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幻想の国から〜異界編
●ことのはじまり
古書店・芳野書房――老齢の店主に代わり、つくも神の結城がレジを預かる本屋である。
最近、この本屋の周辺でおかしな事が起こっていた。
本の世界と現実世界の境界が曖昧になり、その辺に本の登場人物や物品が現れたり、町中(まちなか)にいきなりファンタジーな風景が広がってみたり。
さてさて。そんな異常な日常風景にも慣れてきた近頃、結城は日々ご機嫌であった。
何故かと言うと、最近常連になった幼い少女。本を買ってくれる客ではない。だが、ボロボロの絵本を大事そうに抱えて、絵本の内容を読み聞かせにきてくれる少女の姿は、結城にとってとても嬉しいものであったのだ。
だがそんなある日――。
「結城お兄ちゃん〜〜っ」
「久美(くみ)ちゃん?」
少女、久美はいつものように絵本を抱えて――だが泣きながら芳野書房へとやってきた。
「どうしたんだ?」
しゃがみ込んで目線を合わせて聞くと、久美はしゃくりあげながら絵本を開いた。
「久美のにゃんこさんが家出しちゃったの」
見てみると、絵本の中にあるべき挿絵――その話の主人公である猫の絵だけが見事に消えていた。
「……」
おそらく、この猫は絵本から現実へと出てきてしまったのだ。そのせいで、絵本から猫の姿が消えたのだろう。
「大丈夫、オレがにゃんこを探してやるから。なっ」
にこりと笑ってみせると、久美は泣くのを止めて結城を見上げた。
「ホント?」
「ああ、本当。オレにまかせとけって」
「うんっ」
こうして…猫探しをすることとなった結城は、まず協力者を集めに草間興信所へ向かったのであった。
●ただいま整理整頓中
その日は珍しく、興信所に人は少なかった。
興信所の主、草間武彦にその妹の草間零。そして興信所事務員のシュライン・エマ。
「こう静かだと仕事もはかどるわね」
資料のファイリングをしつつシュラインが言うと、零が苦笑して頷いた。
「普段はこんなに落ちつけませんから」
「……自宅で落ちつけないっていうのもなんだかなあ」
はあと溜息をつきつつ、武彦は机の上に溜まった書類を片付けている。
「ほらほら、手を休めないで早く済ませちゃいましょ」
「もうそろそろ綾和泉さんが来る時間ですよ」
実を言えば、人がいないから整理整頓をしているわけではない。
今日、本の回収に来るという綾和泉汐耶のために、整理整頓をしていたのだ。
「まったく、借り物の本をなくすだなんて」
そう。
あまりのごちゃごちゃ具合に、借りた本の場所がわからなくなってしまったというわけだ。
ピンポーン。
「あら、来たみたいね」
「私が出て来ます」
ガチャリと扉を開ければ、そこには予想通りに汐耶の姿。
「こんにちわ」
「こんにちは、綾和泉さん」
にっこり笑って答えた零は、そのまま汐耶を部屋の中へと招き入れる。
「ごめんなさいね、もうちょっと待っててくれるかしら」
「今、部屋の整頓中なんだ」
ぴくりと汐耶が反応したが……整頓の目的を理解してしまったのだろう。
そうしてしばらく整理を続けていたところ、今度はチャイムの音もなく、勝手に扉が開けられた。
現れたのは蒼の髪に金の瞳を持つ少年――騒ぎを持ちこむ者の一人、つくも神の結城であった。
●迷い猫
部屋に入ってきた結城を見て、武彦はまず溜息をついた。
「どうした?」
「いや、ちょぉっと頼みがあってさ」
予想通りの答えに、武彦の溜息はますます深くなる。
「迷い猫を探しているんです」
そう告げたのは、結城と一緒にやってきた榊船亜真知。
「あら、まともな依頼じゃない」
結城がもって来た依頼という時点ですでにマトモだとは思っていないシュライン・エマだが、とりあえずそう呟く。
「でも多分、ただの猫じゃないんでしょうね」
シュラインが口にしなかった思いを代弁するかのように、綾和泉汐耶が言葉を続ける。
「うん、まあ……」
そうして結城が語り始めたのは、猫の絵が消えた絵本の話。一通り話し終えた後、片手に持っていた本をテーブルの上に出す。
ページを開くと、確かに、猫の絵がごっそりと消えていた。
「絵本の内容から猫の行き先が予想できればいいのだけど……」
汐耶はぱらぱらとページをめくって絵本を読んで見たが、それらしき記述は見当たらなかった。
と、その時。
「すみません」
コンコンっというノックの音とともに、女性の声が聞こえた。
零に招き入れられて入ってきた女性――セフィア・アウルゲートは告げる。
「芳野書房にあった張り紙の迷い猫を見掛けたのですけど……」
途端、まず反応したのは武彦であった。
「おい、結城……。なんで芳野書房の張り紙を見た奴がここに来るんだ」
「だって、そういうふうに書いたし」
二人の微妙な漫才やりとりはさて置いて、亜真知がセフィアに話しかける。
「どこの辺りで見掛けたんですか?」
セフィアの話によると、芳野書房の近くで見掛けたのだが、すぐに見失ってしまったため、その後どっちに行ったのかまではわからないらしい。
「とりあえず、絵本の持ち主の久美ちゃんに話を聞きに行きましょう」
シュラインの提案に反対意見はなかった。
「結城くん、その子の家は知ってるかしら?」
「ああ、知ってるよ」
一行は久美に話を聞くため、草間興信所をあとにした。
●久美のにゃんこさん
久美の家は芳野書房から歩いて五分と離れていない場所にあった。
チャイムを鳴らすと、すぐさまパタパタと足音が聞こえ、扉が開かれた。
「結城お兄ちゃんっ」
