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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


子ユニコーンを救え 
 
「これがユニコーン?」
 写真をみた草間の声は裏返った。
 依頼は、ユニコーンを助けてほしい、というものだった。依頼者は滝本啓人という少年。彼の住む町で静かに暮らしていたユニコーンの親子が何者かに捕獲されたのだという。
「どう見たってこいつは」
「犬ですね」
 草間の隣で零がぽつりといった。写真に写っているのは、ヨークシャーテリアに似た小型犬のように見える。
「そいつは子ユニコーンなんだよ。警戒心が強くて、親のほうの写真は撮れなくてさ。大きくなれば、角も生えるし、ちゃんとした姿になるんだ」
「なるほど。で、捕獲した連中はどんな奴なんだ?」
「それが妙な術を使ってさ。俺と一緒にユニコーンを助け出そうとした友達が大怪我させられた」
「妙な術、ね。それでうちに来たってわけか。その手の依頼は断ってるんだが」
「でもお兄さん、今回は怪奇事件とは少し違います」
「なあ、頼むよ。見せしめってんで、親ユニコーンは殺されちまったんだ。せめて子ユニコーンは助け出したいんだよっ」
 必死な滝本の言葉に、やれやれと草間は肩をすくめた。
 
 
「ユニコーンってのは、人に心を許さないって話だろ?」
 話を聞いた日向龍也は言った。
「気性が荒く、心を許すのは純真な乙女だけだったと思うが」
「で?」
 純真な乙女どころか正真正銘の男なのだが、草間の声は思いの外そっけない。それが逆に日向は気に入り、不敵に笑みをこぼした。ユニコーンとやらを実際に見てみるの面白いかもしれない。
「でも、こいつは……」
 滝本の声は震えた。同性ではあるが、日向は端整な顔立ちをしている。美しい顔に見惚れると同時に、日向は言いしれぬ威圧感も発していて足がすくんだ。なぜ草間はこの男の前で平然としていられるのだろう、と不思議でならない。
「こいつは……、まだ子供だし、割と人懐っこいんだ」
「だそうだ。すでに捕獲されたユニコーンの解放だから、性別云々は気にしなくていいだろう。このくらいの仕事、簡単だろう?」
「ああ」
 短くうなずき、日向は視線を滝本にやった。
「ところで少し訊きたいんだが、敵はどんな奴で、どんな術を使うんだ?」
「相手は三人。髪を赤く染めた女と、背の高いグラサン、それに茶髪のチビ。年齢は二十五歳くらい、かな。もっと上かもしれないけど。三人とも、いつも黒い服を着ているよ。
 術のことは詳しくは知らない。手を、こう前にかざして、なんか呪文を唱えた瞬間、友達は吹っ飛ばされてたんだ。あいつを背負って逃げるのが精一杯で、それ以上はなにも分からない」
「分からない、ね」
 どのみち俺の敵ではないのだから、分かったところで何かが変わるわけではないか。
 
 
 日向は愛車の改造ファイアーバード・トランザムを飛ばしていた。
 関越自動車道を降り市街地を走っていく。国道をしばらく進むと次第に建物が減っていき、山間部に入る。車道は細くなるが代わりに行き交う車の数は少なくなり、日向は思いきりアクセルを踏みこんだ。
 夜間は走り屋が多い峠を異常なくらいな速度と持ち前の神業的なテクニックで難なく越えると、寂れた風景が続いていた。朽ちかけた家が点々としている。舗装されていた道も知らない間に未舗装路に代わり、どこかで道を間違えてしまったのかと錯覚してしまいそうになったところで再び舗装路に戻る。それを幾度か繰り返して、目的の場所に着いた。
「んじゃ、さっさと終わらせますか」
 トランザムを降りた日向は軽い口調で言い、一度目を瞑り精神を集中させると、大小様々な剣が空中に現れた。目を開け、手を前にかざすと浮遊している剣もそちらを指し示した。
 上着からジッポーを取りだし煙草に火を点け、呪文を唱えて対魔術の障壁、物理防御に重力壁を展開させる。
 手を上着に突っ込んだまま、「邪魔するぜ」小屋のドアを蹴りやぶる。
 中には滝本の言った通り、三人の男女がいた。部屋の隅には息のないユニコーンが倒れており、その脇には子ユニコーンがケージに捕らわれている。
「な、なんなんだい、あんたっ!」
 予期せぬ来客に赤髪の女が言う。と同時に、女をかばうようにサングラスと茶髪が前にでた。
『ヘイカァス、ヘイカァス……』
 唱えると衝撃波を襲う――はずだった。日向は何事もなかったようにその場に立ったままで、くわえていた煙草を床に落とし靴で火を消した。
「今、なんかやったか?」
 二人は顔を蒼くしたが、すかさず構え直し呪文を唱える。
『エー・エクス・アールぺー……』
「二度も受けてやるほど優しくねーよ」
 言い終えるや否や、男たちが唱え終えるよりも早く数十の剣が二人を襲った。
 腕、肩、腿に剣が突き刺さる。わざと急所を外したのか、流血し黒衣が赤く染まったものの虫の息とは程遠い。
「あんた一体何者だ?」
 サングラスの言葉に日向は一瞥もせずに、「さあな」子ユニコーンのケージに向かう。
 しかしそれよりも早く女がケージから子ユニコーンを放し、抱きかかえて盾にした。
「この子は渡さないよ。こいつは大事な金づるなん――」
 だから、と女は最後まで言えなかった。
 彼女の背後に数本の細剣が現れ、次の瞬間には背中に突き刺さった。鈍い悲鳴とともに倒れ、その拍子に子ユニコーンは女の腕から解き放された。
「これで任務完了、と」
 
 
「あら、忘れ物ですか?」
 日向が事務所に戻ると、あまりの帰りの早さに零が小首をかしげて訊ねてきた。
「いや、終わったよ。道がまともなら、もっと早くに終わったんだが」
「そうですか。ちょっと待ってくださいね。今、謝礼をお渡ししますから」
「いや、いい。それはそっちで取っておいてくれ。俺はユニコーンを見られただけで満足だよ」
「でも」
「人の厚意には素直に甘えたほうがいい。ここの経営、厳しいんだろ?」
「そう仰るのなら」
 零の言葉に日向は一度笑い事務所を後にした。
 上着から煙草を取りだし火を点ける。停車してあるトランザムに向かいながら、
「さて、圭織のところに帰るか」
 日向はつぶやいた。
 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 
【2953 / 日向龍也 / 男性 / 27 / 何でも屋:魔術使い】
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■         ライター通信          ■
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はじめまして、日向さん。ライターのひじりあやです。
お察しの通り、こういうのは好みじゃない、というより普段は書かないタイプですので苦手だったりします。
まあ、わたしの得手不得手もそうなのですが、想定していた敵はかなり弱いもので、日向さんのようなPCだと必然的に話が短くなってしまい、はたして気に入っていただけるのかしら、と不安になっているところです。それでも気に入っていただけたら幸いです。
今回は参加してくださってありがとうございました。それでは、いつかまたお会いしましょう。