいものを入れなおしましょう。」
穏やかな口調でそう言われては断ることもできず…ヴィヴィは言われるままにいくつかのケーキを選んだ。
ほんのり幸せな味にうっとり溜息。
なんだかやけに疲れてしまったのが癒されるような優しい甘さだ。
その甘さに解されながらヴィヴィは心の中で呟いた。
例えこの男があの方と特別な関係だったとしても、でも今はあたし達が相思相愛なんだしぃ……大丈夫、よねっ!?
何があったって絶対絶対ぜーったい、負けないんだからっ!
……恋する乙女より強い者はいない。
END
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■ ライター通信 ■
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…腐女子の妄想と言えばこれ、だと思ったのですが…違って居たら申し訳ございません(汗。
少々ヤバイ仕上がりになりましたが(笑)少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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