五、六歳と言ったところだろうか。可愛らしい少女が満面の笑みで一行を迎えてくれた。
「こんにちわ、久美ちゃん」
「はじめまして、こんにちわっ。……結城お兄ちゃんのお友達?」
ぐるりと一行を見つめて、久美は最後に結城に問い掛けた。
「ええ。久美ちゃんの猫さん探しをお手伝いしようと思って来たんです」
「ホントっ?」
「もちろん。それで、久美ちゃんに猫の名前や性格を教えて欲しいのよ」
「うん、いいよっ」
久美は大きなジェスチャーと一緒に、猫について語ってくれた。
「えっとね、名前はにゃんこさんでね。おもしろいものが好きで優しい子なの。だからねえ、きっとにゃんこさん、面白い物見つけて遊びに行っちゃったんだと思うんだ」
「面白い物……」
ここらで面白い物は何かあっただろうか。うーんと考え込むセフィア。
「久美ちゃん、にゃんこさんに何かお願いしたりした?」
汐耶の問いに、久美は人差し指を顎に当ててしばらく考えていたが、ぱっと表情を変えてこくとおおきく頷いた。
「えーっとね、にゃんこさんがいなくなるちょっと前にね、雲に乗ってみたいなあってお話したよ」
そこで、全員の意見が一致した。
おそらく猫は、久美の願いを叶えるべく、空の雲に乗る方法を探しているのだろう。
「どうもありがとうね、久美ちゃん」
シュラインがぽふっと頭を撫でて言い、一行は猫探しに出発した。
●迷子(?)のぬいぐるみ猫
空の雲に向かう、イコール、多分上を目指している。
というわけで、上から見ればすぐにわかるのではと亜真知とセフィアで探したところ、猫はすぐさま見つかった。
「にゃんこさんっ」
一番に猫の元に辿り着いたのは、文字通り空を飛んで空中から探していたセフィアであった。
「ずいぶんと高くまで登ったのね」
猫がいたのは住宅街からそう離れていない公園にある木――その中でも一番高い木のてっぺんだった。
「傷だらけになっていないでしょうか」
「そうねえ、あんまり汚れていたら洗ってあげた方がいいわね。ほつれも繕った方が良いかしら」
木の下から見上げる汐耶、亜真知、シュライン、結城。そして木の上ではセフィアが猫を降ろすべく奮闘していた。
「めっ…ですよ? 久美ちゃん、すごく心配してたんですから」
言われた猫は、つぶらな瞳でじーっとセフィアを見つめ、何を思ったのか突然木の上から飛び降りた。
「うわっ?」
思わず結城が驚きの声をあげたが、猫にはあの程度の高さはどうってことなかったらしい。
ぽふんっと軽い音とともに一行の前に立った猫は、首を傾げてにゃんっと鳴いた。
「あなたの描かれている絵本をいつも大切にして女の子が、あなたが居なくなって悲しんでいます。だから戻ってあげて下さい」
亜真知の説得に、猫はすぐさまこくんっと頷いた。
●お茶会
一行は、猫を連れて芳野書房にやって来ていた。
「雲の上のお茶会……ってできないでしょうか?」
「直接空に行くのは難しいですけど……こういうのはどうでしょう?」
セフィアの問いに、亜真知がにっこりと笑うと、地上に白い雲が出現する。ただし、実際の意味での『雲』とは少し違う――小さな子供がよく想像するような『乗ることのできる雲』だ。
「それじゃあ、私は久美ちゃんを迎えに行って来ます」
セフィアがそう言って立ちあがる。
「私はその間に本の修繕をしておきますね」
「そうだ。にゃんこさんも綺麗にしてあげたいと思うんだけど……どうかしら?」
歩きまわっていたことによってずいぶん汚れてしまい、またあちこちのほつれも見える猫を見て言う。
シュラインの問いに、猫は大歓迎とでも言うように、勢いよく何度も頷いた。
「ではわたくしはお茶会の用意をしますわ」
「オレも手伝うよ」
亜真知と結城がお茶会の準備にまわり、そして――セフィアに伴われてやってきた久美や大喜びだった。
大好きなにゃんこさんとお話ができて、雲に乗れて、大事な本まで綺麗にしてもらって。
「おねえさんたち、どうもありがとうございましたっ!」
久美は、深々とお辞儀をして笑顔満面で帰っていった。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
1593|榊船亜真知 |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
0086|シュライン・エマ |女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
1449|綾和泉汐耶 |女| 23|都立図書館司書
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ライター通信
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こんにちわ、日向 葵です。
このたびは猫探しのお手伝い、どうもありがとうございました。
いろいろとほのぼの楽しげなプレイングを頂いたのですけど、全部は入りきらず……(涙)
毎度お世話になっております。
聞き込みシーンが入れられずにすみません…。
洗濯と繕いのプレイングが楽しくて、ついついそちらにを優先して書いてしまいました(笑)
それでは、今回はどうもありがとうございました。
またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。
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